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『ユーリ!!! on ICE』フィギュア衣装も手掛けるデザイナー・佐桐さんの「衝動を感じる瞬間」

佐桐さん

華麗な舞いで観衆を魅了する社交ダンスやフィギュアスケート。その舞台に華を添えるきらびやかな衣装を制作しているのが、佐桐結鼓(さぎり・ゆうこ)さん。バレエ・ダンス用品の総合メーカー・チャコットで活躍する衣装デザイナーです。

オーダーメードの社交ダンス衣装や、プロフィギュアスケーターの競技用衣装をはじめ、テレビアニメ『ユーリ!!! on ICE』の衣装デザインも手掛ける佐桐さん。新卒でチャコットに入社し、一度はウエディングドレスのデザイン会社に転職するも、上司の言葉をきっかけにチャコットへと戻ります。「寝ているときでさえも仕事について考えることもある」と語る佐桐さんに、これまでのキャリアや仕事にかける思いなどを伺いました。

デザイン画は設計図。見た目だけではなく機能にも配慮

まずは、佐桐さんが日々どのようなお仕事を担当されているのか聞かせてください。

佐桐結鼓さん(以下:佐桐) メインは、社交ダンスの衣装デザインです。お客様一人ひとりに合わせた衣装を作る「オーダー衣装」と、チャコットの店頭に並べて販売する「即売衣装」「レンタル衣装」を手掛けています。オーダー衣装に関しては、大会に出場する競技選手のものや、ダンスパーティーなどで踊る方がお召しになるものが多いですね。即売やレンタルの衣装は、毎月新しいデザインのものを展開しています。

オーダー衣装の場合、まずいろいろな生地をお客様にお見せして、その生地を生かしたデザインを考えます。また、オーダー衣装の制作は、お客様が身に纏(まと)って、踊って、初めて完成品といえる仕事です。踊ったときに引っ掛かりや破れが出てしまってはいけないので、どのような振り付けなのかも確認します。

一方で、即売衣装とレンタル衣装は、どなたかの要望に応えるわけではないので、「こういうシルエットを出してみよう」といった、デザインの冒険ができます。もちろん、過去の売れ行きのデータも分析しながらデザインしていますが。

1日のほとんどは、デザインのことを考えていらっしゃる?

佐桐 そう思われがちですが、デザインだけに費やす時間は1日5分〜10分程度です。それ以外はお客様と打ち合わせをしたり、生地探しをしたり、スタッフに指示を出したりといったことが多いですね。

佐桐さん

衣装が出来上がるまでには、チームワークも必要ですよね。

佐桐 はい。私の仕事はデザインをすることがメインですが、型紙を引くパタンナー、縫製スタッフ、飾りをつけるデコレーター、それぞれに指示を出すディレクターとしての役割も担っています。ですから、最初に設計図となるデザイン画やディレクションが間違っていたら、イメージとまったく違うものが出来上がってしまうので、生地を選ぶときや縫製を考えるとき、指示を出すときには、「どういう場面で」「何のために」着るのかを常に念頭に置くようにしています。

オーダー衣装の制作で、一番大変な作業はどんなことなのでしょうか。

佐桐 お客様のご要望をくみ取り、イメージを膨らませる作業が一番難しいです。オーダー衣装はサンプルがないので、デザイン画を描き始める前にお客様の中にあるイメージをいかに読み解くかが重要です。ドレスを何着もオーダーされている方もいれば、初めての方もいらっしゃって、衣装に関する知識レベルはお客様によって異なるため苦労することもありますね。

社交ダンスからフィギュア、アニメの衣装デザインまで

社交ダンス衣装のデザインは、どんなところからインスピレーションを得ていますか?

佐桐 毎年、競技ダンスの世界三大大会が開催されるのですが、そこに登場する世界のトップ選手たちの衣装を参考にすることが多いですね。ただ、日本人の体形や骨格、肌の色に似合うものかどうか、バランスを考えながらエッセンスを取り入れることがポイントで、そのポイントを踏まえながら新たなトレンドを自らつくり出すのもデザイナーの仕事だと思っています。

あとは、ダンス界にとらわれず舞台や映画など、「芸術」と呼ばれるさまざまなジャンルに興味を持つようにしています。たとえば、その年に流行った映画……2017年であれば『ラ・ラ・ランド』や『美女と野獣』などの衣装は、チェックしていました。

着る人のキャラクターや振り付けと、衣装のデザインは密接に関わるものでしょうか。

佐桐 そうですね。ただ、衣装で踊りを表現しようと過剰な装飾をしてしまうと衣装も重くなって動きにくくなるので、足し算だけではなく引き算といいますか……そこが難しいですね。

ちなみにフィギュアスケートの衣装デザインは、織田信成さんからのオーダーが始まりだったとか。

佐桐 はい。織田さんは、衣装に悩まれている時期があったようで、その当時織田さんがダンスを習っていた先生からご紹介いただきました。

以来、フィギュアスケート選手の衣装のみならず、フィギュアスケートを題材にしたテレビアニメ『ユーリ!!! on ICE』の衣装デザインの原案も手掛けられるようになったと。普段の仕事と勝手が違うところもあったのでは?

佐桐 キャラクターの設定について詳しい情報をいただいて、実在の選手と変わらないプロセスでデザインしました。ただ、キャラクターや使われる曲もほぼオリジナルでしたので、特徴をつかむのに苦労しました。ジャンプが得意なのか、スピンが得意なのか、表現力が豊かな選手なのか、そういうキャラクターごとの特徴を踏まえつつ長所を引き出し、苦手としていることをカバーできるようなデザインにしました。

佐桐さん

転職、フリーランスを経て、上司の言葉をきっかけに復帰

佐桐さんが衣装デザイナーを目指そうと思われたのは、いつ頃だったのでしょうか?

佐桐 高校を卒業する頃だったと思います。私自身、小学校高学年くらいからバレエやジャズダンス、新体操を習っていたので、ダンサーになりたいという夢もありました。同時に、ダンスの先生と一緒に発表会の衣装を作ったりすることもあって、服飾関係の仕事にも興味を抱くようになりました。

実際に何か行動は起こしたんですか?

佐桐 高校は服飾コースに通っていたのですが、高校卒業後は地元鳥取の百貨店で働き始めました。東京の服飾の学校に行きたかったのですが、親の反対があったためです。ですが、地元で1年働きながらお金を貯めている姿を見て、両親も理解してくれるようになり、東京の専門学校に進みました。そこで服飾デザインを学び、自分が諦めたもう一つの道であるダンスにも関われる仕事ができるということで、新卒でチャコットに入社しました。程なくして、社交ダンスのレッスンウェアのデザインを担当するようになりました。

佐桐さん

ただ、そのあと佐桐さんは一度チャコットを辞められて、転職されたと伺いました。

佐桐 もともと衣装のデザインをしたかったことに加え、その頃は、ウエディングドレスに興味を持つようになっていました。それで、26歳の時にウエディングドレスのデザイン会社へ転職しました。ただ、その後転職先の会社の事情で退職し、しばらくはフリーランスで仕事をしていました。

そうだったんですね。では、チャコットへ復帰した経緯について教えていただけないでしょうか。

佐桐 ある日、同じくチャコットを退社していた同期から「会社に遊びに行くけど一緒にどう?」と誘われて、久しぶりにチャコットを訪ねてみたんです。その時、退社する前にお世話になった上司が「明日にでも戻って来い」と言ってくださって、復帰を決めました。

きっと勤めていたころの働き方が評価されていて、チャンスが与えられたのですね。チャコットに戻ってから、以前とお仕事内容は変わりましたか?

佐桐 以前は社交ダンスのレッスンウェアを手掛けていましたが、戻ってからは、競技会やパーティー用のオーダー衣装を任されるようになりました。プロのダンサーの真剣さはもちろん、パーティードレスのお客様はご年配の方が多く人生経験が豊富な方ばかり。ダンスのオーダー衣装をデザインした経験はなかったので、必死で勉強しました。

今でも勉強は欠かさないのでしょうか?

佐桐 新しいお客様と衣装を作らせていただくときだけでなく、継続的に作らせていただいている方でも、これまでよりも、より良い衣装を求められます。期待にお応えしたいので、努力は惜しみません。

夢の中でも仕事をしている

期待に応えるため、例えばどのようなことをされているのでしょうか。

佐桐 お客様からオーダーいただくのは衣装ですが、ヘアメークやネイルはどんなスタイルが合うか考えますし、シューズも色を染めてストーンをつけた方がいいですね、といった提案も積極的にしています。ですから、衣装にとどまらず、ファッションにまつわるトータルの知識は常にアップデートするように努力しています。

あと、ダンスの競技会場によってライトの色味が異なるので、それを踏まえて衣装の色味を考えたいと思っています。ですので、休みの日も競技会があるときは、武道館や後楽園ホール、幕張メッセなどに足を運ぶこともあります。

佐桐さん

本当に仕事が好きなんですね。1日のうち、どれくらい仕事のことを考えていますか?

佐桐 ほとんどですね。気づいたら考えています。寝ているときに考えていることも(笑)。たまに夢の中で仕事を「やったつもり」になっているときもあって、翌日、「あれって、やってたんだっけ?」と確認することもあります。

それはプロ意識を感じるエピソードですね。

佐桐 つい、普段の生活でもデザインと結びつけることが多いかもしれません。例えば、美術館で油絵を鑑賞したときなど、色の組み合わせや素材、表現手法に目がいきますね。

衝動→行動→感動の連鎖が"いい仕事"を生み出す

デザイナーは専門職でつぶしが利かず、他に逃げ道が作れないようにも思います。その点についてどのような考えをお持ちでしょうか。

佐桐 その点に関しては、特に不安は感じません。自分に自信があるということではなくて、「やるしかない」と覚悟を決めてこの世界に飛び込んだので、不安を覚えることに時間を浪費せず、まずは行動することを心掛けています。とはいえ、自問自答の毎日です。デザインには、「こう」という決まりがなくて難しいですし、何が正解で何が間違いなのか、いまだによく分かりません。一つ言えるとすれば、失敗を恐れずに挑戦すること。諦めてしまったらデザインとは呼べないような気がします。

自身の働き方で大切にしてきたことはありますか?

佐桐 チャコットの元会長から聞いた「衝動は行動を呼び、行動は感動を呼ぶ」という言葉を大切にしています。自分が手掛けた衣装を身に着けて踊るお客様から感動をいただいて、もっといいデザインを生み出したいという衝動が沸き起こる。だからこそ、具体的な行動に結びつく。この繰り返しによってより良いものを作ることができると考えています。

では、佐桐さんが、一番「衝動」を感じるのはどんなときですか?

佐桐 時には「もっとこうすれば良かった」という悔しさが良い衣装を作りたいという衝動につながることもあります。ただ、多くの場合は、自分のデザインした衣装でお客様が踊られて、踊りを通して想像を超える輝きを放たれたときに感動をいただき、「次はさらに良い衣装を作りたい」という衝動につながります。

佐桐さん

取材・文/末吉陽子(やじろべえ)
撮影/小高雅也

お話を伺った方:佐桐結鼓 さん(チャコット株式会社 生産部 衣装課 デザイナー)

sagiri

専門学校卒業後、チャコット株式会社へ入社。転職、フリーランス期間を経てチャコットへ復帰。現在も活躍中。

次回の更新は、2018年3月20日(火)の予定です。

編集/はてな編集部