はたらく女性の深呼吸マガジン

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“働き方を選択できる社会づくり”に取り組む一般社団法人「at Will Work」の藤本あゆみさんに聞く、選択肢の考え方

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今回お話を伺った藤本あゆみさんは、“働き方を選択できる社会づくり”をミッションとする一般社団法人at Will Workの代表理事を務め、働く人それぞれの「理想的な働き方」を実現するための課題に取り組んでいます。2017年2月には「働き方」を幅広い論点から議論するカンファレンス「働き方を考えるカンファレンス2017」を開催。実は株式会社お金のデザインの広報としても並行して働く藤本さんに、より女性が働きやすくなるためのヒントやご自身のパラレルキャリアへの考え方をお聞きしました。

より働きやすくするためには「自分の半径5メートル以外について知る」

「一般社団法人at Will Work」が2月に開催したカンファレンスは、働き方の事例を抽出してノウハウの研究と体系化・共有する場の構築を目指すものとのことですが、どのようなことに取り組んでいるか教えてください。

at Will Workでは、普段は5人の理事がそれぞれ“働き方を選択できる社会づくり”というミッションに沿うネタをあちこちで展開しています。ですが、2月のカンファレンスでは行政・企業・研究者・個人と多くの方々に登場いただいて、ワークスタイルはもちろん採用や生産性、心身の健康、環境づくりなどについてディスカッションしました。冒頭の挨拶では「この場にはヒントはあるけど事例はないです。事例はあくまでもどこかの会社の結果であって、それをそのまま実行したからといってあなたの会社の『良い事例』にはならない」というお話をしました。今年は他にもいろいろな企業さんとの共同企画の構想があります。

「りっすん」では女性の働き方にフォーカスしています。「女性がより働きやすくなるには」という課題へのお考えをお聞かせください。

大事なのは、「自分の半径5メートル以外にも、自分と同じことを思う人がいる」という事実を知ることだと思っています。人はどうしても、自分の近くにいる人の影響をすごく受けるんですよね。本当は変わりたくないと思っているのに、周りの人が「このままじゃだめだ、変わらなきゃ」なんて言っていたら、そこに同調してなんとなく「変わらなきゃいけないかも……」という気持ちにどうしてもなってしまうんですよ。

影響力が大きい人の近くだとなおさらかもしれないですね。

でも、人間そこまで強くないです。自分の考えはきちんと守らないとつらいし、そういう状況で自分が1人だと思ってしまうとさらに身動きが取れなくなってしまう。そこに「自分は1人じゃない」と認識できるきっかけを提供できれば、「意外と自分の考え方も良いんじゃない?」と思えるようになるんじゃないかと考えています。

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今まさに、そのために何ができるのか、いろいろやっているところです。開催したカンファレンスもその1つです。今後は人の事例をたくさん集められるような仕組みや仕掛けを作っていきたいと思っています。単なる成功体験だけが集まっては面白くない。イメージしているのは「1億2千万人の図鑑」なんです。もちろんその中には子供もお年寄りも含まれるので、全員が働いているわけではないんですが、ざっくり1億人くらいの働き方や考え方が集まる「図鑑」があればいいなと考えています。

それが「半径5メートル以外」という言葉に含まれているんですね。

自分に似た働き方や考え方を持つ人が、もしかしたら全然違う土地にいるかもしれないですよね。自分に少しでも近い人を見つけて「そういうのもありなんだ」と感じられれば、納得できると思います。

at Will Workで“働き方を選択できる社会づくり”という言葉を決めた際に、「選択できることが人にとって一番の幸せなんじゃないか」と考えました。実は、変わらないということも選択肢の1つなんです。「変えたくないのに変わらなきゃいけない」という状況はストレスになって、そのマイナスのパワーの影響力は、プラスに変化することよりも多大です。例えば「日々流されていて、こんなんじゃいけないな」と思っていても、そのせいで焦る必要はないし、無理矢理変わる必要もない。

自分の納得できる働き方をする、ということですね。

at Will Workの活動でも「みんながみんな働き方を変える必要はない」という話をずっとしています。変わりたくない人は変わらなくていいんですよ。今働きづらいと思っている人やもっと良い働き方をしたいと思っている人は、環境が変わることでパフォーマンスがもっと上がるし、変化は良いことなんですよね。

「変わりたくない人が変わらないという選択肢を選び取る」というのも難しいことのように思えますね。

今はみんなが変化について考えなければならない、世知辛い時代になっていますね。これは本当に大変なんですよ。たぶん女性の場合、親の価値観や周りの人の価値観に縛られることが多いと思いますし、その価値観から抜け出すためには選択肢を知っていないといけない。分かりやすくメディアに登場するような人って「超頑張ってます!」みたいな人が多いんですよね。ストーリーは素晴らしいけど「そこじゃない!」って思う(笑)。選択肢を知らないから動けない、できないという人が多いのであれば、それを知るきっかけをたくさん増やそう!というのが、私たちがやっていることです。

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「変わらなきゃいけない」「変わっちゃいけない」のどちらかしかないのは強制であって選択ではない。人は自分で選択ができるとその結果に納得もできますし、それを信じていけます。それは自分の意思だから。「変えたいと思うことも、変わらないということも、あなたにとっては選択肢なんですよ」と言い続けるようにしています。

「法人の代表理事」「企業の広報」2つの“本業”での働き方

藤本さんの2つの仕事、「一般社団法人at Will Work」「株式会社お金のデザイン」それぞれでの業務を教えてください。

働き方の情報が集まるプラットフォームを作りたくて前職であるGoogleを辞め、法人設立に向けて動く中で、「お金のデザイン」にいる元Googleの同僚の話を聞く機会がありました。自分とは縁遠いところにあった「ファイナンス」というものがとても面白そうに思えたので、「手伝わせてください!」と言って、今年の3月から広報として働いています。

雇用形態はどのようになっていますか?

どちらも正社員なんです。「お金のデザイン」では当初、業務委託契約でいいと思っていました。そしたら「お金のデザイン」会長の谷家(谷家衛さん)が、「君が作りたいのは『選択肢のある働き方』なのに、複数の仕事を業務委託でしかできないという選択肢を作ってしまうのは良くないんじゃないか。2つとも正社員でやるということを、自ら選択肢として示せたらいいんじゃないか」と言ってくれました。

at Will Workでは「代表理事」という名前は付いてはいますが、たまたまです(笑)。拠点は全員ばらばらで、隔週1回の理事会や普段のやりとりは全部オンラインで行っています。

最近では政府や企業で副業や兼業を推進する流れもできつつありますね。2つの仕事、それぞれどれくらいのウェイトで働いているのでしょうか。

最初は時間で区切ることを考えて試したんですが、なんだかあんまりうまくいかない。というのは、お金の話と仕事の話ってすごく密接な関係があるので、「お金のデザイン」の広報としてメディアの方と話しているうちにだんだん働き方の話になっていき、「実はこういうことをやっていて……」とat Will Workの名刺を出すと、両方の話ができるというケースが結構あるんです。今は、時間ではなくてそれぞれのミッションで決めています。

「ミッションで決める」とはどういうことでしょう?

at Will Workの代表理事として、「お金のデザイン」の広報として、何をすべきかというミッションをそれぞれ明らかにします。その中身について分かりやすいように周囲に説明しながら仕事をします。

忙しい時期もあるかと思いますが、時間のやりくりはどうされているのでしょうか?

もちろん時間のかけ方にばらつきはあります。例えば「お金のデザイン」でリリースラッシュがあるときはそちらに寄せて仕事していますし、at Will Workのカンファレンスのときには関連業務がとても多かったので時間をかけていました。それぞれ、どちらにもきちんと説明しながら進めます。1人だけではあまり仕事は進まないけれど、「こういうことをしています!」とどんどん公開していくと、自分が何をやっていて何が大変なのか、上司も含めみんな知っている状態になります。それぞれの仕事に対するアドバイスをもらうこともありますよ。

2つの“本業”をやっていく中で、大変な点を教えてください。

人によって可能な範囲でやり方を模索していく。副業や兼業については、大手の会社がそういう話を踏まえて「あれ、こっちの方が人が辞めない気がする?」という雰囲気になってきている気はします。とはいえ、制度面がまだ全然追いついていないです。例えば、労災ってどっちが払うの? 社会保険は2社で折半するんだっけ? 全然違う健康保険組合だったらどうするの?とか。

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ケースが集まって増えていけば「こんなことが起きる」「あのときはこうで」と話すことができます。前に進んでいかないと分からないことが多いので、自分の働き方のことは積極的に話しています。

判断基準もまだなかなか整っていない状態ですね。

どうしても時間で計るので、私が「どちらも正社員です」と言うと、1日16時間働いていることになるんですよ。今の法律上そういうふうに見えているけど、じゃあ本当に半々かというとそうでもない……。働き方の未来を考える上で、法律で決められないこともたくさんあるし、それをどのようにカバーしていくかが課題だという話はよく出ます。

もちろん労働基準法自体は、労働者の安全を守り、事業者による搾取を防ぐために作られているものです。でも意外とつぎはぎで決まったこと、前例が引き継がれていること、よくよく考えるとおかしいことはたくさんあります。事例が先行している現状で、そこが足かせになっているなら見直さないといけないけれど、例えば労災の例のように事故が起きた場合などで「やっぱりまずい」と変化が阻害されてしまうのは怖いですね。副業や兼業を先行してやっている人たちもその辺りはすごく慎重で、ノリだけでやっているわけじゃないということはとてもよく分かります。

「自分らしさを持つ」というのは幻想。人の良いところはピンポイントで取り入れる

藤本さんが前職のGoogleを辞めてat Will Workを起ち上げた経緯について教えていただけますか?

大学時代から「人と向き合うこと」が面白いと思っていました。新卒時には人材紹介事業とメディア事業をやっている人材紹介会社に入りました。人材紹介で人と向き合うような仕事をしたいと思っていたのに、私はメディアの方へ。しかもやりたくなかった営業に配属されまして……。でもそれが結構面白くて! 当時はまだ紙の求人誌がたくさんあるころで、その会社のストーリー、なぜ採用するのか、採用する人にどんな期待をしているのか、全部が真っ白なページの上で形になっていくのが楽しかったです。

5年目のときに1つ下の後輩と結婚することになったとき「辞めるか、異動か」と言われました。では念願の人材紹介事業に異動だ!と思ったんですけど、ふとそのとき「この先、私自身が転職することってそんなにないんじゃないか」と考えて。どうせだったら何か違うことをしてみようと思って転職活動をして、縁があってGoogleに転職しました。

当時のGoogleの雰囲気はどのようなものでしたか?

Google マップはありましたけどまだストリートビューはない時代でしたね。就職人気企業ランキングの上位に入っているのを見ると感慨深いですね。

2年そこそこ働くくらいで良いかなと思っていたんですが、結局9年も在籍しました。普通の企業がおそらく100年くらいかけてやることを、短期間でやっている最中にいられたのは、とても良かったと思っています。

そんなGoogleを離れたのは法人設立のためということでしたが、法人を作ろうとした動機は?

長くいると一通りいろいろなことができてしまって、7年目くらいから何か新しいことをしたくなりました。いろいろ試行錯誤をしていく中で、当時は「働くお母さん」を支援するプロジェクトだった「Womenwill Project」の手伝い募集を社内で見つけたのがきっかけといえばきっかけかもしれません。「人と向き合うこと」をしたくて人材紹介会社に入ったら広告が面白くなってそこから広告にどっぷりはまって、人と向き合いたいということを一切忘れていたんですけど、「あっ、そうか、これやりたかったやつだ」とそのときに思い出しました。

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当時のプロジェクトを経て知り合った何人かと「もっと対象を広げられたらいいよね」「じゃあ協会を作ります?」という話をしたのが、実はat Will Workを作るきっかけです。独立した組織の方がやりたいことのゴールに近いということが分かったので、Googleを辞めることにしました。

「新しいことをしたかった」と「人と向き合いたいということを思い出した」は、リンクしてはいなかった?

直接リンクはしていないですね。でもたぶん、そのときが、思い出さないといけない時期だったんじゃないかなと思います。ラッキーでした。Googleを辞めるのも「強い意思を持って決めた」という感じではなかったです。葛藤はもちろんありましたし、後から振り返って「当時そのように決断した」ということは言えるんですが、当時の自分が心からそう思ったのではないと思います。そのときに良いと思うことをやっていればいいんじゃないか、やらずに後悔するようなことはしないくらいでいいんじゃないかと。

結婚してからGoogleに入社、そして次のステップに移るなど忙しい中で、プライベートへの影響はありませんでしたか?

あんまりなかったような気がします。私の仕事は自分で時間をコントロールできるので、バランスは取れていたと思いますね。向こうが結婚から5年くらいして会社を辞め、自分で会社を経営するようになってからは、一緒に海外に行くことが増えました。

考え方が似ているんですね。

そうですねー。でも実は私、今年離婚したんですよ。

えっ!? いつですか?

1月です。

つい数ヶ月前……。

はい(笑)。結婚式の記念日に離婚届を出しました。離婚届も婚姻届と同じで証人が2人いるんですけど、婚姻届と同じ証人2人に来てもらってサインしてもらい、4人そろって提出しに行きました。区役所の時間外担当の人が「こういう雰囲気で受け取ったことないんで……」ってすごく戸惑ってました(笑)。

仕事の方向性が変わったことが生活に影響したのでしょうか。

私が2つの仕事を始めて、向こうもまた違う仕事を始めて、2人とも価値観が変わってきまして。結果的にそれぞれのやりたいことを一緒にはできないという話になり、「結婚して10年経ったし、まあいっか」みたいな感じでした。「ライフスタイルとワークスタイルが変化すると、ファミリーのスタイルも変わっていくのは当たり前なんだね、こういうこともあるんだね」って話してます。

今でも彼とは仲良しですし、一番の親友です。周囲からは「どっちかが折れればいいじゃない」と言われましたが、そういうことでもないんですよね。お互いを一番分かっているからこそ、お互いが決めているライフスタイルが違うということも分かっています。なので、今の私たちの最高の選択肢ですね。なかなか理解されていないんですけど。親が未だに戸惑っています(笑)。

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それはさすがに戸惑うかもしれませんね。

周囲の人には「……とはいえ、何があったの?」と聞かれますね。社会的・世間的には「もったいない」と言われますし、なんとなく「うまくいっていることを変えるのは違う」という雰囲気があります。Googleを辞めたときにも「もったいない」って言われました。でもそれらは私が変化を起こした結果の選択肢の1つで、それ以上でもそれ以下でもないです。ワークスタイルがどんどん多様化しているのと同じくらい、今後はライフスタイルも変化していくんじゃないかと思います。たまたま私たちが早かったくらいで。

藤本さんは、働き始めてからずっと今のような考え方をしていたのでしょうか?

昔からではなかったと思いますが、真似をしていてもあんまり面白くないということはずっと感じていました。かといって、すごくオリジナリティを追求したいというタイプでもなく……。ダイバーシティに関する話をしているとロールモデルの話題も出てくるんですが、誰にどんなロールモデルを示したとしても、どうしてもちょっとずつ違うんです。私の場合を考えても、仲の良い先輩やかっこいいと思う先輩はいますけど、やっぱり私とは違う。

at Will Workの理事の1人である猪熊(株式会社OMOYA代表取締役社長の猪熊真理子さん)と頻繁に、「よく女性が『私らしさ』って使うよね、男性はあまり『自分らしさ』『僕らしさ』『俺らしさ』とは言わないよね」と話しています。女性は理想の人を見ると「ああいう人の真似はできない、あんなふうにはちゃんとできない」って比べて考えがちだと思うんです。でも「自分らしさを持つ」って幻想です。理想は理想で、そこにはあくまでもヒントしかないと客観的に割り切って、そして自分がどうするのか考えるくせをつけないと、幸せになりづらいんじゃないかと思います。

理想通りにならなくても自分はこうしていこう、という考え方ですね。

「あの人のああいうところが面白い」と思ったポイントはピックアップして自分の中に取り入れればいいですよね。とにかくいったん「あんなふうにしないといけない!」と考えるのをやめてみれば、実はどうしたらいいのか見えてくるんじゃないかと思っています。同じ人なんて誰もいないし、前提条件もみんな違うし。

幸せのバリエーションは結構多いし、その中のどれかはたぶん自分に合うものがあるだろう、って適当に考える(笑)。人生なんてそんなもんじゃないかな。「あんなふうにならなくてもいい」と分かった瞬間に、結構楽になると思いますよ。

ありがとうございました!

お話を伺った人:藤本あゆみ

藤本あゆみ

一般社団法人at Will Work代表理事 / 株式会社お金のデザイン シニアコミュニケーションズマネージャー。1979年生まれ。大学卒業後、株式会社キャリアデザインセンターに入社。求人媒体の営業職を経て、入社3年目に当時唯一の女性マネージャーに最年少で就任。結婚を機に退職し、2007年4月にグーグル株式会社(現グーグル合同会社)に転職。デジタルマーケティング導入支援、広告営業チームの立ち上げに参画し、営業マネージャー、人材業界担当統括部長を歴任。女性支援プロジェクト「Womenwill Project」パートナー担当を経て、2015年12月にグーグルを退職。2016年5月に一般社団法人at Will Workを設立し、代表理事として活動するとともに、株式会社お金のデザインで広報・マーケティングマネージャーとしても従事している。

次回の更新は、5月24日(水)の予定です。