我慢癖は妖怪女への花道である。好き嫌いを自覚して自分の輪郭をくっきりさせよう

 ぱぷりこさん

我慢する癖がついている女たち

私のところにはオンライン・オフラインともに、さまざまなタイプの女性から相談が寄せられます。相談を受けているうち、恋愛やキャリアにずっと悩んでいる人、職場や人間関係にストレスを抱えているけれど打開策が見つからず閉塞感に悩まされている人には、「自分の意見を言わずにいつも我慢する癖」がついていることが多いと気がつきました。

「仕事だから我慢しなきゃ」
「上司だから我慢しなきゃ」
「場の空気を壊したくない」
「自分が我慢すれば丸く収まる」
「相手の気持ちを考えすぎて我慢してしまう」

彼女たちはこう言いながら、セクハラを笑顔で流し、モラハラを深刻に受けとめて、「つらい」と思いながらも我慢してその場にとどまり続けようとします。

我慢の短期的メリットと長期的デメリット

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我慢する女性たちに「なぜそんなにつらいと思っているのに我慢するの?」と聞くと、「争いをしたくないから、自分が我慢することで丸く収まるならいい」「わがままな女だと思われるよりはマシ」といった答えが返ってきます。また「嫌なことでも我慢すれば成長できる」「我慢すればいつか報われる」「つらいことの先には報酬が待っている」といった“我慢神話”も根強いです。

確かに、人間関係で我慢をすると

  • 相手の気分を害するリスクを回避できる
  • 相手に気に入られる確率を上げられる
  • 意思決定の時間を短縮できる

といったメリットがあります。が! 我慢とハサミは使いよう。目的を達成するために必要に応じて我慢したりしなかったりする人はいいですが、いつ、どんなときでも、どんな状況でも我慢してしまう「我慢癖」がある人の場合、メリットよりもデメリットの方が上回ります。理由は以下の3つ。

1. 妖怪男のターゲットになる

妖怪男とは、「自分の利益のために他人を利用したり搾取したりする男」のことです。「俺の時間単価、いくらだと思ってんの?(君にそんな価値ないんだよ?)」という見下しマウンテンの頂から見下してきて相手をコントロールしようとするモラハラ男。「本当に馬鹿だよね(笑)。だから彼氏できないんじゃない?(笑) あ、真に受けちゃった? ウケるんだけど(笑)」と冗談風にディスることで自分より目下の人間を作って精神的安定を得たいディスり芸人。「君は本当の愛を知らないだけだ」などのロマンポエムを穴という穴から噴射して口説きにかかる不倫おじさん。このような妖怪男は、「ノー」と言えない女性=我慢癖がついている女性をターゲットに選びます。

なぜなら、我慢癖がある人は不平や不満を言わず、自分が不利な立場にあってもその場にとどまり続けるから。逃げずにいてくれる極上のエサを、妖怪男が見逃すはずがありません。

彼らは自分たちにとって都合がいい「我慢して逃げない女」を見分ける術に長けています。我慢癖をつけることはすなわち、妖怪男ホイホイになることと言っても過言ではありません。ついでに詐欺師にもモテモテになるという、いらんオマケがついてきます。

2. 同じ我慢を後輩や部下・子供に強いるようになる

我慢をし続けることは、ずっとストレスを感じ続けているということ。ストレスフルな状況にずっといると、人は心の余裕を失い、「私はこんなに自分の望みを諦めているのに、他の人は諦めていなくてずるい」「私はこんなに他の人のことを考えているのに、誰も私のことを考えてくれない」という怒りを覚えるようになります。この怒りはやがて、後輩や部下や子供といった「自分よりも弱い立場の人間」に向かいます。

「私がこれだけ我慢したのだから、あなただってやるべき」
「自分の意見を通そうとするなんてわがままの極み」

上記のような「自分は大きな犠牲を払った犠牲者である」「他の人も自分と同じぐらい犠牲を払うべき」という被害者意識から、かつて自分がやられて嫌だったことを他者に強要するようになります。

我慢癖がついている人は、自分より立場が強い人間には反抗しませんが、自分より弱い立場の人間には横柄に振る舞いがちです。「若いから」「経験が浅いから」「うちの会社のことをわかっていないから」と一見正当に見える理由を口にしながら、「私がこれだけ我慢したんだから、あなたたちも我慢すべき」と長年蓄積した怒りを晴らそうとするようになります。

3. 自分で選択したり決めたりできなくなる

我慢癖の最大のデメリットは「自分で選択して決める力、自分の意見を通す力を失う」ことです。

ビジネスでも人生でも、誰もが満場一致で同じ意見を持つことなどなく、ほとんどの場合は誰かと誰かの利害が衝突します。こういう時、我慢癖がついている人は「自分以外の誰か」の意見を聞いて従いますが、これは「自分で選択したり決定したりする行動を放棄する」ことに他なりません。

我慢し続けていると、「自分で決められず、常に他人に流される人間」が出来上がります。

「そんなことはない。本当に大事な時には決められるはず。まだ本気を出していないだけ」って思いますか? ですが残念! それは幻想です。なぜなら「意思決定」と「意思を通すこと」は、日常での訓練が必要だから。

1日20時間ぐらいベッドでごろごろしている人間が突然フルマラソンを完走しようと思っても無理オブ無理なのと同じように、日頃から自分で意思決定していない人が突然何かを決めようとしても決められません。誰かにちょっとでも反対されたりしたら、戦わずに「我慢」してしまうでしょう。そして「私は自分以外の人を優先しているから」「チームのことを考えているから」と、献身の美談で自分を納得させようとするでしょう。

でもそれはキラキラ粉飾です。自分で決められないのは、謙虚だからでもなく、利他主義だからでもなく、相手のことを思いやっているからでもなく、「自分で決める力がなく、自分の意思を他人に伝える訓練を怠けている」からに過ぎません。訓練をしないと意思決定ができず、いざやろうとしてもできないのでストレスを覚えて、意思決定を避けて、さらに意思決定の力が弱まる……という無限ループに陥ります。

我慢癖は妖怪女への花道である。我慢癖を手放すには

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我慢癖が恐ろしいのは、5年10年という長い年月をかけて、人間の自立する力をそぎ、妖怪男のサンドバッグになるリスクを増やし、ストレスを与え続けて心の余裕を失わせ、他者に不満と恨みを抱える「妖怪女」を作り出すところ。そして、これだけのデメリットがあるにもかかわらず、「コミュニケーションの衝突を避ける」「我慢すれば報われる」というメリットがあるように見えるためについ選びたくなってしまうところ。精神のリボ払いみたいなものです。短期的メリットがあるように見えるけれど、長期的に見たらデメリットが多すぎる。

このように、我慢癖は妖怪女を養成する花道なのです

よって、我慢癖は手放した方がいいと私は思います。とはいうものの、「そうね! 私は自分の言いたいことを言う! レリゴーする!」「もう我慢なんかしない! 断れるものはばっさばっさ断る!」といきなり行動に移せるかというと、これがなかなか難しい。「自分の意見を言うことはわがままではないかと引け目を感じる」「そもそも自分が何をしたいかわからない」と悩む女性たちを何度も見てきました。

「じゃあどうすればいいの?」ってことなんですが、おすすめしたいのが「自分の感情を知り、表出しする」こと。なぜなら、我慢癖がついている人は、そもそも自分が「何を欲していて、何を優先したいのか」を把握していないことが多いから。

主語を「He/She/They」にせずに「I」にしてみる

我慢癖がついている人に「我慢していることで不満をためているけれど、あなたはどうしたいの?」と質問すると、考え込んで黙ってしまったり、「上司・チーム・会社・親・社会がそれを求めているから」と自分以外の他者を主語にして語り出すことがとても多いです。

ここから、相手のことを思いやって優先しているのではなく、自分の感情を把握していなくて判断もしていないから、決定権を他者に明け渡して、言語化できていない自分の希望に沿わないと不満をためる……という構造が見えてきます。

我慢する人たちは「世間的に正しいかどうか」「周りから求められているかどうか」というように「他人」を主語にして物事を考えて、「自分が好きか嫌いか」という「自分」が主語のことを「わがまま」「自分勝手」と下位に置こうとしがちです。しかし、好きか嫌いかってすごく大事なことだと思うんですよね。

だって、周りのことをいくら考えたところで、結果としてストレスを感じて怒りっぽくなったり不安になったりするのは、他人ではなく自分だから。「上司・チーム・親・彼氏・世間」をベースに判断しても、その判断の結果を引き受けるのは自分です。だったら、自分の感情を判断軸にした方がずっといい。自分で判断すると、「周りが言ったから」と他責にして言い訳できなくなりますが、他人の判断に愚痴を言うだけbotになったり日常的な不安にさいなまれるよりは、ずっと建設的だと私は思います。

自分の感情や好き嫌いを表出ししてみる

なので、主語を「自分以外」から「自分」に置き換えて、「自分の感情や好き嫌いを把握」することが重要です。難しそうに思えるけれど、簡単です。紙とペン、あるいはパソコンと電力さえあればできますから。私がやっていることはだいたいこんな感じ。

1. データの収集

自分の感情をとにかく書き出す。どんなことを言われた時にモヤモヤし、誰と話す時に疲れるのか、何を考えている時に不安になるのか、何を言われたらうれしいのか、ストレスから解放されるのか、感情の流れを思いつく限りまるっと表出しする。「上司のばーかばーか」レベルのことでもOK。重複があっても気にしない。この作業を2週間~1ヶ月ほど続ける。

2. データの整理・重みづけ

書き出した長文を箇条書きや短い文章にして見やすくする。重複しているものはまとめて、重複がない箇条書きリストを作る。この時、重複しているものは登場した回数をカウントしておく。何度も出てきているキーワード(人の名前や仕事内容など)は問題のコアになっていることが多い。登場回数が多い事柄を上に持ってきて、リストを再整理する。

3. データの意味づけ

リストの上から見ていき、「自分はこれを好きか嫌いか」で振り分ける。この時「正しいか正しくないか」「他人からどう思われるか」といった「他人ベース」では絶対に考えないこと。あくまで「自分」を主語にして「好きか嫌いか」のみで判断する。「どちらでもない」は、判断を放棄している言葉なので使わない。「好き」か「嫌い」のどちらかに振り分ける。

4. データの取捨選択

「嫌いなこと」のうち、「自分にとって必要か不必要か」で振り分ける。「嫌いだけど自分にとって必要なこと」は、なぜそれが必要なのか、目的は何か、いつ目的が達成されるのかを書き出す。「嫌いで不必要なこと」についてはいま自分が何をしているかを書き、それが必要かどうかをもう一度考え、不必要だと判断したら「断る、逃げる、戦う」といった、「我慢する」以外の選択肢がないかを考える。

人によって書き方や整理の仕方は異なると思いますが、「ぐちゃぐちゃな感情や思考の流れをどかっと全部出してすっきりする」「後でゆっくり整理する」のはコスパが良くておすすめです。最初に整理してきれいに書こうとすると面倒くさすぎてやめちゃうし、問題を見落としがちになってしまいます。些細なレベルのことでも全部書いてすっきりさせておくと、他の課題にも目が向くようになります。

【結論】自分の輪郭をくっきりはっきりさせて、我慢癖をリリースしよう

我慢癖とは「自分を主語にして語らず、自分の好き嫌いや感情を把握しないまま、“自分”という存在の輪郭をぼやけさせる」ことだと思っています。だから自分で判断できずに他人に同調しがちになり、他人を自分の思いどおりに動かそうとする妖怪がわんさかと寄ってくることになる。妖怪はグレーであいまいなところを好みますからね。

自分の感情を把握して、自分の輪郭をくっきりはっきりさせることは、自分を守る「結界」になります。

そして、自分の感情や好き嫌いを自覚していることと「わがまま・自己中」はまったく別のものです。自分の意見を自覚していると、考え方の違う他者と折り合いをつけて落としどころを見つけようとするようになります。

自分の意見を意思決定に反映できるようになることは、自分の操縦権を自分で持つということです。操縦権を自分で持てば、「え、どこに連れていかれるの?」という不安や「私はそっちに行きたいんじゃないんだけど!」という不満を減らしていけます。だから安心して、くっきりはっきりさせましょう。

年末年始はぜひ筆圧を上げに上げて、自分の感情を棚卸ししてみるとよいと思います。


著者:ぱぷりこ (id:papuriko)

ぱぷりこ

ブログ『妖怪男ウォッチ』を書く、筆圧の谷の妖精。たまに外資OL。ブログで妖怪男女を供養し、noteの『ぱぷりこの恋愛お焚き上げ相談』で百鬼夜行な相談をお焚き上げしている。チャームポイントは筆圧。
ブログと同名の書籍『妖怪男ウォッチ』(宝島社)は、9割が描き下ろし。

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