はたらく女性の深呼吸マガジン

イーアイデム

「好き」を本業にしなくても、人生は楽しい 肩書きを分散させてゆるふわと働く

 ひらりさ

「仕事」について書くことを頼まれたときに、私、ひらりさの仕事を一体どう紹介していいのか、いまいちよく分からない。

「渋谷にあるIT系ベンチャー企業で働いています」

「編集・ライターをしています」

「先日『浪費図鑑』という本を出した、同人サークル『劇団雌猫』のメンバーです」

全部が全部、私だ。「毎日寝て暮らしたい」と思っていたのに、気がつけば肩書きは3つになっていた。そして、この3つはお互いに多少は関係しつつも独立したものであると私は思っている。

東日本大震災が、進路転換のきっかけだった

なぜ、肩書きが3つになったのか。それは本当に「成り行きで……」としか言いようがない。

まず、最も大きな収入源であり、本業といえるのが会社員業。

2度転職して今が3社目だが、一貫してIT系ベンチャー企業で働いている。別に大学時代から「やっぱ時代はIT系ベンチャーだぜ」と思っていたわけではなく、本当は弁護士になろうとしていた。

けれど、2011年3月に発生した東日本大震災を機に「明日死ぬかもしれないのに、数年先を見据えて黙々と勉強し続けるのは無理だ!!!」と自分の中で何かが臨界点に達し、弁護士の他に興味があった出版・マスコミ業界に舵を切って、Webメディアの立ち上げ準備をしていたベンチャー企業に社員1号として入社した。

その後、社員は増えていったが、周囲は社会人経験のある中途入社の先輩ばかりで、入社1〜2年くらいは本当に怒られ通しだった。「新卒 1年経っても 怒られる」とかでググっては、Yahoo!知恵袋に同様のお悩み相談が寄せられているのを見て「私だけじゃない……よかった……」と安心していた。

それでもベンチャー企業で働くのは結構性に合っていたようで、その後もベンチャー畑を突き進んでいる。

次に、フリーランスで請け負っている編集・ライター業。

こちらは、新卒1社目でWebメディアの編集をしていた縁から声を掛けてもらえるようになった。徐々に新しい媒体からの依頼も増えていき、今でも継続している。自分がインタビューしたいマンガ家さんを媒体に提案してWebに載せてもらったり、媒体から依頼を受けてまとめた企画が紙の雑誌に載ったりと、月に2〜3案件のペースで進行中だ。これまでやってきた仕事内容についてはサイトでまとめている。

最後に劇団雌猫。

「なんなんだよそれは」となる方も多いと思うが、こちらは2016年に友人たちとノリで始めた同人サークルだ。知人たちに声を掛けて「浪費」に関するエピソードを寄稿してもらった同人誌『悪友』がおかげさまで好評となり、後に『浪費図鑑 ―悪友たちのないしょ話―』(小学館)として書籍化。いろいろなインタビューや企画の依頼も舞い込むようになった。

同人サークルとしての活動(冬コミ、12月31日に出ます!)にとどまらず、メンバーでわいわいと新しい企画を仕込んでいる。現在の私の生活では重要な活動の一つになっていて、LINEグループ上で毎週のように定期ミーティングも行っている。

blog.hatenablog.com

それぞれについてざっと説明してみたが、完全に成り行きゆえの3足のわらじなのがお分かりいただけただろうか。自分でも自分のことが結構不安だ。

しかしインターネットだとヘラヘラして見えるのか、あるいは「IT」「ベンチャー」「ライター」といった言葉によってキラキラ補正がかかるのか、「ひらりささんのように好きなことを仕事にしたい」「やりたいことを仕事にしていてうらやましい」といった悩みや感想を寄せられることも少なくない。たしかにそう見えるかもしれないが、どうしてもやりたいものや好きなことを頑張って引き寄せたのかというと、ちょっと違うなあと思う。

本当にやりたかったのは「BLの編集」


3足のわらじとはいえ、旅行を楽しむ時間もある。こちらは、毎年訪れている台湾・台北での1枚

前述の通り、私は弁護士になろうと考えていた。法科大学院への入学を予定していたのだが、大学の卒業間際に考え直し、出版業界を目指すことになる。就職留年の危機に見舞われながらも進路を変えた理由は、「ボーイズラブ(BL)小説の編集者」になりたかったからだ。当時の私はとにかく大量にBLを読み込んでいたし、毎日BLのことを考えて暮らしたいと本気で考えていた。

けれど、実際に就職したWebメディアは、20〜30代の男性ビジネスマンがメインターゲットのビジネス・カルチャー媒体。ビジネスの「B」とボーイズラブの「B」は限りなく同一だと私は思っているが、かといって新卒未経験のペーペーが「BL小説載せたいです!」というわけにもいかない。「編集」という職種は願望と一致していたが、ずばりぴったり好きな分野かというと全然違った。

それでフラストレーションが溜まったか? というと、そんなことはなかった。

むしろ思い入れの強すぎない分野に携わる方が、客観的な視点や新鮮な視点を持つことができた。それまで自分の興味関心外だった分野のことも知ることができ、結果的によかったかも……と感じられたのだ。仕事に慣れてきてからは自分の趣味に寄せた記事も担当したが、それも本分としてはビジネス・カルチャー系の媒体だという認識だからこそ、新しい切り口でやれたという気がしている。

周囲にはBLやアニメ、マンガが私以上に好きで、実際にBL編集部やアニメ業界で働いている知り合いなどもたくさんいる。それはそれで毎日楽しそうなのだが、私の場合は、好きなことそのものを仕事にしない方が性に合っていたと今は確信している。だって、仕事ってやっぱり仕事なのだ。

ある人気作品においてトラブルが起き、それが世間で話題になったとき、「もう素直な気持ちであのアニメを見ることはできない……」と悲しむファンを何人も見た。非常に痛ましい話だと思ったものの、この件について感情のままにあれこれとネットで発言できるのは、仕事としてその作品に携わっていないからこその特権ともいえるだろう。もし自分の業界でそのようなトラブルが起きたなら、感情を飲み込んだ状態で仕事をし続けなければならない。

もちろん飲み込む覚悟をもって「好き」と心中する人も尊敬しているけれど、私は自分の「好き」に対して吐き出せるファンとしての権利を大切にしたいし、「好き」だからと過重労働に身を置いている人を見ていると、まるで「好き」を人質に取られているようだ……と心配にもなる。

その「仕事」におけるスタンダードが自分にとって適切かどうかを見極める上では、その業界を「好き」すぎない方がいいとも感じる。実際に私は、嫌な仕事をやっている人よりも、「好き」を仕事にしたために頑張りすぎて体調を崩した人を多く目にしてきた。

「天職」につく必要は、全然ない

では、仕事に「好き」はまったく必要ないかというと、そうではない。「仕事は純粋にお金のため」「趣味で浪費するために仕事をしているだけ」と割り切れる人はともかく、仕事に関わるジャンルや業務内容に対して、ある程度の興味を持てる方が絶対にパフォーマンスはよくなるだろう。

ただ、仕事を選ぶときに「好き」を一番の判断基準にする必要もない。自分の趣味嗜好とスキルにぴったり合う「天職」を探すのではなく、「私に向いている仕事は他にもいろいろあるかもしれないけれど、とりあえず今はこれをやってみよう」くらいのマインドの方が、人生はうまくいくんじゃないかと思う。

アニメのクールが変わればジャンルを乗り換えるオタクがいるように、「好き」って結構細かく変わるし。

そして、私が現在3足のわらじを履いているのは、ファンとしていろいろと吐き出せる距離感を保ちつつ「好き」に関わろうとした結果である。

「会社員業>>>>編集・ライター=劇団雌猫」くらいのバランス感で3つの“仕事”をこなしているわけだが、後者の2つについては、「楽しくやれる」範囲を心掛けている。何か1つのものに打ち込んでいる人から見れば、私がやっていることは「仕事」ではなく「趣味」の範疇(はんちゅう)とすらいえるかもしれない。自分としても完全に「仕事」かというと、たしかに「半分仕事・半分趣味」みたいなところがある。

とはいえ、SNSが発達した時代に生きているおかげで、こうして中途半端に見える人間にも仕事を持ち掛けてくれる人がいるので、楽しくお金を稼げている。「好き」を仕事にしたいと思うなら、まずは「好き」を趣味として盛り上げていき、人の目に留まるのを待つというのも、一つの手なのではないかと思う。

「明日死ぬとしても、今これをやっていていいの?」を自分に問い掛けて

……と、とっても偉そうに言ってみたが、3足のわらじ生活はまだまだ試行錯誤の途上だ。スケジューリングにはかなり気をつけ、休息も重要なタスクとして組み込むようにしているが、それでも体調を崩してしまうことはあるし、精神的にいっぱいいっぱいになって、ワーッと他人に愚痴ってしまうこともある。まだまだ会社員として未熟な部分が多いのを3社目にして実感しており、ひとまずは本業でのスキルアップを第一にしている。

また、肩書きを3つに分散しているからこそ、1つで悩んでいるときに別の2つが息抜きとして機能することも多い。私にはパートナーも子供もいないけれど、その分、仕事と趣味とその結果の成果物が、大きな心の支えになっている。

現在、28歳。これから人生の優先事項がどう変わっていくかは分からない。それこそパートナーができたり子供ができたりすれば、3足のわらじを整理すべき日も来るだろう。逆にわらじが増えていき、個々の肩書きもなくなって、「何やってんのかよく分からない人」になる日も来るかもしれない。未来のことは分からないけれど、「明日死ぬとしても、今これをやっていていいの?」を基準に、これからもゆるふわと労働していきましょう。

著者:ひらりさid:zerokkuma1

ひらりさ

平成元年生まれ。酒とBLを主食とする腐女子にして、同人サークル「劇団雌猫」メンバー。
ブログ:It all depends on the liver.
Twitter:https://twitter.com/sarirahira

次回の更新は、12月27日(水)の予定です。

編集/はてな編集部