「私だって働きたかったのに」と夫を責めず、笑ってキャリアを譲るには

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こんにちは、トイアンナです。専業主婦がスタンダードだった時代も今は昔、共働き家庭が過半数となりました。

I-2-9図 共働き等世帯数の推移 | 内閣府男女共同参画局

私の家も共働き夫婦で、家計は完全に折半しています。

とはいえ内閣が掲げる「一億総活躍社会」というにはまだ遠く、結婚や出産を機に女性の就業率がガクンと下がるのは相変わらず。実は、「25~44歳の女性の就業率」は1985年(昭和60年)から今までほぼ上昇傾向にあります。しかし、共働きでも早く帰れるように出世を諦める、正社員から派遣社員になるといった“キャリアダウン”を選ぶ人も多く見られます。

「平成27年版 働く女性の実情」を公表します |報道発表資料|厚生労働省
「M字カーブ」とは? - 『日本の人事部』

そうなったときに「いいよ、あなたの出世の方が大切だもの」と笑顔でキャリアを手放せる女性ばかりではありません。

同じスタートラインで就職したからこそ、笑顔でキャリアを譲れない

以前に比べ、就職活動で露骨に「女の子なんだから、結婚したら辞めてくれるよね?」と差別する企業は減りました。むしろ管理職比率を増やそうと、頭数だけでも女性の採用を促進する企業が増えています。

その一方で本格的に責任のある業務は30歳以降に任されることが多く、ちょうど女性が結婚や育児で休業する時期と重なります。出産後に復帰しても閑職に回されるなら……保育園が見つからないし……実家が遠くて支援は得られなさそうだから……と、キャリアコースを離れるきっかけはポジティブなものとは言いづらい。

むしろ仕事にやりがいを感じていた女性ほど「夫と同じように頑張ってきたのに、なんで私だけ辞めなきゃいけないの」と夫を責めたくなる気持ちも生まれます。

「自分にしかできないこと」が自信を与えてくれた

私が最初に勤めた会社は、栄養ドリンクのキャッチコピー「24時間戦えますか」を地で行く社風でした。勤務時間は朝9時から深夜1時まで、週末や年末年始でも容赦なく会議が入る。幸せな家庭像を思い描いて「この働き方は違う」とは分かりつつも、親族に介護問題が起きるまで、キャリアを手放せないままでした。「私はもっと働きたかったのに」と家族を責めない自信がなかったのです。しかし、結局はキャリアダウンを選びました。

キャリアダウンを選んだ数年後、私は退職してフリーランスになりました。理由はまた家庭の事情で、イギリスに移住することになったからです。

「夫の仕事を選んで移住するか、日本で仕事を続けることを選ぶか」は本当につらい選択肢でした。退職したら二度と正社員に戻れないかもしれない。そうなったとき、私は夫を責めずにいられるか。肩書を失うことよりも、夫に嫉妬する醜い自分になるのが嫌でした。

そんな私を救ってくれたのがフリーランスのお仕事でした。これまでの専門分野を活かしたマーケティングやライター業務。手探りで確定申告にチャレンジし、慣れない営業で交渉を進める。いずれも会社勤めのままでは経験できない体当たりの連続でした。給与が以前より下がったとしても「夫とは違う、私にしかできない」ことばかり。

「源泉徴収税って知ってた? 芸能人が払う所得税らしい。私もそれ払うみたい」
「すごいじゃん(笑)」

なんて冗談を交わしたり、

「介護業界の取材に行くから成年後見制度の勉強しなきゃ」
「それうちにも必要な知識だわ」

とプライベートの知識にもつながったり。

フリーになってからは夫との団らんに新しい話題が登場し、むしろお互いに違う職種だから刺激を得ている。そんな関係をこの1年がかりで手に入れた気がします。

「私にしかできないこと」を見つけてほしい

私の好きな言葉に、FacebookのCOO(最高執行責任者)であるシェリル・サンドバーグの「Don't leave before you leave(本当にキャリアを手放すまでは諦めないで)」という言葉があります。正社員でなければキャリアは無くなるのか、退職したらもう「働く女性」としては終わりなのか……そんなことはありません。自分が手放しさえしなければ「私だけにできること」はきっと見つけられます。

たとえば、学生時代に私がアルバイトしていた学習塾は個人経営で、得意科目を近所の子に教えたところからスタートしたのだそうです。イギリスの知人に、ママ友のお子さん分までお弁当を作ってお金を貰っている方がいます。

得意なことを活かした手作りのギフトカードやアクセサリー販売……その対価がたとえ100円だったとしても、自分の労働に価値がつくのはうれしいものです。そしてどれも「あなたにしかできない」こと。

共働きを望む人に、「完全な共働きが実現できる社会」が到来するのは、もう少し先の時代になるかもしれません。それでも夫を恨まないために、自分にしかできないことを探してみてほしい。少しでも多くの“夫にキャリアを譲った女性”の方々が「キャリアを夫へ譲ったおかげで、新しい何かが手に入った」と朗らかに言えればいいなと思っています。


文と写真:トイアンナ (id:toianna)

トイアンナ

外資系企業に数年務めたのち、ライターとして独立。女性を対象とした消費者リサーチや600人を超える相談実績から、フリーランスのライター・マーケターとして、女性の生き方やキャリアを中心に執筆活動を展開。現在は2人体制で原案・執筆を行う。著書に『恋愛障害~どうして「普通」に愛されないのか?~』(光文社新書)など。

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