同じ会社に長年勤めていると「このままでいいのかな」と焦りや迷いを感じませんか。
編集者の藤田華子さんは、子育てを機に10年勤めた会社を辞め、転職を経験。1歳児を育てながらの転職活動は難航しつつも、「理想的」な条件で大手企業への入社を果たします。
しかし「私のキャリアは完成した」とまで感じた職場で、いつからか“心に穴が空いたような感覚”に襲われるようになったそうです。
- 10年勤めた「居心地の良すぎる会社」子育てを機に焦燥感を抱くように
- 厳しい転職活動で突きつけられた現実に「地道に動く大切さ」を痛感
- 「理想の環境」で働き始めたのに、心に穴が空いたような感覚に
- キャリアに「完成」はない。悩むのは前進している証
10年勤めた「居心地の良すぎる会社」子育てを機に焦燥感を抱くように
- 子どもの頃から夢見ていた職業に新卒から就けた
- 2社目は10年勤めるほど居心地のよい環境だった
- 出産を機に「このままでいいのか?」と焦りを感じるように
小学生の頃から、私の夢は「編集者」になることでした。
夢が叶い、ずっと憧れていた音楽雑誌の出版社に新卒入社。その3年後には「紙媒体だけでなく、Webの知識も得たい」と考え、約60名規模のWebコンテンツ制作会社に転職しました。
その制作会社は、私にとって第二の家といえるほど居心地のよい環境で、同僚はもはや「家族」のような存在でした。顔と名前はもちろん、その人がどんな風に仕事をするのか、住まいや趣味嗜好まで分かる距離感。
気づけば10年という歳月が流れ、私はエディターとして、時にはプロジェクトマネージャーやディレクターとして、夢中で走り続けてきました。
元から共感性の高いタイプなので、クライアントの課題を自分ごとのように捉える“憑依体質”を武器に裁量を持って働けるその場所は、まさにやりがいしかなく、充実した日々でした。

しかし、母親になったとき、その居心地の良さは少しずつ焦りへと変わっていったのです。
クライアントワークはどうしても相手のスケジュールが主体になります。子どもと一緒の時間は子どもと向き合いたい、けれど仕事の連絡が入るとどうしてもスマホに手が伸びてしまう。
クライアントに尽くしたい……。でも子どもとの時間も大切にしたい……。板挟みの中で、「このままでいいのか?」という問いが芽生えてきたのです。
その根底には、慣れ親しんだコンフォートゾーンに居続けることへの、漠然とした焦燥感もありました。
もっと子どもとの将来を考えて生活を整えたい、制作の現場だけでなく、発注側の視点から社会を見て、深いところからビジネスに携わってみたい。
そうした切実な思いが私を「10年ぶりの転職活動」へと突き動かしました。
厳しい転職活動で突きつけられた現実に「地道に動く大切さ」を痛感
- 1歳の子どもを育てながらの転職活動は想像以上に高い壁
- 書類選考の段階で足切りに合い、30社以上応募を繰り返す
- 地道に動くことで“たまたま”条件がマッチする求人に出会う
「良い縁があれば」と始めた転職活動で最初に直面したのは、想像以上に高い壁でした。
求めるのは「働きながら子育てもしっかりできる労働環境」のため、フルリモート・フルフレックスを条件にしていましたが、それどころか「1歳の子どもがいて、保育園のお迎えの時間がある」という条件を伝えただけで、書類選考の段階で足切りにあってしまうことも多々。
さらに「この機会にクライアントワークを脱却し、事業会社に勤めたい」という意向も、壁をさらに高くしていました。
社会から拒絶されているような寂しさや、当時の会社で長年築いた信頼や給与といった安定を捨ててまで未知の世界に飛び込むべきなのかといった悩み。
それらを抱えながらも、転職エージェントの「とにかく多くの書類を出しましょう」という助言を受け、20社、30社と泥臭く応募を繰り返す日々でした。

そんな中、たまたまとある大手メーカーの求人に出会い、これまでの「書類選考落ち」が嘘かのようにするすると選考は進み、1カ月足らずで新天地を決めることができました。
それまでの苦戦が嘘のような急展開に自分自身が一番驚きましたが、今振り返っても「転職活動は地道に動くことと、お互いのニーズがカチッと噛み合うような『めぐり合わせ』が全てなんだ」と痛感します。
たとえ空振りが続いたとしても、カチッとハマる瞬間は、ある日突然やってくるものなのかもしれません。
条件が重なる求人がその瞬間にあったかどうか。子育て中の転職は本人の能力だけではなく、働き方なども含め、トータルに「出会い」の要素が強いものだったと今でも痛感しています。
「理想の環境」で働き始めたのに、心に穴が空いたような感覚に
- 新天地はまさに「理想」の職場
- 「キャリアが完成した」と思ったのもつかの間、心境に変化
- 心に穴が空いたように感じ、退職を決意
新天地として選んだ大手メーカーで提示された条件は、自分でも驚くほど素晴らしいもの。無理のない就労時間と、リモート・フレックスという理想的な働き方。十分な給与。
エージェントにも「これ以上の条件はない」と太鼓判を押され、「ここで一生頑張ろう。私のキャリアは、ここで完成したかもしれない」と、私はどこか安堵していました。
しかし、意気揚々と働き始めて1年がたつ頃、少しずつ心境に変化が起きていきました。
その「変化」がなぜ起きたのかは今でもうまく言語化できませんが、原因の一つに「それまでに働いてきた2社よりはるかに大きな組織ゆえの戸惑い」があったように思います。
自分の仕事がどこに繋がっているのかという手触りを感じにくかったのか、もっと現場の仕事が好きだったのか……。心に穴が空いたようで、最終的に「退社し、フリーランスになる」という道を選びました。

同僚は本当に素晴らしい方ばかりで、今でも感謝しかありません。私は自分自身の不器用さや、仕事で何をやりがいに感じていたのかを、本質的なところで理解しきれていなかったのではないかと思います。
それでも、この場所での経験は大きな財産になりました。組織の仕組みや、社会がどう成り立っているのか。私から見える景色はほんの一部だったかもしれませんが、そのダイナミズムを間近で見られたことは、他では得られない学びでした。
キャリアに「完成」はない。悩むのは前進している証
- 人生は続いていくし、悩みも形を変えて沸き続ける
- 「悩みを抱いている」ということは前進している証でもある
- キャリアに完成がないからこそ、何度でも新しい自分を始められる
好条件を手に入れ、一度はゴールにたどり着いたと思ったキャリア。けれど、環境や心境の変化を経て、私はふと立ち止まりました。
どれほど盤石に見える椅子を手に入れても、自分自身の心が求めるものとズレが生じれば、また新しい悩みは生まれます。
「最初から、キャリアに完成なんてないんだ」
そう気づいたとき、憑き物が落ちたような気持ちになりました。
10年勤めた会社を辞めたときも、好条件の会社に入ったときも、私はどこかで「子育ても始まったし、そろそろ……」とキャリアの完成地点を探していたのかもしれません。
けれど、人生は続いていくし、悩みも形を変えて沸き続けます。
私は今、フリーランスになり、試行錯誤しながら働いています。不安がないと言ったら嘘になりますが、それでも「悩みを抱いている」ということは前進している証であり、キャリアを紡ぎ続ける原動力になるとも考えています。
もしあなたが今、安定を捨てることに怯えたり、自分のキャリアに停滞を感じたりしているなら、一度その状態を受け入れてみるのはどうでしょうか。その悩みや葛藤こそが、あなたが新しい自分へと脱皮しようとしているスタートかもしれないから。
キャリアに完成がないからこそ、私たちは何度でも、新しい自分を始められるのだと思います。
編集:はてな編集部
著者:藤田華子

