仕事ができない、うまくいかないと悩むとき、つい「努力が足りないせいだ」と自分を責めていませんか。しかし、その「できなさ」の背景には自分ではコントロールできない“特性”が隠れているかもしれません。
『発達障害なわたしたち』の作者であるマンガ家の町田粥さんは、会社員時代に“特性”により葛藤を抱えた経験を作品に描いています。
今回のインタビューでは、町田さんが考える「働きやすさの見つけ方」についてお話を伺いました。
自分の“特性”の原因を知り「謎が解けた」ような気持ちに
- ADHDの診断により長年の「生きづらさ」の謎が解けた
- マルチタスクが苦手ですぐに気が散ってしまい、「正解」のコミュニケーションも分からない会社員時代
- 適職への転向が、自信を取り戻すきっかけに
町田粥さん(以下、町田):私は大人になってから発達障害の知能検査を受け、軽度のADHD(注意欠如・多動症)と診断されました。
そのとき、昔からさまざまな場面で感じていた「ままならなさ」の謎が解けたような気持ちになったんです。この経験をシェアしたいと思って本作を描きました。
大人の発達障害を当事者へのインタビューで紐解くコミックエッセイ
▶『発達障害なわたしたち』(祥伝社)
町田:私は会社員時代、転職も経験しているのですが、会社の規模や業種問わず「周囲に人がたくさんいる環境で集中すること」や「マルチタスク」がとにかく苦手でした。
1社目ではWebサイトの構築に携わっていたんですが、集中力が必要な仕事なのに、周りの音が耳に入るとすぐに気が散ってしまって……。
特に周囲との差を感じたのは「ひたすらコピペを繰り返すような単純作業が進まない」ときでした。他のみんなは雑談しながら軽々と済ませていくのに、私は話が振られるたびに手が止まってしまう。
結局、自分だけがいつまでたっても作業が終わらず、終電を逃してしまったんです。「どうして私だけこうなんだろう......」とショックを受けましたね。

町田:「“最適なコミュニケーション”がその場その場で変わること」に難しさを感じていました。
例えばランチのときに仕事の話をしたら「休憩中まで仕事の話をしないでほしい」と言われる職場があれば、逆にプライベートの話は「職場でそういう話はちょっと......」と敬遠される職場もある。
私は子どもの頃からオタクであることを隠すために、自分が話したいことよりも、その場に適した「コミュニケーションの型」を覚えることを意識してきました。
でも、社会人になって会社に属すると、さまざまな考え方や趣味嗜好を持っている人がいて「この場ではこの話をしておけば大丈夫」というような分かりやすい「型」がないから戸惑ってしまって。
周囲のリアクションを見ては「理由は分からないけど、また何か自分が間違ったことを言っちゃったんだろうな......」と自信をなくすことが多かったように思います。
町田:最初は1社目と同じくWeb開発を担当していたのですが、数カ月続けてもやっぱり苦手意識が拭えず、最初は退職を申し出るつもりで社長に相談したんです。
すると、柔軟な会社だったこともあり「それなら徐々にデザイナー職に転向してみてはどうか」と提案してくれて。
実際にやってみると、自分のひらめきを生かせるデザインの仕事が向いていたようで、結果的に社内のプロデューサーやユーザーから評価されることが増え、徐々に自信を取り戻すことができました。いま振り返ってもありがたい環境だったなと。

「体調の変化」に着目すると、働きやすい環境が見えてくる
- マンガ家への転向後、自分の特性を踏まえて「できる時間に一気に集中する」スタイルに
- 体調の変化は「無理をしているサイン」かも?
- 働き方を変えたいときは「理想のキャリア」を上司に伝えてみる
町田:デザイナー職の比重が増えてから楽しく働けていたのですが、それでも自分が主体的に進められない仕事や興味のない業務には、どうしても身が入らないことを痛感しまして……。
また、私は周りに人がいない方が働きやすいタイプだと分かっていたので、フリーランスになることを決意し現在に至ります。
いまは子どももいるので、とにかく短時間でも「できる時間に一気に集中する」ことを意識して仕事に取り組んでいます。
マンガ家の中には長時間働いて大量生産できる方もいますが、私は1日2時間くらいしか集中できないタイプ。
だからこそ「少ないページ数を、その2時間で一生懸命に描く」をコツコツ続けるというスタイルを選んでいます。

町田:自分の「わがまま」をある程度聞いてあげることや、体調の変化に着目することがすごく大切だと思います。
私はストレスが溜まったり緊張したりするとお腹が鳴るタイプだったので、「お腹が鳴る=無理をしている」という体からのサインと受け取っていました。
あとは、面談などで上司と話す機会があれば正直に気持ちを伝えてみる、というのも1つの方法だと思います。
その時に意識してほしいのは「こういう作業が苦手なのでやりたくない」と伝えるのではなく「自分は将来こういう仕事がしたい」といったキャリアの最終目標を伝えること。

実際、2社目では上司に「いつかフリーのイラストレーターになりたいんです」と伝えたことが、デザイナー職への職種変更につながりました。
単純に「苦手なことだけ」を伝えるのも悪いことではないんですが、私は「こう工夫すれば、もう少し頑張れるんじゃない?」と諭されるのをどうしても避けたくて(笑)。
もし理想とする働き方や職種が明確なら、それを正直に伝えた方が相談された上司も提案がしやすく、話が早いのではないかと思います。
自分の特性を知れば、誰かの「苦手」にも優しくなれる
- 特性を知ることは、自分や他者を「正しく見る目」を養うこと
- 誰もがそれぞれの「苦手」や「不安」と戦っている
- 働くことにしんどさを感じるなら、受診も1つの選択肢に
町田:特性を知ることは、自分自身や他者を「正しく見る目」を養うことにつながるのではないかと考えています。
『発達障害なわたしたち』を描いたことで、周りの人たちが「自分も発達障害だよ」とか「診断は受けてないけど、自分にもこういう苦手なことがあるんだよね」と話してくれる機会が増えました。
一見「社会に上手に溶け込めている」ように見える人でも、実は内面でいろいろな不安と戦っているケースは多いんだなと実感しています。

自分の特性を分析することによって自己理解が深まり、それを周囲と話してみることで相手のこともより深く理解できる。人の「特性」に関心を向けることは、自分にも他者にも優しくなれる側面があると思います。
町田:そうだと思います。あとは、もし働く中でつらさを感じていたり、いまの社会のデザインに「自分はそぐわない」と苦しんでいるなら、受診も1つの選択肢として検討してみても良いかもしれません。

精神科や心療内科の受診にハードルを感じる方もいるかもしれませんが、医師とのコミュニケーションの中で初めて見えてくることもありますし、信頼できる先生の本を読むだけでも安心感に繋がるのではないかな、と。
『発達障害なわたしたち』では、医師監修のもと「病院を選ぶコツ」にも触れているので、興味のある方はぜひ参考にしていただけるとうれしいです。
取材・文:生湯葉シホ
撮影:小野奈那子
編集:はてな編集部

