知ったかぶり47

知ったかぶり対談 第十九回:三重県ふわっと生きよう、伊勢うどんみたいに

デイリーポータルZがいろいろな場所で取材してきた記事を読むことで、その県の出身者に負けないくらい知ったかぶりできるんじゃないか。それが知ったかぶり対談です。

今回は三重県です。三重県を愛しすぎて伊勢うどん大使まで務めることになったコラムニスト石原壮一郎さんに登場してもらいました。インタビューはデイリーポータルZ編集部安藤が担当します。

かつてはこっそり食べられていた伊勢うどん

  • 石原さんは伊勢うどん大使としても活動されていますが、これは主にどのようなことをされているんでしょうか。

  • 全国に伊勢うどんのすばらしさを伝える役目です。具体的にいうとライターという立場を利用して関係のない記事に伊勢うどんの話を割り込ませたりしています。

  • なるほど。その石原さんの地道な活動が実を結んで、いまでは都内にも伊勢うどんのお店が進出するようにまでなってきました。

  • まだまだですが、徐々に認知されてきていますよね。伊勢うどんって、地元ではそこそこ食べられていたんですが、全国的に広がってきたのは本当にこの4、5年だと思います。いまでこそ本場伊勢のうどん屋さんには「伊勢うどん」なんてのぼりが出ていたりしますが、以前は地元でひっそり食べられていたものですから。

  • そうなんですか。

  • 伊勢神宮に参拝に来られた人に消化がよくてすぐにエネルギーになるように、とか、そのスピリットや歴史はちゃんとしているんですが、なにせ三重にはイセエビとか松阪牛とか、美味しいものが他にもたくさんあるじゃないですか。遠くから来てくれた人にわざわざこんな素朴な食べ物を薦めるのもどうかな、と思っていたんじゃないでしょうか。

  • そんな隠れた地元食がなにをきっかけにして全国的に広まったんでしょう。

  • そんな言うほど広まっていないですよ。おそらくですが2013年に伊勢神宮で20年に一度の式年遷宮がありまして、その時にテレビや雑誌で伊勢の特集が組まれたりするなかで「伊勢にはなにやら変わったうどんがあるぞ」ということで表出してきたんじゃないでしょうか。
    だからこの尾張さんの記事が2012年でしょう、私が伊勢うどん友の会というFacebookグループを立ち上げたのが同じ年の7月ですからね、デイリーさんはかなり初期の段階で目をつけていただいたと思いますよ。さすがです。

この記事では伊勢うどんの柔らかさを計測しました。

この記事では伊勢うどんの柔らかさを計測しました。「伊勢うどん独立国

「こし」に惑わされてはいけない

  • こしのあるうどんというのは三重にはないんですか。

  • ないです。

  • ないんですか。

  • いや、チェーン店なんかもなくはないですが、まったく別の珍しい食べ物として食べられているんじゃないですかね。伊勢うどんはこしがあるないではなく、もはやつゆすらない。それをうどんと言ってきたわけだから、〇〇製麺みたいなのは三重の人にとってはまったく別の食べ物ですよ。

  • 僕の生まれ育った愛知でもうどんといえば鍋焼きスタイルだったと思います。だから実家を出るまでうどんというのはぐずぐずに煮込んである食べ物なんだと認識していました。

  • みんな流行りの「こし」なんてものに惑わされて、そういううどんの原体験みたいなものを忘れているんですよ。
    讃岐うどんが唯一のうどんだと思い込んでいる人たちにですね、「こし」という呪縛から解き放たれた伊勢うどんを知らしめたいんです。この世の中は画一的ではないんだと、あなたが抱いている常識とか正義なんてものは必ずしも正しいとは限らないんだよ、と、教えてあげたいですね。その先にあるのは世界平和ですよ。

  • うどんもこしのあるなしだけで判断するのではなく、多様性の時代に突入したということですね。

  • まあどっちでもいいんですけどね。

  • どっちなんですか。

なあなあ主義が通用する三重

  • こういう「どっちでもいいんじゃないでしょうか」とか「適当にやっておきましょうよ」みたいなゆるい感じも三重の文化だと思うんです。私は三重のこういう感じを勝手に「なあなあ主義」と名付けています。

  • 沖縄でいうところの「てーげー(てきとう)」みたいなことでしょうか。

  • 似ているかもしれません。三重だと「それは違う」とか「ぼくは反対です」とか、否定の言葉を聞いたことがないですから。
    たとえば職場の忘年会で若手がお店を決めてきたとするじゃないですか。それを聞いて上司が「そうやな、あそこな、まあ、ええけどな」なんて言ったとしますね。それは暗に「別の店をさがせ」と言っているんです。他県から来た人だとそのまま予約しちゃったりして、そうすると「あいつは仕事できないやつだ」となりますね。

  • それはちょっと三重の人じゃないとわからないですよ。

  • 否定したり主張したりしないから、全体にふわっとしてるんです。
    このアイスまんじゅうの記事にもあるんですが、誰も自分が元祖とか発祥とか主張したがらないじゃないですか。いいんじゃない、元祖がいっぱいあっても、と。伊勢うどんだってかつては単に「うどん」って言われていて、でもどうやら他の県の人に言わせるとこのうどんは特殊らしいってことになったから「伊勢うどん」と名前がつけられたわけですが、誰がつけたとかどこが発祥とか、主張するお店はないですから。

三重県の桑名市を中心にいろいろな種類があるというアイスまんじゅう

三重県の桑名市を中心にいろいろな種類があるというアイスまんじゅう
ローカルアイスまんじゅうが美味しくて面白い

  • 愛知だと逆ですよ。発祥とか元祖とか、主張するのが大好きな気がします。

  • 名古屋駅のお土産ランキングで赤福が一位になったりしているようですが、赤福も天むすも実は三重のものですからね。やはり誰も主張しようとはしませんが。

  • そのおおらかさはどこから来るんでしょうね。愛知と大阪に挟まれているのにどちらからも影響を受けていないような気がします。

  • 三重の、特に海沿いにある松阪とか伊勢なんかは伊勢神宮に守られているという気持ちがあります。気候もおだやかで海にもぐるとアワビとかイセエビとか捕れるし、神宮に行けば神様がいる。そうなると自分の力でなにかを成し遂げようなんて考えはおこがましいって思っちゃうのかもしれませんね。ふわっと楽に生きればいいじゃないか、と。

  • いまふわっとした伊勢うどんのルーツに触れたような気がしましたね。

石原さん、ありがとうございました。

【次回予告】 次回は長崎県を知ったかぶります。(1月17日公開予定)!

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石原壮一郎
石原壮一郎

コラムニスト。1963年三重県松阪市生まれ。月刊誌の編集者を経て「大人養成講座」でデビュー。以来「大人力検定」「大人の合コン力」など、大人をテーマにした著書を次々と発表。2012年には「伊勢うどん友の会」を発足、2013年には世界初の「伊勢うどん大使」(伊勢市麺類飲食業組合、三重県製麺協同組合公認)に就任した。

安藤昌教
安藤昌教

デイリーポータルZ編集部
1975年生まれ。愛知県出身。
前職は国立研究所にて高速炉の研究に従事。その後、氣志團バックダンサー、コーヒーショップ経営、等を経てデイリーポータルZ編集部に。
ものをむかずに食べる「むかない安藤」としての活動も6年目に突入。

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