大阪じゅうの地ソースを集める異端の「たこ焼き屋」で、ソース文化の沼にダイブした

2021.05.17

大阪じゅうの地ソースを集める異端の「たこ焼き屋」で、ソース文化の沼にダイブした

粉モン文化が盛んな大阪で独自に発展した調味料『ソース』。その褐色の液体に広がる奥深〜い世界について、昭和町で大阪地ソース専門のたこ焼き屋「たこ焼ソース」を営む鴨田さんに話を聞きました。

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    たこ焼きっておいしいですよね。

    でも、その上に乗ってるソースについて、強く意識したことはありますか?

    実はこの『ソース』という調味料には、とんでもなく奥深い世界が広がっているんです。

     

    こんにちは。ソースを愛してやまない、ナニワのライター・ロマンです。

    京都の伏見に生まれ、大阪へ移住して早5年。たこ焼き、お好み、串カツに焼きそばはもちろん、カレーライスにもソースを入れるし、鳥肝のソース煮なんかも大好き。大阪人にとってソースは、本当に欠かせない存在なんですよね。

     

    なかでもソースの魅力といえば、その『多様性』

    ソースは大きく分けて「ウスターソース」「中濃ソース」「濃厚ソース」の3つ。

    そこからお好み用、焼きそば用、たこ焼き用……といった具合に用途によって細分化され、それを作るメーカーも「東のブルドック」「西のおたふく」「中部のカゴメ」といった有名どころから、限られた地域だけで生産される地ソースもあって……

     

    「あのロマンさん、盛り上がってるところすみません」

    「なんや!」

    「ジモコロ編集部の日向です。読者に『ソースの魅力』を伝えたいってことで話を聞いてたんですが、僕みたいな東京在住の人間からすると、正直まだピンとこなくて……。ソースってそんなに違いがあるものなんですか?

    「ッ!おまえはなんもわかってないな……。わかった、そしたら今回特別にソースの魅力を教えてあげるから、今から大阪おいで。いや、もはや来い

    「すごい迫力だ」

     

    ってなわけで、今回はけしからん後輩をソースの沼にハメようと思います。

    魅惑のソースワールド。どうぞ、ご堪能ください。

     

    ※本記事は感染予防対策を行い、一部の撮影の際だけマスクを外しています。

    地ソースに溺れられる『たこ焼ソース』という名の魔窟

    「もー、ロマンさん、なんなんすか。急に大阪まで呼び出して」

    「だまらっしゃい、日向よ!この前『ソースに違いがあるのか』なんて眠たいこと言うてたな。ソースラバーとしてこれは由々しき問題だなと思ったワケ」

    「はあ」

    「今日はね、そんな日向に『ソースの魅力』を伝えたくてここまで来てもらった。うし、ここが目的地や」

     

    『たこ焼ソース』…… なんてストレートな店名だ」

    「まいど〜、今日は由々しき後輩を連れてきました〜」

    「由々しき後輩ってなに?」

    「おおロマンくん、まいど!」

     

    ソース愛溢れる「たこ焼ソース」のマスター・鴨田さん

    「ここはな、大阪の地ソースを専門に扱ってるたこ焼き屋で、ソースマニアもわざわざ足を運ぶ通なお店やねん」

    「あのまだよくわかってないんですけど、『地ソース』って具体的にどういったものを指すんですか?」

    「地ソースを明確に定義するのは難しいんですが、いわゆる地ビールや地酒と同じように『小規模な工場で作られているご当地ソース』がニュアンス近いと思います。ちなみに大阪には約12社のソースメーカーがあって、このお店ではそのうち10社のソースを取り扱っています」

     

    「へぇ〜、ソースってこんなに種類があるんですね」

    「ここで御託を並べてもしゃーないから、まずはたこ焼きを食おうか。じゃあ鴨田さん、たこ焼き20個。オススメ地ソース4個ずつかけ分けで!」

    「はいよ〜!ちょっと待ってな〜!」

     

    チャッチャッチャ

     

    クルッ、カッカッカ

    「おお、見事な手さばき!そして、めちゃくちゃいい匂い!」

    「すごいやろ。大阪のたこ焼きは出汁が効いてるから、焼いているときの香りもええねんなあ。よし、もうすぐ完成や」

    「できました! 熱いうちに、食べてくださいね!」

     

    「お、おお……!これはソースの香りがめちゃめちゃ食欲を刺激しますね」

    「ソースも茶色というより、もはやオパールみたいな光沢があって美しいなあ。よし、先によばれるわ」

     

    「アツさは気にせず、一口で」

     

    「う、う、うんめええええええ!」

    「口に放り込んだ瞬間その反応!? ぼ、僕も、僕もいいっすか!」

     

    「くううぅ!うんめえええっ!」

    「これが鴨田さんのこさえるたこ焼きと大阪地ソースのコンビネーションや。今回はこの味わいを5パターンも楽しめるんやで」

    いざ、大阪地ソースの沼へ

    「鴨田さん、今日はソース素人の後輩を連れてますんで、用意してくれた地ソースをざーっと紹介いただいてもええでしょうか」

    「わかりました!それでは左から順番にいきましょうか」

     

    星トンボ食産工業「とんかつソース」

    「まず一つ目、創業70年を誇る東大阪市の星トンボ食産工業所のとんかつソースです」

    「オレンジと赤のラベルがいかにも旨そうな佇まい!」

    「数十種類のスパイスがブレンドされていて、かなり深みのあるソースです。名前にある通り、本来はとんかつ用に作られているのですが、焼きそばやたこ焼きにも合うんですよね」

    「甘みは濃厚だけど、スパイスの風味が強くて後を引かない……。めちゃくちゃうまいっすね」

    「創業者の佐藤光明さんは、もともと市販のソースの中売りをしていた方でした。でも、自分が売るソースの味に納得がいっておらず、じゃあ自分で作ったらええやんか!と、ソースづくりをはじめたそうです」

    「生粋のソースラバーだ」

    「星トンボは後継者不足で廃業の噂もあったのですが、飲食店からの根強い支援もあって無事に事業継続が決まったそうで。今や東大阪を代表するソースメーカーと言っても過言ではないと思います」

     

    金紋ソース本舗「たこやきソース」

    「続いて、大阪市旭区にある金紋ソース本舗のたこやきソース。フルーツの甘みが結構強いので、冷めたたこ焼きにもフィットする味わいがウリです」

    「おお!金紋ソース!これは大阪でもなかなか見かけませんね」

    「このメーカーは1日1釜炊きというスタイルを徹底していて生産本数が少ないので、基本的には大阪の百貨店か旭区のスーパーにしか置いてないんです」

    「ん?1日1釜炊きってどういうことですか?」

    「文字どおり、1日に1釜しか炊かないんですよ。釜のサイズはソースの種類によってまちまちですが、大手メーカーが1日にウン十万単位で製造しているのに対して、金紋ソースはそれぞれ1日に400〜1900ℓしか製造していないんです」

    「比べると、めちゃくちゃ少ない。ちなみにソースって完成までに、どのくらい時間がかかるものなのでしょうか?」

    「ソースは他の調味料と比べると工程が複雑じゃないので、早いものであればだいたい1日ほどで作れますね

    「え!たった一日!?」

    「ソースの製造工程をざっくり説明すると、まずはペーストにした野菜を煮詰めて、母液(ぼえき)と呼ばれるベースの液体を作ります。そこにスパイスや酢・砂糖・塩などの調味料を加えて、さらに煮詰めれば完成です」

     

    「めちゃめちゃシンプルですね」

    「これだけシンプルな工程に関わらず、材料や調理のアレンジが少し変わるだけで全然別の味になるのがソースのおもしろいところなんですよね」

    「野菜や果物を煮詰めてスパイスを入れると聞くと、ちょっとカレーに似てるような気もします。もしかして、自宅でもソースって作れるんですかね?」

    「もちろん作れますよ!それこそ地ソースのメーカーさんって、工場も小規模なところが多いんです。さっき紹介した星トンボソースさんの工場もこんな感じの入口でした」

     

     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     

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    「もはや実家ですね。てっきり、もっと大きな工場で大量に作られているって思っていたな〜」

     

    池下商店「ヒシ梅タマリソース」

    「次は、大阪市西成区にある大正12年創業の老舗、池下商店のヒシ梅タマリソースです」

    「俺が一番好きなソースだ!」

    「国産の野菜と果実、香辛料をベースに作られていて、自然な甘味が特徴です。辛味や酸味の調和も程よくて、たこ焼き、焼きそば、串カツ……と、オールラウンドに受け止める懐深さがあるソースですね」

    「たしかに優しい味わい。ラベルも昔ながらのデザインでかわいいなあ」

    「およそ100年という長い間、ずっと同じ味を作り続けているという点も池下商店さんの魅力ですね。地ソースメーカーの先駆け的な存在でもあります

    「100年!」

    「味の好みって時代と共に移りゆくものですけど、池下商店さんが作るソースはクオリティが高いので、100年以上たっても古くなることがないんです」

     

    和泉食品「タカワお好みたこ焼きソース」

    「次は、大阪は松原市の和泉食品さんのタカワお好みたこ焼きソース。比較的あっさりした味わいなのでマヨネーズや青のり、鰹節といったたこ焼きのトッピングと調和が取りやすいのが特徴です。うちの定番的なソースですね」

    「いま食べた中では、一番スタンダードかも。と言ってもまた違った奥行きがありますね。塩や醤油に比べると、それぞれの違いがわかりやすい気がします」

    「ソースは比較的、構成要素が多いので、それらが複雑に絡み合った結果味に変化が生まれやすいんだと思います」

    「なるほど!よくよく見ると、ソースの色もなんとなく違うような……?」

    「よく気づきましたね!材料や製法によって、それぞれ微妙に色合いが違うんですよ。色が濃いとパンチがある味わいで、反対に色が薄いとマイルドな味わいになるとされています」

     

    ツヅミ食品「たこやきソース」

    「さあいよいよ、ラストです。大阪の羽曳野市にあるツヅミ食品のたこやきソース。スパイスは控えめですが、今までの4つに比べると比較的クセのある方かもしれません」

    「ほう、クセがあるとな。見た目は普通だけど。いただきます…………!!」

     

    「うめぇ……!!」

    「頬張った瞬間、独特な甘みが口いっぱいに広がるんですけど、それに負けない旨味があとを追いかけてくる感じ。この甘さなんだろう」

    「このソースは材料に黒糖を使っているんですよ」

    「あー、黒糖!言われてみればたしかに。鼻から抜ける香りもエキゾチックで堪りませんね」

    「甘みに加えたほのかな苦味が個性的な味わいなので、一口目はびっくりする人もいます。でも食べ進めるうちに病みつきになってリピートする人も多いソースですね」

     

    「どう、日向。5種類のソースを食べてみて。見た目もちろんやけど、香りやコク、頬張った時のインパクトから後味に至るまで……ソースってひとくちに言っても、全然違うやろ」

    「ロマンさん……『ソースに違いがあるのか』なんて思っていた僕がアホでした。もうすでにソース沼にハマりかけてます」

    「おお〜よかったです。でも大阪生まれの僕も、この店を始めるまではソースの魅力を知らなかったので、安心してください」

    「地ソースの魅力が伝えられればいい」異端のたこ焼き屋の思い

    「ところで鴨田さん、どういった経緯でこのお店をオープンしたんですか?」

    「このお店を始める前は、メガネ屋で10年以上働いていたんです。とても素敵なお店だったんですが、家族経営だったので僕が継ぐという選択肢は最初から考えていませんでした」

    「なるほどなあ」

    「かといってメガネ屋として独立するには決心がつかず、なにかメガネ以外で自分らしい仕事ができないかと考えている時、ふと学生時代にたこ焼き屋でバイトしてたことを思い出しまして」

    「まさか、それがきっかけで?」

    「はい(笑)。あとは当時働いていたバイト先の社長が、とても熱心にたこ焼きをつくっていことも大きかったですね。『くれおーる』っていうお店だったんですけど」

    「でも大阪なんてたこ焼き屋の激戦区ですよね。新規参入するのはなかなか難しいのでは?」

    「そうですね。でも前職のメガネ屋でも、いかに地域に根づいてお客さんに喜んでもらえるかという考え方は同じでした。それで色々考えた結果、地ソースなら地域や文化に貢献しながら差別化できると思ったんです」

     

    「なぜ地域貢献で『地ソース』に?」

    「地ソースは規模が小さいゆえに、後継者不足で悩んでいるメーカーも多くて。認知を広げる上でもたこ焼き屋はうってつけだったんです」

    「はー、なるほど!……でもさっき地ソースは限られた量しか作れないから手に入りづらいって言ってましたよね。これだけの種類をどうやって集めたんですか?」

    「ソースメーカーさんを回って直接その想いを伝えましたね。すぐに取引を始めてくれたところもあれば、『熱意は分かるけど実績がないとむずかしい』と断られたところもあって。諦めずに足を運んで、ようやく10社に許可をもらえたって感じですね」

    「まさにソース愛だなぁ。でもたこ焼き屋にとってソースって企業秘密ともいえる代物ですよね。それを自らオープンにするなんてなかなかの暴挙なのでは……」

    「メーカーの人にも『ソースがバレたら、家で近しい味を作れるから商売にならへんよ』とよく言われましたね」

    「それなのにどうして?」

    「うーん……」

     

    「それで大阪のソースを知ってもらえればいいかなって」

    「かっこいいなぁ」

    「ソースってメーカーごとで全然味わいが違うんですよ。もちろん他の調味料にも地域によっていろいろな種類がありますが、ここまで市や区単位でバリュエーションがあるのはソースくらいだと思うんです

    「たしかに同じ県内でこれだけ会社がある調味料って聞いたことないな……」

    「もちろん小売店で広めたり、ネット通販で売ったりもできますが、うちはたこ焼き屋です。実際に食べられるからこそ、別の角度で地ソースの魅力やストーリーを伝えられる場所になれるんじゃないかなって

    「鴨田くーん、たこ焼きお願いできる〜?」

    「あ、お客さん来たのでそろそろたこ焼き焼かないと。では、僕はこのへんで焼き場に戻ります。二人はゆっくりしていってくださいね」

    「日向、どやった? 地ソース、うまいやろ。ほんで、おもろいやろ」

    「いやぁ……最高でした。ソース文化ってこんなに奥深いんですね。大阪来てよかったです」

    「立派にソース沼にダイブできてるな。よかった、よかった。ところでまだ腹イケるやろ。うまいソースつこてるお好み屋があるから、連れてったるわ」

    「いいんすか!うまいソースなら、いくらでもいけそうです!」

    取材を終えて

    数多ある調味料の中でも、作り手の思いやその土地の風土に揉まれて、独自に発展していった地ソース

    知れば知るほど、その多様性に惹かれるし、もっと知りたいと思ったのは、きっと僕や日向だけじゃないはず。ちなみに、大阪だけではなく全国に地ソースってあるんですよ!(全部味わいたいッ、そして紹介したい……)。

     

    しかし、そんな魅力とは裏腹に年々廃業するメーカーが増えていることもまた事実。量販店や通販の力も大事だと思うけど、「たこ焼きソース」のような直接想いを届けるお店があるからこそ、文化は続くのかもしれません。

     

    いまはなかなか旅が難しいご時世ですが、落ち着いた時にはぜひ『たこ焼ソース』に足を運んでみてください。

    きっと鴨田さんが地ソースを全力でアテンドしてくれますから。

     

    それでは、また会う日まで。

     

    たこ焼ソース

    〒545-0021 大阪府大阪市阿倍野区阪南町1丁目52−7
    Instagram

    ※2021年5月現在はお持ち帰りのみ営業

     

    ここでジモコロ編集部からお知らせです

    鴨田さんがセレクトした大阪地ソース3本セットを抽選で1名の方へプレゼントします。

    これでぜひ、大阪地ソースの味を堪能してください!

    左から和泉食品「タカワお好みたこ焼きソース」、ツヅミ食品「たこやきソース」、星トンボ食産工業「とんかつソース」

     

    【応募方法】

    ジモコロアカウント(@jimocoro )をフォローして、下記のツイートを「記事へのコメント付き」でRTしてください。

    当選者の方にはDMにてご連絡します。

     

    ※応募期間 2021年5月17日(月)〜5月24日(月)まで
    ※当選はDMでお知らせしますので、必ずアカウントのフォローをお願いします。
    ※お届け先は日本国内に限らせていただきます。

     

    写真:山元裕人

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    この記事を書いた人

    納谷ロマン
    納谷ロマン

    1990年伏見生まれ、高円寺育ちの街伏。『MeetsRegional』や『BRUTUS』など紙媒体での執筆や、Webメディア『ディープな船場をディグろう』の編集長など、街をフックに横幅広く活動中。酒場と銭湯と猫がとにかく好き。

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