ペアで円滑にコミュニケーションするには? 二人だけの会社でバズを生み出す「企画デザイン 2時」に聞く

2時のお二人

特定の人とペアを組んだり、数人規模のチームで仕事をすることは、多くの職種であるのではないでしょうか。少人数チームでは意思決定がスピーディに行える良さがある一方で、場合によっては思ったことを直接相手に言いづらいなど、距離感に悩んでしまうこともありますよね。

今回インタビューをしたのは、代表の楢﨑友里さんと、プランナーの田中桃子さんの二人だけで運営する商品企画会社「企画デザイン 2時」。「うれしそうに判決を取ってきてくれる犬用のおもちゃ」や「物理RT、物理いいねができるライト」といった斬新な企画でバズを生み出し続けています。

前職からの同僚であるお二人は、ペアだからこそ「親しき仲にも礼儀あり」という絶妙な距離感を大切にしているそう。相手との接し方、アイデアが閉鎖的にならないための工夫など、少人数で仕事をする上で、円滑にコミュニケーションするためのヒントを伺いました。(※取材はリモートで実施しました)

二人だけの会社だから、全部自分たちで判断する

Twitterでバズっていた「勝訴」を掲げた犬用おもちゃなど、ユニークなアイデアがいつも話題になっています。あらためて「2時」という会社についてと、お二人の役割分担について教えてください。



楢﨑友里さん(以下、楢﨑) 2時は、いろんな企業さまの依頼を受けて、面白くて話題になる商品の企画立案からデザインまでを一貫して行う会社です。商品の企画・デザインは、プランナー兼デザイナーとして二人で担当しています。社内の役割としては、私がいちおう代表で、田中さんはいちおう会計。私、領収書を全部なくしちゃうくらい経理が苦手なんです……。

田中桃子さん(以下、田中) 税理士さんに「今回はこれがまだ提出できていませんよ」と注意されながら、名ばかりの会計をしています。

お二人で新しい会社をやろうと思った理由は?

楢﨑 私たちはもともと前職の株式会社フェリシモに入社して一年目に配属された雑貨ブランド「YOU+MORE!」で、バディとして7年間一緒に仕事をしました。そこでいろんな商品企画をしていたんです。

田中 企画に特化した仕事で「自分たちの力だけでどのくらい世の中を楽しくできるか」にチャレンジしてみたくて、修行のつもりで裸一貫飛び込んだという感じです。

楢﨑 フェリシモ時代からプランニングに関わる業務を手広く任せてもらえていたので、自分たちでもきっとできるという自信につながりました。ちなみに社名の「2時」には「時計の2時の方角『ななめ上』の発想を大切にする」という思いを込めました。

プランナーとしては、お二人それぞれどんな得意分野があるのでしょう?

楢﨑 私は派手なアイデアを考えるのが好きで、大きなコンセプトを立てるのが得意です。一方田中さんは、それを形に落とし込んでいくときのデザイン、柄を作ったり色合わせをしたり、仕上げのところがすごく上手ですね。

楢﨑友里さん
楢﨑友里さん
田中桃子さん
田中桃子さん

会社の規模が変わって、お仕事の内容も変わったのではないでしょうか。大変だなと思うことはありますか?

田中 あったと思うんですけど、なぜかすぐには浮かんでこないですね……。

楢﨑 会社設立1年目だから絶対にあるはずなんですが、二人ともだいぶ楽天的な性格なせいか、あらためて考えると「大変なこと? あったかなぁ?」って感じです。

会計も総務も法務も、全部自分たちで調べたり、詳しい方に聞いたりしてやらないといけなくなったのですが、「税金ってこうなっていたんだ!」とか、一つひとつ知るのが楽しいなとお互いに思っているところです。

大きい会社で働いていたときとは仕事内容や進め方なども変わったと思うのですが、一番変わったと感じることは何ですか?

楢﨑 やっぱり、自分たちで全部判断できるのが一番面白いですね。思い切ったこともしやすいですし、「スベっても全然いいや」みたいな感じで、作るものが変わったような気がします。

フェリシモでは作れなかったものが作れる、ということもあるのでしょうか。

楢﨑 フェリシモでNGだったというわけではないんですが、そもそも技術的に発想できなかったものを作れるようになったなと思います。

例えば、フェリシモで変わったアイデアにチャレンジする場合は、小ロットでOKな“縫製もの”を作る大前提があったので、ロットが大きい “型もの”と呼ばれるプラスチック製品を作る発想がなかったんですね。

2時を設立してから、新しいスキルを身に付けたいと思って3Dプリンタの勉強を始めて、「物理RT、物理いいねができるライト」や「cookieを有効にできるクッキー型」のような企画が生まれました。






親しき仲にも礼儀あり。相手への思いは「声に出す」

二人で会社を始めてから、あらためてお互いのコミュニケーションについて意識するようになったことはありますか?

楢﨑 前提として相性がいいのでコミュニケーションのエラーが起きたことがほとんどないのですが、それが当たり前だとは思わずに「親しき仲にも礼儀あり」というか、思い合っているのが分かるように声に出すのは大事だなと思います。長く一緒に仕事をしていると、だんだん言葉にしなくなることもあると思うんです。

私たちは一緒に仕事をするようになって8年目ですが、田中さんはちゃんと「ありがとう」と言ってくれたり、作業していたら「何か手伝えることはある?」と頻繁に声をかけてくれたり。「すごいね!」「いいね!このアイデア!」と、ちゃんと言葉にしてくれるんです。

田中 楢﨑さんとは一緒にいて自然体でいられる感じがあって、無理せずにいられるのが心地いいので、ずっとこのままでいられるのかなという気がしています。けんかとかも、全くしたことがないですね。「水、空気、楢﨑」みたいな感じで、もうなじみきっています。

楢﨑さんは面白いものを見つけるのが得意な人です。例えば、一緒にごはんを食べに行っても、おしぼり一つで1時間くらい遊べるような(笑)日常にあるもので妄想して楽しんじゃうので、それが自然とコミュニケーションになっていくんです。毎日二人きりでいても、「何を話そう?」と気まずくなることはありません。

おしぼり一つで1時間遊んじゃう楢﨑さんもすごいし、それを一緒に楽しんじゃう田中さんもすごいなと思います。

楢﨑 私はおしぼり一つで1時間遊んでいるんですけど、多分、一緒に笑ってくれる人がいるとそのモチベーションも全然変わってくると思います。

そうですね。ただ、業務上では笑ってばかりはいられないこともあると思います。円滑に仕事を進めるためのルールなどはありますか?

田中 出社したらラジオ体操をしながら、だいたい昨日あった出来事をお互いに話すのが毎朝のルーティンになっていて、仕事を始めるアイスブレイクみたいになっていますね。

楢﨑 業務上の役割分担では、相手が苦手そうなことは率先してやるようにしています。お互いに「これは苦手で嫌いな作業だろうな」と察し合って、仕事を取り合っています。

田中 楢﨑さんは私が苦手な作業を振らないので、いつもありがたいなと思っています。でも、結果的にその方が業務スピードもよくなるんです。

長年のペアではあっても、なかなか察するのが難しいこともあるのかなと思うのですが。

楢﨑 分からないときは単純に、「こういう業務は好きですか? やりたいですか?」と聞くようにしています。また、自分がどうしても苦手なときは「私よりは田中さんの方が向いていると思うのでお願いします」と自己申告して頼むこともあります。

どうしても二人とも苦手なことだったら「いやだー!」ってわーわー言いながら一緒にやっていますね(笑)。

2時のお二人
取材中も笑顔が絶えないお二人

お互いの発想を面白がりながらアイデアを膨らませる

2時では、バズる企画であることも大事にされていますね。どんなふうに商品を企画されているのですか?

楢﨑 「ツイ廃か?」というほどTwitterは見ていますね。Twitterは「誰が何に共感しているのか」を数値化している無料のツールなので、仕事柄使わない手はありません。

ただ、自分のタイムラインだけを見ているとどうしてもバイアスがかかってしまうので、関係ないワードで検索をしたり、知らない人の「いいね」欄を見たりして、多様な情報を得るようにしています。

バズるアイデアを生むために、日頃から意識していることはありますか?

楢﨑 アイデアには2種類あると思っています。一つは「犬用のおもちゃ」や「Cookieを有効にします」のクッキー型など、1秒でシナプスがつながってひらめくタイプのアイデア。もう一つは、テーマが決まっていて、例えば「うさぎ」だったら「はねるよね。ふわふわだよね、ふわふわのものってなんだろう?」と転がしてこねるタイプのアイデアです。

ひらめくタイプのアイデアの方が、すごく爆発力があってバズりやすいんです。それを出しやすくするのは、結局のところ「考える時間の量」なのかなと思います。クリエイティブに携わる人の中には、オンとオフを切り替えるのが大事だという人もいると思いますが、私の場合はずっとスイッチをオンにしていて、焼き切れてどこかが勝手に光るようになっている感じなのかなと。さっき挙げた犬用のおもちゃやクッキー型も、土曜日の昼下がりなどオフの時間にひらめくことが多いです。

思いついたアイデアは、どこかにメモして溜めているのでしょうか。

楢﨑 スマホのメモ欄に何スクロールもできるくらい溜まっていますね。見返すと「何このメモ?」っていうものがけっこうあります。えっと……(メモを見る)「ぎょうざのペガサス」とか書いてあります。たぶん、羽根つきぎょうざのことだと思うんですよ。馬に翼が生えていたらペガサスになってかっこいい。羽根が生えたぎょうざにも何か名前をつけたらどうか、と思ったのかな……?

田中 私は「動き回るものにマッサージチェアをつけろ」って書いてあります。ちょっと何のことか分からないですね……あとは「シルバー楽団、入れ歯のカスタネット」とか「チャンピオンベルトの待ち合わせ場所」とか?

楢﨑 えっ、どういうこと??(笑) ベルトたちの待ち合わせ場所!?

田中 なんか集まってきたみたい、チャンピオンベルトたちが(笑)私は楢﨑さんのように奇想天外なアイデアはあまりないので……。

いやあの、今のアイデアはけっこう奇想天外でした! ファンタジーがありますね。

楢﨑 田中さんのアイデアってめちゃくちゃ変なんですよ! 私のアイデアは奇想天外に見えて、一応自分の中ではロジックがあって成立しているのですが、田中さんのアイデアは予定調和を壊してくるんです。そんな「どういうことですか?」ってまずツッコミたくなるシュールなアイデアも絶対に必要だと思っています。

田中 面白いなと思っても、何の商品にしたらいいか分からないものも多いので、最近は口に出して楢﨑さんに言うようにしています。

楢﨑 田中さんも、私が意味の分からないアイデアを出すと「面白い!」と言って笑ってくれるんです。だから、何か思いついたら田中さんに見せたくなっちゃうんですよね。

面白いと感じることが一致していて、アイデアを一緒に膨らませたり、仕上げをちゃんとしてもらえたりする。これは、ペアでお仕事をする上ではめちゃくちゃ大事な感覚なんじゃないかと思っています。

二人だけでアイデアを出し合っていると「これでいいのかな?」と迷ったりすることはありませんか? 例えば、第三者の意見を聞きたくなることはないのでしょうか。

楢﨑 仕事柄、商品のリリースまで情報を出せないこともありますし、たくさんの人に意見を聞いたらそれだけ答えが返ってくるので迷ってしまいます。今のところは、自分たちの感覚だけでやる方が、私たちの場合はうまくいく可能性が高いかなと思っています。

田中 でも、Twitterで投稿した後に、いただくリプライに書かれているお客さまの意見は勉強になりますね。自分たちでは気づかないところを言ってもらえることがあるので、参考にすることがあります。

相手と「合わない」と感じたら、自分を変えてみる

自由に面白さを追求できる一方で、世の中のニーズとずれたり「これは売れるのか?」という企画になってしまったりすることはありませんか?

田中 私たちはあきんど(商人)な部分も持ち合わせているので、「面白いけど売れないだろうな」ということはわりとシビアに見ちゃっていますね。

楢﨑 そうですね。二人とも芸大・美大出身なんですけども、自分が表現したいことと世の中のニーズのギャップに苦しむアーティストタイプではないんです。売れるということは、それだけ多くの人が喜んでくれた証だと思うので、「反響があってなんぼ」と思っているところはあります。

社訓は「絶対に調子に乗らない!」だそうですね。

楢﨑 そもそもあまり調子に乗るタイプではないのですが、一瞬でも調子に乗った発言をしたかなと思ったときにはお互いに、「今、調子に乗ってないかな?」って確認しています。調子に乗った者の末路は悲惨だと思うので。別な言葉で言い換えれば「うまくいったときも基本は忘れない」ということでしょうか。

2時の社訓
2時の社訓

お二人の相性の良さも2時の強みなのだなと思います。ただ働く人の中には、相性がよくないと感じる人と組まなければならず悩んでいる人もいるのではないかなと。お二人の場合、仮にもしそういう場面になったら、どうやって対処されますか?

楢﨑 正しいと思うことは人それぞれだなと思うんです。私はそのやり方は正しくないと思ったとしても、相手のやり方を変えるための説得にパワーを使うのはもったいない。それなら、「こうしたらうまくいくかも?」と考えて、自分を変えるようにすると思います。うまくいかないときは、相手を変えようとするのではなく自分が変わる、ということを信条にしています。

田中 そういう機会はこれまで少なかったのですが、もしあったとしても私は聞き流す能力が高い方なので、ふわふわふわ〜っと受け入れるタイプですかね。何でもかんでも受け止めるのではなく、よける。「万が一、相性が悪い人に出会ったら逃げてもいいよ」と自分に言ってあげています。

確かに、自分を変える方が楽かもしれません。でも、クリエイティブに関わる部分では譲れないところもありませんか?

楢﨑 確かに、クリエイティブ、特にアイデアに関しては譲れないこともあるので、できる限り、話し合いたいなとは思いますね。

最後に、これから2時としてしてみたいチャレンジ、作ってみたい商品について聞かせてください。

楢﨑 会社としての目標は、「面白い商品企画会社といえば2時だよね」と、日本中で誰もがぱっと一番に思い浮かべるような会社になることです。今後やりたい分野としては、アイデアの力で地域を活性化すること。「魅力はあるけれどどうやって話題を作ればいいか分からない」と困っている地方自治体の方たちに、アイデアを提供できればと思っています。企画の力で話題を作って地域の魅力を伝え、人が集まって商品が売れるから魅力的なお土産になる、という一気通貫の事業をやってみたいです。

田中 フェリシモ時代に、私たちが大好きな三幸製菓さんのお菓子「雪の宿」のパジャマを作らせてもらったことがあります。ほかにもたくさんある、二人が好きな食べ物のメーカーさんとのコラボもしてみたいです。

取材・文:杉本恭子
編集/はてな編集部

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お話を伺った方:「企画デザイン 2時」楢﨑友里さん/田中桃子さん

2時

楢﨑 友里さんと田中桃子さんによる、商品企画を専門に行う、京都の企画デザイン会社。株式会社フェリシモで7年間ユーモア雑貨の商品企画に携わった企画とデザインのスキルを生かし、バズる商品企画を生み出し続けている。

時計の2時の方角「ななめ上」の発想を大切に、世の中を楽しくするモノやコトを生み出すことをコンセプトにしている。

公式サイト:企画デザイン2時 Twitter:@niji_2oclock

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