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ほぼ日CFO篠田さん「仕事は相手が『いい』と言ってくれて、初めて意味を持つもの」

篠田さん
Webサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」の運営や、「ほぼ日手帳」をはじめとしたオリジナルグッズの販売などを行う「株式会社ほぼ日」でCFO(最高財務責任者)を務める篠田真貴子さん。長年、外資系の大手企業で働いていた篠田さんですが、なぜ「ほぼ日」に転職することを決めたのでしょうか。その理由や、どのような考えを持って仕事に取り組んでいるのかなど、くわしく伺いました。

40歳で外資系企業から「ほぼ日」へ転職。インフラ作りに尽力

はじめに、これまでの経歴について教えてください。

篠田さん(以下、篠田) 大学を卒業後、1991年に株式会社日本長期信用銀行(現・株式会社新生銀行)に入行し、社会人になりました。日本長期信用銀行を1995年に退社した後、3年間アメリカに留学して、国際関係論の修士とMBA(経営管理修士)の資格を取りました。日本に戻ってからは、マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社、ノバルティス ファーマ株式会社、ネスレニュートリション株式会社と、外資系の大きな会社で働きました。そして、40歳のときにほぼ日に移り、CFOになって今に至ります。会社でいうと現在が5社目ですね。

入社前、ほぼ日という会社にどのような印象を持っていましたか?

篠田 私は「ほぼ日刊イトイ新聞」のファンであり読者だったので、入社前からWebサイトをよく見ていたんです。その時点でも、「私が今まで仕事をしてきた企業とはものすごく違うんだろうな」という大まかな想像はできましたが、それ以上の印象は正直なかったですね。

それに、実はいきなり入社したわけではなく、正式なオファーをいただく前に、ほぼ日で3ヶ月ほど、あるプロジェクトのお手伝いをさせていただいていたんです。糸井*1や乗組員*2が、どのように仕事を進めているのかというのを、入社前にある程度見られたのはよかったなと思います。

その3ヶ月で、どんなことを感じられましたか?

篠田 当時のほぼ日は、コンテンツと商品が優れているのでお客様がついてきてくださっているけれど、組織立っておらず「なんとなく会社が成り立っている」状態でした。小さな会社ならそれでもいいのかもしれないですが、一定以上の規模になると、やっぱり経営とか組織運営とか、インフラを強化していかないといけないんですよね。でも、ほぼ日はそこが「できていない」ということを社内に数ヶ月いただけでも感じ取れました。私が今までいた会社は、当たり前のようにインフラが整備されていたので、「こんな状態でも会社って回るんだ!」というのが、最初の頃の正直な感想です(笑)。

3ヶ月間で、「ほぼ日で仕事をしたい」という思いは高まったのでしょうか。

篠田 そうですね。私は全く違う分野の会社で働いていたので、「私がこの組織に貢献できるのか?」という不安が少しあったんです。でも入社前の3ヶ月で、「インフラを強化するという点で、最低限役に立てる」という確信を持てたので、自分の中で入社を決意することができました。

それと、当時の自分の状況に閉塞感を感じていたということも、ほぼ日への入社を決めた大きな要因になっていたと思います。

閉塞感?

篠田 大企業にいた頃は中間管理職をやっていたわけですが、大企業って社長にならない限りどこまでも永遠に中間管理職なんですよ。社長になりたいわけでもないので、同じ職種でいる限り、転職しても中間管理職をやっていくということに変わりはない。事業の内容が変わったとか、規模が大きくなったという変化でモチベーションを保てる方もいると思うのですが、私は「職場が変わってもやることはずっと同じだ……」と、げんなりしてしまったんです。

あとは、これまで勤めていた企業では昇格していくために「海外転勤で経験を積む必要がある」というのは普通のことだったのですが、当時子供が小さかったので、海外転勤は厳しいという面もありました。子供が小さいからといって、海外転勤を断り続けるのって、社員としてはよくないと思っていたんです。

篠田さん

そのタイミングで、ほぼ日からオファーがあったんですね。

篠田 はい。どこかで進路変更しないと、自分のモチベーションが持たないとは感じていましたが、どうしたらいいのかアイデアもないし、考える余裕もない。そんなところに、ほぼ日からお話をいただいて。「思わぬ進路変更来た!」みたいな感じでしたね(笑)。

ただ、私はずっと転職人生だったので、「この会社にずっと残ってほしい」という意味でお誘いいただいているのなら、そこはお約束できないなという懸念はあって。正直に社長にお話ししました。「それでも構わない」とお返事をいただけたので、だったらお受けしても無責任にはならないと思い、引き受けることにしました。

先ほど、「インフラを整えるという点で役に立てると確信した」と仰っていましたが、ほぼ日に転職されてからインフラが整うまではどのくらい時間がかかったのでしょうか?

篠田 だいたい3年ぐらいですかね。いろんなことをしましたよ。

例えば、売れ高の数字はわかるんだけど、それが喜ぶべき数字なのか、まずいと思うべき数字なのかというのは、過去の情報の共有と分析がないとわからないんです。でも、これまでのほぼ日はそこがまとまっていなかったから、同じ数字を見ても喜ぶ人と悲しむ人が同時に出ていたんですよね。なので、過去の数字をちゃんと整えて、比較すべきものを作るという作業もやりました。ほかにも人事制度を作ったり、商品の管理方法を見直したり……いろいろやりました。基礎が整ったことで、社員の仕事効率は格段に上がったと思います。

では、現在の日々の業務はどんなことを行っているのでしょうか。

篠田 ほぼ日は2017年3月16日に上場しまして、3月まではその準備に忙殺されていました。今はだいぶ落ち着いてきて、大きくわけると3つの仕事をしています。ざっくり言いますと、1つは、いわゆる予算とか経営計画といわれるもの。2つめは、上場したばかりなので、新しく投資家や株主になってくださった方たちとの関係作りを考えること。そして3つめが海外に向けての商品の展開活動のことです。まだまだやりたいことがたくさんある状態ですね。

仕事は相手に「いい」と思ってもらえるかどうかが大切

篠田さん

多くの会社で経験を積んだ篠田さんですが、これまでの社会人生活の中で、一番私らしく働けているなと感じたのは、いつの時期になりますか?

篠田 「私らしく」ですか……。これは私の考えになるんですが、仕事って「私らしさ」を追求する場所ではないと思っていて。

!!

篠田 仕事は趣味ではありません。あくまでも、受け取った相手が「いい」と言ってくれることによって、初めて意味を持つものだと思うんですよ。「私らしい」かどうかは、相手からしたらどうでもいいこと。私の趣味にお客様は付き合う必要もないと思います。

なので、仕事に「私らしさ」を求めるというのは、個人的には微妙なところかなと思うんです。さまざまなメディアでも、働き方の部分で「私らしさ」「自分らしさ」というキーワードを見かけるんですが……。

確かに、そういう風潮は強いかもしれないです。相手の承認があって、初めて意味を持つというのは考えさせられます……。

篠田 「幸せな仕事=自分らしさの発揮」というような思い込みが強くなりすぎてるのかもしれないですね。

では、篠田さんは仕事をしていて、どんな瞬間に喜びを感じますか?

篠田 お客様に「よかった」と言ってもらって、自分が役に立てた実感があったときは、素直に嬉しいなと思いますね。それはどの職場にいるときも同じです。でも、お客様に喜んでいただけても、「これって私にとっては別にどうでもいいことなのかも……」と冷静に感じてしまったときもありました。

具体的には?

篠田 例えば、革の名刺入れを作ることになって、私はステッチを入れる係に任命されたとします。仕事だからキレイに縫いますし、それが売れてお客様に喜んでもらえたとしたら、一瞬「よかった、嬉しい」って感じるとは思うんです。でも、「本当は縫うことにあんまり興味ないな。本当は革を染める作業をしたかったな」という思いがあったら、いくらお客様に喜んでもらっても「これじゃない感」というのが心に残ってしまうんですよね。

お客様に喜んでいただけても自分の喜びにはつながらないタイプの仕事もあれば、相手が喜んでくれたことを素直に嬉しいと思えるタイプの仕事があるように思います。自分と相手の喜びが合ったなと感じた瞬間は、どの職場でも大小いろいろありましたが、職場としてそのヒット率が高いのは、今のほぼ日だなと感じていますね。

悩むのではなく考えて、課題設定することが大事

篠田さん

ご自身が若手社員だった頃を振り返って、反省点などはありますか?

篠田 もういっぱいあります(笑)。まず、「根拠のない万能感」を持っていたこと。

「私は何でもできる」と思っていて、「帰国子女だからもっと英語ができる部署に行きたい」ということを平気で上司に言っちゃったり。仕事をする上で、理不尽なこと、不公平なことがあったときは、堂々と会社に異議を唱えたり……。当時の私が今ここにいたら、本気で叱り飛ばすと思いますね(笑)。「配慮をしろ」「仕事ってそういうことじゃないでしょ?」って言いたい。とにかく、正論ありきの生意気な若者でした。

意見が言えること自体は悪くないことだと思いますが……。確かに、周囲の人はハラハラしていたかもしれませんね。

篠田 でも、自己弁護するわけじゃないですが、その変な思い込みがあったからこそ、いろいろなことに物おじせずに挑戦できたと思うんです。当時の私がああだったから、今の私があるというのは否めないところはありますね。

若さ故ということはありますよね(笑)。読者の中にも、「今のままでいいのだろうか?」と悩んでいる人は少なくないと思いますが、そういった方に向けてアドバイスをいただけないでしょうか。

篠田 何を悩んでいるかによりますが、まず知ってもらいたいのは、「悩む」と「考える」では、性質が全く違うということ。悩むのはやめて、考える技術をつけてもらいたいですね。 問題を解決したいのなら、事実をきちんと見て、「何を考えなければならないのか」という課題を設定する必要があると思うんです。

「悩む」と「考える」は違う……?

篠田 不満という気持ちだけがあって、その正体を直視できないまま、感情だけで動いてしまうのが「悩み」。不満とは、理想と現状にマイナスのズレが生じている状態です。悩みを解決したいのなら、自分の理想はどんなものであり、それに対して現状がどうなっているかという事実確認をしなければならないんです。

そのギャップを埋めるか埋めないかというのもその人の判断次第ですし、埋めるとしたらどうするべきか、どれぐらい時間がかけられるかを「考える」のが大切なんですよね。なので、悩んでいる暇があったら考えてみましょうよ、と。悩んでいたって何も動きません。

ただ不満を抱えるだけでは状況はよくならない、ということですね。

篠田 はい。20代前半の方の仕事に関する悩みを聞いていると、自分を見ようとしすぎて、視野が狭くなっちゃっている方がけっこういるんですよね。言うならば、自分のおへそだけを見て「私ってブスですかね?」と言っているようなもの。そうではなくて、鏡に映る自分全体を見ましょうよ、と言いたいです。自分を客観的に見つめることが重要なんじゃないかな、と思います。

あとは、もし「仕事の価値がわからない」と悩んでいるのなら、「自分の仕事が続いている=自分の仕事に対して価値を感じてくれている人が必ずどこかにいる」ということを知ってほしいです。需要と供給がなければ、仕事は継続されないわけですから。なので、自分の仕事に対して価値を感じてくれているのは「誰か」ということを把握しておくと、仕事をする上で励みになるかもしれないですね。

「わからない」のは普通のこと。自分を追い込みすぎないように

篠田さん

職場の活躍している同年代の人と自分を比べて落ち込んでしまうという人も多いと思います。そういった悩みはどのように対処したらいいと思いますか?

篠田 そういう人は、自分なりの仕事への手応えがあったら、どんなに小さなことでも意識して大切にしていくといいのではないでしょうか。そこには、「自分の仕事上での力を発揮して、人に喜ばれた」という事実があるわけですから。

それに、人と比べちゃう気持ちはよくわかるんですが、その人と自分の本質的な持ち味や得意なものはそもそも違うんです。自分が得意なものを極めていって、その分野で活躍できたらいいですよね。

あとは、仕事を始めてまだ数年という人は、仕事がわからないからといって自分を追い込む必要はないと思います。最初の10年くらいは、わからなくて当たり前。わからないというのは普通のことなんだから、「悩んでいる自分は異常」という追い詰め方はしちゃダメです。それって、いきなりスペインに行って「スペイン語がわからない。周りのみんなは話せているのになんで!」と悩んでいるのと同じ状況かもしれないですよ。そんなの無理じゃないですか。「わからないのは普通のこと。理解できるようになるプロセスの途中なんだ」というふうに思ってもらいたいですね。

ほぼ日を出ていったら、またほぼ日のファンに戻るだけ

今後の働き方のビジョンはお持ちですか?

篠田 友人の中には、「何歳まで働く」と期限を決めている人もいるんですが、私はそういうのはないんですよね。長く働いていたいんだと思います。ただ、働く場所については、あまり考えていません。

今現在、ほぼ日を辞めたいとかは全く考えてないですし、やりたいこと、やるべきこともたくさんあります。でも、会社と個人って別の人格だし、それぞれが日々成長しているので、進む方向やスピードがいつまでも同じとは限らないんですよね。なので、進む方向やスピードが合っているうちは一緒にやればいいし、ズレてきたら無理に合わせずに別れた(辞める)ほうが、お互いのためだと思うんです。そこに別に悲しみとかはなくて。私が会社で役に立たなくなったときに、「どうする?」って話すほうが辛いじゃないですか。

会社に対して固執していない、ということでしょうか。

篠田 今この瞬間は、ほぼ日に対してものすごい固執していますけど、その関係が未来に続くとは思っていないんです。そういう考えになったのは、初めて就職した当時の人気企業が経営破綻*3してしまったことが大きく関係しているのかもしれないですね。

だから、ほぼ日と私の関係が変わっていくことは、今後あり得ることだと思っています。先のことは、そのときに出会った「何か」次第。もしほぼ日を出ていったら、またほぼ日のファンに戻って、Webサイトを見たり手帳を買ったりするんじゃないかな、と思います(笑)。

篠田さん

ありがとうございました!

取材・執筆/石部千晶(六識)
撮影/小高雅也

お話を伺った方:篠田真貴子(株式会社ほぼ日・CFO)

篠田さん

アメリカ留学や、大手外資系企業で働くなどの経歴を持つ。2児の母になり今後の働き方について考えはじめたタイミングで、東京糸井重里事務所(現・株式会社ほぼ日)からオファーがあり、転職を決意。2008年にCFOに就任し、会社の基礎作りに奮闘。現在は9時頃出社し、18時頃に退社。帰ってからは、料理などの家事を行う。

次回の更新は、9月6日(水)の予定です。

編集:はてな編集部

*1:株式会社ほぼ日代表取締役社長の糸井重里さん

*2:ほぼ日では、従業員のことを「乗組員」と呼んでいる

*3:篠田さんが最初に就職した日本長期信用銀行は、1998年に経営破綻し、一時国有化された