もし病気になったら、働き方はどう変わる? クローン病と診断されたカメダさんに聞く「治療と仕事の両立」

クローン病と診断されたカメダさんと仕事と治療の向き合い方

歳を重ねていくと、健康への不安も徐々に積み重なってくるもの。持病でいままさに通院をしながら仕事をしている方はもちろん、現在は基礎疾患がなくても、いつか何かの病気になっていままで通り働くのが困難になるかもしれない……と考えたことのある方は多いと思います。

映像制作会社で働くカメダさんは、2017年に難病の「クローン病」に罹患していることが判明し、現在も治療を続けながら会社勤務をしています。病気の判明後にエッセイ漫画の投稿を始め、現在は8万人以上のフォロワーを持つインフルエンサーでもありますが、病気にかかる前とあとでは生活や働き方が大きく変わったと言います。そんなカメダさんに、「仕事と治療」を両立させるために大切にしていることについてお聞きしました。

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病気が判明して、ようやく「自分のせい」じゃないと思えた

カメダさんは現在、クローン病(小腸や大腸などの消化管に炎症または潰瘍を引き起こす難病)と付き合いながら、会社員として働かれているんですよね。病気のことが分かったのはいつ頃だったんでしょうか?

カメダさん(以下、カメダ) もともとお腹が弱くて、高校生ぐらいからすごく頻繁にトイレに行っていたんです。大学のときには痔も発症していて、常にお腹が痛いし自転車も腰を浮かして乗る……という状態だったんですけど、痛みのレベルがほんとにすこしずつ上がっていくものだから(笑)、これが私の普通なんだと思い込んでしまっていて。

その後社会人になって働いていたある日、お尻が強烈に痛くて丸1日眠れなかったことがあったんです。そのときようやく、さすがに眠れないのはダメだ、病院に行こうと思って。単なる痔だと思っていたので肛門科に行ったら、「カメダさん、これたぶん痔じゃないよ」と医師に言われて。

それまでは、痔以外の疾患かも……という可能性は考えたことがなかったんですか。

カメダ そうなんですよ、不思議ですよね……。自覚症状で検索してみると「癌の可能性あり」みたいなページが出てきてしまうので、いやさすがに癌はないっしょ、と思ってしまって。結局病院に行けなかったんです。いま振り返ると、現実逃避もあったんだと思います。結局、詳しい検査を経て2017年の夏にクローン病だと判明しました。

当時すでに社会人だったということですが、意を決して病院に行かれるまでの間は、特に問題なくお仕事を続けられていたんでしょうか?

カメダ そうですね。勤め先では家でも会社でも好きな場所で作業をしていい環境だったこともあって、トイレも好きなときに行けていたので、働く上でそこまで苦痛は感じてなかったですね。むしろ、当時は社会人2年目で、ようやく自分の裁量で仕事ができるようになってきたタイミングだったんです。なので、がんばらなきゃと思って土日も稼働する前提で仕事を詰めちゃってたんですよ。

では、病名が分かったときは、お仕事のことも頭によぎりましたか?

カメダ それでいうと、大きい感情がふたつあったんですよね。ひとつは「わ~、なんかやばい病気そ~、終わった……」というショックで、もうひとつはホッとするような気持ちでした。

ホッとした、ですか?

カメダ そうです。それまでは「何者かになりたい」みたいな謎の突き動かしによって、ほんとにずっとがむしゃらに働いてたんですよ。だから病名を聞いたとき、こう言うと変ですけど、ちょっと解放感もあって。

学生時代に部活の先輩から言われ続けてきた「なんでそんなにトイレばっかり行くの? サボってんの?」という言葉をいままでずっと自分のせいにしてきたので、それを克服するためにも必死だったといいますか。でも、「な~んだ、私の体調が他の人と違うのは病気のせいじゃん」ってようやく他責にできたというのはありましたね。

仕事を両立させるためにも、自分の体質は周囲に伝える

その後、手術をして大腸を切り取られたそうですね。クローン病は、食生活に気を配らないといけない病気ということですが……。

カメダ そうなんです。病気が分かってから入院・手術までのあいだ、通院しながら仕事を続けていた時期が数カ月あるんですが、そのときに食事制限のことを医師から聞いて。症状を安定させるためには、動物性脂肪を避け、脂質は1日30g以内に抑えるという食生活が推奨されているとのことでした。

でも当時はまだ自分のことを健康な人間だと思い込んでいたので、ガンガン好きなもの食べてて……。一度、たこ焼きを食べて腸閉塞を起こして、医師に怒られたりもしましたね。

それまで食べられていたものが急に食べられなくなるのは、本当につらいですよね……。

カメダ 串カツとかチーズたっぷりのピザとかも食べられないし、マクドナルドの看板見て泣くこともありましたね。もう食べられないんだ……って。入院中も長い絶食期間があったので毎日お腹が空いていて、ナースステーションの前に貼ってある入院患者向けの献立表をずっと見てました。「あ、きょう南蛮漬けなんだ……」とか思いながら。

以前は気にせず食べていたピザや揚げ物、ファストフードが思い切り食べられなくなったときの心境

手術後、ようやく食事を出してもらえると聞いたときは本当にうれしくて、すぐに献立表を見に行きました。でも当日、出していただいた食事の蓋を開けたらぜんぶミキサーにかかってたんです。えっ!? って思ったけど、ひと口食べてみたらめちゃくちゃおいしくて……。形って味に関係ないんだって思いましたし、強烈な記憶として残ってますね……(笑)。

入院の際、お仕事に穴を空けることへの不安や、金銭面での不安を感じたりってしましたか?

カメダ 仕事はたまたまひとつの案件が終わる区切りのいいタイミングだったので、わりと安心して休めていた記憶があります。金銭面に関しても、入院・手術自体はそこまでの大きな負担はなかったですね。20代で体力があったことも影響したのか回復がとても早かったので、入院期間自体は2週間くらいでした。

そのあとは、しばらく自宅療養をされていたんでしょうか。

カメダ はい、自宅療養で栄養剤を飲んだり食事制限の練習をする期間があって、退院後1~2週間はプラスで休みました。私の場合は注射での投薬でかなり調子がよくなったので、その期間にいろんな食事を試してみようと思って、どんな食材ならどのくらい食べられるのかというのを実験してみていました。

そのあとは、また仕事に復帰して。3カ月に1度通院しつつ、日常生活では食事制限を続けるという形でいまも会社員をしています。

復職の際、会社の人とはどんなコミュニケーションをとっていたのでしょうか?

カメダ 退院後、「こんな体調なんですが大丈夫ですかね?」って会社の人に聞いたら、「もちろん」とみなさんすごくあたたかく迎え入れてくれて。復帰直後に撮影で現場に行く日が続いたんですが、食事の際も、同僚みんながファストフードのなかでも脂質が低いものを調べて注文してくれたりして。

協力的ですね……! 会社の同僚にはカメダさんの体調や症状のことについて、どの程度まで説明されているんですか。

カメダ 案件によってチームメンバーがガラッと変わるタイプの仕事なので、基本的には毎回、自分の体質と食べられないものについては周りに伝えるようにしています。ロケハンがある仕事なので、遠方までの移動の際にお腹の調子が悪くなってしまうことがあるというのはきちんと伝えておかないと、と思って。

あと、食べられないもののことを伝えておくことによって、現場で「バターどらやき食べたい人~?」とか聞かれたときに「はい!!」って手を上げると「カメダさんはだめだよね」って言ってもらえるんですよ(笑)。

我慢して言わないでいるとのちのちしんどくなっちゃうんじゃないかと思うので、そういうことは抱え込まずに同僚にも伝えるようにしています。周りが知ってくれた上で、体調のことを考えてくれるのはやっぱりうれしいなと思いますね。

病気と付き合いながらお仕事をされているなかで、例えば現場で突然体調が悪くなってしまうこともあると思うのですが、そういったときはどうされていますか?

カメダ 個人的な心構えとしては、「やれることはやって、万全の状態で仕事に臨む」というのは意識しています。現場を離れられない撮影の前日は、食事にすごく気を使って、薬も用意した上でたっぷり寝るようにしてますね。

例えば前日に暴飲暴食した、だと「体調が悪い」と少し言いにくい。でも、やれることはやった、という自信があると、「がんばって調節したんだけど調子悪いかも……」って自分の気持ち的にも言いやすいと思うんです。そうした「言える状態」にしておくのは大事かなと。そして、ちゃんと伝えると、ありがたいことに会社の人たちはみなさん「じゃあこうしていきましょう」と代替案を考え、フォローしてくださいます。

自分の気持ちを整理できるような「場所」を持っておく

病気が発覚する前は働き詰めだったというお話が先程ありましたが、退院してお仕事に復帰されてからは、業務量や時間に変化はありましたか?

カメダ 病気が分かってから、あんまりめちゃくちゃに仕事は入れなくなりました。いま、業務量は入院前の8割くらいだと思います。睡眠時間も確保するし、食事制限があるので基本的に毎日自炊しているし……正直、生活自体はいままでよりも豊かになったなと感じています。もちろん仕事をたくさんするのが豊かっていう人もいると思うんですけど、私は症状をできるだけ抑える生活をした上で、残った時間で仕事をするというスタンスが合っていたんだなと思って。

稼働時間が減るとなると、収入面にも影響が出てくるのかな……と思うのですが。

カメダ やっぱり激務だったときと比べると収入は下がりましたね。ただ、私の場合はそこから徐々に副業の漫画の収入が入り出したのでありがたかったです。

カメダさんは現在、コスメ紹介の漫画連載もされていますもんね。漫画を描くようになったのはどうしてだったんでしょう?

カメダ 美大出身で絵を描くのは大好きだったし、昔は漫画家になりたいとも思っていたのですが、仕事が忙しいときはやっぱりなかなか描けなくて。でも入院中、時間だけはあったので時間があるいまのうちに漫画を描いてみよう……と。コスメが好きだったので、コスメに関する漫画を備忘録的にインスタにアップするようになったら、たくさんリアクションをいただけて。当時は、まさかそこから連載などでお金をもらえるようになるとは思っていませんでした。

最近では、クローン病関連のことを漫画で発信されたりもしていますよね。

カメダ 難病になるってなかなかないことなので、ひとつの珍しい体験談として書き記しておこうと思って描いてみたら、クローン病の方やそのご家族の方、クローン病の方を担当されてる看護師さんなどからすごくたくさんDMが来るようになって驚きました。

「クローン病の家族にどんなご飯をつくればいいか分からなかったけど、絵で説明してくれて参考になりました」みたいなメッセージもいただいたりするので、発信してみてよかったなって思いましたね。病気になったときに、自分の経験をまとめてエッセイや日記という形で公開するのは価値のあることだと感じました。

それと、病気になるとどうしても落ち込んでしまうと思うんですが、そのつらさの原因がどこにあるのか……例えば食事ができないことなのか、仕事ができないことなのかっていうのを一つひとつ紐解いて整理してあげないと、もっとつらくなっちゃうと思うんですよ。だから、自分の気持ちを整理するのに、文章や絵にしてみるというのはひとつのいい方法だと思います。

自分の気持ちを整理できるような場所を持っておく、ということですよね。

カメダ そうですね。私自身、自分の体調のせいで仕事や生活が思うようにいかないときも、漫画があるから! と思うことでメンタルのバランスを保てているような気がします。

仕事と生活のバランスがまわっている様子

病気ありきの生活となると思い通りにいかないこともあるように思います。今年の10月には、しばらく寛解状態にあった病気が再燃*1されたそうですね。

カメダ クローン病って寛解と再燃を繰り返す病気なんですが、私の場合はしばらく体調が維持できていたので、再燃が発覚したときは急に成績が落ちたみたいな気持ちになって、めちゃくちゃ落ち込みました。それに、また投薬が始まってしまって。投薬って続けると免疫力が落ちるので、そのケアが大変なんです……。

でも、3カ月に1回きちんとさぼらずに検査をしてるっていう自負もあるので、いまはもう、流れに身を任せようかなと思っています。

体調に不安があるからこそ、収入源は複数あるといい

「もしもいま長期的な治療が必要な病気になったら、仕事と治療をどう両立しよう」というのは、誰しも一度は考えることではないかと思います。カメダさんご自身の経験から、病気と付き合いながら仕事をする上で大切なのは、どのようなことだと思いますか。

カメダ やっぱり働ける体力に限界がある人間にとっては、収入源をできるだけばらしたり、体に負荷がかかりにくい収入源をつくっておくということが大事なんじゃないかと思います。私の場合はたまたま漫画があったので、そんな簡単に言うなよって思われるかもしれないんですが……。でも、文章や絵に限らず、自分のできることを小さくても収入にしてみようとするのは心の支えになると思います。

金銭面で具体的なことを言うなら、私の病気の場合は難病なので助成金が出たりもするんですが、区に申請するともらえる助成金などは、面倒でも調べて絶対に申請するようにしてます。3カ月に1回の検査で必ず2万円かかるんですけど、積み重なると大きいじゃないですか。だから、書類をまとめたりするのが大変でも、もらえるものはきちんともらっておこうと思っています。投資も始めましたし……。

高額な医療費は申請すると返ってくるものも多いですもんね。そこを把握しておくのは確かに大切ですね。

カメダ 本当に……。あとは、社会的地位のことはできるだけ気にしないというのも大切かなと思います。会社においてもちろん売上が高い人は優秀だし、バリバリ働けていないことに劣等感を覚えることもあるんですけど、私はどうやったって、健康な体の人と比べたらパフォーマンスが落ちるんだということを病気になって自覚できたので。だったら好きなことをやりたい、と気持ちを切り替えられるようになりました。

いまは、仕事は最低限の生活を守るための手段だと思っています。「そんな働き方でいいの?」って外野に言われることもあるかもしれないんですが、そういう人には「あなたが私の人生の責任をとってくれるわけじゃないんで、ちょっと黙っててもらっていいですか?」みたいな感じでいかないと……って思ってます。

自分の体は自分にしか守れないから、本当にそうですね。

カメダ 私はいまはもう、生活において大腸を守ることが最優先なので……。

ただ、仕事量を減らしても適当にするというわけではないですし、できるだけ「爆速」「先回り」で対応するようにはしていますね。早め早めで対処するようにしていると、いざというときの体調不良に対応する時間も生まれますし、周囲への影響も最小限になると思うので。

その上で、優先順位を間違えないようにしないと死ぬ可能性があるなって、たこ焼きを食べちゃって腸閉塞になったときに本気で思ったんです。だから、他人からの言葉を気にしないというのもそうですけど、自分の欲を優先しすぎないで、まずは体を優先するということも忘れないようにしていたいと思いますね。

自分の大腸を第一に考えたいたわる生活を実践するカメダさん


記事内イラスト:カメダ
取材・文:生湯葉シホ(@chiffon_06
編集:はてな編集部

お話を伺った方:カメダ

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武蔵野美術大学視覚デザイン伝達学科卒。本業会社員の掛け持ちイラストレーター/インフルエンサー。Instagramフォロワー数は8万超え。難病クローン病の大手術を乗り越え、2017年より発信を開始。コスメレビューや日常エッセイを幅広く更新中。
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*1:病気の進行が止まっていた、または、軽快していたものが、再び進行し始めること