自分の事業計画書をつくる。マルチに活躍するMEGUMIの仕事論

MEGUMIさん

近年、働き方改革の影響などもあり、本業とは別に副業やプライベートな活動を行っている人は増えているように思います。しかし一方で、いざ始めてみると、時間の捻出が難しかったり、うまく本業とバランスが取れなくなったり、思うようにいかないこともまた少なくないと思います。

俳優・タレントのMEGUMIさんは、いわゆる"芸能”のお仕事以外にも幅広く活動をおこなってきました。自身が編集長を務める『フリマガ』の制作を10年以上前から継続的に行ってきたほか、2016年にはパンケーキをメインにしたカフェ「Cafe たもん」を金沢にオープンし、2017年にはさまざまなクリエーターとコラボレーションするための個人サイト『+コラボレート』をローンチ。プロ・アマ問わず、さまざまな人たちと共同で作品をつくり続けています。

今回は、芸能界に身を置きながらも独自の活動の幅を広げてきたMEGUMIさんに、複数の場を持つことの大切さや本業とのバランスの取り方などを伺いました。

※取材はリモートで実施しました

「なんでそんなことやるの?」と常に聞かれてきた

MEGUMIさんは2007年に『フリマガ』というフリーマガジンの制作を始められて、いまも刊行を続けていらっしゃいます。創刊のきっかけを教えてください。

MEGUMIさん(以下、MEGUMI) グラビアをバリバリやっていた頃は、雑誌の編集さんたちに常に囲まれていたので、「あの本よかったよ」「あの雑誌かっこいいよね」という話をすることが多くて。撮影でいろんな国や地域を訪れるたびにローカルな雑誌を読んだりして、日々、刺激も受けていたんです。

でも、そのころの私に求められていたのは男性向けのセクシーな写真で、できることは限られていた。そんなときに自由にできる場所があったら楽しそうだよね、という話を当時のマネージャーさんとしていて、「じゃあ雑誌つくっちゃおうか!」と。編集さんたちに「Illustratorってなに?」みたいな初歩的なところから聞きつつ、手探りで創刊したのが『フリマガ』の始まりです。

フリマガ これまで刊行してきた『フリマガ』の数々

そういう会話のなかで生まれたアイディアって、その場では「いいね!」と言いつつ、けっきょく実現せずに終わってしまうことも多い気がするのですが、MEGUMIさんはすぐにスタートされたんですね。

MEGUMI そうですね。私はいま金沢にある「Cafe たもん」のオーナーもしていたりするので、実は周りの人から副業に関する相談を受けることも多いんです。もちろん力になりたいですし、聞かれたら毎回できる限り具体的にアドバイスをするようにしているんですけど、やっぱり「一回ちょっと考えるわ」と言って動かない人が多いように感じます。実際に動く人って、相談してきてくれる人の中の0.5%くらい(笑)。

だから、私も当時のマネージャーさんも、思い立ったらすぐにやらないと気が済まないタイプだったんだと思います。基本的に私は「失敗してもいいから、やる」というのがモットーです。

今でこそSNSや動画などを通してさまざまな発信をする芸能人の方も増えてきましたが、2007年ごろは自分でそういった発信をしている方は珍しかったように思います。周囲の方から「どうしてわざわざ?」と言われたりはしませんでしたか?

MEGUMI 創刊のときも言われましたし、それは今でもすっごく言われますよ。とにかく、芸能以外の仕事をすると「なんでそんなことやるの?」「利益は出てるの?」と。金沢にお店を出したときも、「ほんと生き急いでるよね」ってなぜか怒ってる人もいたくらい(笑)。「いいね、やってみたら?」って言ってくれる人って、常にひとりかふたりくらいしかいないですね。

そういうとき、気持ちは揺らがなかったですか?

MEGUMI もちろん「本当に大丈夫かな」「自分がおかしいのかな」とは思います。だけど、起業家の方の本などを読んでいるうちに、新しいことを始める人に対して、基本的に周囲は否定的なんだな、と分かってきた(笑)。心配してくれているのもあると思うんですが、家族や身近な人ほど強い口調で止めてくるんですよね。

しかもそれでいて新しい仕事がうまくいくと、「おめでとう」と急に応援してきたりとか(笑)。だから、最近はあんまり周囲の声に左右されることはなくなってきたかもしれませんね。

「素敵だな」と思ったら自らDMする

2017年にはクリエーターとコラボレーションをするための個人サイト『+コラボレート』も立ち上げられました。写真家から歯医者さんまで、幅広い人と共同されていますが、サイトの立ち上げはどのような経緯だったんでしょうか。

MEGUMI 芸能の「外」の仕事をするなかで、飲食店であればどれだけ小さなお店でも大体ホームページを持っているのに、芸能人にそれがないのは変だなと思うようになったんです。もちろん事務所のHPはありますけど、写真が古かったり、そもそもパーソナルな情報を載せるのが求められていなかったりする。だから自分のHPをつくろうと思ったんですが、ただ出演予定とかを載せても仕方ない。

私はもともとアートやカルチャーが好きだし、友人や知人にもアーティストの方が多かったので、せっかくならそういった方々とコラボレーションできる場にしたら面白そうかなと。それで今のように私と一緒に何かやりたいと思ってくれた人たちと一緒に作品をつくる場になりました。

ちなみにコラボが実現した際の素材は、基本的に相手には二次使用料など頂かずに自由に使ってくださいという形にしています。アーティストの方にとっては宣伝に使っていただけるし、私は私でイメージをすこしずつ変えていきたいな、という気持ちも正直あったので、どちらにとってもいいんじゃないかなと。

イメージを変えたい、と言うと?

MEGUMI どうしても「ママタレント」「毒舌タレント」のイメージが強いと感じていて、それをビジュアルから変えていければと思ったんです。

写真家・Tim Galloさんとのコラボレート 写真家・Tim Galloさんとのコラボレート
写真家・小野寺亮さんとのコラボレート 写真家・小野寺亮さんとのコラボレート

現在までに、有名無名問わずさまざまな方とコラボしていますね。

MEGUMI そうですね。サイトにメールを頂いたらまずはマネージャーさんがチェックしてくれるんですが、実際にご提案を受けるかどうかは最終的に全て自分で決めています。

そしてご一緒することになったときは、もう直接LINEして打ち合わせをしていく。間に人を挟むと、どうしても無駄な時間がかかってしまうので。最近は募集だけじゃなく、インスタを見ていて素敵だなと思うアーティストの方を見つけたりしたら、私からDMを送るようにもしています。

急にMEGUMIさんからDMをしたら驚かれませんか……?

MEGUMI 実際に会うまで本当にMEGUMIなのか不審に思われますね、だいたい(笑)。でもやっぱりその方が早いので……。先週も素敵なフォトグラファーさんを見つけたのでDMを送ったところで、来月一緒に撮影をする予定です。

やっぱり芸能界に20年近くいると、どれだけ仕事を一生懸命やっていても、“こなしてる”みたいな感覚になってしまうことがあるんです。もちろんそれなりに頑張ってはいるんですが、どうしても慣れが出てくるので。

でも、若い人たちと一緒に撮影したりすると、「あと5枚だけ撮ってもいいですか?」「ここで煙を焚いたらだめですかね!?」みたいなことを言われたりする(笑)。そういうエネルギーや奇想天外なアイデアに触れてハッとさせられる機会が多いですね、サイトを立ち上げてからは。

芸能のお仕事に限らず、何年も同じ仕事をしている方は“こなす”感覚に陥りがちな気がします。

MEGUMI ずっと同じことをやっていると、仕事の進め方にもだんだん自分のルールができてきますもんね。新しいやり方を試したり、新しい人たちと人間関係をつくっていったりしないと、凝り固まっていってしまうというか……。

だから私は、私よりずっと若い人にも、「MEGUMIさん、それちょっとダサいですよ」ってちゃんと言ってもらえるような自分でいたいと思うんですよ。

大切ですよね。気軽に声をかけてもらいやすい空気をつくる、ということも意識されていたりしますか?

MEGUMI ……えっと、私そもそもすごくビビられてるんですよ(笑)。バラエティもずっと毒舌キャラでやってきましたし、声も低いし。打ち合わせしているディレクターさんが若い方だったりすると、緊張されてるのか、手が震えてたりするんです。

MEGUMIさん

そんな……!(笑)

MEGUMI だから私から心を開くというか、できるだけ丁寧にお話も聞きますし、分からないことがあったら「教えてください」という態度でいるようには心がけています。当たり前のことなんですが。

副業でもなんでもそうですけど、新しいことを始めるときって絶対にひとりではできないので、助けてくれる人は多い方がいいと思うんです。

この歳になり、人との協業がどんどんやりやすくなってきたなと感じているんですが、それってやっぱり支えてくれる周りの人たちの数が多いからなんですよね。なにかをやりたいと思い立ったときに、「これなら〇〇さんが得意そう」とすぐにその人に連絡できるかどうかって、結局は普段の人間関係にかかっていると思うので、一つひとつのコミュニケーションを雑にしないようにはしています。

とにかく“区切る”スケジュール管理法

MEGUMIさんはさまざまなお仕事をされている上、お子さんを持つお母さんでもいらっしゃいます。ものすごくお忙しいんじゃないかと思うんですが、日々のスケジュール管理はどうされているんですか。

MEGUMI アナログなやり方なんですが、朝起きてその日にすることをぜんぶ紙に書く、という方法で管理してます。30分刻みで「洗濯物を干す」「台詞を覚える」「『+コラボレート』の相手に連絡する」「休憩する」といったことまでぜんぶ書いてから見えるところに貼っておいて、終わったらそれをひとつずつ消していく。それが快感なんです(笑)。

MEGUMIさんスケジュール管理メモ 実際にMEGUMIさんが使われているというスケジュール管理のためのメモ

仕事や育児の中でどうしても時間が押してしまってスケジュールがずれてしまうこともあると思うのですが、例えば、さっきおっしゃったように撮影で「あと5枚だけ……!」と言われたりしたときはどうされているんですか?

MEGUMI 「OK! 撮れてるから!」って明るく言います。

(笑)。

MEGUMI もちろん、すこしでも時間を延ばした方が絶対にいいものができる、と感じるときはそうしますよ。でも私にも20年仕事をしてきた経験があるので、「撮れてるような気がするけど……」とカメラマンさんが迷うときはだいたい撮れてるってわかってるので(笑)。

でもおっしゃるとおり、終わりの時間もしっかり区切ることは仕事をする上で本当に重要ですよね。

MEGUMI そうですね。時間を忘れてなにかひとつのことに集中できる方への憧れも大きいんですが、私はもともとスケジュールを細かく区切ったマルチタスクの方がはかどるタイプなんですよね……。

『+コラボレート』も、毎月1日と15日にアップするというスケジュールを決めているんです。もちろん時にはすこしずれてしまうこともあるんですが、毎回それが延び延びになっていくと更新が止まりがちになってしまうと思うので、そこは気をつけています。

「MEGUMIの事業計画」をつくること

芸能という多忙なお仕事がある中、『フリマガ』も『+コラボレート』も、スタート以来途切れずに続けられているのが本当にすごいですよね……。続けられるモチベーションはどこにあるんでしょうか。

MEGUMI どちらもスケジュールを調整したり細かいやりとりをしたりと、正直面倒くさいこともすごく多いです。でもやっぱり、自分たちがつくったものが1冊の雑誌や1枚の写真という形になるとすごく愛おしいなと感じるんですよね。いまの自分たちを記録できることもうれしいですし。

あとはやっぱり、本業があるので利益もそこまでシリアスに考えなくていいというのも大きいかもしれないですね。

そこは複数のお仕事をされている方ならではの感覚ですよね。

MEGUMI もちろん、「Cafe たもん」に関してはそこで働いてくれているスタッフもいますし、経営者としてきちんと利益をあげなければいけないという思いもあります。ただそれでも、シンプルですがお店に行くとお客さんが居心地よさそうにしてくださっていて、「めちゃくちゃいい場所だな、好きだなーここ」って我ながら思えることが続けるモチベーションかもしれないですね。

楽しいだけでもだめだし、利益のことだけでもだめだから、そのふたつがきちんとリンクするものを自分の中で最初に徹底的に考えたのがよかったのかなと思います。

Cafe たもんの外観 金沢に構える古民家を改装したカフェ「Cafe たもん」
Cafe たもん カフェで提供しているパンケーキ

では、新しいお仕事や企画を始める前は、かなり綿密にプランを練られるんでしょうか。

MEGUMI 私、なにか始める前は必ず、事業計画書をすっごく詳しく書くようにしているんです。なぜこの店をやるのかとか、この企画をやることが自分や社会にとってどういう意味になるのかとか、そういうのをぜんぶ書き出して、3日くらいかけてつくるんです。芸能は基本的に声がかからないと動けない、超受け身な仕事なので、やり方としては真逆なんですけど。

確かに、芸能のお仕事には事業計画書のようなものは存在しないイメージです。

MEGUMI そうなんですよ! だから、ここ数年は芸能以外の仕事で得た知見を生かして、年始に自分でつくった「MEGUMIの事業計画書」をマネージャーさんにお渡しするようにしてるんです。

自分の事業計画書……! そこにはどんなことを書かれるんですか?

MEGUMI 恥ずかしいくらい具体的なんですけど、「〇〇さんと〇〇さんとお芝居がしたい」「◯年後にカンヌ映画祭に行きたい」というような……。それを見せてマネージャーさんと話し合いをして、1年間の方向性をいっしょに決めています。進んでいきたい方向性に関して、マネージャーさんと私は1ミリも逸れていてはいけないと思うので、やっぱりきちんと文字にすることが大事なのかなと。

確かに、具体的な目標を定めることは大切ですよね。

MEGUMI そうなんですよ。実際に、事業計画書に書いたことが徐々に叶ってきていて。昔は映画に出たいですと言っても「いや、バラエティタレントでしょ」というリアクションを周囲からされることも多かったんですが、すこしずつ自分のやりたい仕事ができるようになってきているので、言葉にし続けてきてよかったと思っています。

MEGUMIさんのように自分のやりたいお仕事の方向性をきちんと見据えること、どんな職業の方にとっても必要なことだと感じます。

MEGUMI 最近はインスタグラマーやYouTuberのように、自由に自己表現をされることで活躍している人たちがたくさんいるじゃないですか。たぶん、コロナの自粛期間を経て、芸能界の人たちも「これからは自分で自分をプロデュースして発信していかなきゃいけないんだな」って意識が変わったんじゃないかと思うんです。

だから、自粛期間は不安に感じることもとても多いですが、この機会にできる表現活動もいろいろあるのかなと。これからもっといま以上にいろんな方が、制約なく新しい表現をできるようになったらうれしいですよね。

取材・文:生湯葉シホ
編集:はてな編集部

お話を伺った方:MEGUMIさん

MEGUMIさん

岡山県出身倉敷市出身。2001年デビュー。持ち前のキャラクターを活かしテレビや雑誌などで活躍。その後、映画やドラマ、舞台への出演により活躍の場を広げている。第62回ブルーリボン賞助演女優賞受賞(2020年)。ボイスメディア「voicy」毎日更新中。

HP:+コラボレート
Instagram:megumi1818
Twitter:@calmakids

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