上司から「育児休業を取得せずに、ひとまず退職して、働けるようになったら、あらためて入社してくれ」と言われました。どうすればよいでしょうか?

パートで遭遇するさまざまなトラブル・・・。あなたの疑問に社労士がお答えします。

<質問>
私は、従業員数10名の会社に勤務しているパートタイマーです。先日、上司に育児休業の取得申請をしたところ、「人員に余裕がないから育児休業を認めることができない。ひとまず退職して、働けるようになったら、あらためて入社してくれ」と言われました。

「育児休業を取得する場合」と「いったん退職して、再就職する場合」とは、何が違ってくるのでしょうか? そして、自分は、どうすればよいでしょうか?

育児休業を取得したほうが、さまざまなメリットが得られます

<回答>
育児休業を取得したほうが、休業期間中に雇用保険の給付金を受けられること、復職後すぐに年次有給休暇が取得されることなどの点で、退職・再就職よりも良い条件になります。

上司が認めてくれない、同僚に気兼ねするなど、育児休業を取得しにくい状況であれば、職場全体で話し合いを行うとよいでしょう。

育児休業は、1年以上勤務していれば、パートタイマーでも取得できる

1歳に満たない子を養育する労働者(日々雇い入れられる者は除く)は、子が1歳に達するまでの期間(特に必要と認められる場合は、子が2歳に達するまでの期間)、育児休業を取得することができます。育児休業は、(従業員規模に関わらず)すべての事業所が対象とされており、また、期間を定めて雇用される者でも、1年以上継続して雇用されている等の条件を満たせば、取得することができます。

ところが、実際には、育児休業の取得を認めようとしない上司、あるいは育児休業が取得できるのに退職してしまう労働者が数多くいらっしゃいます。このような人のほとんどが「育児休業を取得しても、いったん退職してから再就職しても、あまり変わらない」と考えているようです。ここでは、まず両者の違いについて見ていきましょう。

収入・支出で考えると、育児休業のほうが退職・再就職よりも断然に良い

育児休業も退職・再就職も、「一定期間、働けなくなる」と言う点では同じです。しかし、働けない期間の収入・支出については、大きく異なります。

まず、収入について見てみましょう。育児休業を取得した場合、一定の要件を満たせば、休業期間中、賃金の50~67%に相当する給付金(育児休業給付金)が雇用保険から支給されます。一方、退職・再就職の場合は、退職に伴い賃金の受け取りはなくなり、雇用保険の求職者給付(いわゆる失業手当)も出産・育児のために働けない状態にあるときは支給されないため、育児期間中は、収入が無くなってしまいます。

次に支出について見てみます。育児休業を取得した場合、休業期間中も社会保険(健康保険、厚生年金保険)に加入し続けますが、この間の保険料は、本人、事業主負担分ともに免除となるため、支出は発生しません。一方、退職・再就職の場合、それまで加入していた健康保険の被保険者資格を失い、本人が「①家族が加入している健康保険の被扶養者となる」「②在職時の健康保険の任意継続被保険者となる」「③市区町村の国民健康保険に加入する」のうち1つを選択することになりますが、ここで②③を選ぶと保険料の自己負担が発生します。(なお、②③の場合、さらに国民年金にも加入することになりますが、その保険料は免除の適用を受けられます。)

以上のことから、働けない期間中の収入・支出の面で見ると、育児休業を取得したほうが、退職・再就職するよりも断然に良いことが分かります。

復職後の労働条件も、育児休業のほうが退職・再就職よりも良いことが多い

収入・支出以外の面でも、育児休業のほうが退職・再就職よりも条件が良くなります。

例えば、年次有給休暇(年休)の取扱いにおいて、育児休業期間は出勤したものとみなされるため、復職後すぐに年休取得の権利が与えられますが、いったん退職してしまうと、勤続期間ゼロからのスタートになり、復帰後半年間は年休が取得できなくなることがあります。

また、育児休業であれば、休業期間終了後は確実に職場復帰できますが、いったん退職してしまうと、職場に戻れるという保証がなくなってしまいます。

上司が認めてくれないときは、職場内で育児休業について話し合ってみよう

「育児休業のほうが良いことは分かったが、上司が育児休業を認めてくれず、取得できない」という人もいるでしょう。このような上司は「働いていない休業者を抱えることは、職場の負担になる」と思い込んでいることが多いです。

育児休業期間中、その労働者に対しては賃金を支払う必要はなく、社会保険料の事業主負担分も免除となります。したがって、育児休業の取得にあたり、会社の負担は何も発生しません。また、労働力不足の中で、自社の仕事を経験した人が戻ってきてくれることは、会社にとっては、負担どころか、大きなメリットになるものと考えられます。

「同僚に迷惑をかけるから」と気兼ねして、育児休業を取得せずに退職してしまう人もいるでしょう。しかし、このような気兼ねが当然のこととされてしまい、育児休業や休暇を自由に取得できない雰囲気が職場内に広がることのほうが、同僚の迷惑になるのではないでしょうか。

「上司が認めてくれない」あるいは「同僚に迷惑をかける」などと悩んでいる人は、一度、職場内で育児休業について話し合ってみるとよいでしょう。ここに書いてあるようなことを職場内で話せば、「育児休業は会社の負担になる」という上司の思い込み、あるいは「育児休業を取得すると同僚に迷惑をかける」という同僚への気兼ねが小さくなり、育児休業を取得しやすくなるものと思います。

社労士

深瀬勝範(ふかせ かつのり)

Fフロンティア株式会社代表取締役。社会保険労務士。1962年神奈川県生まれ。一橋大卒。大手電機メーカー、金融機関系コンサルティング会社、大手情報サービス会社を経て、独立。企業・公共団体の人事制度設計や事業計画の策定等のコンサルティング、人事労務専門誌などに寄稿も行っている。著書に「労政時報別冊 実践人事デ-タ活用術」(労務行政)。