大学時代の経験から、美容関連の仕事を目指すように
栗田圭子さん(以下、栗田) そうです。地元(岐阜)の大学の工学部を出ています。ただ、私はあんまり研究者志向というわけではなく、なんていうか、夜な夜な飲み会に行っちゃうような生活を送っていて……。
栗田 そうです(笑)。もちろん、授業はちゃんと受けていたのですが、メイクやオシャレを頑張ったり、街へ繰り出したり、といったことをしているグループにいました。当時、小室ファミリーが流行っていて、安室奈美恵さんや華原朋美さんの真似をしていました。アムラー世代なんですよ。
栗田 高校のときは、ルーズソックスまでで我慢していたんです。厳しい進学校にいた反動で、大学デビューみたいなことになってしまって(笑)。でも、そのおかげでメイク道具に興味を持つようになり、女性をキレイにするものを扱う仕事に就きたい、と今の仕事に繋がっています。
栗田 それで、貝印の工場(カイ インダストリーズ株式会社)なら実家から通えるのもあって、入社試験を受けました。
栗田 そうです。東京に来たのはほんの3年前で。美容関連用品を希望して入社したものの、最初の配属は医療器具の研究職で、眼科用のメスをミリ単位で研究していました。そこから開発に異動して、美容関連用品からキッチン用品まであらゆる商品を担当してきました。
初めて担当した商品では、嬉しい反面 悔しい思いも
栗田 本来、開発というのは、東京にある商品企画部が立案したものに沿って実際に作っていくのですが、入社5年目くらいの頃、「開発の立場から美容関連用品の企画に関わったらいいんじゃない?」と言ってもらいまして。実は貝印の女性開発職って私が初めてで、それまで女性は一人もいなかったんです。それで、美容関連用品はほとんどが女性向けのものだから、開発の知識もある女性目線の意見がほしい、と。そう言ってもらえたことが、今の私の仕事のスタンスを確立するきっかけになったと、今でも本当に感謝しています。
栗田 まさにそうです。企画部がこういう商品を作りたいと言っても、量産するには技術的に難しい、なんてことも多々あります。私自身も決められたものの図面を描くより、アイディアを出すほうが好きなので、楽しんでやらせていただけました。
栗田 例えば、「おだんごヘルパー」は私が最初に企画から関わった商品です。当時、歌手の絢香さんがしていたおだんご頭が若い子の間で人気があったんですけど、おだんごってちゃんとやろうとすると結構難しいんですよね。それで、髪に巻き付けることでおだんごの形を崩れにくくするヘアアクセサリーを作りました。これ、面同士で付けたり剥がしたりできる素材(面ファスナー)でできているんですよ。髪にくっつくからおだんごを作ったときに安定するんです。
栗田さんが企画開発した「おだんごヘルパー」。パッケージも少しずつ変化している。
写真右側のものが旧パッケージで、写真左側のものが現行品のパッケージ
栗田 髪に巻くカーラーも面ファスナーでできているので、そこから着想を得ました。これはすごく売れて、確か発売前に来ていた注文の数が、当初想定していた数の10倍近かったと思います。
栗田 ただ、「面同士で付けたり剥がしたりできる素材をヘアアクセサリーに使う」というアイディア自体に権利はないので、その後、他社さんに似たような別の商品を色々出されてしまって、結構悔しい思いもしました。
東京への転勤は、プライベートの転機にも
栗田 はい、これには結構悩みました。それまでも企画部とのやり取りの関係で、週一くらいのペースで東京に来ていたものの、貝印の本社がある秋葉原と岐阜との往復しかしていなくて土地勘もないし、ひとりっ子なので親も渋っていて……。でも最終的には、とりあえず半年くらいやってみて、ダメなら辞めるか異動を申し出るかすればいいや、と腹をくくりました。
栗田 そうなんです。ただ、いずれにせよ岐阜の工場には何度も足を運ぶことになるので、週一で東京出張している生活が、週一で岐阜出張をする生活になるだけかな、と。それに、東京で働く同郷の人と知り合って、相談に乗ってもらっていたのも大きいかもしれません。のちに、夫になる人なのですが。
栗田 夫は大学で東京に出てきてそのまま東京で就職していて、知人の紹介で知り合いまして。偶然にも地元も出身高校も同じだったんです。私の転勤がきっかけで、翌年に結婚しました。結局こっちに家も建てて、すっかり東京が拠点になったのですが、やはり夫が同郷だと、生活のちょっとしたことにも違和感がなくて過ごしやすいです。
栗田 料理などの家事は私がほぼ全てやっていますね。
栗田 私、家事をすることはそんなに苦じゃないんですよね。平日仕事から帰ってきて家事をするのは確かに大変ではありますが、その分、時短商品のアイディアが浮かぶなど仕事面で視野が広がりましたし。今までは「多機能で便利」という発想ばかりだったのが、手間がかからないラクなものへの需要を身をもって実感しました。
栗田さんが企画開発に携わった商品の一部。時短を意識したアイテムも!
栗田 そもそも私、結構専業主婦志向が強かったんですよね。私の地元では結婚したら仕事を辞めるっていうのが当たり前で、私も結婚したら辞めるものだとずっと思っていましたし。
栗田 いえいえ、私も忙しかったりうまくいかなかったりで、イライラすることもありますよ。基本的に感情の起伏も激しいですし。でも、感情をなくしたら終わりだとも思っていて。感情があるからこそ食べ物や服やメイクに対する興味を持つわけで、感情のおかげで自分の意見を持てるんです。機嫌が悪いときなんかは眉間にシワが寄って負のオーラが出ているのですが、無理に取り繕って感情を消そうとしても余計にうまくいかなくなるだけなので。そういうときは、一晩思いっきり飲んだり、早く寝て忘れるようにしたり。感情を持つことは悪いことではないんだ、と自分に言い聞かせています(笑)。
キャリアに対する野望はあえて持たず、意気込まない
栗田 うーん……、まずお仕事についてですが、実はキャリアに対する野望とかは全然ないんです。私は貝印で初めての女性開発職ではありますが、下の世代にとってのモデルケースになりたい、と意気込んでいるわけでもなく。ただ、昔「この人じゃないと頼れない、代わりがいないと思われる存在になってほしい」と父に言われたのが印象に残っていて、この言葉だけはずっと意識して働いています。
栗田 目下考えなければならないのは子どもを産むかどうかについてですね。私は今36歳なので、そろそろ焦らなければいけないと思いつつもわりと楽観的です。幸い理解があり、頼れる上司ばかりなので、もし今後仕事と家庭との両立で悩んだとしてもなんとかなるかなと。それに、子どもはいきなり産まれるわけでもなく、約10ヶ月も考える猶予がありますしね。あまり先のことを考えて悩んでも疲れちゃいますから、考えすぎないようにしています。
取材・文/朝井麻由美
撮影/関口佳代
お話を伺った方:栗田圭子さん(貝印株式会社 商品本部 開発部)
2003年カイ インダストリーズ株式会社入社。医療用開発器具の研究職を経て、開発職に。美容関連用品、キッチン用品を担当し、2014年より貝印株式会社勤務に。仕事終わりに会社の先輩や同僚と飲みに行くことが、ストレス発散になっているのだそう。
編集/はてな編集部