地震や豪雨による水害、土砂崩れなど、災害に見舞われることの多い日本。2026年も、熊本県の地震や石川県・能登地方の水害、千葉県の豪雨など、各地で災害が起きています。

被災地のためにできることの一つが、災害ボランティアです。けれど、仕事などの制約に加え、現地で何をするのかわからず、一歩を踏み出せない人もいるのではないでしょうか。

でも実は、一般の災害ボランティアが担う主な作業の一つは「掃除」や「ごみの片付け」。壊れた家具や家電、瓦などを運び出したり、家屋に流れ込んだ泥を掻き出したりする作業が大半を占めるといいます。

ただ、「ごみを片付ける」といっても、現場でどんな判断が必要になるのかまでは、なかなか想像がつかないもの。「家具や家電は粗大ごみとして捨てられるの?」「集めたごみはどこへ持っていけばいいの?」など、改めて考えると疑問が湧いてきます。

そこで今回は、熊本で災害ボランティアに参加した編集者・藤本智士さんと、「ごみの学校」代表・寺井正幸さんにお話を伺いました。二人が直面した「災害時のごみをどうするか問題」を入り口に、地域のルールや広域処理の仕組み、私たちにできる備えについて考えます。

<この記事のハイライト>

    1. ・災害ボランティアの主な仕事は「ごみの片付け」
    2. ・捨てたいのに捨てられない。「ごみをどうするか問題」
    3. ・必要なのは、地域ごとの「小さなマニュアル」
    4. ・被災地だけで処理しきれないごみを支える産廃事業者
    5. ・草刈りはめんどくさい。でも、やると気持ちいい

 

話を聞いた人:

藤本智士(ふじもと・さとし)

1974年生まれ、兵庫県西宮市在住。編集者、有限会社りす代表。雑誌『Re:S』をはじめ、秋田県発行のフリーマガジン『のんびり』、Webマガジン『なんも大学』などで編集長を歴任。『ニッポンの嵐』『みやぎから、』『るろうにほん 熊本へ』など、多数の書籍の編集を手がける。著書に『魔法をかける編集』『日々是編集』『取り戻す旅』。現在は寺井正幸さんとポッドキャスト『ひらけごみ!』を配信している。

 

寺井正幸(てらい・まさゆき)

1990年京都府亀岡市生まれ、同市在住。株式会社ごみの学校代表。2013年に兵庫県立大学環境人間学部を卒業後、産業廃棄物処理会社に入社し、企業向けの処理提案やセミナーを担当した。勤務時代に、市民や企業とともにごみについて学ぶコミュニティ「ごみの学校」を立ち上げた。現在は講演やワークショップ、藤本智士さんとのポッドキャスト『ひらけごみ!』などを通じ、ごみの現場や歴史、これからの資源のあり方を伝えている。

 

災害ボランティアの仕事は「ごみの片付け」

──今回、熊本のボランティアに行った経緯から伺ってもいいですか?

藤本:僕は新婚旅行が熊本の阿蘇だったり、友人が住んでいたりと、小さなご縁があって、10年前の地震の際に、観光需要の再生を目指して俳優の佐藤健くんが企画した『るろうにほん熊本へ』(NHK出版)という本を編集させてもらったんです。

藤本さんがディレクション・編集を手がけた『るろうにほん 熊本へ』。2026年9月1日新装版が発売され、利益の全額が熊本の復興支援に寄付された

藤本:取材をするなかで、熊本との新たなつながりも増えて、そこでいろんな人たちに復興に向けた思いを聞いて。なので、本来なら今年は震災から10年という節目で、これまでの道のりを振り返ったり、これからの話をしたかったはずなんです。なのに、まさかまたこんなにも大きな地震が起きてしまった。

これは僕自身にとってもショックな出来事だったので、まず現場を見て、みなさんがどういう気持ちでいるのかを知りたかったんです。

──藤本さんはこれまでに何度も災害ボランティアの経験があるんですよね。

2024年7月の大雨で被害の大きかった山形県の最上郡戸沢村エリアへ藤本さんがボランティアに行った際、現地を応援すべく周辺を観光した記事

藤本:2011年の東日本大震災以降、日本のいろんな場所で災害ボランティアに参加してきました。そのなかで、結局やっている作業は「掃除」とか「ごみの片付け」なんだなと感じるようになって。

1年ほど前から、意外に知らない「ごみ」の世界をわかりやすく伝えるためのポッドキャスト番組『ひらけごみ!』を寺井くんと始めていたので、ごみに対する解像度も上がってきていて。今回はごみの専門家である寺井くんと一緒に行ったほうがいいかもしれないと直感的に思ったんです。

寺井:僕自身、災害ボランティアは今回が初めてでした。現場を見るのはなかなかない経験だと思って、藤本さんの誘いに乗って「行きましょう!」とお返事しました。

──それにしても、災害ボランティアの主な仕事は「ごみの片付け」なんですね。最初に聞いたときは意外でした。

藤本:地震や水害の後って、家の中がとにかく大変な状態になるじゃないですか。それを一人では片付けきれないから手伝ってほしい、というのが災害ボランティアの最初の段階だと思うんです。まず床が見える状態まで片付けないことには生活の復旧もできないので、人命救助の次に重要な仕事だと思うんですね。

寺井:災害ごみは、コンクリートや瓦、木材、家具など、平常時にはあまり出ないごみばかりなので、捨て方のルールに迷うこともありますしね。

しかも、尋常じゃない量のごみが出てくる。試算では、今回の地震で発生する災害ごみは、熊本県全体で111万トン。県内で平常時に出るごみの約2年分だといわれています。

──2年分!

寺井:これは県全体の数字なので、被害の大きい自治体に限って見ると、10〜20年分のごみが一気に出ている可能性もあります。とにかく被災地では、ごみをいかに早く運び出して処理できるかの勝負なんです。

 

現場で直面した「ごみをどうするか問題」

──今回の地震の災害ボランティア当日は、どんな流れで行動したんですか?

被害の大きかった八代市、八代神社(妙見宮)の楼門。藤本さんは3泊4日、寺井さんは1泊2日で熊本に滞在。そのうち丸一日、一緒に災害ボランティアとして活動した

藤本:朝に現地集合すると、まずオリエンテーションが行われて、作業時の注意点やマニュアルが共有されます。そのあと、ボランティアセンターの方がどのお宅に誰が向かうかをマッチングしてくれる。僕たちは被災した方のご自宅に伺って、片付けをしました。作業は午後3時頃には終わるスケジュールでしたね。

ただ、ボランティアセンターが指揮を執ってくれるのは、どのご自宅に伺うかまでなんです。現場に着けば、被災した方と僕らボランティアという、“個人”同士の関わりになる。そこで結局困ってくるのが、「ごみをどうするか問題」なんですよ。

──ごみをどうするか問題?

藤本:一つは、被災した方への「これは残しておいていいですか?」という確認。ちなみに、その方にとって何が大切でなにが不要なのかぼくたちにはわからないので、不用意に「捨ててもいいですか?」という聞き方はしないようにしています。

もう一つは、自治体が定めた災害時のごみ出しルールを参照しながら、どこにどう捨てるかを判断することです。

特に災害時のごみ出しルールは複雑で、どこに捨てればよいのかわからないものも多々ありました。寺井くんは、どこに問題があるのかを突き止めようと、一人でめちゃくちゃ立ち回ってくれたんです。

寺井:そう聞くとかっこいいですが、端的に言えば、たらい回しにあったんですけど(笑)。

──というと……?

寺井:熊本市には、災害ごみをどこに捨てるかというガイドラインや方針があります。ただ、実際に地域のごみ捨て場を運営しているのは自治会なので、市と自治会の方針が食い違うケースも少なくないんです。

実際に、市から案内された臨時のごみ捨て場へ行ったら、「大型災害ごみの投棄禁止」という紙が貼られているのに遭遇して。

誰が決めたルールなのかもわからないので、自治会や地域の組長に聞き、熊本市の本庁や区役所、環境課にも問い合わせてといろんな人にバトンパスされて、その日のうちに捨てられなかったごみもありました。

 

必要なのは、地域ごとの『小さなマニュアル』

──市と自治会で、なぜそんな食い違いが起きるのでしょう?

寺井:市が出すのは、あくまで全体の方針です。でも、置き場の広さや地域の事情はそれぞれ違うので、よりローカルなルールが出てきます。先ほどのケースも、市が指定したごみ捨て場に大量のごみが集まってしまったため、自治会の判断で投棄禁止にしたとのことでした。

災害の現場は刻一刻と状況が変わっていくなか、グレーな部分を判断できる人がなかなかいないことで、処理が滞ってしまうんだと思います。

藤本:市の人も、張り紙をした人も、誰一人嘘を言っているわけじゃないんですよね。決めたことが周知されるまでのタイムラグもありますし。

以前は、ワイドショーなどで「ごみ屋敷」が取り上げられたりしましたけど、そもそも私有地だし、何がごみで何がごみではないのかという線引きもあって、自治体がどこまで介入するのかは難しいですよね。そうした普段の地域の関係性も含めて、災害時に一気に露呈するんだなと感じました。

──めちゃくちゃローカルな話だし、だからこそ難しい問題ですね……。

藤本:そうなんです。めちゃくちゃローカルな話なのに、京都や兵庫から来たよそ者が役所の担当者や自治会の会長や被災された方とのあいだを奔走するという。だからこそ、行政の方がイニシアチブを取ってまとめておいてくれたらいいな、とは思いましたけど。

寺井:ただ、電話口の職員の方たちだけでは判断できない事情もあるんですよね。

災害が起きると人手が足りなくなり、普段は別の業務をしている職員も応援に入るようなんです。「各地区のごみ集積所や仮置き場をどうする?」という、とてもローカルな問題に対処しなければいけない。そんななかで、曖昧なケースに明確な判断を下すのは難しいだろうなと。

藤本:そう考えると、「一応こう決められているはずなんですけど……」とたらい回しになってしまうのも、仕方がないですよね。

──これだけ災害が多い国でも、まだ制度の整備があまり進んでいないんですね。

寺井:実は、これまでにも災害が何度も起きてきたので、国や自治体も制度や支援体制は整えてきているんです。たとえば、「D.Waste-Net」。2015年9月に発足した、災害廃棄物処理支援ネットワークです。国立環境研究所や日本環境衛生センターといった専門機関が名を連ね、被災した自治体に技術的な助言や人手を送り込みます。全国は8つの地域ブロックに分かれていて、平時から共同訓練や行動計画づくりが行われている。

つまり「その時が来たら、どこが応援に行くか」が、あらかじめ決めておく仕組みを設けて、スピード感のある支援ができる体制をつくっています。

「D.Waste-Net」のHPより

寺井:今回の熊本地震では、九州地方環境事務所に対策本部が置かれ、本省や他地域の環境事務所から職員が派遣されました。さらに、宮城県・仙台市・川崎市など、遠く離れた26の自治体が人的支援に駆けつけています。処理が追いつかない町村は、県に事務を委託し、県が二次仮置き場以降の処理をまとめて担う体制がとられました。

ただ、大きな仕組みは整いつつある一方で、今回の件で現場でトラブルが起きないような十分な情報やノウハウが届いていないと感じたので、小さなレベルのマニュアルを整備することが大切だと思いました。

たとえば、仮置き場に災害ごみ以外のものが持ち込まれてトラブルになったときに、「この地域ではこう対応しましょう」と判断できるような、“災害ごみあるある”への対処法というか。被災した何万人、何百万人という人たちが実際に直面するのは、むしろそういう小さなトラブルだと思うので。

 

被災地だけでは処理できない。産廃事業者が支える広域処理

──小さなマニュアルの整備のほかに、行政がしておくべき備えはありますか?

寺井:代表的な備えは、自治体と廃棄物処理会社が事前に協定を結んでおくことです。

先ほどお話ししたように、今回の熊本地震では、県全体で平常時の約2年分にあたる災害ごみが出ると見込まれています。これだけの量を、被災した地域だけで処理するのは難しいんですよね。

──そうですよね。ごみ処理場もたちまちパンクしてしまう。

寺井:だから、「この地域で災害が起きたら、うちが受け入れます」とあらかじめ取り決めておくことが必要になります。実際、災害が起きた際には、そうした事前の取り決めを元に、各地の処理会社へごみを分散させて日本全体でバランスを取っていくんです。

──ごみを受け入れるだけでなく、人や車両を現地へ送る支援もあるのでしょうか?

寺井:あります。業界団体を通じて加盟企業に要請がかかり、被災地へトラックやドライバーが派遣されることもあります。僕の前職の産業廃棄物処理会社でも、被災地へドライバーを派遣するなどの支援はしていました。

もちろんその費用は出ますけど、正直、本業をしていたほうが儲かるんですよ。それでも「困ったときはお互いさま」と、ある意味、“男気”で応援に入っている会社も多いですね。

藤本:僕自身もそうでしたが、平常時に事業系のごみを扱っている人たちが、災害現場を支えてくれていることを知らない人は多いですよね。産廃事業者の皆さんの力が、すごく重要になるんです。

──産廃事業者の活躍はもっと知られてほしいですね。ちなみに、災害ごみの処理体制は、地域によっても違うのでしょうか?

寺井:違いますね。僕は、その点でいうと首都圏は災害ごみの処理体制が弱いと思っています。西日本には比較的広い工場で瓦礫や木を扱っている会社がありますが、関東にはそうしたものを受け入れられる大きな設備や土地を持った処理会社がそれほど多くないんです。

もし首都直下地震が起きて、周辺にもサポートできる会社がなければ、ごみが外へ出ていかず、滞留する可能性があります。だからこそ、地域を越えて処理できる体制をちゃんと整えておく必要があるんです。

 

災害ごみを知ることが、災害への備えになる

──行政や事業者による備えとあわせて、私たち一人ひとりにできることはありますか?

寺井:まずは、自分の地域で災害が起きたとき、ごみをどこへ持っていくのかを知っておくことですね。

災害時に出たごみは、いったん「仮置き場」に集められ、そこから各地の処理施設へ運ばれます。普段のごみ捨て場とは違う場所に持っていくこともありますし、「仮置き場」という言葉を知らなかったら、いざというときに余計わからなくなってしまうと思うんです。

──確かに、一時避難所を確認することはあっても、災害ごみの仮置き場を確認したことはなかったです……。

多くの仮置き場として指定されているのは、学校のグラウンド。円が描かれ、木材や瓦など、ごみの種類別にエリア分けされている

寺井:そうですよね。仮置き場を事前に設けていない自治体もあるので、災害廃棄物に関する方針を事前に確認したうえで、発災後は最新情報を見ておくといいですね。

それから、自治体によっては、災害ごみを持ち込む際に「罹災証明書」が必要になる場合もあります。

被害の状況がわかる写真などを用意して自治体へ申請するのですが、細かい手続きは地域によって違います。そういう情報を少しでも頭の片隅に置いておくことも、備えの一つですね。

──罹災証明書をどうすれば発行できるか平時に調べておくのも大事な備えになるんですね。

寺井:あとは、災害ボランティアに参加して現場を見ておくことも、災害への備えになると感じました。僕自身、ごみに関する知識はありましたが、今回ボランティアに参加して初めてわかったことがたくさんあったので。

藤本:そうだね。僕は、ボランティアって本来は行こうと思えば誰でも行けるものなのに、多くの人にとってハードルが高くなっていることが気になっていて。それは、現地で何をするのかが見えていないからじゃないかと思うんです。

災害ボランティアには、各地のボランティアセンターのWebサイトなどから申し込み、登録や保険の手続きをして参加する(写真は八代市のボランティアセンターHP)

藤本:最初にも言ったように、災害ボランティアの多くが行うのは、掃除やごみの片付けです。

作業自体は家で普段していることの延長線上なので、特別な技術がなくてもできる。普段は敬遠されがちな「ごみ」を入り口にして、災害ボランティアに参加する人が増えたらいいなと思うんです。

──何をするのかが具体的にわかると、参加をイメージしやすくなりますね。

藤本:それでも抵抗感があるとしたら、「ごみ」という言葉自体が持つネガティブな印象も関係している気がします。

メディアでも、災害が起きた時に「被災地で大切なものがごみになっています」という映し方はしても、その災害ごみがどんな仕組みで運ばれ、誰が処理しているのかまでは、あまり伝えられてこなかったと思うんです。

持ち主の思い出や感情を思ってのことかもしれませんが、そもそも、そうした想いの部分は他人には測れませんよね。だからこそ、変に気を遣って「ごみ」を腫れ物扱いするんじゃなく、もっと普通に、フラットに捉えていいんじゃないかと思うんです。

そうすれば、災害時にごみがどう動くのか、産廃事業者の皆さんがどう支えているのかも、もっと自然に見えるようになるし、日常においても、ごみについてももっと向き合いやすくなるんじゃないかな。

取材・編集:友光だんご
構成:佐々木ののか