はたらく女性の深呼吸マガジン

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「他の人ってちゃんと目標があったりしてすごい」イラストレーター・べつやくれいさんに聞く仕事の話

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イラストレーターであり、デイリーポータルZのライターであり、デイリーポータルZのウェブマスター・林雄司さんと結婚されているべつやくれいさん。夫婦ともに「ネットの有名人」であり、さまざまな活動をリアルでもネット上でもしています。
そんなべつやくさんは、最初からイラストレーターになったのではなく、OL生活を経てフリーランスとして活動するようになったとのこと。ご自身の社会人生活、仕事、そして“夫婦円満の秘訣”とは? いろいろなことを質問してみました。

生保の営業、派遣社員を経て、「消去法で」フリーランスへ

べつやくさんは、「OL生活などを経て2001年からフリーランスになる」とありましたが、フリーランスになるまでの経緯を教えていただけますか?

女子美術大学の出身で、付属の中学・高校から通っていて一応ずっと美術的なことをやってきました。大学に入ったときに、デザインをやれば就職に有利かな、いろいろ道があるかな、と思ってデザイン科(当時)に進んだのですが、それがもうデザインが圧倒的に自分に向いてなくて……。

やってみて「無理だな」と思われたんですか?

そうなんですよ。「大学でこれが勉強したい」みたいなものが特になく、本当に何にも考えていなくて。高校までの美術の授業と、大学に入ってからの美術の授業って全然違うものになるんですが、そこで「うわーこれはデザインつらい、勉強しても無理だな」「これ仕事にするの、もうなんだかつらいな」と思ったんですね。そこでいったんきちんと考えればよかったんですけど、だらだら過ごしてしまったので、その後の就職もすごく大変で。

就職活動はどうされたんでしょう?

デザインが嫌になっちゃったから、就職するにあたって、デザイン系ではない会社に入りたいと思ったんですよ。でも美術大学に来る就職口って基本的にデザイン・美術関連の仕事が中心なんです。そうじゃないところに就職するにはどうしたらいいんだろう?と思いました。4年生になって就活をしてみたら、ちょうどバブルがはじけて就職氷河期に入ったくらいのころで、その前の前くらいの年であれば割とイケイケで志望すればほぼ内定が出るくらいの勢いだったのが、がくっと就職口が少なくなっちゃって、内定も全然出なくって。

これは普通の会社に入るの無理だ、どうしよう、もうしばらくやりたいことを考えてバイトとかして、あらためて就職した方がいいのかな?なんて、いろいろ考えました。全然やる気がなくてぶらぶらしてたら、知り合いから「生保(生命保険)の営業だったらいつでも入れるよ」って言われて。私、「生保の営業」ってどんなものか具体的にはわからなかったんですが、「じゃあ入るよ」って入社しました。その会社では営業は正社員じゃなくて、業務委託のような契約で、歩合制なんです。で、入って、「あっ、これはこれでつらいな」と思いました(笑)。

そのお仕事はどれくらい続けたんですか?

一応2年半……かな……。

「つらいな」と思ってから2年半続いたのは結構すごいですね。

1年目は「何が何だかわからない」っていうのもあったし、そんなに厳しく何か言われることもなく、なんとなく過ごしました。2年目になったら、部署が大きくなって、すごく厳しい上司が来てしまって。そこで、「あっ、ちょっとつらいぞ」と思い始めて、辞めたいって思うようになりました。周囲の人が言う「つらい、つらい」の意味がわかってきて……。辞めるならちゃんと話を通して辞めたかったんですけど、他にも辞める人が多かったので、なかなか希望通りには辞めさせてくれなかったんです。3年目にまた上司が代わったので辞意を伝えたら、「じゃああと2ヶ月がんばってくれ」なんて言われまして。結局3年目の途中で円満に退職しました。

だいぶ引き延ばされてしまったんですね。

そんな状態だと体調が悪くなりますよね。私、それでぜんそくになったんです。ある日突然風邪を引いて、全然動けなくなっちゃったんですよ。すごく具合が悪いので、会社に電話して「休みます」って伝えてから、なんだろうと思って病院に無理矢理行こうとするんですけど、ぜーぜーしちゃって歩くのも大変で。横断歩道を渡るのもつらくて、「これ渡れなかったら死んじゃう!」なんて思いました。そしたら「ぜんそくですね」という診断でした。それまでもそんなに気管支が強い方ではなかったんですけど、そこまでひどくなったことはなかったです。後から考えてみて、あれはストレスだなぁって。

当時はストレスが要因だとは考えなかったんですね。

風邪引いたら一番弱いところに症状が出ちゃったんだなって思ってました。いろいろ考えてみると、つらかったんだと思います。会社を辞めて数年したらぜんそくは治りました。

“会社員的な生活”が家庭になかったから、「会社員」の想像ができなかった

その後にフリーランスになったのでしょうか。

いえ、その後は派遣で働いていました。

そうなんですか!? 意外でした……。

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会社を辞めてから何にもしたくなくなって、1年くらいぶらぶらしてました。友達のところでちょっとバイトする、なんてことはあったんですけど。その後「普通に働きたいな」と思ったんですが、その時点では手に職もなかったので、とりあえず派遣会社に登録して、とりあえずそこで実施されていたパソコンの基本的な使い方とPhotoshop・Illustratorの使い方を教えてくれる講座に行って、仕事を待って。その後に出版社の庶務みたいなことを2~3年くらいやりました。

そこでPhotoshopとIllustratorの講座を受けた結果が、出版社での仕事につながった?

いえ、あんまりつながらなかったんです。「パソコンの基本的な操作ができたから」でした。

2度目の質問になってしまうのですが、その後に、フリーランスとして働き始めた……?

はい、その後がフリーランスです。30歳になる年に、フリーのイラストレーターになろうと思いました。デザインはもう嫌だし無理だけど、それまでに培ってきたものを活かしてできることって何かあるかな?と選択肢を考えて、「まあイラストレーターかな……」と。

そこで「イラストレーターになってやるぞ!」みたいに一念発起した感じではなかったんですね。

消去法です(きっぱり)。

他の職は何も考えなかったんですか?

考えなかったですね。消去法です。「フリーになるぞ!」と意気込んだ感じでもなく……割とすんなり。「まあだめだったらそこでまた考えよう」と思ってました。

今のべつやくさんからは想像つかないですね……。

もう全部消去法ですよ(笑)。

フリーランスという働き方について、生活の不安などはなかったですか?

あるにはあったんですけど、実家にいたので、家の人に一応「フリーになりたいと思う」「今の会社を辞めたら給料がなくなるけども、収入がいつまでに得られる状況になるのかわからない」「家においてほしい」と話しました。ただ、うちは家族が全員フリーというか、自由業だったので*1、特に問題はなかったですね。

親の働き方を見ていてそれが自分のロールモデルになる、という一面はあったのかもしれないですね。

“会社員的な生活”がまったく家庭になかったので、私、「会社員」の想像ができていなくて。それでたぶん、就職のときにいろいろ問題があったんだと思うんですけど(笑)。そういう意味でも、フリーになることに抵抗はありませんでした。大学時代の友達でフリーのデザイナーとして働いている人もいたし、出版社で働いているとフリーのカメラマンさんやイラストレーターさんもいっぱい出入りしていましたし。

一定の時間を会社で過ごす会社員と、そういう生活ではない自由業やフリーランス。身近にいる人によって「普通」に思えるものが違うということはあるかもしれないですね。

そうですね。フリーの人の働き方をいろいろ見ていたので、一人で仕事をしていく分には、探せば意外に仕事はいっぱいあるんだろうなと想像していました。

最初からイラストのお仕事はあったのでしょうか?

全然来なかったです(笑)。1年くらいほぼ暇でしたよ。一応ポートフォリオを作って、何軒か出版社を回って営業活動してみたんですけど、そんなに仕事に結びつかずで。働いていた出版社から「知り合いだから頼みやすい」という理由でいくつか仕事をもらうことはあったんですが、そこから劇的に仕事が増えたことはありませんでした。こりゃ暇だなーと思いました。

そのころに、イラストを紙で最初から描くのは大変なので、Photoshopで描こうと思ってその環境を整えました。それまではネット回線がすごく遅かったんですけど、普通にネットができるようにしました。そこでいろいろ見ていたら「デイリーポータルZ」(以下、DPZ)を発見しまして。当時からDPZはすごく面白かったし、「ライター募集」って書いてあるし、「自分で取材しに行って記事を書くみたいなのって面白そうだな、今すごく暇だからできるな」と思って、応募したんです。

えええええ! 一般からの応募だとは思いませんでした。

一般でしたよ! DPZがなかったら今の自分はなかったと思います。一応、DPZに参加する前に、「しろねこくん」(小学館)という絵本を出したんですよ。でもそこから特にすごく忙しくなるなんていうこともなかったので、やっぱり自分で仕事を探さないとなぁ……と。

当時からイラストと文章を組み合わせた形の記事を書かれていたんでしょうか?

はい、そうです。DPZに書き始めて、その記事を見た方から仕事をもらうといった機会は多かったですね。

伊勢丹には、市販の菓子の高級版があった」のような、イラスト・写真・文章を組み合わせた記事で人気。

べつやくさん風「アイデアの出し方、考え方」

DPZでべつやくさんが書かれている記事の本数、とても多いですよね。べつやくさん風の「アイデアの出し方」があれば教えていただけないでしょうか。

思いついたときにメモを取っておく、というのはずっとやっています。「ふと思い付く」とか、お風呂に入りながら考えるとかもあるんですけど。最終的に記事のネタとして考えるときには、「メモした中からこれとこれを組み合わせたら何かできるかな」なんて集中的にがーっと考えますね。

DPZで書き始めて最初の2年くらいって、毎週1本ずつ記事を書いてたんですよ。ライターの数も今よりずっと少なかったですし。その時点で所属するライターさん全員が同じペースで書いていたんですが、その後ライターがどんどん増えて、今自分が書くものは2週に1本くらいのペースになっています。昔の記事を読み返すと量が多かったなと思いますね。ただ当時は「1ページで終わり、すごく短い」みたいなものもあります。

portal.nifty.com

当初は週1本、今でも2週に1本書いていて、ネタに行き詰まることはなかったんですか?

いやーもう毎回ですよ(笑)。締め切りは迫ってくるので、わー来週どうしよう、何かやらなきゃいけないって……。結構波があって、やりたいことが意外と次から次へと出てくる時期もあるんですよ。「これはちょっと時間がないとできないな」「これは暑すぎて夏の間は無理だな」とかすぐにできないものはストックしておきます。

DPZを拝見していると、よくこういうネタを考え付くな、すごいなと思います。

それはもう、ライター皆さんがすごいなと思います。ちゃんと地道に計画を立てたり、時間を区切っていたりする人を見るとえらいなって思います(笑)。フリーじゃない方の場合、どうしても細切れで取材することもあるじゃないですか。そういうの、たぶん私できないので……。少しずつきちんと進めておけば、もっと記事のストックもいっぱいできるだろうに、って思うんですけど、なかなかそういうタイプではないんです。今まで「りっすん」のインタビューに登場された方、すごくちゃんとしてるなって思うんですよ。目標がちゃんとあったりとか……私そうじゃないんで……。

何年後にこういうことをやろう、みたいなものもないですか?

ない……ですねえ……。でも、同じタイプの人に共感はしてもらえるんじゃないかなと思うんですよ。

フリーランスで働く方は、自分の得意な分野がないと生活していけないと思うので、それをずっとやっているべつやくさんは逆にすごいと思うんですが……。

結婚によって生活が安定した分、自分のネタのことをずっと考えていられるというのはありますね。

DPZのウェブマスターである林雄司さんと結婚されたのはもちろん「安定」のためではないと思うのですが、結婚しようと思うきっかけになった出来事はあったのでしょうか。

なんで結婚しようと思ったのかは覚えていないんですけど、まあ付き合っていて、この人だったら一緒にいてつらいところは別にない、たぶんお互いに何かを我慢しなきゃいけないようなこともないな、とは思っていました。一応お互いの家に挨拶に行って「結婚します」と言ったら、「すれば」って言われて(笑)。

一緒に住み始めるときに婚姻届を出そうと思ったら、本籍地が載っている住民票が必要だったのに、載っていない住民票を取ってきちゃってたので、「じゃあ取り直してきます」って言ったのに、めんどくさくてそのままになってたんです。

結婚の挨拶をしてからそのままずっと、ですか?

挨拶をしてから何年か後の正月に、両方の家から「ところでお前たちはいつ結婚するんだ?」と言われて、「うーん、そういえば」と思って、届を出したんです。特に困っていなかったので……。近くにいる人たちは結婚を知っていたんですが、一緒に海外旅行に行くことになった際にtweetからあれこれ推測されるよりはと思って、Twitterでも公表しました。

“夫婦円満の秘訣”は「特に何も思ったことがない」

林さんとは仕事で一緒になることが多いと思うのですが、ずっと近い距離にいることで「夫婦円満でいるのが難しい」ということはありませんか? お互いに気遣ったり、気をつけていたりするポイントがあったら教えてください。

あんまり特に何も思ったことはないですね。たぶん一緒にいて楽だなって思っているからですかね。細かいことをいえばそりゃまああるんですけど(笑)、基本的なところで「もうこいつ勘弁ならねえ」みたいなことはないですね。

「夫婦円満の秘訣!」みたいなものではないんですね。ずっと二人でいるからたまには一人になりたい、ということもないですか?

家にいるときに、お互い別にそこまでずっとしゃべっているわけじゃないので……。うーん、そうですねぇ、あんまり意識したことはないですね。ただ、化粧品を買いに行くときに一緒だと、(林さんが)明らかにつまらなさそうな顔をするので、そういうときは一人で行こうって思いますね。でもそれ以外は「いるな」って思うくらいです。何もないから変に気を遣うこともない。たぶん私、そういう人じゃないと一緒に暮らせないと思うんです。

ストレスが溜まることはない、ということなんでしょうか。

あ、ストレスはありますよ。あるけども、特に発散してないですね。

え、そのストレスはどこへ……?

……(しばし考える)。ストレスの原因が夫婦で同じ場合には、二人で話して「◯◯だよねー」みたいなことを言って、終わる。それで解消される。私だけの場合は、あんまり言わずに黙ってますね。

「スイーツを食べてストレス発散!」ということもないですか?

いえ、ただ一人でむかむかしてますね(笑)。昔はやけ食いとかしたこともありましたが、今はそれを一度やると確実に太るし、元に戻すのが大変になってきちゃったので、もうやめておこうと思ってます。

これをやったら楽しい、気分転換になる、というようなことはありますか?

買い物で気分転換をすることはたまにあるかなー。服とか、化粧品とか、自分の好きなものを買う感じです。

べつやくさんのライフワークは「ドクロマークの収集」。「これはもうルーチンワークというか、ずっとまめに探しています。一応今日も着てきました」

もともとがんばるタイプじゃない人は「そんなにがんばらなくてもなんとかなるんじゃないかな」

「りっすん」では女性の働き方を主なテーマにしています。べつやくさんが考えることについてお聞かせください。

先ほども少し言いましたが、他の人ってちゃんと目標があったりしてすごいなって思うんですよね。ちゃんと時間配分をして、朝仕事に行く前にルーチン作業をやっておこう、子供を保育園に預けてこれとこれはしておこう、みたいに、いろいろできるじゃないですか。私そういうのが全然できないんですよ。出かけるのもいつもぎりぎりになっちゃうし……。そういう点をちゃんとしたいなって、ずっと思ってるんですけど、でも「これはもうできないな」って考えてます。

ちゃんとしたいと思ってはいるけど、コンプレックスには思っているわけではない、という感じでしょうか。

若干思ってます。周りの人はみんなえらいな、って。

勝手ながら「人は人、自分は自分」のような生き方なのかと思っていました。

そういうふうにありたいと思ってはいますが、「なんでみんなにできて私にはできないんだろう?」とも思いますよ。もうそもそも朝起きるのが全然ダメ。フリーランスになりたいと思った理由には、「朝起きたくない」っていうのもあるんですよね。組織の中にいたら、ほぼそういう生活になる。それをベースにしなければならないのがつらいなと思って。

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ご自身のお仕事については、今どのように考えていらっしゃいますか?

仕事自体は、記事を書くからには変なことを書こう、面白いことを書きたいな、と考えていますね。イラストレーターという仕事を「天職だ」と言うほどには思えないですけど、他に何ができるかというと、ないので。

今でも「消去法」な気持ちですか?

いや、ここまできたらもう引き返せないなとは思っています。たぶん今から転職はもう無理だと思いますし。

今やっている仕事の範囲よりも新しいこと、例えば文章をもう少し書いてみたい、写真をもう少しきれいに撮りたい、と考える機会はあるかもしれません。仕事の延長線としてはいろいろやってみたいことは出てきますし、作品ももう少し作りたいですし、文章がもう少しうまくなりたいとも思います。今の「イラストと文章で記事を作る」スタイルだと、コマの中に文を手短に収めるので、「文章をうまく収めたい」という考えが前に立っていて。きっと計画をきちんと立てられる人だったら、時間を区切っていろいろ進められると思うんですが(笑)。

「朝きちんと起きたくない」という方でも、この記事を読んで、こういうのもありだなって安心してもらえるといいなと思います。例えば今大学生に、いろいろなことをきちんと考えているっぽい方いるじゃないですか。私は大学のとき全然何にも考えてなかった。ちゃんと意識の高い人を見ていると、「えらい」と思う反面、「大変そうだな、今からそういう感じだと大変そうだな」と感じることもあります。もともとそういうタイプの人ならいいけれど、もし「がんばらなきゃ!」みたいに思っている人に対しては、「そんなにがんばらなくてもなんとかなるんじゃないかな」と思います。

ありがとうございました!

お話を伺った人:べつやくれい

べつやくれい

1971年東京生まれ。イラストレーター。ドクロ服、ドクロ雑貨集めに情熱を燃やしすぎている。ほかにはワニ、ウツボ、ハダカデバネズミなど毛の生えていない動物も好む。著書に「しろねこくん」(小学館)、「ココロミくん」(アスペクト)、「ひとみしり道」(KADOKAWA/メディアファクトリー)、「ばかスイーツ」「ばかごはん」(アスペクト)、「ばか手芸」(スペースシャワーネットワーク)などがある。

*1:べつやくれいさんの父は劇作家・評論家の別役実さん、母は女優の楠侑子さん。