
娯楽の多様化やさまざまな原因により視聴率が伸び悩み、曲がり角を迎えているとされるテレビ。私自身、番組リサーチャーや放送作家としてテレビに関わってきたこともあり、最近は制作費削減などの厳しい現場の声も聞こえていた。
コンプライアンスにより「できることが減った」と言われ、何かと批判の声が集まりやすく、とかく悩ましい話が聞こえるテレビ。
しかし、私もライターの仕事がメインとなり、別の業界を知ったからこそテレビの強さをあらためて感じる。大衆性や、多くの人を介するからこそ磨かれていく部分、制作技術の高さなど、まだアドバンテージがあるとも感じるのだ。同時に、それが100%発揮できていないようにも見える。
そんなことを考える日々の中で、目に留まったのがこの本、「腐ったテレビに誰がした?『中の人』による検証と考察」(著・鎮目博道/光文社刊)。
著者の鎮目さんは長らくテレビ制作の現場で働いており、経費削減やコンプライアンス、テレビ界の古い体質、そしてブラックな環境で疲弊し、やりたいことができないテレビマンたちの悲哀を伝えている。そして、それが興味深くてたまらなかった。
どちらかというとテレビ界への厳しい叱咤の多い本であったが、その裏にテレビへのやるせない愛情のようなものが透けた気がして、はやる想いで取材のオファーをした。
「テレビを苦しめているもの、ダメなところ」から、とんと語られない「テレビのいいところ、こうすればもっと良くなるところ」まで伺いたいと思ったのだ。
鎮目さんは「局を辞めたOBで、テレビだけで食べているわけではないから言える部分がある」と、インタビューに応じてくれた。

話を聞いた人:鎮目博道さん
1992年にテレビ朝日に入社し、「スーパーJチャンネル」などのニュース番組を中心に手がけたあと、ABEMAの立ち上げに参加。2019年に独立し、そのあと番組制作会社シーズメディアを立ち上げてテレビに携わるほか、多方面で活躍。バラエティやドキュメンタリーなどを含め、さまざまな番組の制作に関わってきた。
現場は頑張っているが、何もかも“苦しいほどに制限されている”
辰井「まず、今のテレビを苦しめているのは何でしょうか?」
鎮目「今は、どんどんテレビCMの広告価値が相対的に落ちてきて、どんどんテレビの予算が少なくなり、どんどん番組がつまらなくなっていく。この繰り返しです」
辰井「明快だ……そうなっている原因は何でしょうか?」
鎮目「その前にまずみなさんの誤解を解いておきたいんですが、テレビ局ってそんなにテレビを作ってないんですよね。番組を作ってる大部分はテレビ制作会社やフリーランスの外部スタッフです」
辰井「私もフリーランスでテレビに関わる一人ですが、意外と知られていないですよね」
鎮目「テレビ局員は基本的に番組作りの指示を出す人なので。現場のテレビマンは、何もかも苦しいほどに制限された条件の中で、それでもなんとか面白くしようといろいろやってる人たちの集団なんですよね」
辰井「元テレビ局員の立場でそれを言えるのはスゴいですが、制作会社のスタッフらの足かせになっているものが多くあると……!」
鎮目「はい、現場は頑張っているんです……!」
コンプライアンスの厳守が赤字の原因にも?
辰井「テレビ界、やはりやれることの幅は狭くなっていますか?」
鎮目「どんどん狭くなっています。ただし、私はABEMAもやった経験から言えるのですが、ネットの方が炎上の危険はあると言えます。地上波と違い、ネットのコンテンツはずっと残りますから」
辰井「残るからこそ、蒸し返される」
鎮目「時間差で炎上することもありますし。ただしテレビ番組は今、番組の中の人だけじゃなくて、テレビ局のコンプライアンス担当も内容をチェックするんです」

辰井「チェックが増えると、やりたい表現にNGが出る可能性は上がりますよね……?」
鎮目「はい、チェックの回数はどんどん増えてます。予算は減るのに、手直しの回数は増えるので儲けが減って、予算内で収まらなくなって赤字が出るわけです」
制作費が減りすぎて、生きていけない
辰井「赤字まで出ている?」
鎮目「はい、制作費がびっくりするくらい減ってるんですよ。独立系の制作会社にいる働き盛りのディレクターが、テレビだけでは食っていけなくなりそうって」
辰井「あんなにきつい仕事に耐えても、生きていけない?」
鎮目「だから優秀な子も抜けていってしまいます。テレビにいても一発当てられないし、食べていけないと。人が集まりません」
辰井「制作会社が赤字になると、どう補うんですか? 」
鎮目「制作会社が赤字をのんでいます。テレビ作りは、会社の映像制作の力をアピールする材料になるので、他で埋めるわけです」
辰井「テレビ作りは『箔が付く』わけですね。ただ最近は、とある有名な制作会社もボーナスカットになったと聞きますが……? そもそも高給でもないのに……」
鎮目「はい。テレビの赤字が埋めきれなくなって、今、制作会社がいっぱい倒産しています。予算とやらされてることが見合ってない。人をたくさん使えないから仕事も雑になるし、チェックも甘くなって事故が起きる」
辰井「大変だ……」
鎮目「どんなテレビ局の人も、『もう少し制作時間と予算を増やさないと、いい番組は作りようがない』と言います」
実はいま、ADの多くは「定時で帰れる」
辰井「いま、制作会社にADが集まらないと聞きますが?」
鎮目「はい、かなりのADが派遣会社からの派遣になりました。そうするとディレクターは『育ててもしょうがない』と思うんですよ」

テレビマン御用達、東京オフラインセンター
辰井「ずっと自分の部下でいてくれないからですか?」
鎮目「はい。『明るい未来が見えない』と、制作会社にADとして入る人が減りました。かつて制作会社のADは『何年か耐えて先輩の技を盗んで、ディレクターになれば好きなもの作れるぞ』と、夢見て必死で耐えていましたが」
辰井「業界の未来を担う子たちが……」
鎮目「でもその代わり、ADが毎日家に帰れるようになりました。今、待遇が一番いいのはADです。 17時になったら帰しなさいと言われるケースもあるくらいです」
辰井「ええ、17時で帰れる!?」
鎮目「はい、ADに残業させちゃダメって強く言われてるんで。その分ディレクターから、局のプロデューサーまでが重労働になっています」
辰井「大変だ……ただし、ちゃんと帰れる環境で映像技術を学びつつ働けるわけですね。あえて、ディレクターを目指しやすい制作会社のADになるのは良いポジションになりつつありますか?」
鎮目「そうかもしれません。今はADが少なくて取り合いになっていますし、やめさせないように周囲が優しくなりましたから」
テレビ制作会社に番組の権利がない
辰井「テレビ制作会社はなぜ苦しいのでしょうか?」
鎮目「理由の一つは、制作会社が番組を作っていても権利はテレビ局側が持ち、制作会社には残らないケースが多いことです。だから、制作会社の収入はどんどん少なくなる番組制作費だけになり、経営難でスタッフの給料も増えません」
辰井「テレビ番組は制作会社メインで作っていても、その映像の権利がない……?」
鎮目「実は制作会社は大昔から『番組の権利をください』と訴えているんです。でもテレビ局が強かったんで、ずっと却下されてきました。だけど、もうお金が出せないんだったら、権利ぐらい制作会社にあげてくださいと」

辰井「まだそういうケースはないんですか? 」
鎮目「吉本興業などのプロダクションでの制作ではそういうケースはありますが、普通の制作会社にもそれだけでもあげてほしいんです。面白い番組を作っても利益を上げられない構造で、本当にみんな食うに困ってるので。もう本当に成り立たないぐらいまで追い込まれちゃってるんです」
海外では制作会社主導のテレビ番組制作が進む
辰井「苦しい状況ですが、テレビ局側から歩み寄ってくれるのは少しハードルが高そうですね」
鎮目「なので、最初から制作会社が自社で著作権を持って、その放送権を各所へ売る形にするべきです。予算を上げられるし、面白いものを作りやすくなると思います」
辰井「もうやってるところはあるんですか? 」
鎮目「映画やCMを作るような、大きめの制作会社さんはそうなりつつあります。ネット配信などの面白いコンテンツを見て、テレビ局から制作依頼されることもあるんです。そこで、初めて条件交渉ができます」
辰井「弱い立場を脱却できる」
鎮目「実は、外国のテレビはほとんどそうなんですよ。例えばアメリカは、ワーナーとかが作ったドラマをテレビ局が契約して流します。韓国でも『スタジオドラゴン』のように、制作会社の名前自体がブランドになっています」
辰井「制作会社が名前で商売できるわけですか」
鎮目「はい、スタジオドラゴンが作るドラマは面白いと知られているから、各放送局がオファーするし、投資が全世界から集まるから面白い番組が作れる 」

辰井「ただ、日本のテレビ制作会社って中小企業ばかりなので、なかなか大変なような……?」
鎮目「今はまだそういう制作会社は少ないですね。でも、例えば『クリーク・アンド・リバー社』という制作会社は、もともと登録したフリーランスをテレビ局に派遣する会社だったんですけど、そこで儲けたお金でいろいろな会社を買ったんです」
辰井「M&Aですか?」
鎮目「はい。それで、大きめの制作会社をいくつか傘下に収めました。さらに技術会社とか出版社、手帳の高橋書店とか、イベント会社とか、医療分野にも事業を広げてグループ化しました。グループ全体で4,600人を超える規模に成長し、上場もしています」
辰井「いつの間に……!」
鎮目「『東北新社』も、キャラクタービジネスまで手がけています。ヒットを出したときに、いろいろなビジネスを自社で展開できたら、テレビ局に頼らなくてもいいし、制作会社が強くなれば、テレビ局ともう少しフェアなビジネスができるようになるので」
限られた制作費を、人材に使う
辰井「制作費が削られる中で、テレビ作りの現場では、何をあきらめ、何を残すべきですか?」
鎮目「実は大物タレントさんへ使うお金を削減する動きが出ています。フジテレビの問題など諸々で大物が降板になったいくつかの番組で、そんなに数字が落ちていないと気づいたんですよ。タレント頼りの番組より、面白い企画の番組を作ろうと制作現場が少しだけ変わりつつあります」

フジテレビ
辰井「作る人がいなければ番組はできないですからね」
鎮目「ええ。あと、今は個人でも質の高い映像を作れる時代なので、番組によっては、以前ほど高価な機材や大がかりな設備にお金をかけなくても作れると思うんです」
辰井「最近はYouTuberの作る映像もきれいですからね」
鎮目「これまで高級なカメラや編集スタジオなどにかけていた費用を、内容に応じて見直す。その分、企画や取材、演出を担う人材にお金を回した方がいいと感じます」
テレ東式「ターゲットを絞るとCMも来る」
辰井「他に、今のテレビ界で突破口のようなものはありますか?」
鎮目「意外といい商売になっているのがBSです。お年寄り特化の番組は多いですが、ニッチな番組を作れるんですよ。あと、地方局は初めからTVerで全国の人に見てもらうための番組作りを始めています」
辰井「家にテレビがない人もTVerで見ているケースが増えましたからね」
鎮目「はい、地方の地上波の商品価値が落ちすぎていて、あまり商売にならないので。全国で見てもらうには初めからTVerで流してもらって、大きな配信サービスなどに見つけてもらおうとするわけです」
辰井「一見ポジティブですが、生き残りをかけた戦いでもあるわけですね……!」

「KBS京都」は独立系UHF局ながらも自社制作番組が多い
鎮目「テレビ番組はもっとターゲットを絞るべきです。例えばテレ東さんは社員さんが『普通にやったらテレ東のニュースなんて誰も見ない』と自虐されていましたが、だから経済に特化した『WBS(ワールドビジネスサテライト)』を立ち上げて、そこに株や投資など、経済に関心のある人向けのCMが来る。今も特化した番組でCM枠を売る文化があります」
辰井「テレ東に時代が追いついたんですね」
“こんな時代”に挑戦する番組たち
辰井「そんな今の時代に『テレビならではのすごい番組』とは何ですか?」
鎮目「例えば『オモウマい店』(日本テレビ系)です。若いADやディレクターさんが小さなカメラ1台で、自分が面白いと思う店を探し続けて、見つけたお店に密着取材をする番組です。しかも若い子たちはお店の方にかわいがられるんです」
辰井「僕も、銭湯のテレビで見入っちゃいました」
鎮目「頼りないADだからこそ愛されて、面白いものが撮れるんです。例えばあるディレクターが『少年野球でホームランを打った選手は美味しい店にご飯を食べに行くに違いない』と仮説を立てて、3年間、愛知県内の少年野球の試合で聞いているんですが一度もお店を紹介できてない。でも、それを『今回もダメでした』って流すんですよ」
辰井「ボツにせず、それ自体をオンエアしている?」
鎮目「はい。制作は中京テレビなんですが、名古屋のテレビ局には東京がやらないことをやろうとする風土があると聞きます」

中京テレビ
鎮目「もう一つは『水曜日のダウンタウン』(TBS系)ですね。炎上が怖くてチャレンジができなくなっている中で、果敢に挑んでギリギリを攻め続けると、そのうち見慣れて『いいんじゃない?』とみんなが思うようになるので。それをやってるのが水ダウだと」
辰井「僕も好きです、挑み続けている番組ですね……僕が見た回では、最低限の配慮はしているように見えましたし」
鎮目「はい。水ダウはちょいちょい炎上もするんですけど、内容が面白いので味方が多いんです。炎上しても応援の声が多いので、番組が続いています」

TBS
海外で人気の日本の番組たち
辰井「これからのテレビはどこへ向かうべきですか?」
鎮目「海外でウケる方向です。例えば『月曜から夜ふかし』(日本テレビ系)は中国で流行していますから」
辰井「ええ? 配信ですか?」
鎮目「いや、非合法で配信されてるだけなんですが(笑)。ただ、熱心な中国のファンが多いんです」

辰井「複雑な気持ちだ……! でも、日本の番組が世界でウケることを示していますね」
鎮目「ですが、『夜ふかし』は2026年から、中国以外の公式配信を求める海外視聴者の長年の要望にこたえて、Netflixで配信が始まりました。『はじめてのおつかい』(日本テレビ系)も2022年にNetflixで世界に配信され、海外でも話題になっています。日本の『街角で面白いものを見つける』は、世界にも通用する強いコンテンツだと思います」
テレビに残る、工夫とチーム力
辰井「鎮目さんが、自分たちの世代で終わらせるべきだと思うテレビ界の慣習は何ですか?」
鎮目「テレビって成功した人がカリスマ化しちゃう業界なんです。『俺のころはこうだった』とか言って、今の人たちがみんなやりにくくなることが多いんで。局のトップに上がる人はもっと全体的に見られる若い人にした方がいいと思います」
辰井「逆に、これからも残ってほしいテレビのすごさは何ですか?」
鎮目「テレビマンって、厳しい条件の中でも、放送日までには何とか作るんですよ。なんとか形にする対応力と、チーム力の強さは非常に高いと思います」
辰井「ちなみに私の知り合いのテレビマンを思い返すと、愚痴をこぼしながらも比較的楽しそうに働いている人々も少なくないんです。それはなぜだと思いますか?」
鎮目「面白いことを考えて、みんなで作って形になる喜びがあるからです。工夫した細部がウケたとか、そこに生きがいを感じてみんな頑張るんです」
辰井「最後に、いまテレビが視聴者のためにやるべきことは何ですか?」
鎮目「視聴者の方から信頼を得るために、ニュース番組が大事だと思います。実はABEMAを始めるときにサイバーエージェントの藤田晋さんが言った言葉で今でも心に残っているのが、『ABEMAを信頼してもらうためにはまずニュース番組が必要で、それがちゃんとしてないと、他の娯楽番組も見てもらえない』って」
辰井「ニュース番組は使命を担っているんですね。そして、テレビが苦しい中で、『こういう視聴者の方がいると、制作陣は涙が出るほどうれしい』ことはなんですか? 」
鎮目「もう、見てくれたらうれしいですよ。何にも反応がないのが一番辛いです」
辰井「作り手の気持ちが伝わる」
鎮目「テレビの陰謀とかよく言われますけど、陰謀を巡らせられるほど人はいないし、何かを操れるほど余裕はありません。毎日必死で枠を埋めてるだけなんです。涙ぐましく、お金も人も足りない中でフル回転して間に合わせているのがテレビなので」

正直言うと、「頑張っていないからテレビはダメなんだ」という声が悲しかった。
たしかに頑張っていない人もゼロではない。しかし、ここでは生々しくて詳細を言えないほど、番組を良くするために奔走する人を筆者も多く見てきた。
だからこそ、テレビのダメな部分は「頑張りが報われない構造」であることを知ってほしかった。そして、かすかに改善へ向かっていることも。
ちなみにここまで「テレビ制作の恐ろしい話」が多かったのだが、ちゃんと休日を取って、人生を謳歌しているテレビマンの姿も多く知っているので、テレビ業界志望者の方はどうか怖がりすぎないでほしい。
もうテレビを見なくなった人も多いかもしれないが、テレビでも、TVerでもふと思い出して数分でも見てくれたら、うれしいのだ。
編集・撮影:友光だんご
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この記事を書いたライター
卓球と競馬と旅先のホテルで観る地方局のテレビ番組が好きなライター、番組リサーチャー。過去には『秘密のケンミンSHOW』を7年担当。著書に『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』 (PHPビジネス新書)。







































