「地方移住はもっと“ゆるやか”でいい」居心地のよさを求めた3人の選択

 佐々木ののかさん

東京が好きだ。
欲望とエネルギーで滾り、現在を更新し続けていく街。

一方、わたしは北海道の田舎町出身。
地元のことは好きだけど、決して住みたい場所ではない。

同窓会で交わされる「いつ結婚するの話」にうんざりし、
自分の職業含めたステータスを説明するだけで骨が折れる。

わたしにとっての“地方”には“そういうもの”が含まれている。
しかし、気の置けないわたしの友人の多くは“地方”に移住してしまった。

本当は今すぐにだって帰ってきてほしい。
どうして地方に行っちゃったの。

ずっと言えずにいた気持ちを、せっかくなので伝えてみた。

「福祉の“師”を追って福岡へ」Tちゃんのケース

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最初に話を聞いたのは、福岡でホームレス支援の仕事に携わるTちゃん(26歳)。もともと関東に実家があるTちゃんが福岡に移住をしたのは、2016年4月のことだった。

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ねぇTちゃん、どうして福岡に行っちゃったの?

T もともとね、福岡にもホームレス支援にもこだわっていたわけではないの。話は学生時代の留学先での出来事にまで遡るんだけど。

留学先の国が貧しくて、生活が大変な国だったの。だけど、みんな明るく幸せに暮らしていて。その理由を考えてみたら「家族を大切にしているから」だなって気づいてね。「家族」を人生の指標にすれば幸せに暮らせるんじゃないかなって思って。

人生の指標が、家族。

T そう。だから帰国して留学先で見た家族的なコミュニティを実現しようとしたの。その方法がわたしにとっては「シェアハウス」で、実際に、家族的な存在にもなれたんだけど、心に何か引っかかりがあって。そんなとき、今の“師匠”に出会ったの。

師匠?

T うん。今思えばわたしはシェアハウスに自ら飛び込んでこれる人ではなくて、その“外側にいる人”の家族的な存在になることに関心があったんだよね。そういうわたしの実現したい理想に近いものを、ホームレス支援の分野で形にしている人が、今の師匠だったの。強く共感できたから、その人のもとで働かせてもらいたいと思って福岡への移住を決めたし、福祉の道に進んだのも結果論というか。

場所よりも人ありき、ってことか。今はどんな毎日を過ごしてるの?

T 通信の福祉系の専門学校に通いながら、師匠のもとで働いてる。専門知識と資格の勉強をしながら、現場を知れる環境がすごくいいんだよね。

楽しそうでよかった。でも、いくら師匠がいるからって、縁もゆかりもない土地に移住をしちゃうのってすごい勇気だなって。

T うーん、「移住するんだ!」って力んでいるわけではないからかな。経験を積んだら関東に戻ることも選択肢としてあるよ。

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えっ、そうなの!?

T うん。わたしは関東出身だから、東京のほうが友達もいっぱいいるし、仕事もあるからいつでも戻れるじゃない? だからこそ、若いうちに自分の納得できる環境でキャリアを積んでおこうと思ったの。

わたし、キャリアを積む場所は東京だけだって思い込んでしまっていたなぁ。

T あとは、わたしがもともと留学したことや、シェアハウスが長かったことが「どこでも生きていける」っていう自信につながったのかも。思い立ったら移動できる自由なスタイルを経験して、場所を移動すること自体がそんなに大きな障壁に感じなくなったのかもしれない。

“場所”ではなく、“人”ありきで移住をしたTちゃん。移住したら最後、その土地に骨を埋めなければいけないと考えていた自分の視野の狭さに気づかせてもらった気がした。

「自分の優先順位がわかる環境が心地よい」札幌に移住した三和さんのケース

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次にお話を聞いたのは、北海道札幌市に移住し、現在、合同会社Staylinkで2つのゲストハウスGuest House waya / Guest House 雪結運営に携わる北川三和(きたがわみわ)さん(26歳)。わたしの大学の同期である三和は、静岡県出身。ゲストハウス運営経験もないのに、札幌に移り住んだのは一体どうして?

北海道に行った決定的な理由は何だったの?

三和さん(以下、三和) 1つは東京に疲れたからかな。

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東京に疲れたっていう人、多いよね。

三和 遊ぶには最高な都市だと思うよ。ただ、働くにはしんどかった。疲れた人の顔を見て通勤していると、「自分だけがつらいわけじゃないんだから、我慢しなきゃ」っていう無言の圧力みたいなものを感じてしまって……。

ちょっとわかるかも。でも、それだけが理由じゃないんだよね?

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▲合同会社Staylinkは20代の若者9人で構成される

三和 うん。もう1つは合同会社Staylinkの代表3人と働いてみたかったのもある。大学卒業後に起業して、心健やかに働いている彼らを見て「あぁ、こんな風に生きてもいいんだ」って思えてラクになれたというか。

もともと教員志望なんだけど、ユニークな体験をして人間磨きをしたい気持ちもあったから、ゲストハウス運営はピッタリだったの。だから彼らが北海道じゃなくて、他の場所にいたら、その土地に行ったと思う。

人や働く環境が魅力だったんだね。実際、北海道に越してみて、どう?

三和 すっごくいいよ。まずね、東京に比べて選択肢が少ない(笑)。

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あははっ(笑)。でも、それっていいことなの?

三和 うん。例えば、わたしはミュージカルが好きなんだけど、東京はいろいろやってるからいくら行っても満足しないし、お金が足りない。でも、今は遠すぎて行きたいものを必然的に絞る必要がある。ミュージカルに限らず、何事も東京よりは限られてるから諦めがついて、一番大事なことに時間とお金を潔くかけられる。自分にとって何が一番大事なのかの優先順位を楽につけられるようになったから、ストレスフリーなんだよね。

東京の選択肢の多さがときにつらくなることもある。漫然と過ごす毎日の中で見落としてきたことを彼女に気づかせてもらった。

「“将来”のための忍耐より、“今”やりたいことを」沖縄移住した真崎睦美さんのケース

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最後に話を聞いたのは、ライター仲間の真崎睦美さん(27歳)@masaki_desuyo_ / ブログ。2016年6月に突如として沖縄に移住し、現在は仕事の関係で3月末までフィリピンに住んでいるというが、どうしてそんなに身軽なのか。改めてその理由を聞いてみた。

どうして沖縄に行ったんだっけ?

真崎さん(以下、真崎) 東京にいるのが苦しくなっちゃったんだよね。もちろん東京にいる人は好きだし、みんなが頑張っている街の空気感も好きなんだけど「自分も頑張らなきゃ」って思い続けた結果、心がパッキリ折れてしまって。ちょうど1年くらい前かな。

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同じ仕事だし、気持ちはわかるよ。でも、何でまた沖縄だったわけ?

真崎 沖縄に移住した友達と電話をしていて、現地の話を聞いたの。そしたら「19時からの飲み会なのに22時くらいにみんなそろう」とか笑いながら言っていて。その“ゆるさ”がいいなぁって。

なるほど。実際、移住して楽しそうだしね。

真崎 最初は知人がいないから寂しかったけど、沖縄はITのスタートアップが多くて地元メディアも多かったから、ライターの仕事には困らなかったかも。今は友達も増えたし。あと、あったかい場所のほうが病みにくいっていう自分的仮説もあった。

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今いるフィリピンもあったかいしね(笑)。でも、よくそんな身軽に居住地ごと移動できるね。わたし、月に2~3回地方出張あるけど、家は東京にないと嫌なんだよなぁ。

真崎 性格の問題だと思うよ。わたしは前から“変化する瞬間”が一番ワクワクするタイプの人間だから、逆にずっと同じ環境にいれないんだよね。

うーん、仲がいいからあえて意地悪なこと聞くけどさ、ライターの仕事は、東京のほうがキャリアを積みやすいと思っているんだけど、その点はどう考えているの?

真崎 確かにその通りだなと思うけど、わたしは“今後のキャリアを考えて”働くのは結局しんどかったんだよね。「未来を積み立てる“保険”」のために今を犠牲にする感覚で、「“今”やりたくないことを“将来のために”」頑張ろうとすると、本当に身体にガタが来ちゃうっていうか。

なるほどね。わたしはある程度、将来を見て動いていないと不安になるから、もう人それぞれってことなのかも。

フリーライターという同じ立場上、彼女の考えに共感しつつも相いれないと感じるのは、もはや性格や体質の問題というのに尽きるし、結局「他人の芝は青く見える」のだなと思うに至った。

おわりに

移住の理由は3人3様だったものの、話を聞いてみて感じたのは、3人にとって地方移住は大げさなことではなく、自分の生き方に素直に進んだ結果ということだった。

家のちょっとした段差を跨ぐように、彼女たちは軽やかに拠点を変え、
地方移住の文脈で語られる「都会VS地方」の文脈を優に超えていく。

わたしは、住む土地には何か特別な愛情や決意がなくてはならないと、必要以上に決め込んでいたのかもしれない。

東京も好きだし、地方も好きだ。
そこに1つも矛盾などない。

もっと肩の力を抜いて生きていいのだと、気の置けない友人たちに教えてもらって、
それでもなお、わたしはやっぱり東京に住む。


著者:佐々木ののか

佐々木ののか

1990年北海道生まれのライター・文筆家。

新卒で入社したメーカーを1年で退職し、現在に至る。自分の経験をベースにした共感性の高いエッセイを書くのが得意。

Twitter:@sasakinonoka
note: https://note.mu/sasakinonoka