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2019.07.18
知ったかぶり対談 第二十六回:山形県麦切りは細いうどんではない
デイリーポータルZがいろいろな場所で取材してきた記事を読むことで、その県の出身者に負けないくらい知ったかぶりできるんじゃないか。それが知ったかぶり対談です。
今回は山形県。翻訳家の丸山清志さんに登場してもらいました。インタビューはデイリーポータルZ編集部安藤が担当します。
海側と山側とでずいぶん違う
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丸山さんは山形県の鶴岡市のご出身とききました。鶴岡は山形県の日本海側ですよね。
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そうですね、庄内地方と呼ばれる場所です。高校までをそこで過ごしました。
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庄内と言えば前に取材で酒田に行ったことがあるんですが、山形市からはかなり離れていますよね。

アマハゲが出る遊佐町には酒田から行きました(ワラ着てて怖すぎる!山形の鬼は大人も泣かす)
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そうですね、山形市は山形新幹線ですが鶴岡とか酒田だと新潟周りですからね。文化的にもかなり違うと思います。
麦切りは細いうどんではない
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まずお聞きしたいのは「麦切り」です。

これが麦切り。(君は山形県庄内地方の麺、麦切りを知っているか)
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これはつまり細いうどん、ということですか?
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僕も語れるほど詳しくないのであまり強く言うのも申し訳ないのですが、違います。
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違いますか。
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違います。麦切りです。
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でも要するに小麦の生地をうどんより細く切った、ということでは。
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そばというのはもともとは「そば切り」と呼ばれていたらしいんですね。他にもそば粉を使ったいろいろな食べ物があって、そのバリエーションのひとつとして切ったものを「そば切り」と言った。それが省略されて今では単に「そば」と呼ばれるようになったらしいんです。
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ということはもしかして麦切りも。
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そうです、小麦を使ったいろいろな料理のバリエーションのひとつとして、細く切ったものを「麦切り」と呼んでいるんです。だから細いうどんではありません。
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ものすごく納得したような、より分からなくなったような気もしますが、麦切りはうどんではない、という山形県民のプライドみたいなものは感じました。これは記事にあるようにカラシをつけて食べるんですか。

記事では粒マスタードで食べていました。
(君は山形県庄内地方の麺、麦切りを知っているか)
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麦切りは、山形といっても内陸部ではあまり食べられていないんじゃないかと思います。庄内地方では夏になるとよく食べていましたが、この記事のようにカラシで食べた記憶はないんですよね。お店によるのかもしれないですし、単に僕が子どもの頃にしか山形にいなかったからかもしれないですけど。
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麦切り、ちょっと食べてみたくなってしまったんですが、東京だと食べられないですよね。
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そうですね、山形だと本当に普通に食べているんですが、だからこそわざわざ東京へ進出しよう、みたいな野心も生まれてこないんじゃないですかね。
芋煮会をする前に鍋の裏に洗剤を塗ること
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では今日の本題、芋煮会の話を聞かせてもらってもいいですか。
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これも語れるほど知識があるわけでもないんですが、まあ山形の話で芋煮会は避けては通れないですよね。

山形といえば芋煮(これが山形の芋煮会だ!)
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芋煮会っていうのは、例えば関東でいうと何にあたるのかなと思って考えていたんです。バーベキューともちょっと違いますよね。餅つき?
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そうですね、まあやっていることはバーベキューみたいなものなんですが、町内会の運動会で芋煮会をしたり、親戚で集まって芋煮会をしたり、あとはもちろん友だちと芋煮会をしたり。雰囲気として餅つき大会はいい線いってるかもしれません。
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レジャーの軸が芋煮会になっている。
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すべてが芋煮会をやるための口実になっている、とも言えます。そうそう、芋煮会をやるときは始める前に鍋の裏に洗剤を塗ることを忘れないでください。
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何を急に言い出しましたか。
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ほら、芋煮会は基本的に薪でやるので、鍋の底がすすだらけになってしまうんです。そうなると洗うのがたいへんだから、あらかじめ外側に洗剤を塗っておくといいんです。

芋煮は基本的に薪でやります。
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ものすごく狭いけど役に立つ生活の知恵ですね。芋煮会に関しても山側と海側とでは違いがあるんですか。
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はい。味も具もぜんぜん違います。基本的に海側は豚肉で味噌味、山側は牛肉でしょうゆ味ですね。
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それはもはや別の料理なのでは。
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でもみんなで集まって外ででかい鍋で芋を煮る、という部分は共通なのでどちらも芋煮です。山形大学は農学部が鶴岡にあるので、1~2年を山形市で、3~4年を鶴岡で過ごすんです。するとどうなると思いますか。
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分断された食文化を行き来するわけですね。
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そうです。3年になって鶴岡で芋煮会をやろう、というときに初めて(これはおれが知ってる芋煮じゃない…)って思うでしょうね。
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これは豚汁ではないか、と。
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豚汁ではありません、芋煮です。鶴岡の人は芋煮を豚汁と言われることに敏感なので、現地では気をつけた方がいいです。
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すみません!山形に行く時には気をつけよう。
「ばけものまつり」とは
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カセ鳥とかアマハゲとか、ちょっと特徴的な文化があるのも山形ですね。

カセ鳥(藁の服を着て水を掛けられる奇習カセ鳥)
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実はカセ鳥は記事を読んで初めて知りました。他にも鶴岡だと「ばけものまつり」っていうのがあって。
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ばけものを、まつる?
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傘をかぶって手ぬぐいで顔を隠した人が、無言で酒をふるまう祭りなんです。手ぬぐいで顔を隠しているから誰だかわからなくて、これを「ばけもの」と言うんですけど、正体がバレないまま神社までたどり着けるとご利益があるということになっています。
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それはふるまってもらう側も楽しそうですね。
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そうですね。「そろそろばけものがくるかなー」ってそわそわしながらみんな外で待機しています。
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それは一度取材しないとですね。
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ぜひ来てください。鶴岡の代表的な祭りです。
丸山さん、ありがとうございました。
【次回予告】次回は宮崎県を知ったかぶります!(8月22日公開予定)
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- 丸山清志(まるやま・せいし)
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山形県鶴岡市出身。翻訳家、通訳、CFP®。
一橋大学法学部卒業後、カリフォルニア州立大学スタニスラス校政治学科卒業。ナポリのイタリア語語学学校修了。米国現地生命保険会社に勤務後、日本の語学・留学関連会社を経て、翻訳家として独立。その後、CFPの認定を受け、ファイナンシャルプランナーとして事務所を設立。現在、個人・法人向けFP相談業務、講演活動、翻訳・通訳業務等を幅広く行う。扱う言語は日、英、西、伊、仏、葡。訳書に『Comickers Art』シリーズ(Collins Design社)、『ケン・フィッシャーのPSR株分析』『投資家が大切にしたいたった3つの疑問』「株式投資が富への道を導く」(いずれもパンローリング社)他多数。

- 安藤昌教
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デイリーポータルZ編集部
1975年生まれ。愛知県出身。
前職は国立研究所にて高速炉の研究に従事。その後、氣志團バックダンサー、コーヒーショップ経営、等を経てデイリーポータルZ編集部に。
ものをむかずに食べる「むかない安藤」としての活動も7年目に突入。むかない安藤
https://www.youtube.com/playlist?list=PLI3lg7RZciQwJbfwfbzoo-ntIQV5IAEYhデイリーポータルZ編集部としてのプロフィール
https://dailyportalz.jp/writer/kijilist/212
今回話題にもならなかった山形県の記事(デイリーポータルZのサイトに移動します)
