自分にはマネジメントが向いていない、やりたくないと悩んでいませんか。
チームのために1on1ミーティングや工数管理、懇親会の開催などさまざまな策を講じてきたものの、なかなか成果が出ず疲れている──。そんなマネージャーは少なくないはず。
今回お話しを伺ったのは、10万人以上へのカウンセリングの提供や270社以上のチームづくりに携わってきた櫻本真理さん。
「健全なチームビルディングには『心理的リソース(=思考や判断などをするときに必要な“心のエネルギー”)』への配慮が必要」と語る櫻本さんに、部下はもちろんマネージャー本人も“消耗しないマネジメント術”についてお話を伺いました。
部下が“うまくできない”のは心の消耗が原因かも
- 心理的リソースとは、人が思考や判断、衝動の抑制をするときに使う「心のエネルギー」のこと
- 時間やお金と同じように心のエネルギーも有限な“資源”
- やる気や能力のせいにする前に「何が心理的リソースを消耗しているのか」と考えてみる
櫻本真理さん(以下、櫻本):人が思考や判断、衝動の抑制をする際に必要になる心のエネルギーのことを「心理的リソース」と呼んでいます。
例えば、仕事でちょっと面倒なタスクに取り組もうとするとき、私たちは「やりたくない」「本当は休みたい」という衝動的な気持ちを抑え込み「今からこういう手順で取り組もう」と考え、判断しています。
心理的リソースはそういった場面で都度消費され、使えば減るし、回復には時間がかかる“有限な資源”です。
「時間」や「体力」を“有限”と捉えている方は多いと思いますが、「心のエネルギー」はまるで無限に存在するかのように扱いがちではないでしょうか。
心のエネルギーも有限な“資源”であることを認識すべきという意味を込めて、心理的「リソース(資源)」と名づけました。
自分も周囲も「心」を犠牲にせず、成果を上げるマネジメントの思考法をまとめた一冊
▶『なぜ、あなたのチームは疲れているのか? 職場の「心理的リソース」を回復させるリーダーの思考法』(ダイヤモンド社)
櫻本:私は、心理的リソースというレンズを通すと、部下やチームで起きている課題の本質が見えやすくなると考えています。
例えば、部下に「電話が鳴ったら取るように」とあらかじめ伝えていたのに、なかなか取ってくれず、自分や他の同僚がフォローすることが続いたとします。
そういうとき上司は「この部下はやる気がない」「スキルがない」といったラベル付けをしてしまいがちです。
しかし、実際は「この電話は誰からだろう、自分で対処できるんだろうか」「上司に取り次ぐ際にミスをしてしまったらどうしよう」といった不安が多くの心理的リソースを消耗させてしまい、「取れない」という結果を招いているのかもしれません。

櫻本:はい。でも「当たり前のように電話をとれる人」は、部下がそこまで疲弊しているとは気づきにくい。
心理的リソースは誰もが消費するものですが、何によって消費するかは、適性やスキル、育ち方や価値観などによっても異なります。
ですから、やる気や能力のせいにする前に「このタスクの何が彼・彼女の心理的リソースを消耗させているのだろう?」と一度想像してみてほしいんです。
そうすると、自身のマネジメントがうまくいかない本当の要因と解決策が見えてくるかもしれません。
良かれと思ってやったことが周囲の心理的リソースを奪ってしまう
- 1on1や業務の効率化などよくあるマネジメントの手法が、かえって相手の心理的リソースを奪うことも
- 手法の正しさではなく「心理的リソースにどう影響を与えるか」を大切に
- プライベートの事情で心理的リソースが消耗している場合、「できる配慮」と「できない配慮」を線引きする
櫻本:もちろんそれらのテクニックが役に立つこともあります。
しかし前提として、チームメンバーを評価する立場にあるマネージャーは意図せず周囲に緊張感や不安を与え、心理的リソースを奪ってしまいやすい。
その上で「自分はこうされたらうれしいから、部下や同僚にも同じように接しよう」と、自分の視点だけに基づいて行動すると、良かれと思ってやったことがより周囲の心理的リソースを削ってしまうことがあります。
例:
・自身は高い目標を設定することでやる気が出るので、部下にも同様に求める
👉部下にとってはプレッシャーでかえって心理的リソースを消耗してしまう
・「チームビルディングのため」と飲み会やランチの機会を増やす
👉そういったコミュニケーションが苦手なメンバーが多いと逆にチームの心理的リソースが奪われる
櫻本:チームの成果が出ないのはモチベーションやチームビルディングのせいではなく、単にマネージャーの指示が曖昧なことが原因だった、なんてことも少なくありません。その場合は、指示系統の仕組みづくりを優先すべきですよね。
マネージャーがチームをより良くしたいと思ったら「マネジメント手法の正しさ」ではなく、「その手法はチームメンバーの心理的リソースにどんな影響を与えるのか」を考える方が大切だと私は思います。

櫻本:組織で働くというのは「共通の目的に向かって協働する」こと。その本来のあり方を損なわない範囲で、お互いに配慮し合えるラインを設計していくのがベストだと思います。
仮に、あるメンバーのプライベートな事情を全面的にサポートすることによって他のメンバーが大いに疲弊し、チームの目標達成が阻害されてしまうことがあれば合理的ではありません。
一方で「プライベートは一切考慮しません」と線引きすると、メンバーが誰にも弱みを見せられず潰れてしまいやすい。
なので大切なのは「ここまではチーム内でサポートできるけど、これ以上は役割・契約の変更で対応します」というラインをあらかじめ明確にしておくこと。
会社の制度を使えば解決するケースもあるので、マネージャーが一人で抱え過ぎないことも重要だと思います。上層部や他のマネージャーに意見を求めるのも一つの手でしょう。
部下に配慮し過ぎてマネージャーが逆に疲弊、を防ぐために
- マネジメントに疲れたら「消耗している要因」を書き出してみる
- 消耗しきる前に、1日5分、自分のコンディションを振り返る習慣を取り入れる
- 「心理的リソースの消耗を防ごう」がチームに浸透すると、マネージャーも弱味を見せやすくなる
櫻本:まずは「自分は何に心理的リソースを消耗しているか」を整理するのがいいと思います。
多くの場合、疲れ過ぎてもはや何が苦しいのか分からなくなってしまっていますから、一度、自分が消耗している要因を思いつくままに書き出し、その消耗度合いを点数にしてみましょう。
例えば「上司からのプレッシャー:5点、チームの成果が出ないこと:3点、プライベートの悩み:2点」と複数の消耗源を書き出してみる。
すると、上司からのプレッシャーによってチームの空気が悪くなり、その影響でなかなか成果が出ず、プライベートの場でもイライラすることが増える……といったように、一見関係ないそれぞれの悩みが実は有機的に繋がっていることが分かってきます。

それぞれの悩みがつながっているということは、1つ解決すれば連鎖的に他の問題も改善する可能性があるということですから、複数の消耗源の中で一番変えやすそうなところから行動を変えてみましょう。
例えば「チームの空気が悪いこと」が消耗源なのであれば、チームメンバーに話しかける時間を少しだけ増やしてみるなど、小さくていいので行動してみる。
具体的なアクションに意識を向けることによって、状況が改善していくだけでなく、心理的リソースが漠然と減り続けることも避けられます。
櫻本:ただもっと簡単で効果的なのは、消耗しきってしまう前に、1日5分ほどで構わないので自分のコンディションを振り返る習慣を取り入れることです。
心理的リソースが枯渇すると、思考力が低下する、前向きになれなくなる、体の不調が増える……など、頭・心・体のいずれかにサインが現れます。
どこに症状が出やすいかは人によっても異なるので、「寝ても疲れがとれないことが増えてきた」など、自分で気づきやすいサインが見えてくるといいですね。
頑張り屋さんのマネージャーほど、チームメンバーを優先して自分をあと回しにしてしまいがちです。
けれど実際には、自分の心身の状態が整っていないことによって、気づかぬ間に周囲の心理的リソースに悪影響を及ぼしてしまうこともあります。
だからチームのことを第一に考えるのであれば、自分を最優先することによってチーム全体の心理的リソースの消耗を防ぎ、それが成果に繋がるんだという視点を持ってほしいです。
櫻本: 現代のマネージャーは、メンバーのモチベーションを上げつつメンタルヘルスの不調を防ぎ、離職を止め、ダイバーシティを推進し……と、たくさんの課題を抱えがちですからね……。
だからこそマネージャーの仕事を「チームのゴールのために、心理的リソースを最適に活用する配分を決める仕事」とシンプルに定義することで、やるべきことがクリアになり、気持ちが少しだけ楽になるのではないでしょうか。

さらに、この考え方がチームに浸透すれば、マネージャー自身も「いま自分のリソースが枯渇している」と周囲にシェアしやすくなります。
「誰かのリソースを奪うということは、チーム全体の成果を阻害する原因だ」という前提を共有できれば、上司・部下という壁を越えて自然と互いをサポートし合う土壌が育っていくはずです。
チームの心理的リソースを把握して対処することは、マネージャーが予算を立ててプロジェクトに向かうことと同じくらい、本質的で大切なことだと思っています。
取材・文:生湯葉シホ
編集:はてな編集部

