ニフティの営業担当・橋本さんが大学で専攻していたのはデザイン。営業職との向き合い方は?【おしごとりっすん】

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はたらく女性の深呼吸マガジン『りっすん』では、「企業の中で働く女性」にフォーカスする新シリーズ「おしごとりっすん」を始めます。最初にお話を伺ったのは、ニフティ株式会社でコラムサイト「デイリーポータルZ」などの営業を担当している橋本静香さんです。

美術大学を卒業し、デザイナーという職も視野に入れて就職活動していた橋本さんが、新卒入社した会社で配属されたのは営業。専門分野とかけ離れた職種に、橋本さんはどう向き合い、どう仕事に取り組んでいったのかについてお聞きしました。

デイリーポータルZでは営業と編集部が一体となって仕事をしている

橋本さんは現在「デイリーポータルZ」の営業を担当されているそうですが、今のお仕事について教えていただけますか?

橋本さん(以下、橋本) 営業企画本部の中のコンシューマー営業部という部署にいます。広告周りを見ているチームで、「@nifty」のトップページや「@niftyニュース」などのディスプレイ広告を管理するメンバーが3人、タイアップをメインとするメンバーが私1人です。もともとはアドテク(アドテクノロジーの略。広告の配信や流通の技術・システム全般を指す)とタイアップ記事を両方担当していたんですが、「デイリーポータルZ」(以下、DPZ)のタイアップが売れちゃうから誰か行って!みたいな感じでタイアップがメインになりました。

「売れちゃうから」かっこいいですね!

橋本 一昨年くらいからコンテンツマーケティングが時流に乗ったこともあって引き合いをいただくことが非常に増えたので、担当を1人つけようということに。DPZ以外にも、主婦向けチラシ情報サービス「シュフモ」など、ニフティが提供するサービスのタイアップ案件を全部担当しています。

タイアップ全般を1人で担当されているんですか?

橋本 営業としては1人ですね。

規模の大きい案件があったり、案件が並行したりで、結構大変なのでは……?

橋本 大変だと思うことはそんなに多くはないですね。休むときはチームリーダーに全部やりとりをお願いして平気で1週間休みますし。営業に関係する案件は編集部の安藤昌教さんや他の人がフォローしてくれることもありますね。

DPZ全体がチームになっているんですね。

橋本 編集部との一体感はすごくあります。私は安藤さんと一緒に動くことが多いんですが、安藤さんはすごく仕事ができる人なので、「これお願いします!」って言ったら出来上がって返ってくるし、「面白いこと考えてください!」って言ったら面白い企画が返ってきちゃうし……。

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デザイナー一筋よりは、いろいろな可能性があるニフティを選んだ

ニフティさんに入社された経緯を教えていただけますか?

橋本 大学は美大で、武蔵野美術大学の造形学部視覚伝達デザイン学科というところで情報デザインの勉強を主にしていました。タイポグラフィを学んだり、ポスターを作ったり、Webの企画やユーザーインターフェース(UI)を作ったり……。

デザインを学んだけれど営業をやっているというのは結構珍しいのでは……。そもそも美大出身でニフティさんを選ばれるのもなかなか連想しにくいですね。

橋本 実はニフティには武蔵野美術大学OBが多いんです。私が入社した当時は営業に1人いましたし、エンジニアもいますし、もちろんデザインの部署にもいます。OBが当時のクリエイティブチームのトップで、大学の就職説明会にも来ていました。

デザイナーでの採用があるということですか?

橋本 いえ、ニフティは新卒時は全員「総合職」としての採用なんです。小さいころからインターネットばかりしていたので、「とりあえずインターネット関連のサービスが作れる会社に入ろう、デザイナーだったら何かできることがあるんじゃないか」という気持ちでいくつか会社をピックアップして就職活動をしていました。

 実際にいろいろな会社を見る中で、最初にニフティから内定が出たというのが大きかったんですけど、人事担当の方もものすごく良くしてくれましたし、会った人たちもなんとなく波長が合う人が多くて。

美大だからといってデザイナーにこだわっていたわけではなかったんですね。

橋本 他の会社では基本的にはデザイナー枠で就活をしていました。ニフティで総合職採用になってしまうとデザイナーになれるかどうかわからないということはその時点で教えてもらっていました。入社して1年間のうちに3ヶ所でOJTをして、グループワークなどもした上で配属されるということだったので、その上でデザイナーになれたらなるし、なれないならならないでそういう道もあるかな、と考えました。

迷いはありませんでしたか?

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橋本 多少迷いはありました。でも「ずっと働いていく」ということを勘案すると、デザイナー一筋よりはニフティの方が自分には合っているんじゃないかなと思いました。人事の方にもその点は相談していて、親身になってくれたので、選ばない理由も特にないな、というか(笑)。文系の大学出身で1年目で研修を受けてエンジニアになった人の話も聞きましたし、いろいろな可能性を感じました。

その後営業に配属されることになって、大学での専門であるデザインとはだいぶ離れたと思うのですが、そのあたりはどうお考えでしたか?

橋本 最初のうちは「会社側がデザインの能力をかってくれなかったんだな、がっかりだな、そっかそっかー」って思ったんですが(笑)、私はどちらかといえば「デザインができる! デザイン一直線!」というタイプではないと感じていました。だったらデザインの知識があって、他のこともできるようになった方が、能力を活かせるかな?と考えていて割と前向きでしたね。

焦りが強かった美大での就職活動

よく「美大生の就職活動はスタートの時期が遅い」なんていう話も聞くのですが、ニフティの内定が最初に出たということは、就職活動は順調だったのでしょうか。

橋本 私の周りでは熱心な人とそうでない人の二極化がすごかったんです。デザイン系の学科には、入学したそのときから「広告代理店に入ってアートディレクターになる!」「ゲームの会社に絶対行く!」と活動している優秀な人が一定数いました。そういう人は高校のときから関係する活動を既にしていたり、大学1年のときからインターンに行っていたり。大学に入ってから自分の知らないことが多いことにカルチャーショックを受けました。広告代理店関係の言葉も全然知らなかったし……。

 そんなに優秀な子たちですらずっと頑張っているのに、私みたいなタイプはふわふわしていたらやばい、情報をキャッチするのが遅かった、という気持ちがあったので、早い段階から就職に向けて動かないといけない!と思っていました。

橋本さんは熱心な方だったんですね。

橋本 大学3年のはじめからずっと就職に向けて活動をしていましたね。内定が出るまで1年間くらいそのことばっかり考えていました。私は割と変な負けず嫌いで、周りの目も気になるタイプだったので、周囲より先に決めておきたいという気持ちがどうしてもあって。

大学生活は焦りが強かったんですね。

橋本 方向性がない状態で大学に入っちゃったので、それですごく焦ってました。大学生に向けてこう言うと焦らせるだけになっちゃうと思うんですけど、すべて動くのは早ければ早いほど良いなって私は思いました。高校生くらいから方向性が定まっていた子は、途中で迷ったとしても確実に実力がついていくので。そんな人に大学2~3年から太刀打ちできないな、結構つらいものがあるなって……。

ニフティさんはパソコン通信サービスからスタートしてISP(インターネットサービスプロバイダー)として長く続いてきた会社ですが、社風のミスマッチのようなものはありませんでしたか?

橋本 もともとインターネットがとても好きだったんです。小学校5年生くらいのときにパソコン好きの親がパソコンを買ってくれました。まだダイヤルアップ接続のころだから、「つないだらお金がかかるよ」なんて言われましたね。PostPet(電子メールクライアント)がすごく好きでした。ダイヤルアップからADSLになった中学生のころにはマンガやアニメのサイトを見つつ、イラストサイトを作って交流したり、2ちゃんねるにすごくはまったり(笑)。

「インターネットと一緒に育った」という感じですね。

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橋本 広告系の仕事があることもろくに知らずに大学に入り、周りが広告系の会社を目指しているからなんとなくその勉強もしていて、でもやっぱり働くんだったら一番身近なものであるインターネットがメインの会社がいいなと考えていました。たいしたことはなかったかもしれないけどサイト制作もしましたし、ちょっとは活躍できるんじゃないかな? インターネット業界は若いからいわゆる“お局”もいないんじゃないかな?って。先ほど言った通り美大出身の先輩たちがいたのは大きかったですね。

どんな働き方があるかわからない状況よりはずっと心強いですよね。

橋本 美大生は社会性がないってずっと言われてきたから。私も社会性がないんだ!と思っていました(笑)。普通の企業に入ってもついていけなくなっちゃうと思っていたけれど、そこまで自分と違わない先輩たちがここで普通にやっていけているのであれば、自分もやっていけるかもしれないと思いました。あとはやはり、DPZがあったのは大きかったです。これが許されるのであれば、多少は大丈夫だろう、みたいな。

DPZの存在は大きいですね……! あのような独創性と、プロバイダーとしての運営を両立されていることについては、どう認識されているのでしょうか。

橋本 会社創立当時はベンチャーのような、新しい感覚でやっていたと聞いています。それに、パソコン通信のフォーラムのように、社内だけではなく社外の人と何かを一緒に作り上げるのが得意な会社、という性質があったんですね。DPZは林(ウェブマスターの林雄司さん)が小さなコーナーで始めたものが1つのサービスになりました。それが、どんどん認められるようになって、今は会社のブランディングという位置付けになっています。いろいろなものを受け入れられる土壌がある会社であるということに加えて、DPZがあることで「堅苦しくない部分も持っているんだよ」というイメージアップにもつながっていると思います。

デザインも数値も「人間が作ったものには理由や事情がある」と考える

営業でアドテクも一時期されていたということは、かなり幅広い内容を受け持っていたと思います。広告関連では数値管理などもするかと思いますが、それは配属先で学んで身に付けたのでしょうか?

橋本 私はとにかく数字が苦手だったので、それを克服したかったんです。営業でちゃんと数字を見られるようになった後にその先をいろいろ考えてもいいかな、という気持ちでした。やってみると意外とできるんだなって思いました。

頑張って勉強したとか……?

橋本 数字ってただの数字でしかないので、実はわからない部分にはわからない理由がちゃんと全部あるものですよね。だから、今は「なんで前はそんなに苦手だったんだろう?」くらいに思えるようになりました。慣れるまではめちゃくちゃきつかったです。CTR(クリック率)みたいな3文字のアルファベット多すぎない?とか、横文字多すぎる!とか。

 でも3~4ヶ月やって全体像が見えて「あ、もうこれ以上難しいことは出てこないんだ」って思って、そこを乗り越えてしまうと、良いソフトウェアがあるのでそれさえ見ていればいろいろわかるのが良いなぁ……って。小さいときからパソコンに接していたのも良かったのかもしれません。

「わからない理由がちゃんとある」というのは、理由の存在を見つけて、自分で問題解決していこうという考え方ですね。

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橋本 アドテクでは、数字を追っていくと「このタイミングでこうだ」というのがしっかりデータに全部出てきます。自分で計算処理をするわけでもない。データさえ見れば「じゃあこれお願いします」って調整すればいいだけなので、企画をうんうん言いながら考えるよりは答えがわかりやすい印象がありますね。

デザイナーという職種では、何かをデザインする際にただ漠然と考えるのではなく「この要素がある意味」などを緻密に考えるようですが、それが橋本さんの「理由がある」という考え方に近いのかなと感じました。デザインの知識がそのあたりに活かされているように思いますが、いかがですか?

橋本 活かされているといいですね(笑)。そういう気もします。ソフトウェアに関しては「作った人の気持ち」を考えます。使いづらいところがあっても「なんでここにこれを置いちゃったんだろう?」「作る側の事情もあったんだろうな……」なんて。

デザインを直接やっているわけではなくても、そのマインドを学生のときに培ったという印象があります。

橋本 その通りかもしれません。私は大学に入るまで「文字を作った人がいる」という認識が全然なかったんです。でもタイポグラフィの授業などで、活版印刷の活字って1つ1つ作った人がいることを知って。「人間が見ているものにはそれぞれ作った人がいる」というのは結構大きな発見で、そういう目線でものを見ると、いろんなことが許せるようになるんです。

数字やデータにも「人間が作ったものだからそこに理由がある」とつながるんですね。

橋本 「理由」と「事情」はよく考えますね。なんとなく生きていく中で、ああこういうことか、と腑に落ちた感じがあります。そこを学べただけでも美大に行った価値があったと思います。

目の前の「できないこと」を1つ1つ潰していくことしかできない

仕事のやりがいや、どんな仕事が楽しいかなどについて教えてください!

橋本 やっぱりDPZの記事に企画段階から一緒に入って、実際に記事が公開されてSNSですごく反応が良いと「やってよかった!」と思います。もちろん数値面も大事なんですが、良い記事ができるだけで本当にうれしく感じます。案件によっては調整が必要なこともあるので、そこをうまくできて良い記事になると「よかった」「ライターさんの名前に傷がつかなかった」とほっとします。

編集部との調整に際しては営業としてぶつかるケースもあるのではないかと思うのですが、どのように進めているのでしょうか?

橋本 私は立場上クライアントさんの意向を聞く側で、クライアントさんは直接編集部には言いにくいことを私に伝えてくるので、そこを一般的な観点で考えて「ここまでは大丈夫だと思います」というような話をしますね。それでも編集部のポリシーとして無理であればクライアントさんに「ごめんなさい」と言います。決定権は編集部が全部持っているので。編集部が「絶対いやだ」と言ったら無理強いはしません。それを相手側にどう納得していただくか、そこには気を遣いますね。

タイアップ記事でも編集部が最終決定をするんですね。

橋本 そうです。林はDPZをとても大事にしていて、関係するすべてのメールに目を通しています。最初に林さんから「意に反する記事を載せることで売上を達成できたとしても、サイトとして死んでしまうから、それは絶対にやりたくない」と強い意思を示されて、「わかりました!」と。

仕事で落ち込むこと、うまくいかないことなどもあると思いますが、どんなときでしょうか?

橋本 “営業あるある”ですが、クライアントにアポの打診をしてお返事が来ないとすごくへこみます。5年やっているのにへこむのか、と思うくらいへこみます。何回やっても地味に毎回つらいですね。

落ち込んだときの自分なりの対処法はありますか?

橋本 「すぐ返信をくれるクライアントに連絡する」です。仲良くしてくださるクライアントさん、気持ち良く会いに行けるクライアントさんがいるので、そういうところを大事にしていこうと思いながら連絡します。

仕事の悩みは仕事で解決する、それで癒やされるというのは、営業の鑑といいますか……。

橋本 この前もへこんだんですけど、好きなクライアントさんがメールをくださると「ああよかった……まだ私仕事してていいんだ……」って思います。

【おしごとりっすん】ニフティ株式会社・橋本静香さん

憧れの人やロールモデルのように思う人はいますか?

橋本 基本的にすべての人が憧れレベルなんです。他人の影響をすごく受けやすいので、自然と好きな人の近くにいるように動いているなというのは感じます。安藤さんをはじめDPZのチームの人が1人で海外にばんばん行ったりしている行動力を見ると憧れるし、自分でもやってみようと思います。私は1人でモロッコやキューバに行ったんですが、それはここ3年くらいの話で、DPZの影響でできるようになりました。

DPZの皆さんは、記事を拝見していてもすごく良い雰囲気に見えますね。

橋本 本当にみんな仕事ができて、人間的に穏やかで、怒られることも怒鳴られることも全然ないです。ニフティ全体でやさしいんですが。自分には厳しいけど他人に押しつけない人がすごく多いので、そういう人たちに憧れます。林さんはよく「機嫌良くいたい」と言っていて、それが周りにも影響を与えているんじゃないかと思います。

 たぶん私、この3年くらいで性格が変わってきているような気がしています。ネガティブになりがちな性格だったんですが、DPZのチームと一緒にいると「これでもいいんだ」っていう包容力に包まれるというか……。DPZの存在は大きいですね。プライベートでも見るくらい大好きです。

「これは会心の出来だった!」「最高にうまくできた!」というタイアップ記事を教えてください!

橋本 いっぱいありすぎて、今思うと「全部やってよかった!」と思います。みんなプロフェッショナルできちんと形にしてくれているので……。DPZ全体がアルバムのような感じですね。楽しくない出来事があったとしても「そんなこともあったね」と思えます。印象に残っているのは「大人のお化け屋敷」ですね! これはクライアントさんとDPZのバランスがとても良くて、ギャップをうまく生み出せてよかったです。

お化けのいっさい出てこない「大人のお化け屋敷」 :: デイリーポータルZ

今後のキャリアについてはどうお考えですか?

橋本 明確なものはないんですが、何でもできる人になりたいなって思います。PRやマーケティングの知識ももっとつけて、できることの幅を広げたい。今周りにいる人たちはみんないい人だし、能力がある人たちなのでうまく吸収していきたいです。近くにいる人5人の影響を受けて人間ってできていくと聞いたので、今はすごくいい環境だと思いますね。

 近づきたい人はいっぱいいるしイメージも持っているけれど、それと自分を比較するとどんどん卑屈になって「私はだめだ」みたいになっちゃうので、なるべくそうは思わないようにしようと思っています。まずは目の前にあることに対して自分が何ができるか、できないことを1つ1つ潰していくことしかできないなっていう気持ちですね。

「1年後や3年後はこうなっていたい」という視点も特には意識していない感じでしょうか。

橋本 漠然と「ちゃんと給料上げていかなきゃな」とは思います(笑)。目標を定めて進める方がきっと早いんだろうとは思うんですが、完成像を決めて進むのが苦手な性格だと思っているので、割と小さく小さく、そのときの気持ちが一番ポジティブになれるように生きていった方が私には向いているかなって思っています。

ありがとうございました!

お話を伺った人:橋本静香(ニフティ株式会社 営業企画本部 コンシューマー営業部)

橋本静香

ニフティ株式会社ではフレックス制を採用しており、コアタイムは10~15時。橋本さんは18時ごろには会社を出てすぐ帰宅し、犬と遊んでリフレッシュすることが多い。「お酒があまり飲めなくて、家が大好きすぎる」。一時期はゲームアプリを作ったりオリジナルキャラクターのLINEクリエイターズスタンプを作ったりしていたとのこと。

▼ 橋本さんが開発・制作したアプリ・LINEスタンプ
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次回の更新は、5月17日(水)の予定です。

文・万井綾子/写真・小高雅也