「いつかはこんなふうになりたい」という目標や、やりたいことを持っていても、それをかなえるための具体的な行動に踏み出すのは、なかなか難しいものです。自分なりにやっているつもりでも「これでいいのかな?」と不安になっている人もいるでしょう。
そんなとき大事なのは「やりたいことの本質」をまず見極めることなのかもしれません。
人気ブログ「週末北欧部」のchikaさんは、学生時代の旅行がきっかけで「将来はフィンランドでカフェを開きたい!」という夢を持つように。しかし夢の実現に向かって行動する中で、フィンランドでの寿司職人を目指すことにしました。
カフェと寿司、というと一見かけ離れているように思えますが、chikaさんの中では「自分らしい生き方と働き方を両立できる」という、一貫してブレない軸があります。chikaさんがそのことに気付いたのは「自分が本当にやりたいこと」を探すために、たくさんの寄り道をした経験からでした。
やりたいことを探したり目指したりするための道筋は、何通りあってもいいはず。面白い寄り道をしたことで、想像以上のキャリアにつながったというchikaさんのお話を伺ってみましょう。(※取材はリモートで実施しました)
就職2年目での転職で、自分には「本当にやりたいこと」がなかったと気付いた
chikaさん(以下、chika) フィンランドは、小学生のころからサンタクロースのいる国ということで興味があったんです。就活前に旅行してみることにして、クリスマスの時期に1カ月ほど滞在したらすごくハマりました。初めて日本以上に住みたいと思えた国だったんです。
フィンランドの人には、お互いに「好きなことをしていることを尊重し合う」みたいな文化があって。親友と過ごしているときのように、沈黙が続いても心地よく過ごせるんですね。私自身田舎育ちで、みんなと違うと浮いてしまう経験もしていたからこそ、尊重と無関心の間くらいの距離感でいられるフィンランドを好きになったのだと思います。

chika そうなんです。就職サイトで「フィンランド」と検索してもまったくヒットしなくて(笑)。最終的には、日本を拠点にしつつ北欧に関われそうということで、ネットで見つけた小さな北欧系の音楽会社に入社しました。その会社のスタッフは、私を含めて数名だけ。私は、北欧系のアーティストのイベントを全国のコンサート会場に売り込みにいく営業を担当しました。ただ、この会社は私が就職して2年目でこのままだとなくなってしまうという状況になり、転職活動をすることになりました。
chika そのときは北欧以外に関わりたいことが本当にありませんでした。すると、登録した人材会社との面談の中で「うちの会社を受けませんか?」と誘われたんです。
その面接で「好きな北欧に携わりたかっただけで、自分が何をしたいかは考えていなかったでしょう」と厳しいことを言われて「その通りだな」と思いました。好きな北欧に関われる会社に入社することがゴールだったので、その先で「自分は本当は何がやりたいの?」という部分がなかったんだと気付いたんです。
なので、次は本当にやりたいことや夢を持っていない自分を変えたいと思って。当初は3年半の期限付き契約社員で入社したのですが、「この期間をやり切ったら絶対に次にやりたいことが見えるから」という面接官の方の言葉を信じて入社しました。ここでやらなかったら変われない気がしたんです。つらいときは前職でやり切れなかったことを思い出したりして、自分を奮い立たせました。
やりたいことを見つけたいなら「選択肢」を増やせばいい
chika 当時の上司から「いろいろやってみて選択肢を増やしてみたら?」と言ってもらい、思いついたことを片っ端からチャレンジしました。最初は「将来、1年のうち3カ月くらいフィンランドで暮らせたらいいな」と思い、「だったら働き方を自分で選べる自営業がいいな」とライフスタイルから発想してみました。
まずは、「ブロガーとして収入を得られるのでは?」とブログを始めてみたり、ヴィンテージ雑貨のWebショップを始めてみたりしましたが、いずれも自分らしさを出すことがなかなか難しかったり、相手の反応が見えにくいことが自分に合わないと感じて、長くは続きませんでした。
このふたつの経験を通して、私にとって仕事とは「誰かのまねではなく自分らしさが生きること」「目の前の人が喜ぶ顔が見られること」が大事なんだと気付きました。その後に始めたカフェ修業ではどちらもぴったりハマり、「日本で北欧カフェを開きたい」と思うようになりました。
chika フィンランドはコーヒーの国民ひとり当たりの消費量が世界一になることもあるほど、コーヒー文化が盛んな国なんです。それに音楽会社のときから、日本にいながらも北欧文化を発信する仕事には魅力を感じていました。
また、修業をしたカフェのオーナーさんが季節ごとのメニューをどんどん変えていく人で、ひとつとして同じ仕事がないんだなと思えたし、自分が作ったものを目の前のお客さんが喜んでくださるのもすごくうれしくて。
カフェなら、自分らしさを生かすことも、目の前の人が喜ぶ顔を見ることもできる。自分らしい生き方と働き方が両立できると思えました。
「同じ苦労をするなら」と、カフェから寿司へ大転換
chika カフェ修業も3カ月ほどたつと、オーナーさんの苦労も見えてきて。そこで「どうせ苦労するなら好きなフィンランドで思いっきり苦労しよう」とひらめいたんです。どうせなら“苦労対効果”が高い方がいいんじゃないかと。「もっと大変な道になるけど、絶対にその価値がある!」とワクワクしたのを覚えています。
そこでフィンランドでの開業について調べてみると、就労ビザの壁が高かったんです。でも「寿司職人」は現地での求人もあるし、日本人であることも生かせるし、ビザも比較的取りやすいということを知りました。
すし職人に憧れたきっかけ#かもめ食堂プロジェクト pic.twitter.com/iaGs1E48Zo
— 週末北欧部 (@cicasca) February 22, 2020
chika 葛藤はあまりなかったですね。もともとカフェを選んだのも、コーヒーやカフェが好きだからというよりは、自分らしい働き方と生き方を両立できるからでした。
私にとって自分らしさとは、自分なりの経験や思いを踏まえて好きな場所で生きていくことだと考えています。そんな自分らしさが価値になり、目の前の人が喜んでくれる仕事ができるなら、手段については強いこだわりはなかったのだと思います。
早速、寿司学校を見つけて平日夜に開講する3カ月のコースに入学することにしたんですが、学校側の都合で申し込んだコースが中止になってしまったんです。
思い切って寄り道したことで、迷いがなくなった
chika はい。最初はビザ突破が主な理由でしたが、そのときは寿司職人はとても素敵な職業だと思うようになっていたので、さすがに落ち込みました。そんなとき会社の先輩から「海外勤務の選抜試験があるから受けてみたら?」と電話がかかってきたんです。締め切り15分前だったのですが、5分で申し込みをしました。その後、無事に社内試験を合格して、中国・広州に約1年間赴任することになりました。
chika ひとことで言えば「面白そう」と思えたからですね。また、寿司学校に入れず次のステップに進めないまま、今まで通りの仕事や生活をただ過ごすことへのもどかしさもありました。
chika 中国勤務が決まったとき、この1年を夢のモラトリアム期間にしようと決めました。すでに5年間夢を追い続けて「まだできていないのか」と自分を責めてしまうこともあったので、一度白紙にして「何でも選べるよ」と自分に自由を与えてみる期間にしようと思ったんですね。あのとき、一度夢を手放して距離を置いたからこそ、やっぱり自分の夢が好きだと思えたし迷いがなくなったのかもしれません。
中国では言葉が通じず、自分のキャリアの主軸である営業は言葉が変われば太刀打ちできないという儚(はかな)さを知りました。でも同時に「何でも楽しんで生きていける」という自分のたくましさも知りました。
「若いからこそできる」と言われる仕事もある中で、年齢を重ねることを価値にしたい、世界中どこにいても自分の経験によって目の前にいる人を幸せにしたいという自分のキャリア観が、より明確になったんですね。寿司職人はその全てがかなうし、フィンランドに行ってもなんとかなるだろうと、自分への信頼度が高まる1年にもなりました。
これからも、自分だったら絶対に選べない選択肢が不意に与えられたとき、それを面白いと思えるなら思い切って選びたいと思います。
中国での1年が終わった。
— 週末北欧部 (@cicasca) March 31, 2020
谢谢大家! pic.twitter.com/D9lZ2YJrJ3
寄り道や予想外の経験も、掛け合わせれば価値につながる
chika 最近は、新しく「書く仕事」という道も考えるようになりました。中国勤務をしたことで、海外系のキャリア経験者として『COSMOPOLITAN』のWebサイトでのコミックエッセイ連載のお話をいただいたんです。
2020年には2カ月間入院することになり、会社の仕事も寿司学校も休んだんですが、入院中はベッドの上で過ごす時間が多かったため、この連載だけは執筆できました。
緊急入院することになった① pic.twitter.com/EJRjwxqZTz
— 週末北欧部 (@cicasca) July 2, 2020
また、入院中の時間を使って、以前から書こうと思っていた「マイフィンランドルーティン100」をブログで書き始めたら、出版社から書籍化のお話をいただきました。結果的に、入院したことによって、新しく作家活動という軸を見つけることにつながったんですね。自分が望む望まないにかかわらず、起きた出来事は何かしらプラスになることもあると感じています。

以前、ブロガーとして収入を得られないかと考えてブログを始めたときは、自分にしか書けないものをうまく見つけることができずに挫折してしまいました。でも今は、中国や北欧での体験を含め、自分の経験を生かして書きたいことが増えました。
今は、ゆくゆくはお寿司半分、作家半分というライフスタイルが自分に合いそうだなと思っています。それは、先ほどお話しした「年齢が価値になり、世界中どこにいても自分の経験で人を幸せにできる」というスタイルのひとつになりそうです。
今は新型コロナウイルスのことがあるので状況を見つつ、近い将来フィンランドに移住したいと考えています。
chika ひとつは、まず始めてみること。目指している仕事に就いていなくても、バイトをしてみたり何かを学び始めたりして、「いつかやります」ではなく「今やっています」という状態で人に会えるようにしたいと常々思っていました。もうひとつは、不安や焦りがあるときはその原因をじっくり考えて、先回りして不安要素をなくすことです。
私は夢見がちなリアリストなところがあるんです。例えば、フィンランドで失敗しても大丈夫なくらい貯金してみようとか、帰国することになっても転職できるように今の仕事をがんばろうとか。漠然とした不安を抱え続けるのではなく、「準備しているから大丈夫だよ」と自分を安心させられるようにしています。だから、今もまだ「時間がかかっても、失敗しても大丈夫」と思えているのだと思います。
chika キャリアの道筋は、ひとつのことに向かって突き進む「山登り型」、流れに沿ってやりたいことを見つけていく「川下り型」などさまざまなパターンがあると言われています。私の場合は、ゴールは決まっているけれど、登ったり降りたり、斜めに動いたり自由な道筋を選ぶ「ジャングルジム型」なのだと思います。

今となっては、寄り道に思えたことも、むしろ唯一無二の近道だったんだと確信をもって思えています。
進歩がうれしい!
— 週末北欧部 (@cicasca) February 7, 2021
今日のすし学校🐥 pic.twitter.com/GcoYMOvddk
chika どんな経験も、必ずその人ならではの価値になります。「今、本当にやりたいことと関係ないことをしているな」と思っていても、実はその経験が他の人にはない価値になり、思わぬ形で「やりたいこと」につながる可能性があります。自分が望む最終的なゴールさえイメージできていれば、そこに向かうまでの行動は柔軟に考えていいんだと、これまでの経験で感じてきました。
それに、ひとつのことを極めるのも大事ですが、いろんな経験を掛け合わせることで「自分にしかないキャリアができる」という考え方もあると思っておけば、すごく面白い人生になるんじゃないかと思います。
取材・文:杉本恭子 編集/はてな編集部
これまでと違う環境で「働く」上で大事なこととは?
お話を伺った方:chikaさん