勤務先が突然倒産してしまったときに備えて、どのような準備をしておくとよいですか?

パートで遭遇するさまざまなトラブル・・・。あなたの疑問に社労士がお答えします。

<質問>
勤めている飲食店が、休業することになりました。今月は休業手当が支給されるようですが、今後のことはまったく分かりません。突然、店がつぶれて、働いた分の賃金がもらえないまま解雇されてしまうかもしれません。このような事態に備えて、今から、何をやっておけばよいでしょうか?

勤務記録を残したり、過去の給与明細を準備したりしておこう

<回答>
勤務先が倒産した場合、従業員は賃金や退職金の未払い分を勤務先に請求することができますし、公的機関がその未払い賃金の立替え払いしてくれる制度もあります。このようなときに備えて、自分が勤務した記録を残す、過去の給与明細を提示できるようにしておく等の準備をしておいてください。

勤務先が突然倒産すると、従業員にも様々な問題が発生する

新型コロナウィルスの影響による売上の低下により、多くの店や会社が厳しい状況に直面しています。このような状況下では、店や会社が突然に倒産してしまい、残された従業員に、次のような問題が発生することがあります。

働いた分の賃金や退職金がもらえない
店や会社が突然倒産してしまったために、従業員が、働いた分の賃金や退職金をもらえないということが起こります。中には、従業員が賃金や退職金の支払いを請求しても、「お金がない」などの理由で経営者から断られてしまうこともあります。

勤務先が解雇・退職に関する手続きを進めてくれない
職を失った従業員は、すぐにでも失業給付(正式名称は、雇用保険の「基本手当」)を受けたいと思うことでしょう。失業給付をもらうためには、勤務先が交付した「離職票」という書類をハローワークに提出することが必要になりますが、突然起こった倒産の場合、勤務先が解雇・退職に関する手続きをなかなか進めてくれないことがあります。こうなると従業員は失業給付をもらうことすらできなくなってしまいます。

このような問題が発生したときのために、従業員は、今のうちから、できる範囲で準備をしておいたほうがよいでしょう。

未払い賃金を請求できるように、勤務記録や給与明細などを準備しておく

賃金や退職金の未払い分がある従業員は、勤務先にその支払いを請求することができます。その際、未払い額が算定できるように、次の資料を揃えておくとよいでしょう。

【1】自分が勤務した記録(タイムカードの写しなど)。タイムカード等が無ければ、自分で日々の出社時刻、退社時刻などをメモに記録しておく。

【2】過去数か月分の給与明細、あるいは賃金が振り込まれている預金口座の通帳

【3】勤務先における賃金や労働時間が明記された書類(労働条件通知書、就業規則など)

未払い額の算定は、原則として勤務先が行うものですが、従業員自身もこれらの資料を準備して、それが確実に行えるようにしおいたほうが安心です。

勤務先が賃金を支払ってくれないときは、立替え払い制度を利用する

勤務先が未払い賃金を支払ってくれない場合は、労働者健康安全機構の「未払い賃金立替え払い制度」を利用することができます。これは、倒産によって未払い賃金が発生した場合、公的機関がその一部を立替え払いしてくれる仕組みです。詳しいことは、労働者健康安全機構のホームページを見てください。

ただし、この制度を利用するためには、勤務先が倒産したことを証明する書類を裁判所等から交付してもらわなければならないなど、面倒な手続きを踏まなければなりません。ですから、この制度の利用は「最後の手段」ぐらいに考えておいて、できるだけ勤務先に未払い賃金を支払ってもらうほうがよいでしょう。

勤務先と連絡が取れなくなったら、ハローワークに相談に行く

「勤務先が解雇・退職に関する手続きをしてくれない」と悩んでいる従業員は、まず、勤務先から離職票が交付されるまでには通常でも2週間ぐらいかかることを理解しておいてください。つまり、解雇・退職の手続きは2週間くらい待たされたとしても当然のことなので、ここで悩むことはありません。

しかし、「2週間待ったが勤務先から何も連絡が来ない」あるいは「倒産直後に勤務先と連絡が取れなくなった」という場合は、ハローワークに相談に行ってください。ハローワークが、勤務先の手続きの進捗状況を確認し、場合によっては、離職票などの書類が無い状態であっても失業給付の申請手続きを進めてくれます。

なお、ハローワークで失業給付の手続きをするときに「雇用保険被保険者証」というスマホぐらいの大きさの紙が必要になります。これは、各自で保管しているはずですが、手元に無い場合は、勤務先が保管していることもあります。この機会に、雇用保険被保険者証が自分または勤務先で保管されているかどうかを確認し、どこにもなければ、ハローワークに行って再発行の手続きをしてください。

ここで述べたことは、あくまでも「最悪のケース」かもしれません。
しかし、新型コロナウィルスの影響は、いつまで続くのか分かりません。ですから、私たちは、それが収束するのをただ待つのではなく、発生しうる様々な問題を考えて、それに対する準備だけはしておいたほうがよいでしょう。

社労士

深瀬勝範(ふかせ かつのり)

Fフロンティア株式会社代表取締役。社会保険労務士。1962年神奈川県生まれ。一橋大卒。大手電機メーカー、金融機関系コンサルティング会社、大手情報サービス会社を経て、独立。企業・公共団体の人事制度設計や事業計画の策定等のコンサルティング、人事労務専門誌などに寄稿も行っている。著書に「労政時報別冊 実践人事デ-タ活用術」(労務行政)。