「短時間勤務でも正社員になりたい」。簡単です。そう、オランダならね。

こんにちは。ニャートと申します。

過労で出版社を辞めてから、引きこもりを経て派遣社員として働いており、非正規雇用の働き方や社会のあり方について思うことをはてなブログに書いています。

さて、皆さんの中には、「家庭があるから短時間で働きたい。だから、パートや派遣で働こう」と思っている方もいるのではないでしょうか。

パートや派遣などの非正規雇用を選ぶ人について、総務省統計局は、このように言っています。

統計局ホームページ/統計Today No.97

「不本意型」非正規雇用者(331万人)の非正規総数に対する割合は18.1%であり、残りの約8割は、「自分の都合のよい時間に働きたいから」、「家計の補助・学費等を得たいから」などの理由で非正規雇用を選択しています。

統計局ホームページ/統計Today No.97

これだと「非正規の人は、自分で非正規を選んでいる」と受け取れるのですが、はたして本当にそうなのでしょうか。

「自分の都合のよい時間に働きたい」「家庭と両立しやすい仕事を選びたい」と思ったときに、日本では正規雇用に比べて待遇が劣る非正規の仕事しか選べない、というのが本当ではないでしょうか?

正社員とパートタイムとの待遇差を見ると、「短時間勤務でも、安定した正社員になれたらいいのに」と思いますよね。

実は、オランダではそれが当たり前なのです。

もともとオランダは「男性は働いて、女性は家庭を守る」国だった

OECDのデータ(2013年)によると、オランダでは、女性全体の61.1%がパートタイムで働いています。

ですが、昔からそうだった訳ではなく、もともとオランダは、少し前の日本のように「男性は働いて、女性は家庭を守る」という考え方が根強い国でした。

厚生労働省「「平成16年版 働く女性の実情」のあらまし」より

資料出所:ILO“LABORSTA”、総務省統計局「労働力調査」
(注)オランダ 1977,79年は14~64歳。アメリカ 1970,82-94年は15歳以上、1975~82,95年以降は16歳以上。その他の国15歳以上。

引用:厚生労働省「「平成16年版 働く女性の実情」のあらまし」より

グラフによると、オランダでは1970年頃は、女性は全体の約30%しか働いていませんでした。専業主婦として、家庭を守っていたのです。
それが2003年には、2倍以上の約70%が働くようになっています。

不況のため、ワークシェアリングで女性を活用

では、なぜオランダの女性は働くようになったのでしょうか?
それは、「オランダ病」と呼ばれた大不況を克服するためでした。

ざっくり言うと、1960年代に発見された天然ガスの輸出で、その後オランダは景気が良くなったことから、賃金が上がり(外国では労働組合がストライキ等を行うので、賃金は基本的に上昇します)、政府も社会保障費を増やしました。

しかし、そうした賃金コストと通貨高のため輸出企業の経営が悪化した結果、雇用を抑えて失業率は2ケタとなり、一転、大不況が訪れました。

高福祉国家だったオランダには、病気で退職した場合、次の仕事が見つかるまで直前の賃金100%(当時)が支給される「労働不能手当」があり、認定が甘かったため利用者が多く、国の財政を圧迫していました。

こうした状況を打開するため、企業・労働組合・政府は1982年にワッセナー合意を結び、互いに助け合うことにしました。

  • 企業は、ワークシェアリングを導入して雇用を増やすかわりに、労働組合に賃上げ要求を控えてもらう
  • 労働組合は、賃上げ要求をしないかわりに、企業に雇用を増やしてもらう
  • 政府は、減税するかわりに、企業に雇用を増やしてもらい、労働不能手当などの社会保障費を減らす

この時、今まで男性がやっていた仕事をシェアするため、家事を担う女性が短時間でも働ける環境を、法で整備したのです。

賃金を抑え、雇用を増やし、社会保障費を減らした結果、オランダの経済は再生しました。雇用者数は1.5倍になり、失業率は1983年の11.9%から2001年には2.7%にまで低下しました。

フルタイムとパートタイムはホントに平等?

では、フルタイムとパートタイムとの待遇差は、本当にないのでしょうか。

パートタイムに対する賃金や社会保障は、オランダの法律では以下のように定められています。

  • 賃金:フルタイムでもパートタイムでも、同一労働なら時給は同じ(1993年制定)
  • 有給休暇:働いた時間数に応じて取れる
  • 育児休暇:1年以上雇用されていれば、フルタイムと同じ育児休暇(無給)を取れる
  • 健康保険:フルタイムと同じ条件で加入できる
  • 年金:フルタイムと同じく、企業や労働組合の年金基金に加入できる(1994年制定)
  • 失業手当・疾病手当:フルタイムと同じ条件で、直前の賃金の70%(最低賃金水準を下回らない)が支給される
  • 雇用保険:フルタイムと同じく、1年以上継続して働き、1週間の所定労働時間が20時間以上なら適用される

1996年に労働法が改正され、労働時間による差別が禁止されました。つまり、賃金だけではなく、昇給や福利厚生など全ての面で、フルタイムと同じ権利が保障されるようになったのです。

さらに、2000年に労働時間調整法が制定され、従業員10人以上の企業で1年以上働いている人は、自分で労働時間の短縮または延長をする権利が認められるようになりました。
一般的に正社員は1日8時間労働でそれ以下は選べない日本から考えると、画期的なことです。

このように法律上は平等をうたっていますが、実際のところ、本当に給料差はないのでしょうか。

引用:経済産業研究所(権丈英子教授)「オランダにおけるワーク・ライフ・バランス―労働時間と就業場所の柔軟性が高い社会―」

引用:経済産業研究所(権丈英子教授)「オランダにおけるワーク・ライフ・バランス―労働時間と就業場所の柔軟性が高い社会―
(注:1時間当たり所定内給与額。20~24歳の男性フルタイム労働者の時間当たり賃金を100とした場合の各年齢階層における相対的賃金)

グラフを見る限り、フルタイムとパートタイムとの間には、日本ほど大きな給料差はないようです。

このように、法律がきちんと守られ、男性やフルタイムとの賃金・待遇差が比較的小さいからこそ、オランダでは女性の社会進出が成功しました。

いまの日本に住む私たちにできること

日本にも、主に女性が多く働くサービス業で、結婚・出産による離職率を低くし、優秀な人材に長く働いてもらうために「短時間正社員」制度を導入している企業があります。

例えばモロゾフ株式会社では、年間960時間以上(1日4時間程度)働く場合、待遇が正社員とほぼ同じである「ショートタイム社員制度」を早くから導入しています。フルタイムとショートタイムを何度も行き来することもできます。1960年代と早い時代から、パートでも育児休業(子どもが2歳3ヶ月になるまで)を取ることができました。

また、イケア・ジャパン株式会社は2014年に、全体の7割を占めていたパートタイマーを短時間正社員にすると同時に、同一労働同一賃金にし、労働時間数による待遇差をなくしました。

株式会社矢野調剤薬局にも、週30時間勤務でフルタイムと同条件の準社員制度があり、昼休みを12時半~15時と長めにとり、いったん帰宅して家事を片づけてから午後の勤務に戻るという働き方も可能です。

こうした企業が率先して行っているように、日本が国として女性を活用したいのなら、現在の男女間・雇用形態間の格差を法律でなくし、守らない企業には厳罰を与えることが必須だと思います。

先ほどのグラフにもあったように、例えば35~39歳のフルタイム男性とパートタイム女性とでは、賃金差は約2倍です。夫であるフルタイム男性と同じ時間働いても、妻であるパートタイム女性の給料は半分にしかなりません。

* * *

現実的に、格差が存在する今の日本で私たちにできることは、家庭と仕事を両立したいという意志を尊重してくれる企業をできるだけ探すことだと思います。

そのために必要なのは、情報収集力と交渉力です。
まだ少ないですが、リモートワークで在宅の事務職を募集している求人をちらほら見ることもあります。
また、初めはフルタイムで会社に入ったけれど、職場に必要とされる人材になってから家族の介護問題が発生し、交渉して時短勤務を認めてもらった知人もいます。

制約が少ない会社をできるだけ探して、自分の仕事を認められてから、家庭との両立を手探りで交渉していく。
高齢化による人手不足という時代の流れから、そういった試行錯誤も可能になっていくのではないかと思います。


著者:ニャート (id:nyaaat)

ニャート

出版社を過労で退職→引きこもり→派遣社員を経て、働き方や社会のあり方について思うことを書いています。
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