これまで『りっすん』でトピックとなってきた女性が直面するさまざまな問題に、サイボウズではどう向き合っているのか、お話を伺いました。
愚痴に終わらせず、社員が自立して、働き方を自分で選ぶ
青野 実は、女性社員を増やそうときちんと思っていたわけではないんです。僕は別に、働いて成果を出してくれるなら、男性でも女性でも、犬でも猫でも宇宙人でも、全くこだわらないんですが、結果的に女性が増えましたね。
青野 ここ2年ほど、新卒採用でも女性が増えました。人手不足ということもありますし、大企業はフルタイムでたくさん働ける男性が大好きですから、男性がそちらに流れているということもあるかもしれません。僕はあんまり、男性をどうしようとか女性をどうしようとか分けて考えていません。
青野 いろいろな人がいるので、一人ひとりに合わせた働き方ができるようにしようとしてきました。例えば子育て中のお母さんは時間の制約がかなりきついので、「じゃあそこをなんとかできない?」と工夫するという感じです。
青野 そうですね。サイボウズでもすべての制度がきちんと整っているわけではないんです。社員の希望ベースで制度を作っていて、しかもそれを義務化してるんですよ。
青野 「足りないものがあったら自分から言え、それを愚痴ってはいけない」という、非常に厳しいルールがあります。僕が社員に課していることは数少ないんですが、そのひとつが「自立」です。自分で働きたい働き方を自分自身で選びなさいと。
青野 いえ、それはそれでいるんです。特に若い人によくありがちなのが、出産後に「とにかく以前のようにがつがつ働きたい!」と頑張ってしまうことですね。そうはいっても制限は増えてくるわけだから、本当はある程度そこはあきらめて、折り合いをつけながら進まないといけないですよね。でも仕事も育児もどっちも全く離さないという感じになると、そのうちぱちーんと(糸が切れたように)なっちゃうので。そういうことはこれまで何度かあったので、気をつけてフォローしていますね。
青野 そうなんです。男性にはときどき長時間労働でそのパターンがあります。健康を害しているのにまだまだ働こうとする、それが快感になっているみたいな。それは自立できていないということなので、「目を覚ませ!」って言わなければならない。僕は人のこと全然言えないんですけど(笑)。
“浦島太郎”状態をなくし、2つの職種を経験させる――育休から復職への工夫
青野 苦労してないというわけでもないんですが、だいぶノウハウが溜まってきました。それでも2つくらい難しいところがあるので、そこは工夫しています。
ひとつは、“浦島太郎”みたいな状況ですね。自分がいない間にずいぶん会社が変わってしまって、疎外感みたいなものが生まれてしまう。これは単純に「情報共有をどんどん進める」ことで対応しています。情報共有をして、情報の差を埋める。Facebookでつながっていると、久しぶりに会った友達でも久しぶりじゃない、みたいな感覚がありますよね。あの感覚を作り出せばいいという意味で、休職中の人が入るグループウェアを用意して、人事が「こんな人が入社しました」「イベントがありました」と社内の情報を流しています。また、社員の家族が参加できるイベントを年に何回か開催するので、子連れで来て!と呼び掛けもします。
青野 もうひとつは、復職時のポジションについて。休暇を取得している間、誰かがその人の仕事をやっているわけですが、復職するときにそのポジションに戻すのが難しいというケースがあります。仕事の幅が広く、多い職種の場合は全然問題がないのですが、「少人数で会社に必要な業務」の場合は、戻ってきてすぐ代わりの人と交代するというわけにはいかない。なので今は、一度職を離れることがわかっている人には、あらかじめ2つ以上の職種を経験しておいてもらおうとしています。そうすると復職するときに少なくとも2つの仕事から選べて、幅が広がります。
青野 そういう場合も確かにあります。別の職種を1回経験しておいてもらえると幅ができるということについては、人事の方で意識的にウォッチしながら進めています。こういうことが意外と大事ですね。
青野 そこはグループウェアのおかげでできていると思います。僕たちはグループウェアで働いているんです。
部下の観察やフォローはマネジメントの役割で、上司がよく観察するようにしています。リアルのオフィスでは10人の部下を同時に見るのは難しいんですが、グループウェアであればみんなの成果がどんどん報告されて、みんなが会話している。たまに変な時間に書き込みがあるんですよ。それを見つけて「何やってんの、寝ろ!」なんて言ったり、反応がないときに「大丈夫か?」と聞いたら体調を崩していたことがわかったり。僕たちはリアルではカバーできないところを、グループウェアという“バーチャルオフィス”のような場所で、なるべく多くの人について把握しようとしていますね。
青野 そうなんです。一人ひとりの情報をグループウェアの「kintone」でちゃんとデータベース化して持っているのも、サイボウズの面白いところだと思います。経歴も、面談記録も、全部残していて、相当な情報量があるんですよ。だから誰かの上司が替わっても、その人が今までどんな上司とどんな仕事をして、どんな良い面を持っているかが全部引き継がれる。僕はそこが一番大事だと思っています。異動の検討についてもそれを見ながら上司同士で話すんです。本人のキャリアの希望もこまめに見ていますね。
女性が活躍してはいても、遠慮がないかどうか「疑う」
青野 そういえば、広報の江原がサイボウズの復職ブランク記録を更新しまして。これまでは産休・育休合わせて4年8ヶ月が最長だったんですが、江原は16年のブランクから復帰だったんですよ。すごくないですか?
青野 もともとはサイボウズではなく別の企業に勤めていて、子育てで仕事からずっと離れていたんです。何月に入社したんでしたっけ?
同席していた広報担当の江原さん(以下、江原) 今年の9月です。会社を一度退職して、16年間主婦業をしていて、新たにサイボウズに入社しました。
青野 ブランクがある優秀な女性が、世の中にめっちゃ埋もれているんですよね。変な話なんですけど、なかなかそういう人を企業が採用しないんですよ。採用した経験も、採用して活躍させる場所も、仕組みもないので。本当にもったいないですね。
青野 そうなんです。今、再就職を希望しているけれどブランクのある方を支援する「キャリアママインターン」というプログラムを実施しています。就労ブランクがあるとどうしても再就職に対して自信が持ちづらいですよね。そういう方に、インターンシップを1ヶ月体験してもらっています。
江原 いろいろな面でハードルがあったのですが、1ヶ月インターンシップで働いてみて、「意外とできるかも、大丈夫かも」と思えるきっかけになりました。
青野 さすがに16年空いたら大変ですよねぇ。
江原 はい、そうなんです。
青野 お子さんにとっても、家にお母さんがいるのがずっと当たり前の状況だったでしょうし。
青野 うーん、どうでしょうね……。ないと思いたいんですけど、僕は「ちょっと遠慮しているところがあるんじゃないか」と疑ってもいるんです。
青野 僕たちの心の中で、互いに遠慮していたりしないか、ということです。
青野 サイボウズには中根弓佳*1という女性がいて、彼女は30代で東証一部上場企業の執行役員になり、今年の3月まで子供の保育園の送り迎えをして、17時半に退社……なんていうことをしていましたから、「サイボウズにはマミートラックがない」と見えるかもしれません。でも中根以外で、管理職で活躍している「お母さん」がいるかというと、数は少ないですね。まだまだこれからかなと思っています。
青野 いや、考えたことないですね。中根が男性か女性か考えたことない(笑)。もともと中根は管理部門にいて、どんどん成長してきて、「よし、任せる範囲を増やそうぜ」と増やしていたらこうなっただけですね。
他の人に対してもどんどんステップアップすることを期待していますけど、まだ数は足りないですね……。自分の中では全然男女の区別をしていないつもりなんですが、数として少ないところを見ると、やっぱり何かあるのかもしれないなと疑っていきたいです。
男性も女性も「全部シャッフルしてしまえば気にならなくなる」
青野 「普通にどう働くか」、めっちゃ大事ですよね。「輝く」とか言い出すなってことですよね。「女性が輝く」という言い方って、すごく男性目線じゃないですか。普通に働けばそれでいいじゃん、なんだ輝くって、って思います。
青野 ありえないですよね。「はあ?」ですよね。
青野 切り口はいろいろありますが、経営者としての視点でいえば、フルタイムでがんがん働いて残業をよしとするような人ばかりを集めて戦うやり方は古いし、既に勝ててないですよね。これから会社が本当に強くなるには、多様な人が多様に働けるようにした方がいいと考えます。たくさんの人に協力してもらえるし、みんな気持ちよく仕事にコミットしてくれるし、良いことがいっぱいありますよ、というのが思うところですね。
青野 「多様な働き方が良い」というのは理想としては既にあって、なんとなくみんな頭では理解しているんですけど、そこに行けない理由にはマインドの問題があると思います。「女のくせに」「男のくせに」のような古い価値観にとらわれている。「そうはいっても男性は一家の大黒柱じゃないといけないでしょう」とか、女性側も「男性なんだから働け」とか、そういう考え方をどんどん外していかないといけないですよね。
青野 言われましたね。別の先輩経営者から「社員にはいいけれど、社長がやるべきではないんじゃないか?」なんて。
あと、育休期間中の平日に子供を連れて、子育てのための施設に行ってみたら、男性がひとりもいなくて、ママさんばかりで全く溶け込めず、打ちひしがれて「二度と行くか!」と思ったこともあります。これは男性にとっては相当きついな、と体感することは多くありました。男性を家庭進出から遠ざけている理由もやっぱりいっぱいあるんですよね。
青野 そうですね、両輪ですね。全部シャッフルして、訳がわからないようにしてしまったら、みんな気にしなくなると思うんです。
サイボウズではだんだんそうなってきています。昼ぐらいに出社する人がいても全然違和感ないし、昼過ぎにさっさと帰る人がいてもあんまり気にしないし、来る人がいても来ない人がいても、男性がいても女性がいても外国人がいてもあんまり気にならない。がしゃがしゃになってしまえば、みんな違って当たり前でしょ、みたいに思えるんですが、微妙にカテゴライズされていると、そこから外れた人が目立ってしまいがちです。百人百通りなのでカテゴライズしないよう気をつけています。
青野 政策提言としてとてもシンプルにひとつ持っているのは、「パパ・クォータ制」*2です。公的な産休・育休の制度はありますが、男性に対してはあまり強制力がないんですよね。となると、利用する男性は増えない。ところが、北欧の国だと、男性が育休を一定期間取りなさい、と義務付けている制度があるんですよ。男性が取得しなければ休暇を短くしちゃう。ある意味強引に、パパに育児参加させるきっかけになりますよね。
僕は日本でもそれをやっていい、ちょっと強制力を効かせるのが大事だと思っているんです。育休を取得したことがない男性の方が多いから、取得への心理的ハードルが高く、女性の視点でも「そういうパパがいて当たり前」と思えない状態が続いているんですが、少なくとも「父親も一定期間育休を取るのが当たり前」みたいにすれば、価値観が変わるきっかけになるでしょう。
お話を伺った人:青野慶久(あおの よしひさ)
1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。また2011年から事業のクラウド化を進め、有料契約社は13,000社を超える。 総務省ワークスタイル変革プロジェクトの外部アドバイザーやCSAJ(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)の副会長を務める。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)がある。
文・万井綾子/写真・赤司聡