「誰も助けてくれない」という絶望感から「誰かの手助けに時間を費やす」まで。“プロ外資系OL”ずんずんさんが考えてきたこと

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シンガポールでグローバルIT企業に勤める“プロ外資系OL”としてブログ「ずんずんのずんずん行こう!改!」を書くほか、外資系企業の実態を描くエッセイや仕事術に関するビジネス書などの書籍、Webメディアの記事を執筆するずんずんさん。普段はシンガポールに在住のずんずんさんに、大変運良く、日本でお話を伺う機会がありました。著書のサブタイトルにある「超ブラック企業の元OLが、世界一の外資系企業で活躍するまで」についてお聞きしました。

「プロ外資系OL」への第一歩は新卒入社時の激務だった

「プロ外資系OL」になるまでの経歴について教えていただけますか。

大学を卒業後、日系企業に経理として就職しました。当時は手に職を付けなきゃいけないという焦りがありました。最初の会社がとにかく激務で苦しくて、心身の調子を崩しまして、「丸の内OLになりたい!」という夢を叶えるべく転職活動をしたところ運良く外資系投資銀行に入りました。そこから何回か転職をして、今はシンガポールのグローバルIT企業で財務・税務を担当してます。

著書で外資系企業を題材にしているように、最初の会社と外資系企業ではだいぶカルチャーなど違うのではないかと思いますが、転職先はどう探したのでしょうか。

転職サイトを使っていました。転職先を探していたらなぜか外資系の面接に呼ばれたという感じです。たぶん、最初の会社で年齢の割にたくさん働かされたので、その分の経歴が強かったんじゃないですかね。新卒1年目でどんどん上司が辞めていっちゃって、入社して半年でマネージャーになって……。

新卒でマネージャー……どうしてそうなっちゃったんでしょう……。

何も知らずにピュアなハートで就職したんです。そうしたら本当にどんどん人が辞めていきまして……。

部下はどのくらいいたのでしょうか。

誰もいません。“一人マネージャー”です。責任だけ大きくなって給料は初任給でして(笑)。管理職手当も付かなかったです。誰も何も教えてくれないので、いっぱい失敗して、怒られまして。今思えば「ひどいことするなぁ」って思いますね……。自分だったら絶対にそんなことさせないのに……。

ずんずんさんの上司に当たる人は入社してこなかったんでしょうか。

人員が充当される前に、私が1年で辞めちゃいました。

1年で転職されたんですね。転職後のギャップはありませんでしたか?

最初の会社での激務とは全く違いましたが、精神的にすごく苦しかったです。お局様だらけで、日本人同士のやりとりなのになぜか英語を使うし、メールもExcelも英語になりました。しかも、また誰も何も教えてくれない。採用時には実務の経験があればいいということだったはずなんですが、それまで全然英語を勉強していなかったのですごくばかにされました。今思えばよく入れたもんだなと思います……。会社の期待している「英語ができない」と私の「英語ができない」のレベルが違っていたんだと思います。私だったら雇いません(笑)。

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今のシンガポールでの生活はいつからですか?

4年くらい前ですね。当時勤めていた外資系の企業でまた体調を崩してしまい、ちょっと遊びたいなぁと思いました。シンガポールには友達も住んでいましたし、英語の勉強をしがてら行ってみたんです。

シンガポールに移ってから就職活動をしたんですね。

はい。本当は日本に帰ってくるつもりだったんですが、そこでアベノミクスが起こりまして、自分の財産がきゅーんと減ってしまい、しょうがないから働くか、どうせだったら海外で働いてみようか……と。

「誰にも頼っちゃいけないから自立しなきゃ」という恐怖心でのモチベーション

1社目も2社目も仕事を教えてくれる人がいなかったということですが、どのように仕事を覚えていったのでしょうか。

盗むしかないですね! 教えてくれる人がいなければ背中を見て盗むしかない。

なんだか職人の世界ですね。

最初の上司のやり方を盗んで、転職して、転職先でもやっぱり上司のやり方を盗んで……。上司のお気に入りの人のしゃべり方や態度を見てどうしたらいいか考えたりもしました。自己啓発の本も読みました。

誰も指導する人がいないという状況からのスタートで、仕事への熱意やモチベーションを保ち続けられる理由について教えてください。

「なんでこんなに仕事を頑張っているのか?」について自分でも最近考えていたんですよ。やっぱり学生時代にモテなかったのが一番強かったですね!

モテ!

悲惨ですよね……。そのせいだけではありませんが、結婚について夢を持つことはありませんでした。自分の母親が、結婚していて幸せそうには見えなかったんです。母親はよく「自立していないと人生がつまらない」と言っていて、「お母さんみたいになりたくないな、手に職を付けて働きたいな」と思ったのが最初のモチベーションだったと思います。

「母親が娘に与える影響」は大きいように感じますね。

「専業主婦」か「手に職を付けて自立」かといった考えはいったい誰が刷り込んでるんでしょう。何か大きい力による陰謀では……!?

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私の場合は生きるために働いています。「働いていないと自立できない」という考え方が強くて。経済的に自立しないと、自由がなくて、他人に人生を操られちゃう感じがしますからね。基本的には「この厳しい世界で、サバイバルして生きていかなければならない」「誰にも頼ってはいけない」という気持ちが強いです。

その気持ちのきっかけは、家族との関係性だったのでしょうか。シンガポールで受けたコーチングに関する記事(2014年11月)でも書かれていましたね。

お父さんに「私の事愛してますか」と聞けますか? - ずんずんのずんずん行こう!改!

ええ、「頼っちゃいけないから自立しなきゃ」というある種の恐怖心ですね。悲しいですよねぇ……。うっうっ。恐怖心にドライブされていたように思いますね。

「誰かが都合よく助けてくれる世界はない」と思っているんですね。

でも、心の奥底で、待っているんですよね。自分は自立しなければならないと思い込んでいつつも、どこかで誰かが助けてくれるんじゃないかなって思っていて。それに気づいた時、自分自身に絶望しました。でも気づけたことによって「そんな都合のいいことはあるわけないじゃん」と本当に自覚できたと思います。

いろいろあって最終的に今の仕事のモチベーションがどうなっているかというと「責任感」ですかね。あとは「チームメイトに失望されたくない」というのもあります。

同僚の期待を裏切りたくないということでしょうか。

「自分の果たすべき役割がある」とか「チームに貢献する」とか、言葉に出すと恥ずかしいですね(笑)。

「誰も都合よく助けてくれない」という絶望感から、現在のお友達や同僚との関係性が生まれていったのがすごいですね。

自分が考えていた「助けてくれる」というのは、ファンタジーの世界のようなものだったんですよね。「絶対的な救世主が現れて、いつか自分を救ってくれる」というような。現実にそんなことは起きないですし、自分ができることをやっていくのが一番良いかな、と思うようになりました。近くの人の幸せだけを考えていく。

現実性のない、すごく大きなことを考えるのではなく、自分ができることを考えれば、誰かを助けることができて、幸福感を得られる。そういうことが人生の幸せの一つなんじゃないかなって思います。

シンガポールで受けたコーチングで「人生悪くないな」と思えた経験からコーチングを趣味に

「誰かを助ける」というのは、趣味であるコーチングと通じるものがありそうですね。

コーチングは直接誰かを助けるものではないんです。その人が気づいて立ち上がれるための手助けをすることがコーチングです。ファンタジーの世界のような絶対的な存在は訪れないけれど、自分自身に立ち上がる力があるということを知ってもらえれば、人生変わってきますよね。こうしてインタビューを受けられるようにもなります(笑)。

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絶望して一人きりでいるよりも、見方を変え、行動を変えていけば、楽しいことがあるんじゃないかと思います。人生で変えられるのは、未来のビジョンと、今の行動と、考え方だけなので。

シンガポールで受けたコーチングというのはどのようなものなのでしょうか。

「自分の認知を変える」ことです。課題の解決がうまくいっていないところを整理していきます。カウンセリングやセラピーのような「癒やす」ものとは性質が違いますね。マイナスからゼロにするのが癒やしだとすると、ゼロからプラスにするのがコーチングです。

例えば、「道を歩いていたら変質者に遭った」という嫌な経験をするとします。変質者は怖い。嫌な経験は記憶になりますよね。「あの道を歩くと変質者が出る」という思い込みが発生します。その思い込みで、行動が変わってくるんです。「その道を歩かない」。

実はその道に変質者が出たのは何十年に1回だけだったかもしれなくて、自分はたまたまそれに遭ってしまっただけかもしれない。空手を習うなどしてものすごく強くなったとしても、「ここは歩かない」と決めてしまうんです。その認知のゆがみを解消すれば、その道を歩けるようになります。これは分かりやすい例えですが、似たようないろいろなことが人生で起きているんですね。

コーチとマンツーマンで行うんですか?

はい。コーチングでは、先ほどの例えでいえば、

  • 「どうしてその道が怖いの?」「変質者が出るからですよ」
  • 「今もその道に変質者は出るの?」「それは知らないです」

という会話をしていきます。コーチはその人が見えていない「ブラインドスポット」を客観的に見て、そこを突いていくんです。

コーチングはみんながみんな受けるようなものではないと思いますが、私の場合は、人生の謎を解きたくて受けていた感じですね。

趣味としてのコーチングでは、見知らぬ人からの問い合わせを受けるなどしていますよね。海外からどう対応しているのでしょうか。

Skypeを使っています。人によってはビデオチャットで話すこともあります。私のブログの読者さんは真面目で、将来のキャリア設計の話を聞いてくる人もいますね。「自分は嫌なのに繰り返してしまうこと」を解き明かしていくのは非常に面白いですよ。恋愛でいえば、「恋愛でいつもダメ男に引っかかってしまうのはなぜ?」のようなことですね。

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ネット上では素顔を出していないですが、ネット経由で問い合わせをしてきた方に対して顔を見せてしまうことに抵抗はありませんか?

全然知らない人からコーチングを受けるためにメールを送るって、すごく勇気が要る行動じゃないですか。仕事や家族の話をすることだってありますし……。「その誠意には応えなければならない!」と思いますね。

ずんずんさんにとって、そういう方はいたのでしょうか。

ううう、全然いなかったですね……誰かいてくれればよかったのに……。

自分自身は誰かから助けられなかったのに、誰かを手助けするコーチングを趣味にされたのはなぜですか?

なんででしょう……自分はそれまでの人生がすごく苦しかったんですね。実家は貧乏だし、両親はひどいし、友達はいないし……みたいな、結構つらい人生だったんですね。でも、コーチングを受けて自分の人生の見方が変わって、悲観的な物事の見方だけじゃなくなって、「そんなに悪くないな」って気づいたんですね。

見方を変えることによってもっと生きやすくなるなら、周りの親しい人やブログを読んでくださる方にも知ってほしいと思ったんですね。「世界はもっとよくなるんだ!」みたいな(笑)。そこに自分の時間を費やすのもいいんじゃないかなって思うんですよね。

日本ではコーチングを受けることはあまりポピュラーではなさそうですよね。

ビジネスチャンスかな? 起業しちゃおっかな?(笑)

自分の人生の優先順位を付ければ少し楽に生きられる

最近「英語ができるようになるために会社を辞めよう!」という記事がブログにありました。最初の転職時にどうやって英語に取り組んだのか教えてください。

3か月でTOEICで700点以上取る方法 - ずんずんのずんずん行こう!改!

そうですねぇ、やっぱり人間「命をかけないといけないタイミング」ってあるじゃないですか。

命……。

外資系企業に入ってみたら、会社のメールも英語、Excelも何もかも英語なんですよ。そこで何もできないということは、「命がかかってる」ということでして、英文法もメールの書き方も分からなかったので、英語を書けてる人のコピー&ペーストから始めました。

「英語は筋トレ」という言葉もありましたね。

英語って、階段状にスキルが上がっていくんです。「しばらく勉強してふっとレベルが上がる」の繰り返しです。上がらないときの絶望感がすごいんです。そこでやめるとそのレベルで終わってしまうんですが、続けると上がるんです。これを一生繰り返すのが英語の勉強なんじゃないかと思います。

日本で生まれ、日本の学校を出ていると、もう積み重ねていくしかないんです。吸収しているインプットの量が違うネイティブの人や帰国子女のレベルに、ドメスティックな日本人がなるのは無理なので、あきらめた方がいい! 無理をするなと言いたい!

効率良く学ぶ方法はやはりないんですね……。

「ネイティブみたいに英語を話したい」というのを目標にしちゃうと、そこにエネルギーをすべて使っちゃうじゃないですか。でもそれってあまり意味がない。「ビジネスで通じればいい」くらいでいいと思います。

失敗するのが怖い人はあまり上達しないですね。「文法を間違えた」「恥ずかしい」と思うともうしゃべれなくなっちゃうので。もし相手から「は?」というような「お前の言ってること分からないぞ」といった感じのリアクションがが来ても、「私の英語は頭の良い人なら分かるの、なんであなたは分からないの?」くらいの勢いで話していけば、相手もだんだん「この子は英語ができないんだ」ってあきらめるんですよ。でも相手も命がけで「私がこの子の話を聞いてあげないと仕事が進まない」と思って聞いてくれる。恐れずにいっぱい話して、いっぱいインプットとアウトプットを増やすしかないです。学問には本当に王道がないですね。

英語の他に何か取り組んでいることはありますか? 特に心身のケアで気を付けていることがあれば教えてください。

今はジョギングと筋トレをしています。ロッククライミングもやります。面白いですよ。

スポーツが好きなんですか?

昔は全然好きじゃなかったし苦手だったんですけど、労働時間が長いと、体力を付けないと苦しいじゃないですか。「死にたくない」っていう気持ちですね。なんで私の話はいつも悲惨な話になるんでしょう(笑)。このままだと死ぬぞ、生き抜きたい、って思っていますね。筋トレをして筋肉が付いて体力も付いて、この体力を何に使えばいいんだ? スポーツをするか、と。

最初は仕事のために体力が必要だと考えたんですね。

ロジカルに考えた結果です。最初はパーソナルトレーナーからやり方を学びました。結果としてスポーツがだんだん好きになりましたし、一時的なストレス発散にもなっています。

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今働いている中で、ずんずんさんが憧れるような人、こうなりたいと思う人はいますか?

これまでいなかったし、今もいないです。切ないですよねぇ。適切なロールモデルは欲しいですし、いたらもっと人生楽なんですが……。会社では上司にも同僚にも頭が良い人がたくさんいて、すごいとは思いますが、その人のようになりたいと思ったことはないです。「頑張って媚びていくぞ!」という気持ちです。

スーパーな人が多いんですね……。

うっうっ(泣)。自分がロールモデルになればいいんですよ! 私たちの世代にはいなかったんだから、自分がなるしかないんですよ! 自分がそうなって下の世代の者に見せていくしかないんですよ! それが新しい生き方なんじゃないですかねぇ。

働き方に迷っている人に向けてずんずんさんが声を掛けるとしたら、何をアドバイスするでしょうか。

さっきから「死にたくない」「生き抜きたい」とか物騒なことばかり言ってますが、「人生の優先順位を決める」のが大事なんじゃないでしょうか。仕事を一番にするのか、家族を一番にするのか、友達関係を一番にするのか。決めたことに対して心のエネルギーの分配方法を決めればいいと思うんです。

仕事を優先順位1位にして、全身全霊、100%の力でやると、仕事がうまくいかなかったときにすごく苦しいですよね。「家庭をナンバーワンにする、仕事は3割」というふうに決めておけば、少し楽になります。自分の人生で何が大切なのかを考えればいいんじゃないかなって思います。

ありがとうございました!

お話を伺った人:ずんずんid:zunzun428blog

ずんずん

グローバルIT企業に勤める、公私ともにプロ外資系OL。趣味はコーチング。著書に『外資系OLは見た! 世界一タフな職場を生き抜く人たちの仕事の習慣』(KADOKAWA)、『エリートに負けない仕事術』(大和書房)がある。自称ツイッターの天使(@zunzun428)。

次回の更新は、6月14日(水)の予定です。