
「薬剤師はいろいろな働き方にチャレンジでき、転職もしやすい仕事」と語るのは、薬剤師の資格を持ち、エッセイなどの執筆も行うものすごい愛さん。
「何があっても、薬剤師の資格があれば大丈夫」という気持ちでいろんな働き方に挑戦してきたものすごい愛さんに、これまでの仕事歴を振り返っていただきました。「薬剤師の資格を持っており、現在の働き方や転職に悩んでいる」という方にお届けします。
2025年3月に子を産んだわたしは、現在育休中の身。子に乳を吸わせ、よだれでべしゃべしゃになった顔を拭き、汗でかぶれないよう熱心にオムツを交換し……とにかく目の前の小さく燃える命を生かすことだけに集中する日々を送っている。
出産前までは今の生活とは180度違い、調剤薬局とドラッグストアで薬剤師として働きながら、薬局の仕事が休みの日には“体が不自由な方の生活の手伝いをする便利屋的な仕事”をしつつ、その傍らでチラホラ文章を書いてお金をもらっていた。
いわゆるトリプルワークである。我ながら、ヘンテコで無茶苦茶な働き方をしていたな、と思う。
育休を終えて子を保育園に入れたら、しばらくは薬剤師として時短で働きつつ、仕事をいただけるのであれば可能な範囲で文章を書いていきたいと今のところは考えている。
とはいえ、この先何が起こるか分からない。人生が予定通りに進まないということはこれまでの経験でよく分かっている。
もしかしたら、どこかでわたしの書いた文章がバズりまくって、文章を書く仕事がひっきりなしに舞い込んでくるかもしれない。そうなればしばらく書き物に専念する生活もありだろう。
はたまた、夫がこれまでのように働けないとなれば、家族のために毎月決まった給料がしっかりもらえる正社員にとっとと戻るかもしれない。必要であれば、一旦専業主婦になる可能性だってなきにしもあらずだ。
要するに、状況に応じて臨機応変にやっていけたらな、といった具合である。
ずいぶん楽観的だな、と思われるだろう。でもきっと、なんだかんだ都度なんとかなるのだ。
これまでヘンテコな働き方をしてこられたのも、出産を経て今後に対する不安が少ないのも、薬剤師の資格があるからのように思う。
就職に困らない、薬剤師という“人生のお守り”が欲しかった
- “薬剤師資格という人生のお守り”欲しさに乗り切った大学時代
- 薬剤師は資格さえあれば、住んでいる場所や年齢など関係なく働ける仕事
薬剤師の資格を手に入れるには、薬学部のある大学で6年制課程を修了し、国家試験に合格する必要がある。が、大学生時代、わたしはとにかく勉強ができなかった。
そもそも、よく薬学部に入学できたものだと思う。サークル活動に勤しむ間もないほど勉強漬けの毎日。試験には落ちてばかりで、進級は毎年ギリギリ……アウトで一年留年したし、国家試験に落ちて国試浪人も経験した。
勉強がつらくてつらくて仕方なく、試験前に研究室の床に突っ伏して大泣きしたことは数え切れない。
同じように勉強ができない同期たちと、大学構内の汚い喫煙所で「薬剤師の資格さえ取れば、わたしたちは好きなところで暮らせるし、なんだってできるし、好きなタイミングで離婚できる!」を合言葉に、目の前の荒波を乗り越えてきた。
わたしたちは“薬剤師資格という人生のお守り”欲しさに、歯を食いしばって大学生活を送ってきたのだ。

これまで自分の経験と、周囲の人から話を聞く限り「薬剤師資格を持っていながら就職が決まらない」なんてことはまずない。
どうしても働き口がないケースというのは、自分の能力に合わないよっぽどハードルの高い企業を志望したり、面接で「御社をぶっ壊します!」みたいなトンチキな宣言をしたりといったくらいのものだろう。
基本的には、東京都心でも地方でも働き口があるし、20代だろうが60代だろうが、年齢も関係ない。小さな子どもを育てながらだって、ブランクがあったって、極端に選り好みしなければそこそこの条件で絶対にどこかでは働けるはずだ。
薬剤師と別の仕事を行ったり来たり。私のヘンテコ職歴
- 「資格さえあれば仕事に困らない」から気軽に転職できる
- 戻れる安心感があるので、違う業界にも挑戦しやすい
- パートから正社員への打診を受けたことも
わたし自身、そんな“薬剤師資格という人生のお守り”を胸に、かなり自由な働き方をしてきたと思う。これまでの職歴をあらためて振り返ってみたい。
新卒で薬剤師としてドラッグストアへ
新卒で入ったのは、ドラッグストアの会社。当時は社会経験の乏しさから「そういうもんだ」と思って働いたが、これがなかなかのブラック企業だったのだ。
仕事自体は向いていたし、人並外れた体力の持ち主のため楽しく働いていたが、ある日突然「これって若いからやれてるのかも、もしかして長く勤める会社ではないな?」と気付いた。
薬剤師から離れ、物書きとホールのアルバイトを掛け持ち
ちょうどその頃には、そろそろ地元に戻りたいと思い始めていたし、趣味で書いていたブログをきっかけに運よく文章の仕事をもらえるようになっていたので、これ幸いと退職。
とはいえ、朝から晩まで座って文章を書いてばかりっていうのも性に合わないだろうなと思い、まかない目当てでフレンチレストランのホールのアルバイトを始めた。
調剤薬局で再び薬剤師として働くも……
その後何冊か書籍を出版し、執筆作業が落ち着いて暇を持て余していた頃、大学の同期に頼まれて調剤薬局で働くことに。
未経験ながらもそれなりに働いていたのだが、婦人科系の手術をする必要があり少しゆっくりしたかったこと、職場内で人間関係のトラブルが多発していたことから退職した。

“便利屋”業務を経て病院薬剤師に
しばらく無職生活を謳歌(おうか)していたのだが、夫の知人から「暇で元気な人間はいないか」という誘いがあり、暇で元気な人間の代表格であるわたしに白羽の矢が立った。
具体的には、医療サポート(医療機関や患者を支える活動の総称)という仕事の一環で、体が不自由な方のお宅に出向き、庭の木を伐採したり、犬の散歩をしたり、見よう見まねでコンクリートの壁を直したり……。
そうして薬剤師とは無縁の生活をしていたところ、コロナ禍に突入。知人に頼まれて、病院薬剤師として働くことになった。
好き放題にやっていたわたしも年貢の納め時、さすがにこの職場に落ち着くかなと思っていたのだが……。
ところがどっこい、上司からありえないレベルのパワハラを受け「こんなやつに、この気高いわたくしめの心が削がれるなんて許されるわけがなくって?」とブチ切れ、またここも退職したのである。
「薬局やドラッグストアの仕事」が自身に合っていると気付いた
こうしていろいろな経験をし、これからも医療サポートと文章を書く仕事は続けていきたいという思いと「薬剤師としては、薬局とドラッグストアの仕事はそれほど嫌いじゃないな」という考えから、調剤薬局とドラッグストアを運営する今の会社にフルタイムパートとして採用。妊娠出産を経て、現在に至る。

どうだ、わたしのフワフワ経歴は。あらためて振り返ってみると自分でもびっくりしちゃう、己の職場運の無さに。
でも、こうやって笑って振り返ることができるのも、自分を追い込む前になんの躊躇(ちゅうちょ)もなく転職や退職ができたからだと思う。
「あれ? なんかおかしいな?」と違和感に気付いてから退職を決断するまでの期間を「いよいよやばくなったら辞めればいい」という選択を念頭に置いて過ごせたのは、追い込まれて視野が狭くなってしまう前の、冷静な状況判断につながっていた。
「いつだって辞めていい」「辞めたって次がある」この二つの考えで、自ずと逃げ道を整備できたのだろう。
また、薬剤師の資格を持っていたことによって、自分の生活を文章にして多くの人に読んでもらえたり、作業服姿で脚立に登って木を切ったり、お客さんからいただいたワインを飲みながら牛肉を運んだり……なんていう、畑違いの分野に一歩踏み出すための後押しにもなっていたと思う。
わたしの人生、なんて楽しいのだろう。
床に這いつくばって「このままだと卒業できないよう」とおんおん泣きながらも、歯を食いしばって勉強をやめなかった学生時代のわたしと、教育を受けさせてくれた両親に感謝だ。
もちろん、ブランクを経て再就職したり、違う業界に転職したりする場合、勉強は必要である。何も考えず、何の努力もせず、ヘラヘラしているだけでお金をもらえるほど、社会は甘くない。
それでもわたしの体感として、薬剤師業界は間口が広く、転職のチャンスが多いように思う。
ドラッグストアから薬局、薬局から病院と、これまでと違う未経験の業界に足を踏み入れたとき、決まって「未経験でも大丈夫」と言ってもらえたし、事実大丈夫だった。
それにパートとして働いていたときには、正社員の打診を受けたこともある。小さな子どもを育てながら働いている人もたくさんいて、みんな助け合って働いている。介護を終えて復職した人も、遠い土地から引っ越してきた人も、いっぱいいる。それらを見てきたから、これからも不安はない。
どんな働き方でも、大切にしているのは「自分で自分の心を守ること」

出世やキャリアアップとは無縁のわが人生。でも、それでいいと心から思っている。
もちろん、薬剤師として働いている間は、医療従事者として責任を持って行動している。患者の健康と公衆衛生の向上のために働いていると、胸を張って言える。
何より、わたしは「自分で自分の心を守っている」という自負があるのだ。自分の心を守ることより大事なことなんてこの世にないのではないだろうか?
自分の心のSOSに耳を傾けられる余裕がないほど働き過ぎて疲れてしまっては、しんどい環境に身を置いて自分が消費されてしまっては、今まで積み上げてきたものすら守れなくなってしまう。
わたしにはわたしの、あなたにはあなたの生活と、人生の展望がある。それは比べられるものではないし、わたしに皆さんの価値観に口を出す権利はない。
でも薬剤師としてもっと成長していきたいと思っている人も、一旦別の仕事にチャレンジしてみたいという気持ちがある人も、引っ越しや結婚、離婚、出産、介護などで環境やライフステージが変わった人も「なんとかなる」という気持ちは持ち続けてほしい。
せっかく苦労して取った資格なんだから、柔軟に使わないともったいないじゃない?
編集:はてな編集部
女性が働きやすい仕事って?




