はたらく女性の深呼吸マガジン

イーアイデム

「LGBTのショートカットの道を作って消えていく人になりたい」牧村朝子さんの生き方、働き方

f:id:blog-media:20170124185655j:plain

「LGBT」という言葉をご存じですか? 最近では「ダイバーシティ(多様性)」と合わせ、企業の取り組みとして見聞きすることが増えたかもしれません。LGBTとは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字を取った、性的マイノリティの総称の一つ。

LGBTという言葉は知っていても、その存在を知っていても、どう接すればいいのか、何を配慮すればいいのかわからない……はたらく女性の深呼吸マガジン『りっすん』では今回、タレント・文筆家の牧村朝子さん(まきむぅ)にお話を伺いました。牧村さんはフランス人女性とフランスで結婚し、現在はパートナーとともに東京で暮らしながら、自らの体験をもとに執筆・講演活動をしています。牧村さんが当事者としてLGBTについて考えていること、伝えたいことをお聞きしました。

3回落とされたけれど「オフィス彩」にどうしても入りたかった

牧村さんが今のお仕事に就かれるまでの経緯について教えていただけますか。

女優で実業家の杉本彩さんの芸能事務所「株式会社オフィス彩」に所属するタレントで、文筆家です。2009年ごろに芸能活動を始め、最初は撮影会のモデルをやっていました。

モデルになったのはスカウトで?

いえ全然! 自分で応募しました。その後「ミス日本」にも自分から応募して、2010年度ミス日本ファイナリストに選出されました。

それを機に、オフィス彩に所属してタレントとしての活動を始められたのでしょうか。

全然そんなことはないんです。ミス日本ファイナリストという実績ができたので、オフィス彩に入れるかもしれない!と思ってオフィス彩に書類を送りました。でも3回落とされてるんです。

そんなに! 4回目で入れた理由は……?

根性です(笑)。(杉本)彩さんが好きで、彩さんのもとに行きたいと思って、オフィス彩一筋で書類を出し続けました。あきらめ悪くずっと連絡をとっていたら、ある日「タンゴパーティーをやるから来なさい」と言われまして。彩さんは社交ダンスをやっているんです。私はタンゴなんてやったことないから「どうしよう」と思ったんですが、その場で「私わかんないです~」みたいなことを言ったら落とされる!と思って、わからないなりに踊って(笑)。そしたら「じゃあ次から来ていいよ」という流れでしたね。

自分のロールモデルを見つけて「あの人のようになりたい」「ああいうふうに仕事ができるようになりたい」と思うことはよくあると思うのですが、牧村さんがそこまで彩さんのことを意識されていたのはどんな理由だったのでしょうか?

(勢いよく)顔です!

身も蓋もなかった(笑)。

もちろん他にもいろいろあります。でも顔が本当にきれいだなと思ってテレビや本などを追っていたら、「あの人本当にすごいな!」と。彩さんは個人的に「菩薩」なんですよ。崇拝しています。何を言っても許してくれると思います(笑)。

「菩薩」という表現はすごいですね。

彩さんがプロデュースする化粧品会社の社是が本当にすごいんです。普通は「業界トップを目指す」とかだと思うんですが、彩さんの場合は「自分を枠にはめない。自分に嘘をつかない。」。社是がそれ?!って思いました(笑)。「川は流れていくけどそれでもオールを漕ぐのをやめない」というのが彩さんの生き方なんです。私はそれについていこうって思ってます。菩薩です!(笑)

その後、牧村さんのブログによると、2012年10月にフランス人女性とPACS契約(性別に関係なく、成年に達した2人の個人の間で安定した持続的共同生活を営むために交わされる契約のこと*1を結んで、活動の拠点をフランスへ移した後、フランスでの同性婚法制化を受けて、2013年9月にフランスの法律に基づき結婚した……とあります。PACS契約を結んだときには、日本での芸能活動はどうされていたんでしょうか?

実際には開店休業状態で、事務所との契約はあるけれどフランスで仕事があるわけではなかったんです。自分が生涯をかけて愛そうと思った人がフランスに行ってしまうことになったので、とにかく一緒に行こう、その後のことは後から考えようと思っていました。

今東京に拠点を移されたのはお仕事の都合で?

そうですね。私の仕事を日本できちんとやりたいという気持ちもありましたし、パートナーも日本で仕事をやっていきたいという意向でした。振り返ってみると大変でしたね……。パートナーはフランス人なのに「日本に帰りたい……」なんて言っていました。

LGBTの人々も、そうでない人も、「考え方」「望むこと」「生き方」は全部違う

「LGBT」という言葉は身近になりつつあるように思います。その一方で、理解したくてもとっかかりがつかめない、困惑する、という人もいるんじゃないかと。そういう人に向けてわかりやすく説明するとしたらどう言われますか?

LGBTって、カタカナでアルファベットだからびっくりしちゃうよね、って思っています。オバマ前大統領の声明に「LGBT rights」(LGBTの人々の権利)という言葉が登場したり、国連が“FREE & EQUAL”というLGBT啓発キャンペーンをやっていたり……とか。「新しい」「海外の」「難しい」「意識の高い」言葉に聞こえる気がしています。

f:id:blog-media:20170124185704j:plain

でも全然新しいことでもなんでもないんです。レズビアンを扱う日本最古の小説は、知られている限りでも鎌倉時代に書かれています。最近新しく出てきたのではなくて、もともといた人たちについて新しく言われるようになっただけなんですよね。だから、「LGBTの人を理解しましょう」というのではなくて、「あなたと私で理解し合いましょう」ということの積み重ねだと思っています。

LGBTというくくりで人を見るのではなくて、個人個人の理解の話であると。

すごく印象的だった例が一つあります。専門用語でいうところのMtFトランスジェンダー(出生届に書かれた性別は男性で、性の自己意識が女性である人)の方の事例です。その方が勤務先に「自分はMtFトランスジェンダーです」と言ったら、その企業はその人に対して女性用トイレを使えるようにしたんですって。

でも、その方は会社の対応が残念だったとおっしゃっている。MtFトランスジェンダーとして生きてきて、女性用トイレに入ったら「きゃー」って悲鳴を上げられたり、女装の男がいるという扱いを受けたりして、すごく怖かったことがあったから。いわゆるシスジェンダー(出生届に書かれた性別と性の自己意識が一致している人)の女性が怖くて、同じトイレにしてほしくなかったそうなんです。

では男性用トイレが使えればいいのか、というとそうではなく……。難しいですね。男女の区別ではないトイレがあるとベターだったというケースでしょうか。

その方は「車いすマークのある個室トイレを使えるようにしてほしかった」とおっしゃっていたんですけど、ここで気をつけたいのが、その方は「MtFトランスジェンダーです」としか企業に対して伝えていないんです。すべてのMtFトランスジェンダーが同じ対応を求めているわけではない。逆にシスジェンダーの女性と別にされて「あなたはここの個室を使って」と言われて、他の人の目に触れないようにするという扱いが悲しいという方もいらっしゃいます。

それぞれの人で、考え方や望むこと、生き方も全部違うということなんですね。

そういうことだと思います。どちらの側からも、「MtFトランスジェンダーはこういうふうに扱いましょうマニュアル」「MtFトランスジェンダーなのでこう扱ってくださいマニュアル」みたいなものはできないんです。自分がどう思うか、自分がどうしてほしいか、ということの積み重ねでしかないと思うんですよね……。

当事者が「自分がどうしてほしいか」を積極的に言わないと、変わらない部分もきっとある、ということなんですね。

そうなんですよね。ただ、そういうことをお話しすると、やっぱり「マイノリティ側に負担を強いるのか」と批判をいただくことがあります。そのご意見もごもっともなんですけど、きちんと言わなければ何も変えられず、負担は次世代にも引き継がれてしまいますよね。

自分が何かしら社会の中で不便を感じたとき……例えば「トイレに行っただけなのに『きゃー』って悲鳴を上げられる」とか、「カップルで楽しくデートしていただけなのに、すれ違いざまに『きもっ』って言われる」とか、社会の中で何か嫌な思いをしたときに、自分のせいなんだって思っちゃう方がいるんです。自分はマイノリティだから、日陰の存在だから、我慢するしかないんだ、自分が悪いんだ、と思ってしまう方がいる。でも、そうは思わないでいただきたいんです。

私は、そうやって社会の中で嫌な思いをするということは、見方を変えれば財産だと思ってます。この社会の中で足りないこと、足りないのに多くの人が気づけないこと、それに気づけたということなので。「ここが嫌だ」「こうしてほしい」「これだからマジョリティは理解がない」ではなくて、「これ足りないよね」「こうしていったらもっとよくなるんじゃない?」という見方をすれば、もっとお互いに楽じゃないかなって、私は思っています。

「りっすん」でこれまで取り上げてきた「女性の働きづらさ」に関するトピックにかなり近いんじゃないかと感じました。産休や育休などでなかなかキャリアパスがうまくいかないときに、自分から働きかけたり、自分で解決策を模索する。男女問わず、社会や制度でも同じですね。

そうですよね。社会や制度という視点になると、どうしても個々の視点を拾い上げている暇があまりなくなります。「100万人をどうやって動かそうか」と考えているときには「男性の声」「女性の声」「20代の声」「40代の声」のようにまとめて考えることになるわけですけど、でもその中に加わるのと加わらないのとでは大違いですよね。変わらないことももちろんあります。でも、自分なんかが意見を言っても聞いてもらえない、自分が我慢すれば済むんだ、というふうには思わないでほしいなって思ってます。

杉本彩さんにカミングアウト。そしてブログをきっかけに本を出して世界が変わった

牧村さんはLGBTとの向き合い方について「あなたと私で理解し合いましょう」ということである、と先ほど言われました。そういうことについて社会に対して声を上げていこうと思われた経緯について教えていただけますか。

「LGBTさん、さようなら」 同性婚の牧村朝子さんが宣言、その真意 - withnews(ウィズニュース)

最初は何も考えていませんでした。ミス日本に応募した理由も、結局「正しい女でなければならない」みたいな気持ちでしたね。あとは賞金が欲しい(笑)。ミス日本というタイトルがあれば、キャリアに役立つし、いろんなことに使えるじゃないですか。自分のことだけを考えて動いていました。でも……芸能活動を、当初「ヘテロセクシュアルの女性」としてやっていたんです。アイドル番組のひな壇に、水着姿で他のアイドルの女の子と一緒に出て、「はい、男性の好きなしぐさをボードに書いてくださーい」なんて言われて。「男性の運転するときの手つきにきゅんとします!」みたいな、思ってもないことを書くわけですよ(笑)。

そのうち、だんだん嘘をついてる感じがどうしても出てくるし、それに「この人と生きていきたい」という女の人と出会っちゃったしね。それを隠していくことはできないと考えて、杉本彩さんにカミングアウトしました。私はクビになると思って怯えてたんですけど、彩さんはすごくて。「レズビアンだからということで、あなたは思春期にたくさんつらい思いをしたんでしょうから、これ以上そういう子が出ないようにすることがあなたの役目じゃないかしら。やりなさい」って言ってくださったんです。「社会に対するメッセージがあってはじめて、芸能活動というのは意義を持つのよ」とおっしゃっていて。

彩さん、すごいですね。

その彩さんの姿を見て、「あのようにあろう」って思いました。

それをきっかけにお仕事の内容は変わりましたか?

変わりましたねー。でも最初はやっぱり、変に肩肘を張って、力んじゃってましたね。セルフブランディングのコンサルタントみたいな人についてもらって、「レズビアンライフサポーター」って名乗って、「レズビアン」という検索ワードで検索したときにブログが上位になった方が仕事を取りやすい、とか。

SEOのことまで考えられたんですか!

そうそうそうそう、誰のライフをどうサポートするねん、っていう感じなんですけど(笑)。「タレント」という肩書きでは売れなかったです。言いたいことは言えなかったし、仕事も来なかった。でもそこで「レズビアンタレント」という肩書きにしてしまうと、今度は「レズビアンであること」が芸みたいじゃないですか。芸のために「女性を好き」って言っているみたいに見えるのは嫌ですし、レズビアンであることは芸ではなく生き方なので、それはだめだなと思ってひねりだしたのが「レズビアンライフサポーター」でしたね。

「レズビアンライフサポーター」としてのお仕事は何を?

いや、実際には仕事はなかったです。まったくなかったので最初は「Skypeであなたのお話を聞きますよ」ということを始めました。「同性を好きになったことは、なかなか周りの人には言えない話かもしれないけれど、第三者としてあなたのお話を聞きます」って。それから、これは本当に彩さんのようになりたかったからだと思うんですけど(笑)、「悩める子羊さんたち……あなたがレズビアンであることで気持ち悪いといわれても、あなたは傷つかなくていいのよ……」みたいなことを、ひたすらブログに書いていました。

ブログを読む方が増えて、文筆家としての知名度が上がっていったのでしょうか?

そうでしたね。ブログ経由で知ってくださる方が増えました。あとはやっぱり、本を出版すると世界が変わりましたね。大きなターニングポイントでした。

それは最初の著書である『百合のリアル』(星海社新書)ですね。

百合のリアル 増補版

百合のリアル 増補版

(2017年1月に小学館から増補版が出版された)

2013年11月に本が出てから、「牧村朝子さんにお願いしたい」と声をかけていただける仕事がぐっと増えましたね。それまでは自分からオーディションに応募して選考してもらう仕事ばかりだったので。

世界が変わって、個人に対して「お願いしたい」という仕事が増えてから、cakesでの連載や他の書籍のような執筆活動につながっていったんですか?

女と結婚した女だけど質問ある?|牧村朝子|cakes(ケイクス)
ルネおじいちゃんと世界大戦|牧村朝子|cakes(ケイクス)

1冊本を出したことによって、「レズビアン タレント」で検索して来る人が私に興味を持つのではなくて、「牧村さんの『百合のリアル』を読んでお願いしたいと思った」と言われるなど、仕事を見て依頼をくださる方が増えたんですよね。それでやっと、「レズビアンライフサポーター」という肩書きを脱げるようになったかな……。脱いでよかったと思っています。私自身も楽ですし、その方が世の中のためになると思っています。

「LGBT、LGBT」と言うのを戦略的にやめる時期に来ている

「牧村朝子」個人としての仕事ができてから、LGBTに関する講義や講演をするようになったのでしょうか。

はい。一度忘れられない光景がありまして……。「LGBTと人権について講演してください」というお仕事が来たので、一生懸命下準備をして、「よーしやるぞ!」と思って登壇したんです。ぱっと客席をみたら、全員レインボーフラッグ(LGBTの尊厳・社会運動を象徴する虹色の旗)を持っていた(笑)。「ここでしゃべる意味は???」って思ってしまいました。意味がないとは言いませんが、既に私の話を聞いていただく準備ができている方ばかりなので、本当に知ってほしい人に届けられない。

既に理解を深めている方が聞きにきていたんですね(笑)。

非常に効率が悪いですよね。あともう一つ、私の本を読んでくれた10代前半の子が、「本を読みました! 感動しました!」と言ってくれて。そこまではうれしいんですよ。その続きがね、「私もレズビアンなので、LGBTの活動家になりたいと思います!」って。

それはそれでいいんだけれど、でも、そんな活動がその子が大人になるころにまだ必要なんだったら、それは私の怠慢だし、私を含めたこの世代の怠慢だし。まだLGBTの人権を訴えないと得られないような世の中であってほしくない、と思っています。ということは、こちらから「LGBT、LGBT」と言うのは、そろそろ戦略的にやめるところに来ていると思いますね。

その次の戦略として考えていることは何でしょう?

今国際的に大きな転換点として、LGBTという言葉から、「SOGI(ソギ)」という言葉へだんだん変わりつつあります。国連人権理事会でも扱っていますし、国際レズビアン・ゲイ協会(略称:ILGA)やアメリカ・スプリングフィールドの条例でも「SOGI」という言い方が入ってきています。

これはどういうことかというと、「LGBT」という言葉がなかったころって、「普通はみんなシス(異性愛者)でしょう」という考え方だったんですよね。生まれたときに言われた性別をみんなそのまま生きてきて、「異性を好きになるのが普通、それ以外のあり方は例外で矯正すべきもの」と考えられていたんです。でもそうじゃない、私たちはレズビアンだ、ゲイだ、バイセクシュアルだ、トランスジェンダーだと、「私たちをいないことにするな」とみんなが声を上げて、「普通」ということが揺らいだ。見ないことにしてきた人たちを「いない」ということにできなくなってきた。そういうステップで使われたのが「LGBT」でした。

f:id:blog-media:20170124185708j:plain

でも実は、「みんなが尊重されるべき」なんです。全員、ひとりひとり、「性のあり方」は違うはずです。例えば私は、ひとことで「異性愛者です」と言う人に、話を聞いたことがあるんですね。「なぜ異性愛者なんですか?」って尋ねてみると、答えはみんな違うんですよ。

  • 「子どもが欲しいから」
  • 「今のところ異性としか付き合ったことがないから」
  • 「なんかそういうものだと思うから」
  • 「今好きな人が異性だから」

……って。全員が細かく考えてみると、違う。それらが一つ一つ平等に尊重されるべきでしょう、ということで、今「SOGI」という言い方をしています。「SO」はセクシュアルオリエンテーション(Sexual Orientation)の略で、性的指向。同性愛・両性愛・異性愛・無性愛などのことですね。「GI」はジェンダーアイデンティティ(Gender Identity)の略で、性自認。女性・男性・中性・無性など、本人が自分の性別をなんだと思っているかということです。

「LGBT」という言い方だと、マイノリティの中でさらにそれ以外のマイノリティがそこからこぼれ落ちてしまう、それがさらにマイノリティになってしまうこともあり得ると思うんですが、「SOGI」という考え方なら異性愛者も同性愛者もとにかく全員が含まれるわけですよね。

そうですね。それぞれの性的指向がある、それぞれの性自認がある、それはみんな一緒だよね、ってことですね。

すべての性自認のあり方が「普通」であると……うーん、「普通」って難しいですね。みんなそれぞれ違うのに「普通」でくくるのは難しいですよね。

個人個人が違うのであって、「同性愛がクール」とか「異性愛が普通で生産的」とかの上下関係はない。平等、優劣がない、ってことですよね。私は「普通」という言葉はかぎかっこ付きで使ったりします。

LGBTの人々の悩む時間をもっと別のことに使えるような「ショートカット」を作りたい

これまでの牧村さんの人生で、つらかったこと、苦しかったことはきっと多かったと思うのですが、印象的なことを教えていただいてもいいでしょうか。

いろんなことがありましたけど、印象的だったエピソードは、「『普通』に苦しめられたはずの人が、『普通』を強いようとした姿」ですね。

どういうことがあったかというと……レズビアンバーみたいなお店に行ったときに、「レズビアンだったら普通はフェミニズムくらいわかってるでしょ? レズビアンだったらフェミニストでしょ?」というようなことをおっしゃる年配のレズビアンの方にお会いしたことがあって。そこで「普通とは何?」って思いました。

f:id:blog-media:20170124185657j:plain

もちろん私はフェミニストが嫌いなわけではないんです。今までフェミニストの方々が、男女問わずあんなに闘ってくださったからこそ、私は今こうやってメディアに顔を出してものを言えているわけですし、「女性のことが好きです」と言っても殺されないし、働けているし、感謝しています。

ありがたいことなんですが、私は25~26歳になるまで「フェミニスト」「フェミニズム」という言葉を知らなかったんですよね。現代日本だと、ちゃんと勉強しようと思ってはじめて出会うような言葉なんじゃないかって。それは、本当にフェミニスト・フェミニズムが目指してきたものを、ある程度つかんだ証だなって私は思っています。女性であることで苦しんでいたなら、不自由であるなら、「フェミニズム」を知らずに生きていくことはできなかったはずなので。

今の社会で、女性が完全に自由になった、平等になったとは申し上げませんけれども、私が「知らずに生きてこられた」ということはフェミニストの活動における成功の証だと思っています。それと同じことが、LGBTについても起こればいいなって私は思っているんですよね。

確かに同じ状況ですね。

今本当に、「LGBTである自分」「性的マイノリティとしての苦しみ」について、同じ境遇の牧村さんならわかってくれますよね?というように言ってこられる方がとても多いなと感じています。でも、正直に申し上げてわからないです。その苦しみはその人の苦しみでしかないし。LGBTは本当にみんなそんなに苦しいの?本当に?ということになっちゃうし。

みんなが苦しいという見方になってしまうと、逆にLGBTの方々が人生を楽しんだり、パートナーと楽しく過ごしたりすることが罪みたいになってしまいますよね。

ハッピーな結婚生活を書いているレズビアンカップルの実録漫画について、Amazonで「これは苦しみがなくて嘘くさい!」という理由で低評価がついていたりとかしますね。

それはちょっと……。

やっぱり闘った人って、苦しみますよ。でも、「こんなに闘ったんだから、こんなに苦しんだから、その苦しみを知れ、お前も苦しいだろう、私のことを賞賛しろ」……みたいな50~60代に私はなりたくないです。

牧村さんが今後目指していることを教えていただけますか。

私は「自分が女性を好きなんだ」「自分が恋愛・性欲の対象にするのは女性なんだ」ということを自分自身で受け止めるまでに、12年かけています。でも、もし世の中がもう少しましだったなら、その12年を別のことに使えたわけですよね。そちらの方がとても生産的ですよね。ですから、そういう時間をもっと別のことに使える世の中を次世代に残したいと思って、文章を書いています。

人の生産性を奪っているって考えると、本当に……。

まじで! 本当に! まじで!(力強く) LGBTとして生きていく覚悟をする、ということで悩んでいる方って本当にたくさんいらっしゃるので……。それがその人を強くしているんでしょうけど、もっと別のことに時間や労力を使えるようなショートカットを作りたいし、エレベーターやエスカレーター、高速道路を作りたい、と思います。

性的指向や性自認が「普通」とされている人は、そこを意識しないで済むし、悩む時間も比較すれば少ないですよね。LGBTの方々の場合は、そこで悩む時間が増えて、本来の生き方に近づくだけでも遠回りになってしまうと感じました。

そうなんですよね。私はショートカットの道を作って消えていく人になりたい。2016年の夏に、私はレインボーフラッグを作ったギルバート・ベイカーさんという方に会いにいったんですよ。

LGBTの象徴「レインボーフラッグ」はなぜ6色? - ウートピ
(牧村さんによるインタビュー記事)

レインボーフラッグを作った人ってあまり知られていないですよね。その方はレインボーフラッグに関する特許をとっていないんですよ。

f:id:blog-media:20170124185712j:plain

だからあれだけ世界中に広まったんですね。

そうそう。「虹は誰のものでもないから」って。「僕の名前は知られていないし、誰も僕の名前を呼ばないけれど、世界中であの旗がひらめいている。それでいいんだ僕は」っておっしゃっていて、「ああかっこいい!」って思いました。

牧村さんはTwitter(@makimuuuuuu)で、女性の生き方・働き方についても発信していらっしゃいます。今考えていることについてお聞かせください。

「女性のためのキャリアアップ講座」ってよくありますよね。同じように「LGBT就活セミナー」というイベントもあります。「それが必要とされるということは、どういうことなの?」ということを忘れずにいたいなと思っています。LGBT枠での採用とか、女性管理職の割合を◯%にしないといけないのであなたを管理職にします!とか、「その人だから」ではなくて、「LGBTだから」「女性だから」そこにいるということになっちゃうわけじゃないですか。応急処置として、対症療法としては必要だけど、根治はしない。困っている人をみんな底上げしていく方向性になるともっといいかなって思っていますね。

枠があるから何人入れなきゃ、みたいなことだと本末転倒ですよね。

アメリカ・ロサンゼルスにあるLGBTの青年向けホームレスセンターを見学に行ったことがありました。そこでもいろいろ考えましたね。そもそも青年層のホームレスがたくさんいるロサンゼルスで、入り口にレインボーフラッグがはためいていて、LGBTでないと入れない。そこで資格をとって就職していくわけですけど、壁にはLGBT枠の求人票がばーっとはってある。「うーん、対症療法だな……」と思いながら見ていました。

「LGBTであることを理由に親から捨てられ、路上で生きていくしか手段がなくなること」「LGBTホームレスセンターを経てLGBT枠で採用される人生の選択肢しか選べなくなってしまうこと」を根治すべきなのであって、これは対症療法なのだ、ということは意識していく必要があるなと思います。

先ほどおっしゃった「ショートカットする道を作りたい」というのが、牧村さんが具体的に取り組まれる方向性なのだなと、お話を聞いていて感じました。

今、日本企業でも結構簡単に「我が社もダイバーシティでーす」「我が社のLGBT社員でーす」みたいな紹介の仕方で、ダイバーシティPRのための客寄せパンダのように社員を扱うところが見受けられますけど……本人が良いならもちろん良いのですけど、それが生み出すものは何なのか、と考えています。途中まで「レズビアンライフサポーター」なんて名乗っていた私が言うのもなんですが。でもこの肩書きはやめてます! 2~3年後には、もっと違うことを言っているかもしれないですけどね(笑)。社会も変わるし、自分も変わるし。あんまり頑なにならないようにしようと思ってます。

ありがとうございました!

f:id:blog-media:20170124185700j:plain

お話を伺った人:牧村朝子(まきむら あさこ)

牧村朝子

タレント、文筆家。株式会社オフィス彩所属。2010年度ミス日本ファイナリスト選出をきっかけに、杉本彩の芸能事務所「オフィス彩」に所属。2013年、フランスでの同性婚法制化とともに、かねてより婚約していたフランス人女性と結婚。現在は東京を拠点とし、各種媒体への執筆・出演を続けている。夢は「幸せそうな女の子カップルに“レズビアンって何?”って言われること」。著書『百合のリアル』(星海社新書)ほか、マンガ監修『同居人の美少女がレズビアンだった件』(イースト・プレス)。Twitterは@makimuuuuuu

文・万井綾子/写真・赤司聡

*1:在フランス日本国大使館のサイト「PACS(連帯市民協約)に関して」より