「天職」からの「転職」

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こんにちは、ジュリー下戸と申します。

2013年に大学を卒業したわたしは、“管理職候補”の新卒正社員として中小企業へ入社しました。社会人生活が丸4年になろうとしていた2017年3月に、退職。現在は、某百貨店で派遣社員として働いています。

完全週休2日制、賞与年2回、産休育休完備、昇給あり...…魅力ある福利厚生、そして正社員という勤務形態を辞めることに、多少の勇気は必要でした。それでも、わたしは転職後に訪れた心身ともに健やかな今の生活を、とても気に入っています。

ちょっぴりへんてこなキャリアですが、働き方を選ぶ上で、こんな選択肢もあるのだなということでひとつ、お付き合いくださいませ。

「活躍する若手社員」から「お荷物社員」へ

サービス業という、"マニュアル"と"臨機応変"の間で頭をフル回転する刺激的な仕事を、わたしはとても気に入っていました。接客は楽しく、そこそこ社内でも評価されており、お客様からは「天職だね~」なんて声をかけられることもありました。そんな風ですから、わたしは当然のように、定年まで働くつもりでいました。

ところが、入社3年目。店長に昇格したわたしの精神は、まさに極限状態でした。自分のした仕事に不足がないか、不安で職場から出られず、仕事はとっくに終わっているのに23時過ぎまで帰れないこともありました。家に帰っても、職場のLINEグループと社内メールの受信ボックスに神経をとがらせていました。

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「自分は仕事のやり方がへたくそなのだ、もっともっと頑張らなくては」と、わたしはノイローゼにでもなったように働きました。半年くらい経ったころ、自分の調子がおかしいと感じるようになりました。毎日のようにやってくる、目を開けられないほどの頭痛。目眩と吐き気。家に帰ると、得体の知れない恐怖で涙が止まらず、毎日はらはらと涙を流していました。それでも営業中はスイッチが切り替わり、別人のように明るくはつらつとしていました。

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前兆はあったのです。限界は訪れるべくして訪れました。みんなが忙しく働いていたある日、錯乱してしまったのです。スタッフも、お客様もいる、大賑わいの店の真ん中で店長がおんおん号泣しだしたのだから大変です。

「早く泣きやんで仕事に戻らなくては」という冷静な気持ちもありましたが、どんなに脳が働きかけても体が言うことを聞きません。バックヤードまでたどり着けず、店舗裏の階段に這いつくばって泣きました。内臓がドロドロとして気持ち悪く、今まで聞いたことのない声が喉から出ました。このまま死ぬのだと思いました。

この一件で「仕事を辞めるか店長を辞めるかしないと、死んでしまう」という恐怖から、頼み込んで店長から降ろしてもらいました。

結果、わたしは「入社後の目覚ましいキャリアアップで活躍する若手社員」から「ただただ扱いづらいお荷物社員」になりました。残業とプレッシャーからは解放されましたが、職場での居場所もなくなりました。後輩がやりづらそうにしていたり、役員から冷たく当たられたりしても、わたしは気づかないふりをして働きました。

「もっと苦しまなくちゃ」と自分の逃げ道を塞いでいた

店長時代、残業ばかりしているわたしを心配した上司が、声をかけてくれることがありました。そのとき正直に「つらい」と言えばよかったのに、わたしときたら「つらいっちゃつらいけど、大丈夫っちゃ大丈夫です!!」と言ってはぐらかし続けました。

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そんなことを繰り返していたので、本当につらいときに、信じてもらえなくなったのです。自分が作り上げた居場所で自分の逃げ道を塞いでいたことに、当時は気づけませんでした。

もともと就活がうまくいかず落ち込んでいたわたしに、正社員としての役割を与えてくれた会社へ恩を返さなくてはと思い、入社してから常に120%の力で仕事をしてきました。自ら負荷をかけ、苦しみもがくことで評価と成績と信頼を勝ち取ってきたのです。だから、もっと苦しみ続けなくてはと思い込んでいました。 

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冷静になって振り返ると、なんてバカなことを...…と呆れてしまいます。しかし習慣とは恐ろしいもので、毎日SNSに「つらい」「死にたい」と書き込むことが社会人は当たり前で、みんなそういうものなのだとばかり思っていました。

趣味がきっかけで、転職を決意

学生時代から、デジタル一眼レフを持ってテーマパークで写真を撮るのが好きだったのですが、店長になってからは趣味を楽しめる余裕がなくなり(開園待ちの列でお客様へのメールを書いたりしていた!)、年間パスポートの更新をやめ、カメラも売り払ってしまいました。毎日、帰宅後は着替えずに眠り、休日は綿ぼこりだらけの部屋のベッドでうずくまって過ごしていました。

そんなわたしが、「転職しよう」と思い立ったのは、新たな趣味を見つけたことがきっかけでした。

歌舞伎を観に行くようになりました

ちょうど職場が繁忙期に差し掛かり、心身ともに疲労MAXだったころ、気付け薬にと話題になっていた「ワンピース歌舞伎」(『スーパー歌舞伎Ⅱワンピース』)を観に出かけたのですが、これが凄かった

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あまりの衝撃に、わたしはその後大慌てで千秋楽のチケットをとり、ほどなくして感想を書き留めておくためのブログを立ち上げます。もともと好きだった絵を描くことを、再び始めました。SNSで歌舞伎ファンと繋がり、友達ができました。舞台を観に行くのに、何を着て行こうかとウキウキ服を選ぶようになりました。何より、歌舞伎の舞台を観ているときだけは仕事のことを忘れられました。電話もメールも時間も気にせず、目の前の役者が「格好いい」「美しい」という事実だけを楽しむひとときは、何物にも代えがたいものでした。

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仕事のことしか考えてこなかったわたしが、仕事のことを忘れられる場所を見つけたとき、視界がパッと広がりました。今まで目を向けられていなかった物事が、急に意識されるようになりました。一緒に暮らす彼氏に家事を全て任せ、ぐったりとベッドに横になる自分。毎朝べそをかきながら支度をする自分。つらいつらいと言いながら状況を変えられない自分...…。

転職するなら今だ。そう思いました。

「健やかな暮らし」を目指して

わたしが転職するにあたって掲げた「絶対に譲れない条件」が、3つありました。

(1)自分らしく働ける仕事

前職では、自分を痛めつけて苦しめてようやく居場所を確保しており、それが心身に悪影響を及ぼしていたので、今度はそんな仕事はやめようと考えました。

(2)家事をする余裕がある仕事

洗濯機を回し、掃除機をかけ、夕食の支度をするという「日々の営み」が疎かになっていました。残業がなく、時間にも心にもゆとりを作りたいと思いました。

(3)平日休みの仕事

完全に、趣味を楽しむためです。また、彼氏も同じく平日休みというのも大きな理由です。時間を作って、気分転換のお出かけができますものね。

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わたしが目指したのは「心身ともに健やかな暮らし」。条件をクリアし、わたしの理想にピッタリだったのが「百貨店の派遣社員」でした。わたしの得意なことと、相手が求めているスキルが一致したため(あとは、正社員ではなかったため)、とんとん拍子で入社日が決まりました。

派遣社員を選択した一番の理由は、仕事との向き合い方を変えたかったから。正社員でいると、自分の性格上、会社のために何でもしようという過剰な思いを働かせ、同じ過ちを犯してしまいそうだったので、仕事と心の距離を置くために選んだ雇用形態でした。

わたしが本当に大切にしたかったこと

「サービス業」とひと口に言っても、さまざまです。以前は、主導権が自分にある接客スタイルでしたが、百貨店での仕事は完全にお客様ありきになり、わたしにとってはほとんど異業種への転職のように感じました。もちろん不安もありましたが、接客に慣れているので、実際にお客様と話をする際、全く臆せず言葉が出てくるのに驚かれました。声を張る仕事をしていたことに由来する、抑揚のある明るい声は、今の仕事でも重宝しています。4年間働いてきたことが、さまざまな面で活きているのが分かり、あの日々が無駄ではなかったのだと嬉しく思うことが多いです。

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転職して、わたしの生活は一変しました。まず、朝きちんと起きられるようになりました。仕事に行くのが楽しみなのです。家を出る前に洗濯物を干し、掃除機をかけ、ベッドメイクをしてから家を出る。家に帰ったとき、室内が整っているとこんなに気持ちいいなんて! と驚きました。また、今までは帰宅しても疲弊しきってしまい、料理をする気も起きなかったのが、時間的にも身体的にも余裕ができたことで、頻繁にキッチンに立てるようになり、家で食事をする回数が、以前とは比べものにならないほど増えました。

百貨店での仕事は楽しく、新しいことを覚えるのはワクワクします。今までの仕事で身につけたことと、新しい仕事のマニュアルをすり合わせた、自分らしい働き方ができています。

新しい生活のリズムを作りながら思うのは「わたしは仕事人間ではないけれど、働くことは好きなんだな」ということ。生活の一部として、朝起きて洗濯機を回すくらい自然な流れで仕事に出かける。結果、休日も充実しているし、仕事のある日の朝晩も有意義に時間が使えて、一日の時間そのものが延びた感覚すらあるのです。

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仕事が大好き! 休みはいらない、ずっと働いていたい」という人が身近にいます。「仕事はつらいが、激務で稼いだお金を趣味につぎ込んでいる」という人も知っています。わたしがこんなにも楽しいと思っている今の仕事も、同期のひとりは1ヶ月ほどで辞めてしまいました。働き方、仕事との向き合い方は、人それぞれなのだなあと思います。

でも、自分の納得のいく働き方をしている人は、やはりみんなイキイキして見えます。

今の生活がどうしても苦しく納得がいかない人は、思い切って働き方を変えてみるのもいいのかもしれません。隣の人と同じ働き方が、必ずしも自分の幸せには結び付かないように、自分が心地よい働き方がそれぞれあるのだと感じています。

自分の心身の健康のための、転職。わたしはそんなのも、大いにアリだと信じます。

明日も元気に働こう。


ジュリー下戸でした。ありがとうございました。

著者:ジュリー下戸id:jurigeko

ジュリー下戸

都内某百貨店でこっそり働く派遣社員。歌舞伎が好き。ブログを書いたり、フリーペーパーを発行したりしています。
ブログ:ジュリー下戸の歌舞かれて東京