つくりおき食堂まりえ「忙しくて自炊ができなくても、食べてさえいればそれでOK」

若菜まりえさん

忙しく働いている人や子どもがいてまとまった料理の時間がとれない人に向けて、スキマ時間に作れる時短料理のレシピを紹介している人気ブログ「つくりおき食堂」。ブログのレシピは書籍化もされ、Twitterアカウントのフォロワーも31万人を超えるなど、ワーキングマザーを中心に圧倒的な支持を集め続けています。

「つくりおき食堂」運営者で時短料理研究家の若菜まりえさんは、ご自身もワーキングマザーとして忙しい毎日を送っている経験から料理ブログを開設したのだそう。そんな若菜さんに、ブログ開設のきっかけになったできごとや、読者から寄せられた反響、「食べること・料理をすること」への思いについてお話を伺いました。

料理好きになったフランス留学の経験

若菜さんは昔からずっと料理がお好きだったんですか?

若菜まりえさん(以下、まりえ) 自分で本格的に料理をするようになったのは大学時代です。ひとり暮らしを始めて、母親に教えてもらったレシピを参考に自炊をするようになって。当時はパソコンも普及していないしクックパッドなどもなかった時代なので母が書いてくれたノートを見ながら作っていたんですが、大学を卒業する頃にはひと通りの料理ができるようになっていました。

すごい! ひとり暮らしできちんと自炊するのって、意外と大変ですよね。

まりえ でも、本気で料理が好きになったのは大学卒業後かもしれません。大学を出た直後、フランスに1年間留学するチャンスがあったんです。ホームステイ先には私以外に中国とチェコの留学生がいたんですけど、そこではホストのフランス人の方と留学生が毎日交代で料理を作るルールだったんですよ。

フランスの田舎ってだいたいの食材が日本より安いんですよ。ベーコンやパテなどのお肉の加工品やチーズなどの乳製品、新鮮な野菜や果物、季節のおいしい食材がスーパーに安く並んでいて。自分が料理当番のときにはよくベーコンとトマトと玉ねぎで煮込み料理を作ったりしていました。ホストはフランス人の方だったのでフランスの家庭料理を作ってくれましたし、中国とチェコの留学生も自分の国の料理を作ってくれたりして……。

素敵ですね……! 毎日の食事が楽しみになりそうです。

まりえ そうなんです、そのときの食事がすごく楽しくて。フランスでの経験が、料理好きになった決定的なできごとだったと思います。

若菜まりえさん

産休育休を経て実感した、キャリアアップの難しさ

その後、就職されて、ご結婚・出産もされていますよね。仕事が忙しくなったり家族が増えたりすると、ひとり暮らしだったときと比べて料理にかけられる時間やスタンスも変わるんじゃないかな、と思うのですが。

まりえ やっぱり子どもが産まれてからは大きく変わりましたね。夫とふたりだった頃は、じっくりと何時間も煮込んでできる料理や自家製ベーコンなどもよく作っていたんですが、いまは子どもが台所に入ってきたら危ないので長時間かかる料理はしなくなりました。基本的には子どもが食べやすい食感のもの、喜んで食べてくれるものを作ります。

「つくりおき食堂」もまさに、働くお母さんや忙しい人に向けたレシピというコンセプトですよね。ブログを開設されたのは2016年ですが、なにかきっかけがあったんですか?

まりえ 当時、育休を終えた友達が「まりえちゃんって料理得意だったよね。これから職場復帰して忙しくなると思うから、なにか簡単にできる料理のレシピを教えてくれない?」ってメールをくれたんです。それで自分で考えた時短料理のレシピを友達に教えたんですけど、そのときはすでにオリジナルのレシピをメモしたノートが何冊もあったので、これをいろんな人に発信できたら役に立つかもしれない……と思って。

それから、同じ時期に私も出産を経て職場復帰をしていたので、その経験も大きかったですね。

つくりおき食堂

若菜さんが運営する『つくりおき食堂』。「調理時間の目安」などからレシピも検索できる

というと?

まりえ 出産前はフルタイムで働いていたこともあり手取りが結構あったんですけど、産休・育休後に時短勤務をするようになったら手取りが激減してしまって。正直ショックでしたね。かといって子どももまだ小さいから、フルタイムで働くという選択肢は選べませんでした。

そうですよね。産休後、育休後のキャリアアップのしづらさで悩まれている方、周りにも本当にたくさんいます。

まりえ 私もその中のひとりだったと思います。仕事は常に頑張っていたんですけど、妊娠期間に入ってくるとどうしても体調を崩しやすくなるのでお休みをいただくことも増え、成績が伸び悩むようになってしまって。産休後も時短勤務だから出産前のようにバリバリは働けないし、じゃあどうしよう……と考えたときに、起業という選択肢が頭をよぎったんです。

でも私が他の仕事を始めるとして、いまからなにができるだろう? そうだ、これまで蓄えてきた料理の情報を発信することならできる! と思って。

忙しい人たちにレシピを発信したいという思いと起業したい気持ちが、料理ブログを始めることで一気に解決できるなと。

まりえ はい、料理の情報発信を始めることで全てのベクトルが一致すると感じました。「時間がないけど料理がしたい」「忙しいけど家族に料理を食べてもらいたい」という方に時短料理のレシピを発信し、気楽に調理してもらいたい、と。自分と同じで忙しいけれど、例えば晩ごはんにおかずを2品出すとしたら「1品くらいはなにか手作りをしたい」と思っている方のニーズに応えたいと思い、忙しい人に向けたつくりおきというコンセプトでブログを開設しました。今の仕事を続けながら、ブログを通じて料理の活動をしたいと考えたんです。

ひとつのレシピで全ての人のニーズは満たせない

つくりおき食堂のレシピ、私もよく参考にしているのですが、「なんとかスパイスパウダーなどは使わない」「子どもがおもちゃやテレビに夢中になっているわずかな時間に簡単にできる料理」といったルールが設けられているのがすごく親切だなと思うんです。なんとかスパイスパウダーとかって、買っても絶対余らせてしまうので(笑)。

まりえ 私ももともとインターネットでよくレシピを検索していたんですけど、作りたいなと思ったレシピの中に「トマトピューレ大さじ2」とかあるともう、別の料理にしようって思っちゃうんですよね。いまでこそ料理研究家なのでだいたいの調味料や食材はそろえているのですが、一般的な家庭の冷蔵庫にトマトピューレはなかなか常備されていないじゃないですか(笑)。

しかも大さじ2!

まりえ 絶対余って腐らせちゃいますよね……。だから私の場合は、ブログに載せるレシピの食材は「なるべくどこでも買えるもの」で、「使いやすい分量」にするようにしています。トマト缶などを使うことがあれば量は1缶まるまるかちょうど半分になるように……といった感じで。

本当にありがたいなといつも思います。

まりえ あと、Twitterでブログのレシピを発信すると、「めんつゆがない場合はどうすればいいですか?」「焼肉のタレがなくても作れますか?」という質問をたくさんいただくので、最近はレシピの最後に「おきかえ可能リスト」をつけてこの食材でもOKです、というのが分かるようにしています。自分もそうですけど、家にない食材が多過ぎるともう作らなくていいや、ってなってしまうと思うので。

若菜まりえさん

徹底して読者目線なんですね。コメントは主にTwitterで寄せられるかと思うのですが、読者からの反響でレシピを改良したり、次に作る料理の方向性を変えたりすることもあるんですか?

まりえ レンジだけでできるおかずが想像以上に人気だったので、レンジ調理のレシピは読者の方が増えてくるにつれて多くなってきたな、と思います。それから、個人的には1品の中に何種類かの食材を入れるのも好きなんですけど、読者の方からの反響が大きいのは野菜1種類だけとか肉1種類だけで作れるおかずなので、そういったレシピも増やすようにしましたね。

「鶏もも肉の塩レモンだれ」のレシピも、鶏もも肉とレモン汁やコンソメだけでできるのにすごくおいしい、とバズりましたよね。

まりえ そうですね……! Twitterで話題になったのが去年(2018年)の2月だったんですが、あのレシピをきっかけに一気にフォロワーさんが数万人にまで増えました。

やるからには突き詰めたい

若菜まりさんの書籍。忙しい人専用つくりおき食堂の超簡単レシピ

書籍発売は、ブログ開設当初からの目標だったそう。いずれも簡単にできるレシピを多数収録

ブログの読者の方から寄せられた印象的なコメントなどってありますか?

まりえ いちばん感動したのは、お体が不自由な方から「つくりおき食堂を見てレンジだけでできる料理を作って、家族に食べさせてあげることができた。それがすごくうれしかった」という趣旨のコメントをいただいたことがありまして、スマホで感想を読んだときに道端で泣きました。私のしたことでこんなにも喜んでくださる方がいるんだ、と思って。

それは確かに泣いてしまいますね……。

まりえ それからつい最近も、小学生の子が夏休みの自由研究で私の料理を作って、その工程や感想を手書きのノートにまとめてくれているのを見たんですが、すっごくうれしかったですね。まだ料理をするような年齢じゃない子が料理にチャレンジしてくれて、しかも自由研究に選んでくれたという。感動して、それもボロボロ泣きました(笑)。もちろんそういったことじゃなくても、こんなに簡単にできたのにおいしかったです! というコメントをいただくと励みになります。

ブログを続けられているモチベーションって、やっぱりいちばんは読者の方からの反響ですか?

まりえ そうですね。それも大きいですし、さっきの起業の話もですけど、なにかをやるなら突き詰めたいという気持ちが強くあります。

確かにとてもアクティブな方だなとは感じます。今後、ブログを通じて叶えたい理想や、世の中に発信していきたいことなどってありますか?

まりえ やはり、忙しい人やお料理を始めたばかりの方にも作れる簡単・時短料理を発信していきたいという気持ちは一貫しています。今後はYouTubeでもレシピを紹介していけたらと思っているので、忙しくても10分でできる晩ご飯の献立を中心に料理動画をこの秋から発信しています。

2019年9月末にスタートしたYoutubeチャンネル|つくりおき食堂まりえの『らくしぴ』

どんなものであれ、食べてさえいれば大丈夫

いま、自分自身や家族のためにできたら自炊がしたいけれど、働きながら料理をする余裕がなくて悩んでいたり、逆に料理をすることがプレッシャーになってしまっていたり、という方は少なくないと思います。そういった方に若菜さんからのメッセージがあったらお聞きしたいのですが……。

まりえ 私もお惣菜を買いますよ。作り置きおかずがなくなり、作り足しする気力が出ないときは、罪悪感なくスーパーのお惣菜です。

そう言っていただくとホッとします。自炊を100%し続けるのは難しいですよね。

まりえ そう思います。よくないのは「食事の機会を持たないこと」と「食事に過度なストレスを抱えてしまうこと」だと思います。著名な料理研究家、鈴木登紀子先生も“食べることは生きること ”と仰っています。食べることを大切にしてもらえたらうれしいです。

忙しくて食事を抜いてしまう、お惣菜とレトルト中心の食生活に罪悪感を持ち過剰なストレスを抱えてしまうことがよくないと思っています。

時々、「毎日忙し過ぎて、子どものごはんがレトルト・惣菜・パンのローテーションになってしまっている。これでいいのだろうか」という方を見かけることがあります。そういう方に対して「私のレシピなら簡単に作れますよ」とは言わないです。負担になってしまうだけですので。「食事の機会を持ってるならOK!」って思います。

ひとり暮らしで忙しく働いている方に関しても同じですよね。

まりえ そうですね! 忙しすぎてゼリー飲料を吸うだけで食事を済ます、みたいな生活がずっと続くと心身ともに壊しがちになってしまうと思いますので、お惣菜やサラダをプラスするとか……。そういうふうにして、食べることを大切にしてくれさえすれば大丈夫ですよ、と私は思います。

若菜まりえさん

取材・執筆/生湯葉シホ
撮影/小野奈那子

お話を伺った方:若菜まりえ さん

若菜まりえさん

まとまった時間がとれない忙しい人でも続けやすいように、スキマ時間にパっと作れてサっと味が決まる時短おかずを紹介するサイト「つくりおき食堂」を運営中。主な著書に『忙しい人専用 「つくりおき食堂」の超簡単レシピ』『忙しい人専用 「つくりおき食堂」の即完成レシピ』(扶桑社)。Twitter、Youtubeも更新中。
Web:つくりおき食堂
Twitter:@mariegohan
Youtube:つくりおき食堂まりえの『らくしぴ』Marie's Luck Recipes

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編集/はてな編集部