ハードル上げ過ぎてない? 気負わなくていい「自炊」の考え方

 山口祐加

ある日の山口さんの一汁一菜

こんにちは、山口祐加です。SNSで日々の自炊を記録した「#今日の一汁一菜」や、常備食材に旬の食材や定番食材を5つほど買い足して、週3日の自炊で使い切るレシピ「#週3レシピ」などの情報を発信したり、料理初心者に向けた自炊レッスンを開催したりしています。

私が料理を始めたのは7歳の頃。母に「ゆかちゃん、料理してみたら?」と言われたのがきっかけです。ごはんは作ることが楽しい上に、お腹も満たされる。食いしん坊の私はどんどん料理が好きになり、高校生になる頃には友人を招いてご飯を作る……なんてこともしていました。外食も大好きですが、家で作るごはんは、やっぱりホッとします。


さて、これからのシーズン新生活がスタートする方や、新年度から気持ちも新たにがんばろう! と意気込む方も多いと思います。ただ、この時期よく耳にするのが「自炊を始めたいけれど、一人分つくるのは面倒でコスパが悪い」「仕事が忙しく、帰って料理を作る気が起きない」といった声。

自分の好きなものを自分の好きな味付けで食べられる自炊は、本来楽しい時間であるはずなのに、がんばりすぎて逆に疲れてしまっている人は少なくないように感じています。

それって、すごくもったいないな、と私は思います。

そこで今回は、料理の経験が少なくても、時間がなかなかとれない人にもきっと実践できる「疲弊しない自炊の考え方」について、ご紹介します。

(1)自炊は一汁一菜でOK! いろいろなバリエーションがあってもいい

「一汁三菜」という言葉を聞いたことのある方は多いと思います。ご飯と汁物、さらにおかずを三品組み合わせた献立のことで、和食の基本と言われていますが、仕事から帰ってきてたくさんのおかずを用意するのは大変ですよね。

そこで私は、「一汁一菜」をオススメしています。ごはんを中心に汁物1品、おかず1品を組み合わせた食事スタイルのことを指しますが、料理研究家・土井善晴先生の著書『一汁一菜でいいという提案』(グラフィック社)では、味噌汁を具だくさんにすれば、それだけで十分におかずを兼ねる、という提案もされています。

私の場合も、「#今日の一汁一菜」というハッシュタグで自炊ごはんをほぼ毎日SNSに投稿しているのですが、その献立は必ずしもご飯と汁物とおかず1品という構成になっていないことが多いです。

例えばカレーにはご飯だけじゃなく、おかずとしての具も入っているし、ルウはスープと言えなくもない。それならもう、カレーは一品で一汁一菜と言えるんじゃないか、と思っています。

おでんを煮物と捉える人もいれば、“具だくさんスープ”と捉える人もいるんじゃないでしょうか。そうなると、煮物も一汁一菜と言えそうですよね。ちなみに、最近はトーストとコーヒーも一汁一菜でいいんじゃないかと思い始めました(笑)。そんな感じで、一汁一菜を自由に、広く捉えています。

バタートースト、いろいろ野菜とウインナーのスープ

そんなにテキトーな考え方でいいの? と思われるかもしれませんが、自炊って、それくらいおおらかに考えていいことなんです。「さあ、料理するぞ!」と毎回気合を入れていては、続けることはなかなか難しいのではないでしょうか。

一汁一菜の応用版:「時間差一汁一菜」

自炊がラクになる考え方として「時間差一汁一菜」ということも実践しています。私はおなかが空くと何も考えられなくなってモンスター化してしまうので、仕事が遅くまでかかってしまったときなどは、帰宅するまで空腹を我慢できないこともしばしば。そういうときはとりあえず帰宅前に何か軽く外で食べます。例えば回転寿司でお寿司を少しだけ食べて、帰宅してからサラダと味噌汁を食べる。これで、足せばちゃんと一汁一菜になっている……という考え方です。「全部を自宅で用意しなくてもいい」という考え方って、結構気持ちがラクになりませんか?

(2)「型」を決めることで自炊のハードルはぐっと下がる

仕事から疲れて帰ってくると、冷蔵庫の中を見ながら何をつくろうか考えること自体が面倒になってしまいがち、という人少なくないはずです。なぜそうなるのかというと、献立の候補が無数にあって迷うからだと思います。

そもそも、材料を買うところから選択肢は無数にあります。どの野菜を買えばいいのか、肉はどの部位を選べばいいのか……自炊に慣れていないと買い物の時点で疲れてしまいます。そこで提案したいのが、自分なりの「型」をつくること。

私の場合は一汁一菜ですが、そういう型を持っていると「決める大変さ」がグッと減るはずです。

例えば私の知人には母親と一緒に住んでいる人がいて、自宅に帰ると母が毎日何かしらのスープをつくってくれるそう。そのスープにご飯を入れて食べたり、キムチクッパにしてみたり、リゾットにしてみたりと、「スープをベースにアレンジする」ことが型になっているわけです。他にも「毎日、鍋を食べる」という友人もいます。「鍋」という型があれば、あとはそこに何を入れるのかを考えるだけでいいわけですからラクですよね。

「型」は何だっていいと思います。ご飯が好きな人は毎回丼にするとか、麺が好きなら毎回麺類にするとか、なんでも良いので一つ型を決めておくと良いですよ。もちろん、型は破ってもOK。あくまで自炊で疲弊しないための型なので、絶対に守らないといけないというものでもありません。

(3)食材は買い過ぎない。既製品に手を加えるでも◎

自炊は毎日やらないといけないわけではありません。私も外食が大好きだし、買ってきたものを食べることもあります。最初は無理をせず、週3日くらいを目安に自炊を始めてみるのがおすすめです。

そのときに大事なのは、材料を買い過ぎないことです。ほぼ同じ値段でも、量が少ない方を買うようにしたいところ。例えば卵なら10個パックじゃなくて6個パックを選びます。冷蔵庫の中で面倒を見なきゃいけない子を減らす、みたいなイメージです。

自炊を始めたときにやりがちなのが、「もしかしたら使うかも?」とたくさん材料を買い込んでしまって無駄になってしまうこと。さらに、買い過ぎた材料に献立が左右されてしまうので、その日に食べたいものが食べられなくなってテンションが下がることもあります。

納豆ごはん、かぶと油揚げのみそ汁

カット野菜を活用したり、忙しい週は豆腐やウインナー、納豆のように、調理なしで食べられるものを買ったりするのもオススメです。インスタントの味噌汁に七味を足したり、ごま油を足したりするなど、既製品にほんの少し手をかけるだけでも十分。これだって立派な自炊だと思います。

私は夏だったら、きゅうりに塩や味噌をつけてかじることもあります。切ったり焼いたり煮たりすることだけが料理ではありません。自分の食べたいものを好きな味付けで食べられるなら、それはもう料理なんだと思います。

あると便利な常備食材&押さえておきたい調味料

自炊するときに便利なのが、汎用性の高い食材。油揚げ、きのこ類、ベーコンはそれぞれ細かく切って冷凍しておくと、どんな汁物が来てもだいたい対応できます。味噌汁やスープを具だくさんにしたいなら、ぜひどれかはストックしておきたいところ。

常備野菜にするなら、やっぱりにんじん、じゃがいも、玉ねぎは季節問わず手に入りやすいのでオススメです。豚バラもいろいろな料理に使えるし、すぐ火が通るので調理しやすく万能な食材です。

調味料では、オリーブオイルはぜひ自分にとってお気に入りのものを見つけてほしい! と感じる調味料です。私の場合、オリーブオイルは生食用として使うものと、炒めものなどたっぷり使うものの2種類を用意しています。塩も、味わいが大きく変わるので、いろいろ試してもらいたいな、と思います。お気に入りのオリーブオイルと塩をカット野菜にかければ簡単にサラダになりますよ。

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SNSに投稿されているきれいな料理の写真は、品数も多いし手間がかかっていて、見ていると「自分ももっとちゃんとしなきゃ!」と思ってしまいがち。

でも本来、自炊は自分のためにしていること。そこに「正解」や「正しいこと」はありません。作れただけで十分、おいしかったら「自分、天才!」くらいのテンションで自分を褒めましょう。いい意味で適当に、気負わず、ゆるく自炊を始めてみてくださいね。

画像提供/山口祐加

著書『週3レシピ 家ごはんはこれくらいがちょうどいい。』発売中

書影

【自炊を続けることは、自分の身体と心を世話して、生きていく自信をちょっとずつ積み上げる営みです―― 】

ファッション雑誌の着回しコーデのように「旬の食材と定番食材を合わせて8種類ほどの材料を買い、週3日の自炊で使い切るためのレシピ」=週3レシピと題して、1年分の食材使い切りレシピをまとめた本著。

自炊のつまずきをまるっと解消する72のレシピが収録されています。

著者:山口祐加さん

山口祐加

自炊料理家、食のライター。共働きで多忙な母より「ゆかちゃんが夜ご飯作らないと、今晩のごはんないの。作れる?」と優しい脅しを受けて、7歳の頃から料理に親しむ。出版社、食のPR会社を経て2018年4月よりフリーランスに。日常の食を楽しく、心地よくするために普段は一汁一菜を作り、ハレの日は小さくて強い店を開拓する。料理初心者に向けた対面レッスン「自炊レッスン」や、セミナー、出張社食、執筆業、動画配信などを通し、自炊する人を増やすために幅広く活躍中。好物は味噌汁。
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編集/はてな編集部