ジェーン・スー「完璧な自分になったところで、自分が欲する状況になるわけではない」

JaneSu
今回「りっすん」に登場いただいたのは、コラムニスト、ラジオパーソナリティ、音楽プロデューサー、作詞家など、マルチに活躍されているジェーン・スーさん。独自の視点と表現力が人気ですが、普段はどんなことを考えながら仕事と向き合っているのか。また、どのような出来事が現在の彼女を形作っているのか。詳しい話を伺いました。

社会人経験を経て、36歳でコラムニストデビュー

現在のお仕事をされる前は、会社員として働いていたとお聞きしています。あらためて、これまでのキャリアを簡単に教えていただけないでしょうか。

ジェーン・スーさん(以下、ジェーン・スー) まず、大学を卒業し、新卒でレコード会社に就職しました。元々音楽が好きだったので、音楽業界で働ければいいなと思っていて。そこで28歳まで働いてから、同業他社に転職しました。そして、31歳でメガネ屋に転職をして、35歳になったところで会社員生活に終止符を打ちました。それからは家業を手伝ったりしていましたね。

コラム執筆をきっかけに、「ジェーン・スー」としての活動がスタートしたと伺いましたが、それはどの時期にあたるのでしょうか?

ジェーン・スー 会社を辞めてからですね。家業の手伝いをしているときに、友達に誘われたmixiで日記を書いていたんです。当時は、執筆の仕事をしたいというような思いはなくて、ただ趣味の一部としてやっていたのですが、たまたまその日記を見てくれた女性編集者さんに、コラムの仕事をしないかと声をかけていただいて。それが、35歳か36歳のとき。連載は1年で終わっちゃったんですけど、それが大本のスタートです。

コラムの連載が終わってからはどんなことをされていたのでしょうか。

ジェーン・スー そのあとしばらく、書く仕事はしていませんでしたが、友人がやっていたラジオ番組に出ることになりました。その番組は、“著名ではない音楽業界の人に話を聞く”というコーナーがあって。ちょうどこの頃、知人の音楽制作会社の業務を手伝っていた流れで、アイドルのプロデュースをする仕事にも携わっていたんです。そこで私がぴったりだということで、ゲスト出演させていただいたんですよね。

そうしたら、本当にラッキーなんですが、ちょうど新しいラジオ番組を立ち上げるところだった別のプロデューサーから「メインパーソナリティと一緒にトークを盛り上げる“パートナー”をやってみないか」というお話をいただいて、週に1回ラジオに出るようになったんです。そうこうしていたら、テレビのお話が来て。当時は、お声をかけていただいた仕事はとにかくやってみるようにしていたので、ラジオもテレビも挑戦してみました。

メディアへの露出が増えるようになってからは、ネット検索する人が出てきたときの誘導先として、ブログを開設しました。そうしたら、それに目をつけてくれた編集者の方が、「本を出しませんか?」という話をしてくださって。実は、この時期には書く仕事をまたやってみたいなという気持ちが芽生えてきていたんですよ。ブログは、私が書く文章のサンプルを見せるという意味合いもあったので、執筆のお話をいただいたときは嬉しかったですね。

書く仕事としては、楽曲の作詞もされているということですが、今まで作詞を手がけた楽曲の中で特に思い入れが深いものはありますか?

ジェーン・スー 「Tomato n’Pine」というアイドルグループは、作詞だけでなくビジュアルやコンセプトメイキングなどもやっていたので、やっぱりグループ自体に思い入れがありましたね。初めて作詞をしたのも彼女たちの歌でしたし。なので彼女たちのオリジナルアルバム『PS4U』は特に思い入れがあります。1曲を選ぶのは難しいです(笑)。

PS4U

Tomato n'Pineのオリジナルアルバム『PS4U』

作詞をするというのは難しくなかったですか?

ジェーン・スー 初めて作詞の依頼をされたときは、「やったこともないし、やりたいと思ったこともなかったので、できない」と正直に答えたんですよ。でも、依頼をくれた方が「大丈夫、できるよ」と言ってくださって。私はその人のことを信頼していたので、彼が言うのならできるのかなという気になっていったんです(笑)。手取り足取りいろいろ教えてもらいながらですが、形にしていくことができました。

それに、実際やってみたら楽しかった。それ以降も、Negiccoさん、PASSPO☆さん、でんぱ組.incさん、寺嶋由芙さんなど、アイドルの作詞はいろいろやらせていただいています。

“誰と仕事をやるか”に重点を置いてストレスを軽減。たまった疲れはマッサージでリフレッシュ

JaneSu

会社員時代と現在とでは、精神的にどちらのほうが辛いと感じることが多いですか?

ジェーン・スー 今のほうが気持ち的にはしんどくはないですね。もちろん大変なんですが、しんどさの種類が違うといいますか。会社員のときは、みんなで進めていかなければいけない部分があるので、思い通りにならないことや、理不尽なこともありましたし。なので、嫌だなと思うようなことは会社員時代のほうが多かったですね。……でもそれって、年齢の関係もあると思うので、一概には言えないのかも。年齢を重ねると、受け入れられる幅が広くなる。

たしかに20代、30代、40代では、それぞれ感じ方も違うような気がします。今はどんな仕事も楽しめているのでしょうか?

ジェーン・スー もちろん、どんな仕事もストレスは0ではないので、全くストレスがないというわけではないですよ。今の仕事だと、自分でクオリティを保っていかなければならないとか、多めに仕事を受けたときでも、誰かに助けてもらうこともできない、風邪なんてひいていられないというような緊張感は常にありますし。

では、ストレスをためないように工夫されていることは?

ジェーン・スー 私が感じる仕事のストレスって、ハードさじゃなくて、人間関係がほとんどなんです。なので、仕事を受けるときは“何をやるか”じゃなくて“誰とやるか”ということを意識するようにしています。

というのも、会社員時代に「仕事がうまくいくかは“誰とやるか”で決まるようなものだから、仕事のメンバーも運任せではなく自分でコントロールできるようにしろ」と先輩から教わったんです。実際、メンバーが信頼できる人ばかりだと、風通しのよさが全然違うんですよね。

なので、おもしろそうな内容の仕事だとしても、「私とは合わなそうだな」、「ちょっと信用できないかも」という人との仕事はやらない。そうやってメンバーに重点を置くことで、ストレスはだいぶ減らせていると思いますね。

それでもストレスがたまってしまったときは、どのようにリフレッシュされているのでしょうか。

ジェーン・スー マッサージが好きなので、疲れたらマッサージに行くようにしています。『今夜もカネで解決だ』という、マッサージについて語った本を出してしまうぐらい、とにかくマッサージが好きなんですよ(笑)。体の面はもちろんですが、心の面でも癒されますしね。体と心の疲れをためないというのは、いい仕事をするのに必要なことだと思っています。

今夜もカネで解決だ

AERAの連載を書籍化した『今夜もカネで解決だ』(朝日新聞出版)

感じたことを素直に発信。共感してもらうのは嬉しいけど、女性の代弁者になるつもりはない

女性の共感が集まるエッセイを多数刊行されていますが、ご自身の中で、「共感されること」について意識されている部分はありますか?

ジェーン・スー 捉え方は人それぞれですし、あまり考えていないですね。人によっては「何言っているのか全くわからない」と思う人もいるでしょうし。なので、「読者に共感してもらおう」と意識するのではなく、私が普段感じていることをできるだけ正直に書くようにしています。

「女性の代弁者」と評されていることについては、どのようなことを感じていらっしゃいますか?

ジェーン・スー 「この世代の代表」というつもりはまるでないですし、あまりそういうのを背負いたくないなとも思っています。共感してもらえるのは嬉しいんですが、そこから祭り上げられていくのは望んでいないというか。

私は、読者と会話しているつもりで書いているので、「私が言ったことが正解」みたいになってしまうのは違うと思うんですよね。読んでいる人が思考停止になってしまうのは本望ではなく、「私はどうだろう?」と考えてもらえたら嬉しいです。

なので、私の考えが正しいのではなく、「こういう考えの人もいるんだな」ぐらいで受け止めてもらえたら。

世間が抱いている「ジェーン・スー」というイメージと、本当の自分とのギャップというのは感じたりしますか?

ジェーン・スー キャラ作りで無理をしていないので、あんまり感じないですね。ラジオに出始めたときも、友人から「普段から話しているようなことをラジオで話してるだけだけど大丈夫なの?」って心配されるぐらいで(笑)。書籍を読んだ友人からも同じようなことを言われるので、ほぼ、「ジェーン・スー=私」なんでしょうね。でも、本名じゃないので、どこか他人事に見ている部分もあるんですよ。

別人格とまではいかないですけど、ジェーン・スーは“拡声器”みたいな感じで。ペンネームで出して大正解でした。きっと本名だったら、もっと自分をよく見せようとしていたと思います。

結婚寸前で破談になった過去も。恋愛の失敗があったからこそ、今の自分がある

JaneSu

「この出来事がなかったら今がなかったかも」というような印象的なエピソードがあれば教えてください。

ジェーン・スー 実は、35歳のときに結婚しようと思っていた人がいたんです。結婚式場の仮予約までしたんですが、結局うまくいかなくなってギリギリでひっくり返ってしまい……「結婚、やめようか」ということになったんです。お互いの価値観が合わなかったという根本的な部分もあるんですが、結婚に焦っていたとか私側にいろいろ問題があったので。相手は巻き込まれ事故ですよ、申しわけないです。

式場の予約をするなど、お話はかなり進んでいたんですね。結婚に至らなかった原因に、思い当たる節はあったのでしょうか……?

ジェーン・スー 当時、私の中で“人生の一発逆転”みたいなのを狙っていたんだと思います。「ちゃんと結婚する」という、“普通の人が普通にすること”を、「私にもできるんだ!」というのを証明したくて、いろいろ無理をしていたんではないかと。

当時の写真を見ると、別人みたいなんですよ! 表情も服装も髪型も、“女性とはこうあるべき”という姿に思いっきり寄せていて。あのまま無理をし続けなくてよかったと思いますし、相手も、こんなの妻にもらわなくてよかったと思っているでしょうね(笑)。

破局後、気持ちが落ち込んでしまった時期もあったかと思います。

ジェーン・スー もちろん悲しみはありましたが、それ以上に「やっぱり私、ダメだったか!」という諦めのような感情が大きかったです。「やっぱり、みんなと同じことができなかったな!!!!」と、自分にがっかりしました。

後悔はなかったのでしょうか。

ジェーン・スー そうですね。ないわけじゃないですけど、あのときに結婚していたら、アラサー時代の葛藤を書いた『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』も出せなかったですし。書いたとしても、結婚した女からの提言みたいな感じで嫌じゃないですか(笑)。

それに、今はラジオで忙しくしていますが、もし家族がいたらラジオをやることも躊躇していたと思うんですよ。テレビに出るようになったのも、ブログを書くようになったのも破談後の話なんですが、きっと結婚していたらいろんなことにストッパーがかかっていたと思いますね。

今は毎日が踏ん張りどき。のんびりする時間を犠牲にしても仕事に集中

最近、夢中になっていることはありますか?

ジェーン・スー 仕事ですかね。きっと、仕事をちゃんとしている自分が好きなんです。でも、仕事を優先している分、いろんなことを犠牲にしているとも感じています。例えば、のんびりする時間。SNSを見ていると、同世代の子たちは、子どももだいぶ大きくなったので、じっくり「大人のぬり絵」とかをしていたりするんですよ! 私にはそんな時間まるでない。教養だったり趣味だったり、自分の内側を仕事以外のもので濃密にしていくような時間、作業はかなり犠牲にしていると思いますね。

現在は、趣味に没頭したり、自分と向き合う時間は意識的に作っている……ということでしょうか。

ジェーン・スー 正直、今はそういう時間もとれていないですね。締め切りもたくさんありますし。働きどきというか、今が踏ん張りどきだと毎日思っているので。とにかく仕事をしています。

もしゆっくりできる時間がもらえるとしたら、どんなふうに使いたいですか?

ジェーン・スー 住環境を変えたいので、まず海外に住みます。そこで、本を読んだりしたいですね。締め切りのない、のんびりした時間を過ごしたいです。あまりにもヒマだから運動でも始めるかという気持ちになってしまうような(笑)。そうすれば、自分と向き合う時間も必然的にできそうですよね。

完璧な自分になることで、理想の人間関係を築けるとは限らない。コンプレックスが強みになることも

JaneSu

さまざまな出来事が、ジェーン・スーさんを作り上げていったと思いますが、まさしく「今の自分」を構成しているものはなんだと思いますか?

ジェーン・スー 仕事が好きという気持ちとコンプレックスがうまく反応して、今の状況が作り出されたとは思いますね。さっき話した「普通の人が普通にできることが普通にできない」というコンプレックスが、今の私を作ってくれているのかもしれないです。

ジェーン・スーさんは、コンプレックスを受け入れられているんですね。「コンプレックスが、今の私を作っている」というのは、なかなか自分では言えないと思います。受け入れるようになったのはどうしてだと思いますか?

ジェーン・スー 限界まで、「みんなと同じことをやる」を試してみたからじゃないですかね。徹底的にやって、それでもダメだとわかったので(笑)。

コンプレックスを克服しようという作業も、30代半ばぐらいまでは必死になってやるのも悪くないと思うんですよ。納得するまでやらないと、結局は諦めもつかないでしょうし。
やるだけやって克服できたらラッキーだし、ここまでやってもダメってわかれば、受け入れるしかないですからね。

あとは、コンプレックスがあるからこそ、人との差別化が図れたり、それが自分の強みになったりと、プラスに働くことを実感できたのも大きかったと思いますね。

ジェーン・スーさん流の、自分のコンプレックスや劣等感を受け入れていくコツはあるんですか?

ジェーン・スー コンプレックスを他者に受け入れてもらえると、自分でも肯定できるようになると思います。全方位の人にコンプレックスをさらけ出す必要はないので、心を許せる人に「私、こんなところがコンプレックスなんだ」と話してみたらいいんじゃないですかね。そうしたら、だいたいの人が受け入れてくれるか、そんなことないよと否定してくれると思うので、その繰り返しです。

あと、悩んでいるときって、だいたいヒマなんですよ。だから、自分を忙しくするっていうのは大事だと思います。頭で考えてばかりいるなら、体を動かしてみるとかして、その悩みから一度自分を離してあげるというのが大切かな、と。

だって悩みって、その人の頭の中にあるだけで、本質的には実在しないんですよ。悩むことが全て無意味だとは思いませんが、時間を取られすぎるのはもったいないですよね。その悩みは、自分が作り上げた単なる自意識のせいだったってことも大いにありますし。それなら、その分体を動かしたり、仕事や趣味に没頭したりするほうがよっぽど有意義だと思います。

最後に、理想の自分と、現実の自分とのギャップに悩んでいる人にアドバイスをお願いします。

ジェーン・スー 誰だって完璧な自分でいたいと思う気持ちはありますよね。その根底には、人から好かれたい、愛されたいという思いもあって、それぞれなりたい自分を目指しているはずなんです。

でも、「ここを突っ込まれるかも」と思うことに最初から回答を用意しているような、いろいろなことに予防線を張っている人って、あんまり好かれないと思うんですよ。仕事ができて見た目もステキな人でも、スキがあまりにもないと、こっちが息苦しくなってきてしまうし、これ以上踏み込んでいこうという気持ちになれなかったりする。

つまり、自分のなりたい“完璧な自分”になったところで、自分が欲している状況になれるとは限らない。無理しているのに、自分の思うような状況になれないなんて悲しいじゃないですか。誰からも愛される自分でいたいのだったら、素直で正直でいることが一番なんだろうと思いますよ。それが一番難しいんですけどね。

JaneSu

ありがとうございました!

取材・執筆/石部千晶(六識)
撮影/赤司聡

お話を伺った人:ジェーン・スー

ジェーン・スー

コラムニスト、ラジオパーソナリティ、音楽プロデューサー、作詞家など、幅広く活躍。『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』(ポプラ社)などのエッセイで、多くの女性から共感を呼ぶ。休日はだらだらと寝て過ごすことが多い。

次回の更新は、8月2日(水)の予定です。