“腐女医”で漫画家・さーたりさん「中途半端でも諦めない。後悔が自分を突き動かす原動力」

さーたりさん

オタクな外科医「腐女医」を名乗るさーたりさん。医師、3人の育児に奔走する母、“お医者さんの日常”を描き出すコミックエッセイの著者、アニメオタクとたくさんの顔を持ち、その日常をつづるブログは各方面から反響を呼んでいます。

肩書きだけ見れば、自分のライフスタイルを楽しんでいるバリキャリを連想しがち。しかし、さーたりさんのコミックエッセイやブログから垣間見えるのは、ときに女性であること、母でいることに悩み苦しみながら、泥臭く人生を切り拓いていく姿。そこに親近感を抱く人も多いはずです。

とはいえ、フル回転の日々を送るさーたりさん。何が彼女をそこまで突き動かしているのか、仕事とプライベートで大切にしていることは何なのか。心のうちを語っていただきました。

人生には限りがある。だからやりたいことは全部やる

医師の専門分野の中でも、外科医は特にハードな印象があります。なぜ外科医を選ばれたのでしょうか?

さーたりさん(以下:さーたり) 大学時代にいろいろな科で実習を積んだのですが、その中でも外科が楽しかったんです。ダイレクトに命と向き合う手術にとてもやりがいを感じたので、自然と外科を志すようになりました。

仕事(外科医と漫画家)・プライベート(3児の母)・趣味(アニオタ)と多忙な日々を過ごされているさーたりさんですが、1週間どのようなスケジュールで動かれているのでしょうか?

さーたり 大学病院で外来と手術を週2日、クリニックで簡単な手術と内視鏡、超音波などの検査を週2~3日。漫画家としての活動は子どもが寝た後か、クリニックが早く終わってお迎えまでの隙間時間にコツコツと描いています。最近は寝ないと次の日がキツくなってきたので、睡眠時間はなるべく確保するようにしています。さらに、その合間に趣味のアニメで癒やされている感じですね。ちなみに、今は『マクロスΔ』(マクロスデルタ)にはまっています。

そんなに! その原動力はどこから湧いてくるんですか?

さーたり 以前、若くして重病にかかった、ファッションが大好きな女性患者さんに「やりたいことやらなくちゃ、もったいないよ」と言われたことが大きいですね。医師の仕事にやりがいを感じていたものの、「自分が本当にやりたいことって何だろう」と考えるようになったんです。主治医を受け持ってから1カ月半で彼女は亡くなったのですが、その言葉の重みを10年たった今でも思い出します。なので、医師も漫画家も母もアニオタも、全部やりたいことだから、とことんやろうかなって。

さーたりさん

人生は有限だからこそ、やりたいことを諦めないということですよね。

さーたり そうですね。また、結婚して間もない頃、交通事故に遭ったことがあるんです。入院と自宅療養を経て仕事に復帰したのですが、重いものを持ったり緊張したりすると手が震えるようになってしまい、しばらく手術ができずに休んだ時期がありました。その時には「外科医としては終わりなのかな」とも思いました。

でも、いま仕事を辞めては悔いが残ると思いましたし、出産もしたかった。それまでは多忙のあまり思考停止していましたが、休んだ数カ月の間に自分の人生を考えることができました。不本意な休養ではありましたが、やりたいことと向き合う時間を作れたことは大きかったです。

第1子の出産は31歳の時とのことですが、妊娠・出産について真剣に考えるようになったのは、事故の後ですか?

さーたり はい。それまでは子どもが特別好きというわけでもなく、どうしても欲しいという感情はありませんでした。いつかはと思いながら、「まだ時間はあるかな」くらいの認識で、正直あまり考えていなかったんですよね。どちらかというと、子どもができたらやりたい仕事ができなくなると思ってためらう気持ちもあり、先延ばしにしていました。でも、事故と療養期間を機に真剣に向き合うようになりましたね。

医局では初の妊婦ドクターだったそうですね。大変なことも少なくなかったのでは。

さーたり 妊娠期間や育休明けには大きな手術には携われませんでしたが、手伝いなど自分がやれることを少しずつ見つけるようにしていました。勤務時間は短くても、できることは少なくても、事故で仕事をしたくてもできなかったどん底の時期よりはマシだと思っていました。子育てと医師の両立をするにはペースダウンせざるを得ない部分もありますが、長い目で見ればきっと復帰できるし、完全なブランクでなければ仕事をつないでいけるのではと考えました。

自分が選んだことなのに苦しい──“中途半端”を許せるまで

30代に入ると仕事もノッてくる頃ですね。特に女性の場合、妊娠に対しては、ある程度リミットがあると分かっていても、仕事が充実していると考えるのを先延ばしにしがちかもしれません。

さーたり 私もそうでした。結婚も「30歳まではしなくていいかな」と、先延ばしにしていたんです。でも、当時付き合っていた現在の夫に「まだ一人前になっていないのに結婚している暇はない」という話をしたら、「じゃあいつ一人前になるの? 1年後、2年後も、もしかしたら10年後も一人前じゃないかもしれないよ。それなら早い方が良いんじゃないの?」って言われて。確かにそうだなと。

それはハッとさせられる問いかけですね。

さーたり その結果として結婚を決意し、子どもにも恵まれましたが、自分の役割すべてを完璧にできているわけではなく、「つらいなぁ~」と思うこともあります。2人目が生まれて仕事を休んだ時には、4年半くらい大きな手術に関われない時期がありました。すべて自分で選択してきたことですが、その間に医師としての経験を積んでいく夫や同期を横目に、悔しさと苦しさから一人で涙したこともありました。

少なからず後悔もあったのですね。

さーたり はい、4年半のブランクについては後悔しています。細々とでも何か続けていれば、違った今があったんじゃないかと。なので、欠けてしまった時間を取り戻すことが、今やりたいことをやるモチベーションの一つになっています。そうはいっても、仕事も漫画も子育てもすべて100%できているわけではなく、中途半端です。でも、例えば子育てであれば、子どもとずっと一緒にいられない分、一緒にいるときはたくさん構うようにしようと思っているんです。だから、中途半端なものも悪くないかなと。

完璧にこなすより、「中途半端でも後悔しない」道を選ぶと。

さーたりさん

さーたり 私の行動原理はそうですね。いろいろな人から「なんでそこまで頑張れるの?」ってよく言われますけど、かつての後悔があるからこそ「もっと頑張っていればよかった」と思うのが嫌なんですよね。とはいえ、今でもブログは休みが続いている状態だし、漫画の書籍化にあたっても締め切りを延ばしてもらっているし……。でも、もっと気楽に、力を抜いて「できることをやろう」とは思っています。

ただ、中には踏み出す勇気が持てず、モヤモヤしている人もいるかもしれません。

さーたり 何かを積み重ねていれば自分の後に道ができるので、ゴールが見えないとしても、開拓することに不安を持たなくていいと思うんです。もし目の前の道が見えなくて心許なさを感じているのであれば、1回ゴールを定めてからそこへの距離や道筋を考えて積み重ねていくと、気持ち的には楽なのではないかと思いますね。

仕事でも趣味でも「いつかやれる」ことを見つけ続ける

ご夫婦そろって医師とのことですが、育児の分担はどうされているのですか?

さーたり 夫は歩み寄ってくれる人ではありますね。夫の両親も共働きだったので、「女性が仕事を持っているのは当たり前」だと思って育ってきたのも大きいのかもしれません。最近は夫も勤務形態を変えて当直もしなくなったので、比較的時間にゆとりを持って家事や育児をしてくれるようになりました。でも、私が産休の時は、ほぼ私に全振りでした。「3人目が欲しい」と言われた時に「この状態でやっていけるのか?」と詰め寄ったら、「頼り過ぎてた」と反省してくれましたけど。

共働き家庭で女性に負担がかかり過ぎないようにするためには、パートナーの協力が不可欠ですよね。

さーたり 協力し合うためには、パートナーと対等な立場で話し合えるかどうかが、やはり大事だと思います。最近は、子どもと私が一緒に寝てしまうことが多くて、夫となかなか話す時間がないのですが、「最近あまり夫と話せていない」と気づいた時には、夫に「私が寝てしまっても起こして」と頼んで、夜にお酒を飲みながら話したり、それぞれのスケジュールを照らし合わせたり……それは意識的にやっています。

知らず知らずのうちに夫婦のコミュニケーションが取れなくなる状況を回避しているんですね。お話を伺っていると、行動と感情をきちんとコントロールされていてすごいなぁと感じます。

さーたり でも、今はこんなふうに言っている私も、仕事ですごく疲れて帰ってきて、育児がしんどいなと思った時に、「仕事を辞めよう」「休みたい」と考えることはあります。でも、10年後に自分がどうしていたいか考えると、いきなりは方向転換できない。なので、そのために今は踏ん張って10年後の自分につなげようと、懸命に気持ちを持ち直しています。

さーたりさん

今のさーたりさんは、10年後にどんなゴールを設定されていますか?

さーたり 第3子が中学生になるので、子育ても一段落します。時間は取れるようになるはずなので、もう少し外科医として手術に重きを置きたいと思っています。今は大学病院にも復帰していますが、外科医は常勤じゃないと執刀医になれないんです。患者さんの手術後も担当医として責任が取れる状況でないといけないので。10年後はフルタイムの常勤で、手術も自分で執刀するのが理想です。

多忙な日々の中で何が自分にとっての幸せなのか、仕事とプライベートのどちらに重きを置くべきなのか、迷ったり分からなかったりする方も多いと思います。でも、さーたりさんのお話を聞いていると、時に立ち止まって考えることも大切なんだなと思いました。

さーたり 大事なのは、その時々に「やりたいこと」があるかどうかだと思います。湧き出るようなモチベーションはなくても、「いつか夢中になれるようなことを見つけておこう」と調べることから始めてみるのもいいかもしれません。仕事でも趣味でも、今はできなかったとしても、ゆくゆくはモチベーションに変化するはずです。それを繰り返していると、自分にとっての幸せが何かを見つけるきっかけにもなるのかなって。

さーたりさんにとって、医師のお仕事に加えて漫画を描くことも幸せにつながっていますか?

さーたり そうですね。私にとっての幸せは夢を持つこと。仕事だけでなく夢はいくつあっても良いし、支えになるものです。漫画家の手塚治虫さんは医師免許を持っていて、「僕には医者と漫画の2つの夢があって、どちらかがダメになっても片方があるから」ということをおっしゃっていたそうです。

漫画家の仕事については、最初のうちは趣味の延長としての副業だと思っていました。ですが、編集や印刷など漫画に力を注いでくれる方や、漫画を読んで応援してくださる読者の方もいるので、「果たして“副業”と呼んでしまっていいのだろうか」と最近考えています。どちらもおろそかにせず、医者も漫画家も自分の仕事として大事にしていきたいですね。

取材・執筆/末吉陽子(やじろべえ)
編集/はてな編集部

お話を伺った方:さーたりさん

さーたりさん

医学部を卒業後、外科医を志し早数年。専門は消化器外科、時に肝臓・胆道・膵臓、移植外科。同期の夫と結婚し出産。現在3人の娘を絶賛子育て中。『聖闘士星矢』『幽☆遊☆白書』『忍たま乱太郎』などを愛好している。

ブログ:腐女医が行く!! 〜外科医でママで、こっそりオタク〜
Twitter:@gogofujoy

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