遠くにいても、隣にいても変わらない。東京~沖縄間でのリモートワークで感じたこと

 鯨本あつこさん
沖縄での生活

今日はいつもより早く起きて家族3人分の朝食を作り、寝ぼけまなこの娘を夫に託してひとり、家を出た。それから車で10分の距離にある那覇空港へ移動して、朝一の飛行機でオフィスのある東京へ。この原稿はそんな機内で書いている。

§

私は、有人離島専門のWebメディア『離島経済新聞』とフリーペーパー『季刊リトケイ』の統括編集長をしている。発行元のNPO法人離島経済新聞社(以下、リトケイ)は東京にあるので、自宅のある沖縄から東京には月1~2度通っていて、そのほかは東京~沖縄間をSkypeでつなぎながら仕事をしている。

会社以外の場所で仕事を行う働き方は、リモートワークというらしい。私は2年前の出産を機に、夫の実家のある沖縄に居を移し、この働き方となった。

RITOKEI

Webメディア『離島経済新聞

リモートワークがどんな働き方なのか。ひとつの例ではあるが、プライベートタイムも含め、昨日1日を思い出してみる。

東京~沖縄、リモートワークの日常

まず、朝6時に起きて朝食を作り、子どもを起こす。トイレに行きたくないと逃げまわる2歳児を追いかけまわして、トイレ、ごはん、着替えを見守り、ばたばたと朝食の片付けをしながら、7時半すぎに保育園に行く子どもと夫を送り出す。

静寂が訪れた8時頃から仕事場にしている自宅の一室に移動し、パソコンを開いて、メール、調べ物、作成途中の企画書作り……と、いくつかのデスクワークを片付ける。そして、10時になったらSkypeを立ち上げて東京オフィスに接続。東京にいるスタッフらと15分ほど朝のミーティングをして、その後はSkypeをつなげたまま、それぞれの業務を続ける。

お昼休みをはさんで、午後には東京オフィスに来客もあった。テレビ番組のリサーチのために来社した知り合いのディレクターとSkype越しの打ち合わせをしたのだが、オフィスに来るのは初めてだった彼は「いつもつなぎっぱなしなんですね」と驚いていた。

彼曰く、この状況は「監視みたい」らしい。なるほど、人によってはそう感じるのねと私も驚いた。

私がつなぎっぱなしにしている理由は、誰かを監視したいというよりも、自分が「一緒に仕事をしている感」を欲しているからである。

物理的距離は、コミュニケーション次第で縮まる

仕事場の様子

私と仲間たちとの間には約2,000kmの物理的距離があるが、プロジェクトの進捗管理、書類の確認、原稿データのやりとりなどは、すべてインターネット経由。いわゆるクラウド上のやりとりでほぼ完結しているので、「書類の確認お願いします!」みたいな報告・連絡・相談コミュニケーションも、メールやチャットがあれば済ませられる。

ただ、私はやや古い人間なのか、メールやチャットだけでは、人間の心の機微に触れにくく、味気ないように感じている。それに、顔を見ることもなく、声を聞くこともなく仕事をしていると、なんとなく不安になったり、さみしくなったりもする。

朝から晩までパソコンに向かい、必死に業務をこなしたところで、夕方に「お疲れさま!」と声を掛け合える相手がいなければ、いまいち「今日もいい仕事ができた!」という充足感を感じにくい。

それはもしかすると、リモートワークじゃなくても同じかもしれない。毎日出社したところで同僚と一言も話さず、挨拶もせずに1日を終えるような環境だったら、私は息が詰まってしまう。

たとえば、会社というものが何人かの人間で共通の目的を達成するためのチームとすると、大切なのはチームワーク。で、チームワークに欠かせないものといえば、良好なコミュニケーションである。

たとえ2,000km離れていても、「おはよう」に始まり「お疲れさまー!」で終わり、時々「髪切った?」みたいな何気ないやりとりもできていれば、心理的距離は2m程度。業務が滞らず、コミュニケーションが良好であるなら、距離はほとんど気にならない。

家事と育児もクラウド上で管理

ここから家事育児の話も加えたい。

うちの家族は夫と私と2歳児の3人家族である。フルタイムの共働きなので、日中はそれぞれの仕事に従事しているが、夫は家業のかたわらリトケイの仕事も担っているため、仕事仲間でもある。

夫婦間の協業レベルは家庭によって千差万別だと思うが、我が家は家事と育児にかかるタスクも、仕事と同じくクラウド上で管理している。

保育園や家族の行事はGoogleカレンダーで共有し、お出掛けの予定や今月中に完了させなければならないタスクは、Evernoteの共有ノートで確認し合い、どちらかがクリアにしていく。

Googlecal

夫婦で共有しているGoogleカレンダー

日々の家事では、お互いの得手不得手で担当分けしている。私は料理をはじめ、生協への注文や買い物、家計管理を担当し、夫は私が苦手な洗濯全般や車両管理を担当。掃除はそれぞれが行う。

育児は、保育園の準備と送り迎え、保護者会活動を夫が担当し、絵本を読んだり、おもちゃを片付けたり、成長にあわせた洋服のアップデート管理などは私が担当している。

こんな風に書き並べると、実にスマートな家庭に見えるが、蓋を開ければ「◯◯ってどうなってる?」「◯◯って言ったよね?」みたいな口論もしばしば起きている。

近しき仲こそ5W1Hを怠らない

口論の原因は大抵、コミュニケーションエラーである。

たとえば私が、来週金曜日から保育園でプールが始まることを知り、夫に「保育園でプールが始まるよ」と言ったとする。このとき、私は「来週金曜日」という重要ワードを伝えていないのだが、頭の中ではすっかり伝えたつもりになっていたりする。

そして、金曜日の朝、娘の保育園バッグに水着が入ってないことを見つけた私が夫に「今日、プールだよ!」と伝えると、「聞いてないぞ!」「言ったよ!(※正しくは言ってない)」というエラーが起こり、火花が散るのだ。

私は曲がりなりにも編集者である。スタッフから上がってきた原稿をチェックしながら「読みにくいなあ」と感じるときは、大体、主語が抜けていたり、あいまいだったり、「いつ」「どこで」「だれが」「なにを」「どんなふうに」「なぜ」という5W1Hが不足していることを知っている。

しかし、何故だろう。夫という人間には、その近さゆえに言葉足らずなコミュニケーションをとってしまうことが珍しくない。近しき仲にも礼儀ありというのか、近しき仲こそ5W1Hだなと感じている。

働くことは「端(はた)を楽(らく)にする」ことであるのなら

2,000km先で働く仲間たちや、夫などの協業者とは、目の前に積まれている仕事を分担しながら、上手にクリアしていくことがまず大事である。そして、欲張りな自分は、その上で「今日もいい仕事した!」とも思い合いたい。

仕事にしろ、家事育児にしろ、求めるレベルは人それぞれ。これはあくまで私のモノサシだが、働くことが「端(はた)を楽(らく)にする」ことであるなら、一緒に働くみんなが楽しそうであることも求めたいのだ。

そのために必要なことは、確実かつ丁寧なコミュニケーションと、お互いの顔色を確認しながら「おはよう」「お疲れさま」「疲れてない?」「大丈夫?」みたいな声を掛け合えること。遠くにいても、隣にいても、互いに協力し合い、成していく仕事には、そんな基本が大事だと感じている。

著者:鯨本あつこ(いさもと・あつこ)

鯨本あつこ

1982年生まれ。大分県日田市出身。NPO法人離島経済新聞社の有人離島専門メディア『離島経済新聞』、季刊紙『季刊リトケイ』統括編集長。一般社団法人石垣島クリエイティブフラッグ理事。地方誌編集者、経済誌の広告ディレクター、イラストレーター等を経て2010年に離島経済新聞社を設立。地域づくり・編集デザイン・コミュニケーション等の領域で事業プロデュースや人材育成、広報ディレクション、講演、執筆等に携わる。2012年ロハスデザイン大賞ヒト部門大賞受賞。美ら島沖縄大使。1児の母。育児のため夫のふるさとである那覇市在住。
Web:離島経済新聞

次回の更新は、8月9日(水)の予定です。