ロリータファッションは、私にとっての「戦闘服」――モデル&看護師・青木美沙子さん

青木さん

今回「りっすん」にご登場いただくのは、モデルと看護師、二足のわらじを履く青木美沙子さん。学生の頃、雑誌『KERA』で読者モデルとしてデビューし、瞬く間にロリータファッション好きの間でカリスマ的存在に。2009年には外務省から“カワイイ大使"に任命され、日本のロリータ文化を世界にも発信。その一方で、看護師としての経験も着々と積み重ね、異なる二つの職業を両立し、エネルギッシュに働いています。

20代前半、大学病院に勤務していた頃は、夜勤明けで撮影に行くなどハードなスケジュールもこなしていた青木さん。将来のことも見据えた戦略的な考え方や、ロリータファッションを布教する上での偏見や葛藤など、働くことを通した青木さんの哲学を語っていただきました。

モデルと看護師、激務でも両方続ける理由

青木さんはロリータモデルとして活躍されていながら、看護師の仕事もずっと続けていらっしゃるんですよね。モデルと看護師、どちらもお忙しいイメージのある職種なので、そんな働き方ができることに驚きました。

青木美沙子(以下、青木) 訪問看護という形で自宅療養中の患者さんのご自宅に行っているのですが、これは登録制アルバイトをイメージしていただくのが近いかもしれません。訪問看護ステーションに、その月に入れる日程を提出して、モデルの仕事のない日に看護師の仕事を入れています。

モデルのお仕事が多いときは、ほとんど看護師の仕事を入れられない、なんてことも?

青木 そうですね。忙しい月は看護師の仕事は1日しか入れられなかった、とかもあります。ただ、今って看護師が不足しているので、1日だけでもいいから入れるなら入ってほしい、という感じなんです。

それだけ忙しくても、看護師を辞めずに続けているのはなぜでしょうか?

青木 いくつか理由があって、ひとつは、看護師としての腕を落としたくないからです。完全に辞めて、注射が下手になっちゃうとかが怖くて。10年後か20年後か、いずれは看護師メインの働き方に変える必要があると思っているんです。

モデル業というのは、どうしても需要がないとできません。ロリータ服自体は何歳になっても着続けると宣言していますし、そのつもりなのですが、趣味で着ることはできても、お仕事としてモデルメインでずっとやっていくのはたぶん現実的に難しいんですよね。

青木さん

なるほど。先のことを考えての二足のわらじなんですね。

青木 働き方については今までもそのときどきで変えてきています。20代前半の頃は大学病院に勤めていて、看護師の仕事優先でした。20歳で看護師になって、最初の5年間は病院できっちり働いて技術を身に付けようと思って。20代後半でカワイイ大使に任命されて、月の半分くらい海外に行く生活になり、大学病院勤務が物理的に難しくなったので、モデルメインに切り替えました。

両立する上で、どのような点に苦労されますか?

青木 スケジュールのやりくりはやっぱり大変です。特にテレビのお仕事などは急な依頼も多いので、看護師の仕事を入れちゃっていたら慌てて代わりの看護師を探す、なんてことも……。どうしても見つからないときは、テレビの方には待っていただいて、ギリギリまで看護師の仕事をして現場に駆け付けます。あとは、肌のコンディションには大学病院勤務時代から苦労しています。

激務だったり夜勤が続いたりすると肌が荒れますよね。

青木 そうそう、そうなんです。肌がボロボロの状態だったり、夜勤明けでクマがすごかったりで。その状態で撮影に行って、よく編集部に怒られていました(笑)。夜勤をしていない今でも、手荒れには悩まされています。看護師って消毒液や水に手をさらすので、本当に手が荒れるんですよ! ハンドクリームをつけてもなかなか治らないので、手が写り込む撮影のときは困ります。

青木さんの手元

逆に、両方やっていたからこそよかったことってありますか?

青木 「海外を飛び回っていて大変でしょう」とよく聞かれるのですが、病院勤務がとてつもなく激務だったので、それと比べたらへっちゃらです。だから、体力がついた、というのはよかったことかもしれません。どんなに海外の仕事が多くても、モデルには夜勤がないので、夜眠れますから!

なるほど……(笑)。

青木 それと、前に出るモデルの仕事と、後ろから支える看護師の仕事、真逆のことをやっているおかげで、常に視野を広く持てていると思います。これも看護師を完全に辞めずに続けている大きな理由です。

それに、真逆に見えて、「人を笑顔にする」という共通点もあるんですよね。私のInstagramを見てくれている患者さんも多くて、中国のロリータイベントの写真を見て「旅行した気分になれた」と言ってくれることもあります。病気で家から出られない患者さんが、私のモデル活動を見て笑顔になってくれるのは、両方やっていてよかったなと思う瞬間です。

給料の80%はロリータにつぎ込んでいました

青木さんイメージ

「360度どこから見てもかわいいのがロリータファッション。モデルはかわいいお洋服を引き立てる裏方的な側面もあります」(青木さん)

青木さんはいつ頃からロリータファッションに目覚めたのでしょうか?

青木 高校生のときに『KERA』という雑誌の撮影で着たのがきっかけです。『KERA』はロリータだけでなくいろいろな個性派ファッションが紹介されている雑誌だったのですが、たまたまロリータ特集に呼んでいただけて。「こんなにかわいいお洋服があるんだ! ロリータを着ればいくつになってもお姫様になれるんだ!」とすっごくときめきました。

それまではどういう系のファッションを?

青木 古着とかが好きでした。初めて『KERA』のストリートスナップに声をかけていただいたときも古着を着ていたと思います。ロリータファッションという存在を知ってはいたものの、高くて手を出せずにいて。でも、実際に着てみたら一発で心を奪われましたね。ちゃんと買い集め始めたのは、看護師として働き始めてからです。当時は給料の80%くらいは使っていたと思います(笑)。

そんなに!

青木 私服コーデを見せる企画が頻繁にあったので、毎回同じのを着るわけにもいかないですし、新しいのをちょくちょく買わないと、というのもありました。今はSNSがあって、昔より私服を見せる機会が多いので、最近出てきたモデルの子たちは余計に大変だと思います。

ちなみに、一着買うのにどれくらいかかるのですか?

青木 私の場合「一着」というよりも「一式」という考え方になります。ロリータファッションって着回しがきかなくて。この服に合わせる髪飾りや靴、バッグはこれ、とコーディネートしていくと、全身を一式そろえるのに10万円以上かかります。だから最初はさすがに毎日ロリータを着るとかはできなかったです。

青木さんイメージ

「ロリータモデルは他ジャンルのモデルさんと違って、基本的に歯を見せて笑わない、活発な動きをしない、というルールがあります。お洋服を見せるお人形になるという感覚です」(青木さん)

今は何着くらい持っているのでしょう?

青木 400着くらいです。15年くらいかけて集めました。SNSで毎日、私服コーデを見せても余裕で一年持ちます(笑)。

すごい! 収納が大変そうです……(笑)。

青木 実家の部屋をひとつ、ロリータ部屋にさせてもらっていて、そこにびっしり並べています。邪魔だって母によく怒られるんですけどね。

ロリータファッションへの偏見と、年齢公開の葛藤

でも、ご家族の方はロリータを着ること自体には理解があるんですね。個性的であるがゆえに、家族や恋人から反対される人もいると聞いたことがあります。

青木 ファンの方からも「恋人が着ないでくれ、と言ってくる」とか「人目が気になるからやめて、と親に言われた」とか、よく相談されるんです。私も夜道を歩いていると酔っ払いに「なんだそんなお姫様みたいな格好は!」と絡まれたこともあります。そういった周囲からの声だったり、あと、年齢的な問題だったりで、ロリータって続けるハードルが高いんです。

青木さんイメージ

ああー、これはロリータに限らずですが、若い頃からずっと好きだった服って、年齢が上がると着づらくなりますよね……。若作りしてるとか思われそうで。

青木 そのあたり、海外のイベントに出演すると、日本とは真逆なんだなって思います。日本は同世代のみんなと似たような服を着ないと、という意識が強い印象がありますが、海外の人の根底にあるのは「個性的な服を着て目立ちたい」なんですよね。だから日本のロリータファッションは海外ですごく人気で。今は特に中国で流行っています。

ファッションを自由に楽しめる空気があるのはうらやましいですね。

青木 誰にも迷惑かけてないんだから、別にいいじゃん! って思うんですけどね。私も、「その年齢でそんな格好しているの?」とかはよく言われるんですよね。日本は本当に年齢に対する偏見が多いな、と感じます。

青木さんは最近、年齢を公開されましたよね。それに対して葛藤はありましたか?

青木 『セブンルール』(フジテレビ系)などの密着系のテレビ番組に出ることになり、年齢を出してほしいと言われて。10代からモデルをやっているので、昔から知っている人が計算したらだいたいの年齢は分かってしまうものの、はっきりと公開してしまうのはかなり悩みました。

でも、公開したことによって、年齢を気にしてロリータをやめなければと思っていた人たちにとっては勇気になったかもしれません。

青木 そうだといいなと思っています。私にとってロリータって、コンプレックスだらけだった自分に自信をつけてくれたファッションなんです。だから、年齢を重ねたからって、ロリータを着なくなったら、また自信のない自分に逆戻りしてしまいます(笑)。

青木さんイメージ

現在の芸能事務所に所属する前は、フリーでモデル活動をしていたという青木さん。事務所へは、なんと自ら問い合わせフォームへ連絡して売り込んだのだそう。

ロリータという"戦闘服"に出会う前の自分と、将来の自分

ロリータファッションに出会う前の青木さんは、どんな感じだったのでしょう?

青木 人前に出ることが苦手で、モデルなんてとてもじゃないけれどできないと思っていました。というか、今でもロリータを着ていないときはうまく喋れなくて、看護師の仕事で患者さんの状態を先輩に伝える「申し送り」をするときにも緊張して震えてしまいます。書類に書いてあることを読むだけなのに、何言ってるか分からないと怒られるくらいで……。

そうなんですね! こうしてすらすらインタビューにお答えいただいている姿からは想像つかないです……!

青木 ロリータを着ることで、人前で緊張しない"青木美沙子"になれる、という感じなんです。着るとスイッチが入る、戦闘服のようなものですね。だから、いずれモデル業を引退することになったとしても、モデルじゃない形でロリータ事業を展開するなど、何かしらでずっと関わっていたいと思います。

ロリータ事業とは、例えばどんなのでしょう?

青木 今考えているのは、ロリータカフェやロリータサロンです。ロリータファッションのファンの間ではお茶会をする文化があるので、そういう会をできるカフェだったり、私の古着を貸し出してロリータ体験をできるサロンだったりを作りたいと思っています。

気軽に体験できる場が整っていると、ロリータ人口も増えそうですね。

青木 それと、プライベートでの夢もあって……。親子ロリータをやりたいんです! 今はまだそんな予定はありませんが、女の子が産まれてロリータを着せたら絶対にかわいいだろうなって。ロリータにはShirley Temple(シャーリーテンプル)という子ども向けのブランドもあるんですよ。それを着せて、親子でロリータデートをできたらいいなと思っています。

青木さん

取材・文/朝井麻由美
撮影/小野奈那子

お話を伺った方:青木美沙子さん

dammy

TWIN PLANET所属。ロリータモデル・看護師。外務省よりカワイイ大使に任命され、ロリータファッション代表として文化外交にて25カ国45都市を歴訪し、ロリータファッション第一人者として活動中。 2013年2月に日本ロリータ協会を設立し、初代日本ロリータ協会会長を務める。
Twitter:@aokimisako
Instagram:@misakoaoki

次回の更新は、2018年7月18日(水)の予定です。

編集/はてな編集部