全国の書店や書店チェーン店向けに、主婦の友社の書籍を紹介
北村さん(以下、北村) 私は現在、販売部販売促進課に所属していて、主に全国の書店をお客様として営業を行っています。みなさんがよく知っているような全国展開をしているナショナルチェーンや、各地方の有力な書店をチームの6人で割り振りして担当している形です。
北村 現在の販売促進課は男女3人ずつです。編集部には女性が多いので、トータルで見ると女性の方が多いですね。販売促進課も今はたまたま半々ですが、少し前は女性が多かったです。昔は男性が多かった時代が長かったと聞いています。
北村 チェーンの本部も担当していますから、全ての店舗に直接足を運んでいるということではないのですが、個店数でいうと100~200店ずつぐらいでしょうか。
全国の各エリアに在住している「ブックメイト」と呼ばれる営業のお手伝いをしてくださる方が30名ほどいまして、私たち6名とブックメイトとで連携しながら、全国の書店の情報を得て営業をしています。
北村 私は、北海道と東北6県、千葉県と東京都の一部の書店を担当しています。それ以外に、全国的にチェーン展開している書店の本部も数ヶ所担当しています。
北村 そうですね。日々の営業としては、都内や都心近郊の主要な店舗と本部に訪問をして、商談をさせていただいています。
通常は朝9時30分始業で、午前中は新刊の情報をまとめたり、販売促進のための資料を作ったりと、社内の仕事がメインです。お昼過ぎの時間を狙って、午後は書店訪問に行きます。ですから、会社にいる時間よりも、外に出ている時間の方が多いですね。
地域の特色を把握して、地域に合った本を提案して、売り上げをアップ
北村 月に1~2回は出張で地方に行き、同じように書店の担当者と商談をしています。地域にもよりますが、最低でも2泊3日で、1日あたり6~8店を回る感じですね。
北村 慣れると案外大丈夫ですよ(笑)。
北村 都心と地方では、本のトレンドが違ったり、そのペースも違ったりということはあるんですが、営業をする際はあまり先入観を持たないようにしています。売れない理由を最初から作りたくないんです。そのため、その土地ではどんなものが流行っているのかを担当の方に積極的に聞いて、ゼロベースで情報交換をするようにしていますね。
北村 驚いたのは、地方紙や、ローカルのテレビ番組は、東京の人には想像がつかないほどの力を持っていること。実際に、そのエリアだけで爆発的に売れる商品が存在するんです。
特に北海道は面積は広いけれど、みなさん北海道ならではの新聞を読んで、北海道ならではのテレビ番組を見ているんですよね。東京では話題になっていない本でも、地方の番組や新聞に取り上げられることで、一千冊近くの受注ができたこともありました。こういうことがあるので、どんなものが流行っていて、どういった媒体に影響力があるかというのは、常にどの地域でも聞くようにしています。
私は神奈川県出身なので、このように地方特有の強い力があるというのは、この仕事に就くまでは知らなかったですね。
北村 出版社にもよると思いますが、主婦の友社では、出している刊行物は全て担当することになっています。
北村 書籍やムックの入れ替わりや新刊の情報は、毎週行われる課のミーティングで共有するようにしています。けれども、ここで共有した書籍全てをご案内したり、ご注文いただくというのは非常に難しいことです。ですから、社内で決まった注力すべき書籍の中から、さらに自分が担当している地域や書店の顧客特性に合わせたものを頭の中で整理して、本当に薦めるべき書籍を選択し、その情報をメインに覚えていきます。地方の特性をつかむことは、こういう部分でも役に立っていますね。
憧れ続けていた出版業界に29歳で転職
北村 実はもともと本が好きで、文学部の文芸専修というところに所属していました。課題の本が設定されて、それをいろんな方向から読み解くという、文学講読のような授業が多かったですね。一冊の本でも、さまざまな角度から魅力を紹介できるようになったので、ここで学んだことは現職でも大いに役に立っていると思います。
北村 そうなんです。新卒では、空調製品を扱う会社に入社して、法人営業を担当していました。学生のころから、ざっくりと「衣食住」に関わる、生活に密着した仕事がしたいなと思っていたんです。それで、縁あってその会社に就職しました。
北村 ありましたが、そういう企業の新卒採用となると、非常に狭き門でして……。なのでいったん気持ちを切り替えて、就職しました。
北村 前職に不満があったわけではないのですが、社会に出て5年が経ち、「私は社会人としてどのような生き方ができるだろう」と真剣に考えるようになって。憧れの仕事のひとつである出版業界を、新卒のときは簡単に諦めてしまったことがなんとなく心に残っていたんですよね。そのときたまたま主婦の友社の「未経験OK」の求人を見て、出版業界に挑戦するならこれが最後のチャンスかもしれないと思い、勇気を持って受けてみました。
北村 そうですね。
北村 マスコミの仕事というのは敷居が高いなというイメージもありましたし、「自分に務まるのかな?」という不安はありました。でも、前職の営業の経験や成績を主婦の友社の採用試験で評価してもらえたので、期待に応えたいなと。あと、たまたまなんですが、採用担当の方と出身地が同じだったり、これもなにかの縁かなと思うところもありました。
そしてなにより、主婦の友社の特徴は、女性に関わる書籍をメインに扱っているということ。私は本以外に、洋服や料理も好きなので、そういった部分でも自分の趣味嗜好を役立てられるんじゃないかなと思ったんです。
「安定」が北村さんの強み。長所を伸ばして、取引先からの信頼を勝ち取る
北村 テレアポのアルバイトをしていた大学生のころ、社員の方に「一定のペースで電話をかけることができて、安定してアポイントが取れているね」と言われたことがあったんです。そのときに、「安定」が私の強みなんだと気付くことができて。それがきっかけで、今でも「安定した仕事」を常に心がけています。
というのも、営業特有の悩みに「数字」と「モチベーションを保つ」という2つの問題があると思うのですが、この「安定」こそが、悩みを解決してくれるすべになると思うんです。
この数字やモチベーションを保っていくには、単純な話、分母を大きくしていくしかないと思っています。もともとセンスがあってホームランを打てる人はいいんですが、私のような普通の人間がそれをキープするためには、打席に立つ回数をひたすら増やすしかないんですね。
ですから、取引先への訪問頻度や接触する回数は、絶対に落としたくないと思っています。他の人が2回行くのなら、私は3回行く。顔を覚えてもらって、主婦の友社の商品をご案内できる回数を増やすようにしています。
また、担当エリアや訪問する法人は決まっていますが、大手の書店をメインに営業しているので、訪問しきれていない書店というのは実はたくさんあるんです。だから、他社の営業担当者がその県の上位3店舗を回っているとしたら、私は上位10店舗を回る。そうやって分母を増やしています。
北村 以前、これまで前任者が訪問できていなかったロードサイドのお店に伺ったときに、お客様の目に留まりやすいよう、ページの端にインデックス(見出し)をつけて本を開かずに内容がひと目でわかるような見本誌を置いて、書籍の展開をしてもらったことがありました。そうしたら、平積みした分がその店で完売したんです! 書店の担当者が本部の方に報告してくださって、他の店舗でもやってみようということになり、まとまった部数を発注していただいたことがありました。
見本誌を置くという提案が功を奏したのですが、今まで伺えなかったお店でもこのようなチャンスがあるんだと実感しましたね。
担当書店の売り上げ貢献がなによりの喜び! 仕事で落ち込んだときは、仕事でリカバリー
北村 仕事を通じて書店の方と仲良くなったりと、やっていてよかったと感じることはたくさんあります。なによりのやりがいというと、自分のちょっとした提案が担当する書店の売り上げに貢献できたときでしょうか。巷でいわれているように出版不況ではありますが、その中で主婦の友社の書籍が少しでも売り上げアップにつながると、非常に嬉しく思います。
北村 ある書店では、約2年という長いスパンをかけて1冊の本を大きく展開していただいたことがありました。
「この書店にはこの書籍が合う」と思って提案しても、毎月たくさんの出版社からたくさんの新刊が出ているので、すぐには展開いただけないということも多いんです。
その書店には、自己啓発系の本をおすすめしていましたが、「うちではいいです」というやりとりが2〜3回ありまして。一度保留にし、春先に「フレッシャーズ向けにどうですか」と改めてお話しいたしました。それでようやく、“棚差し”(背表紙を見せるようにして棚に並べること)で1冊置いていただいていたのを、“面陳”という本棚に表紙を正面に見せる置き方に変えてくださったんです。
ようやく表紙が見えるようになって嬉しかったのですが、次は年末のタイミングで「プレゼントとしてどうですか」とさらに提案をしたところ、みなさんの目に届きやすい場所に平積みにする“平台”で置いていただけるようになりました。
そうして次の年には、「今度はワゴンでやりたい」とおっしゃっていただいて! このように、本棚に1冊置いてあった書籍が、最終的にワゴンで100冊展開をしていただけたという大きな実績が出たのは嬉しかったですね。
北村 通常、ワゴンで紹介されるものは、ほとんどが読み物系の新刊です。主婦の友社の本は、料理や育児、園芸などの実用書が多いので、自らチャンスを作っていかないとなかなかワゴンで展開していただけることはないんです。
そのため、ワゴンで展開するイメージを持ってもらいやすいようにシーンを限定して提案をしてみたり、インデックスをつけた見本誌を置いてもらったりなど、お客様に手に取ってもらえるような工夫をすることが大事なんです。いかに目に付きやすいところに置いてもらえるかにかかってるんですよね。
北村 バレンタインデー向けにお菓子の本の採用を検討しているチェーンがあったとき、著者の料理研究家にチェーン限定の新レシピを考案していただき、そのレシピカードを付けることを提案しました。やはりちょっとしたことでも特典があるとお客様も嬉しいようで、反響がありましたね。その書店で購入するメリットを訴えられるような仕掛けは、いつも考えるようにしています。
北村 先ほど、お客様(書店)との接点を減らさないようにしているとお話しましたが、落ち込んでいるときこそ、それをキープしたいと思っています。
仕事とは全く関係ないことをして気分をまぎらわす人もいますが、私は、仕事で落ち込んだときは仕事でリカバリーしたいんです。仕事で良いニュースがあったり、お世話になっている担当者から声をかけてもらえると、やる気が湧いてきて前向きな気持ちにいつの間にかシフトできているんですよね。
そうですね。それともうひとつ、最後は“やっぱり本が好き”という気持ちが救ってくれているように感じます。扱っているもの自体が好きだからこそ、多少つらいことがあっても乗り越えられるんだと思います。
北村 書店を担当する販売促進課で入社して4年目になりますので、機会があれば、これまでの経験を生かして別のチャンネルへの営業もしてみたいと思っています。例えば、「販売会社」と呼ばれる、書店と出版社の間をつないでいる窓口への営業にも挑戦してみたいです。
また、商品の売り伸ばし方法や重版計画などを考える、販売促進と編集をつなぐ「MD」というセクションがあるのですが、そういった仕事でも今の経験やノウハウを生かせるのではないかと思っています。現状に満足せずに、今まで培ったものをさらに役立たせる仕事をしていきたいですね。
撮影/小高雅也
お話を伺った人:北村智佳(株式会社主婦の友社 販売部販売促進課)
主婦の友社に入社して4年目。中堅として期待され、上司から厚い信頼を受けている。昔から本好きということもあり、休日は本屋に行くことが多いのだとか。また、洋服も好きなので、ウィンドウショッピングもリフレッシュ方法のひとつ。北村さんが手にしているのは、世界的瞑想の師と言われる高僧が「人生の視点の変え方」をユーモラスに説いた『バナナを逆からむいてみたら』(主婦の友社)。