「興味がない仕事」を楽しむことはできる? 汚部屋住みだった私が家具と出会い、人生が変わった話

文・写真 mashley

青いソファと椅子

働く中で「なんとなく就職したせいで、今の仕事が楽しめない・興味が持てない」と感じる一方、仕事を通じてやりたいこと、実現したいことが明確にあるわけでもない、というケースは少なくないはずです。でも、せっかくなら自分なりに楽しい一面を見つけて働けた方が、日々の充実や将来のキャリアにもつながるはず。ただ、その「面白さ」を見つけるにはどうすればいいのでしょうか。

現在は家具コンシェルジュとして、家具やインテリアにまつわる記事を執筆しているmashleyさんも、もともと家具にはまったく興味がなかったそう。しかし、ある家具店で「新しい価値観に出会う」面白さを知り、就職。そして働くうちに家具の魅力にのめり込み、人生にも大きな変化があったといいます。

今回はmashleyさんに、もともと興味がなかった仕事のどんなところに面白さを見出したのかや、目の前の仕事が楽しめないと思ったときに意識しておきたいことなどをつづっていただきました。

自分にとっての「働くこと」をあらためて見つめるようになった教員時代

私はこれまでいろいろな仕事をしてきた。

ある時期は高校の英語教員をしていた。生徒たちから学ぶことが多く、彼・彼女らと一緒に成長していける、やりがいのある仕事だった。

ただ私が働いていた高校では、朝は6時に出勤し帰りは午前様なんてことはしょっちゅう。早く帰れたとしても、家で授業の用意に追われる。生徒にとって貴重な授業の1時間を意味のある楽しい時間にしたかったので、妥協はできなかった。さらに部活動が忙しい時は、1カ月休みがないこともあった。

真面目にやるほど追い詰められ、忙しさを理由に1カ月以上家の中を掃除しないなんてザラ。職員室の机の上だけは生徒たちの手前、常に整頓していた状況で、なんとも滑稽だった。

「生徒のため」と自分に呪いをかけながら自分をだまし続ける毎日。そんな日々に限界を感じるたびに、ふと思い出すのが大学卒業後オーストラリアで働いた時の出来事だった。

オーストラリアの様子

そこではいろんな人に出会った。週末の楽しみのために働く会社員、各地を移動しながら働くマッサージ師、夜はバーテンダーになる語学学校の先生。いろんな生き方や働き方があり、考え方は違うけど、多くの人が生き生きしており、自分のことを大事にしていた。

やりがいとか社会の役に立つとか、確かに大事ではあるけれど、それ以上に自分の健康や幸せを考えることも大事なんじゃないか。そのためには、自分がどうなりたいかを真剣に考えた方がいいんじゃないか。オーストラリアでの出来事を思い出しながら、そんなことを考えるようになった。

ちょうどその時、夫の転職に伴い他県へ引っ越すことになる。自分の働き方も見直す機会だと思い、別の職へチャレンジしてみることにした。

家具屋の仕事での「椅子」との出会いが、私の価値観を大きく変えた

職を探していた時に、家具屋の求人が目に入った。どうやら家具を売るだけでなく、直したり運んだりの作業もするらしい。しかも、自分が今まで見たことのない海外の古い家具を扱っているとか。全く未知の世界だけど、応募前に一度お店に行ってみることにした。

そこに並べられていた家具のタグを見て驚く。「椅子が10万円? こんな古いのに?」「こっちの座り方不明な椅子が30万円?!」「なんでほこりを被ったタンスが自分の昔の給料より高いのだろう……」それまで「家具=ただの道具」と思っており、安い家具ばかり使ってきた私にとっては意味不明だった。

でも、お店の人がデザイナーやその家具の価値について詳しく話してくれた。どうしてこんなにシンプルなのに使いやすいのか、どうやってこの形が作れられるのか、なぜ古いのにこの値段なのか。全く考えたことのない価値観に触れ、まるで外国の未開の土地に来たかのような気持ちになり、私の頭の中は好奇心でいっぱいになってしまった。

その日から突然家具の虜(とりこ)になった私は、インテリアの本を読みあさり、いろんな家具屋に通うようになる。そして、数週間後には最初に訪れたお店で従業員として働いていた。

仕事は楽しくて難しくて面白くて、毎日ワクワクしていた。

壁際の椅子

中でも私の興味を引いたのは「椅子」だった。

人に一番近い家具であり、選び方によっては健康をも大きく左右する椅子。スタンダードな形からどうやって座るか分からないものまで多種多様。素材も形も用途も全く違い、作り手の個性が反映される椅子は、多くのデザイナーや建築家が自分の名を冠したものを作りたがる。椅子について知るうちに、こんなに面白いものはあるだろうかと感じるようになった。

椅子の魅力にすっかりハマり、休みの日は他の家具屋に行って試座したり、椅子の本を買いあさったりした。チャールズ・イームズ、ヴェルナー・パントン、ハンス・J・ウェグナー、アルネ・ヤコブセン、エーロ・アールニオ、フィン・ユール、柳宗理、剣持勇……アメリカミッドセンチュリーの家具に、北欧ヴィンテージ家具、それらに影響を及ぼしつつさらに影響を受けた日本のデザイン。椅子のデザイナーやその背景にある出来事を知ると、さらに椅子が好きになった。

インテリア雑誌たち

そして、実際に椅子を集め始めた。リサイクルショップに行き、古いヴィンテージのボロボロな椅子を見つけては連れて帰り、家でピカピカにリペアして使えるようにする。さっきまでサビでボロボロだった椅子が研磨や塗装で見違えていく瞬間はたまらない。気が付くと、家にある椅子は20脚を超えていた。そんな毎日が楽しかった。

でも、何事もスムーズにはいかないものだ。仕事中にけがをして好きな仕事を辞めざるを得なくなった。

その時ちょうど家を建てていたので、しばらくは短期の仕事をしながら、家作りに集中することにした。少しずつ集めた椅子たちが、ベストな状態で輝く家だ。

家具屋で働いていた時、椅子そのものだけでなくインテリアの魅せ方についても学んだ。どうしたら心地いい空間が作れるのか、どうやったら色のバランスがよくなるのか。学んだことを生かして、各部屋を椅子に合わせてコーディネートした椅子のための家ができた。

丸テーブルと椅子

リビングダイニングは北欧とミッドセンチュリーをミックスしたテイスト、バスルームはモノトーンなホテルライクテイスト、キッチンはインダストリアルテイストといったように、全ての部屋を椅子に合わせて全く違うテイストにコーディネートした、椅子の家。狭い賃貸にぎゅうぎゅうに閉じ込められていた椅子たちが、一気に息を吹き返した。

椅子との出会いをきっかけに気付いた「自分に合った働き方」

家を作る少し前には家作りブログを始めた。最初は単なる記録のつもりで始めたブログも、デザインの話や家具の話をしているうちに、たくさんの人に読んでもらえるようになった。雑誌やいろんな媒体に掲載されるようになり、執筆依頼も来るようになった。さらにインテリアの資格も取った。

家族や友人は私の変貌ぶりに驚いたようだ。なぜなら、実家にいた時も一人暮らししていた時も家具には無頓着で、床に物が散乱して足の踏み場もないような汚部屋で暮らしていたからだ。そんな私が「床に物を置かない方法」とか「狭い部屋を有効活用する方法」とか話すのだから、人生とは不思議なものだ。昔の自分が知ったら絶対に信じないだろう。

その後、他の仕事に就くも持病の悪化で辞めざるを得なくなり、今はWebライターとして複数のペンネームで記事を書いている。インテリアや家具などのライフスタイル、マーケティング、教育といったこれまで関わってきたさまざまな分野について。

作業机と椅子

病気で仕事を辞めて在宅仕事になったが、諦めモードかというと全くそんなことはない。むしろ今の働き方は自分に合っていると感じている。

確かに、安定感や安心感では教師や家具屋をしていた時の方がずっといい。仕事が取れるかどうかの不安もあるし、毎月どのくらいの収入になるかは己の裁量次第だ。だけど、今の方が自分がやりたいことがはっきりしているし、家族や自分の時間を持てるようになった。

少なくとも、生徒たちのためだと自分に言い聞かせてごまかしながら過ごし、段々おかしくなっていったあの頃よりは、気分も体もずっと安定していると言える。しかも24時間、好きな24脚の椅子に囲まれながら仕事ができるのだから、最高以外の何ものでもない。

椅子の魅力を知ったことをきっかけに、私は大きく変わったのだった。

仕事や生き方に疑問を持ったら、わざと違う価値観に会いにいく

椅子の面白さや奥深さを知り、それをきっかけに価値観が変わっていったことは、働き方だけでなく仕事に対する考え方にも影響を与えた。

黒い椅子

昔の自分のままだったら、今の現状を悲観しあるいはただ諦めていたかもしれない。持病が悪化して目が見えなくなったらどうしようとか、もうダメだとか、しょうがないとか。

でも今の私は、そんなときは異なる価値観に触れ、見方を変えることが問題の解決につながるかもしれないと考えるようになった。

仕事がうまくいかない状況になり、この仕事は自分に本当に合っているのかと悩んだら、まずは見方を変えるために、意図的に異なる価値観に触れるようにしている。かつて、椅子をきっかけに価値観が変わっていった時と同じ方法で。

関連することを深く調べる中で、思いも寄らないアイデアに出会うことがある。全く違う職業のブロガーさんの記事を読んだり、遠出して異なる土地で生活する人の暮らしを見に行ったりすることで、自分にはなかった視点にハッとさせられる。

異国の価値観に触れる

今悩みや不安が全くないかというと、そんなことはない。ただ、わざと異なる価値観に触れる状況を作るようにしたことで、これまで知らなかった面白さに気付く機会が増えた。すると袋小路に立ち止まる時間が減り、具体的な策を考えて行動できるようになった。

考えや知識をアップデートすることは、成長のチャンスにつながると思う。今の私は在宅ワーカーになっても昔よりアクティブだし、持病以外は心も体も昔よりずっと健康的だ。

今の仕事を楽しむために、角度を変えて向き合ってみる

「数年後あなたはどうなっていると思いますか」

面接や真剣な話でよく出てくる、こんな質問がある。

かつての私は、こんな質問をされるたび苦痛で逃げたいと感じていた。どうなっていたいかなんてその時の社会の状況や自分が置かれた状況で変わるのに、数年後の未来なんて分かるはずもないと思うのだ。

今でもこの質問を聞くと「そんなもん分からない」と感じる。しかし同時に、未来のことは分からなくても「今自分がどうしたいか」を具体的に考えて行動すればいいのだと、思えるようになった。

まだまだ今の自分は発展途上だし、これからの不安もあるし、足りないことや変えたいことはたくさんある。でも「迷ったらアプローチを変えてみる」という方法を知ってからは、もうただなんとなく悩み続けるということはなくなった。未来のことは分からないからこそ、今の目の前にあることを大事にしたいし、楽しみたい。

もちろん状況によっては、その仕事から離れた方がいい場合もあると思う。ただ、もし大きな不満はないものの、今の仕事を楽しめないままなんとなく続けているのなら、少し角度を変えて向き合ってみると、興味を持てる部分や、意外な発見があるかもしれない。自分が面白がれる部分を見つけられれば、きっと毎日は楽しくなるだろう。新しい世界を見ることは、自分の価値観さえも変えるきっかけをくれることがある。

自分のことを知るきっかけを作ってくれた椅子に囲まれながら、今日も私は言葉を紡ぐ。どこかで私の思いを読んでくれた誰かが、椅子のことや自分自身の暮らしをもっと好きになってくれたらいいなと思いながら。

青いソファと白い椅子

著者:mashley

mashley

インテリア好きの椅子マニアです。好きなテイストはミッドセンチュリーモダンと北欧テイストのミックススタイル。ブログではインテリアのコーディネートのコツやDIY、家具のリペア、小屋づくり、収納や掃除など暮らしのアイデアについて書いています。旅行も大好きで国内外色々まわっています。

ブログ:北欧ミッドセンチュリーの家づくり

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編集/はてな編集部