最近、「SDGs」ってめちゃくちゃよく聞きませんか?

 

SDGsとは、2015年の国連サミットで採択された、『持続可能な未来のために達成するべき指標』。世界中にいる人々や自然のために考えられた指標です。

 

テレビでもしょっちゅう取り上げられているし、新聞やWebメディアでもよく目にするような。環境や人に優しいことをウリにするサービスやブランドも、心なしか増えてきたような気がします。

 

どうやらSDGsは企業・個人に関わらず取り組んだほうがよいものっぽいし、みんなやってるようですが、そこでひとつの疑問が浮かびました。

 

「これまでジモコロで取材をしてきた記事の中に、実はSDGsに関する記事もあったんじゃないの?」

 

なんかそれに近いことをいろいろ取材で聞いたような思い出もあります。自然環境にまつわることや、貧困や教育に関する課題の取材もたくさんしてきたし。

 

自分たちで調べたら「この記事はSDGsでした!」って言えるんじゃないかな?と思ってさっそく、調べてみましたが……

 

正直、よくわからない。

 

ちょっとテーマが難しいし、公開されているSDGsのゴールも表現がざっくりしててわかりづらい……。

 

これはSDGsのことをよくわかっている人に聞かないと無理だ!ということで助けを求めたのは、未来をつくるSDGsマガジン『ソトコト』編集長の指出一正さん。

 

これは間違いなくSDGsでしょう!というものから、「これは該当しそうな気もするけどどうなんだろう」「これはさすがに違うのか」という記事まで、「これってSDGsなんですか?」「そもそもそこはどうやって判定できるの?」と、指出さんにあれこれ聞いてきました。

 

ジモコロでSDGs的な記事はあるのか?

「指出さん、今日はよろしくお願いします!」

「お願いします!」

ジモコロはこれまで1,100本以上の記事をつくってきたのですが、『この記事はSDGsなのでは?』というものがたくさんあるなーと思いまして。それを見ていただきたくって」

「もちろんです。まずは大前提として、SDGsの項目ごとに解説するのがよいですかね。17のゴールは知ってますか?」

「ゴールがいくつかあるというのはなんとなく。はい。うっすらと」

「うっすら」

「はい。うろ覚えです」

「ではまず、17のゴールからお伝えしていきますね。SDGsは2015年の国連サミットで採択された、『持続可能な未来のために達成するべき指標』で、この17の大きな目標と、それに紐づく具体的な169のターゲットで構成されてます」

 

SDGs 17の目標

1 貧困をなくそう

2 飢餓をゼロ

3 すべての人に健康と福祉を

4 質の高い教育をみんなに

5 ジェンダー平等を実現しよう

6 安全な水とトイレを世界中に

7 エネルギーをみんなに そしてクリーンに

8 働きがいも経済成長も

9 産業と技術革新の基盤をつくろう

10 人や国の不平等をなくそう

11 住み続けられるまちづくりを

12 つくる責任 つかう責任

13 気候変動に具体的な対策を

14 海の豊かさを守ろう

15 陸の豊かさも守ろう

16 平和と公正をすべての人に

17 パートナーシップで目標を達成しよう

「細かいターゲットが、169個も!? めちゃくちゃ多いな……」

「僕はあくまでSDGsの専門家ではありません。なので今回は、『SDGsっぽいな』『SDGsに当てはまる部分もあるな』とかそういう感じで、17のゴールのどれに記事が当てはまりそうかをお話していきます」

 

「お願いします!」

「さっそく見ていきましょうか」

「まずは……ヤマハが楽器を通してスラム街の子どもをヒーローにした話なんかはどうでしょう? すごくSDGsっぽい感じがしています」

 

これはまさに『1 貧困をなくそう』の話ですね。自分の本業の中からSDGs的なものを見出して、本業を応用した形で社会課題の解決につなげていっている事例だと思います」

「楽器を持つことができなかった子どもたちが自分の楽器を持って、音楽を楽しめるようになっていて、すごくいい話ですよね」

「あとは楽器に触れることで学ぶことに興味を持つので『4 質の高い教育をみんなに』や、インタビューを受けている嘉根さんはきっと自分の会社の中で『8 働きがいも経済成長も』を感じているかもしれません」

「ちょ、ま。ちょ、ま。ままま、待ってください。ひとつの記事で、ひとつのゴールじゃないんですか? そんなにたくさん?」

「テレビのSDGsの番組で監修をやらせてもらうときにもやはり『これは何番ですかね?』って、よく聞かれるんですけど」

「僕らもめちゃくちゃ聞いてますね。今、まさに」

「でも『何番なのか』ってその人の気持ちで左右されるものでもあると思うんです。自然環境に気持ちが寄っているときだったら『これは自然環境だな』と思うし」

「ほうほう」

 

むしろ何番でも当てはまるというのが正解かもしれません。『このまま見ないフリをしていてはいけない課題だよね』というものには必ずSDGsの要素が入っていると思います」

「どれかひとつが正解じゃないし、見る人によっても変わる、と」

「みんながわかりやすいように『これは何番の性格を最も現してますね』とは言えますけど。ひとつの課題に対して、複数の要素は必ず絡み合っています」

「 じゃあ、石巻の漁師団体『フィッシャーマン・ジャパン』の記事はどうでしょう?」

「『14 海の豊かさを守ろう』ですよね」

「ですよね。まさに」

「ただ、僕も釣り人ですし、いちフィッシャーマン・ジャパンのファンとしては、それだけに絞って欲しくない。もっともっと広く解釈すべきだと思います」

「ここにも他のSDGsゴールが?」

「『1 貧困をなくそう』『2 飢餓をゼロ』にも結びついています。食用資源としての魚の乱獲を進めていくと、結果的に地球全体で公正な配分がなされないので」

「海は、山にも陸にも、全部、つながってますもんね」

「漁業関係者のみなさんが仕事に誇りを持てるようになるので『8 働きがいも経済成長も』もですね。サステナブルな水産物に与えられるMSC認証の魚を正しい価格で販売することで、しっかりと稼げる形をつくることにもつながります」

「『漁師を“カッコよくて、稼げて、革新的”な新しい職業にしよう!』というコンセプトも、働く人のモチベーションが上がりそうです」

「そうそう。さらに三陸で漁師や水産業にまつわる仕事を守ったり、漁港を使いやすくすることで働く人たちの過度な負担を減らしたりしているので『11 住み続けられるまちづくりを』も当てはまります」

「住み続けられるまちをつくっていくのは、震災のあった石巻にとっては特に大切なように感じられます」

「MSC認証のことを考えると『12 つくる責任 つかう責任』にもつながってきます」

 

「多いな! めちゃくちゃ出てきますね!」

「まさに持続可能な開発目標という意味でフィッシャーマン・ジャパンは労働する人を大切にしながら、自然資本も守るバランスが取れていると思います」

「海だけかと思いきや、むしろバランスが取れていると」

「僕、ジモコロは好きでよく読ませてもらっているんですが、これ以外の記事でも人やテーマにSDGs的な要素がすごく含まれてるなって感じています」

「やったー! ジモコロは、SDGsできてるじゃん。よかったよかった」

「ここは実はとても大切なところなんですが……それだけじゃダメなんですよ」

「えっ」

「SDGsの話をすると、みんなだいたいこう言うんです。『そんなの日本では、昔からやってるじゃん』って」

「日本の『もったいない精神』とか。昔からある風習でSDGsっぽいものはたくさんあるから、よさそうじゃないですか!」

「でもこれは、SDGsを本当に理解していると言いづらいんですよね」

「もうやってるのに、ダメなんですか?」

「SDGsというのは、世界のみんなで未来をつくるための目標です。だから、17個がただのスタンプラリーになってしまってはあまり意味がない」

「『自分たちは1番と7番をやってるからOK』とかじゃないってこと?」

「本当はなんとか折り合いをつけて、1~17番のすべてを目指すべきです。中にはお互いがバッティングしたり干渉したりするものもありますが、それをうまく遂行していくことが大切です」

「ある企業が『もう1番と7番をやっています』と言っても、それは結果論だし、それじゃあ現状維持と変わらないのか」

「意識したいのは、『バックキャスティング思考』です」

 

「バックキャスティング思考? キャスティングって、指出さんが釣り好きだから釣りの話をしているのでは?」

「してません」

「してませんか」

「『こういう未来がいいな』という理想から、やるべきことを逆算して棚卸しするんです。17の目標をみんなでなんとか考えながら、自分の仕事や暮らしの中に当てはめていこうよっていうのが、SDGs目標の考え方です」

「じゃあ企業として掲げるときも、個人で考えるときも、全部について考えたほうがよいということ?」

「理想を言うと、そうですね」

「大変だ……!」

「たとえば『9 産業と技術革新の基盤をつくろう』と『15 陸の豊かさも守ろう』​​はバッティングすることもあるわけですよね」

「道路をつくったら、山や森を開拓しなくちゃいけない、みたいな」

「そうしないためにはどうしたらいいかを考えるのがSDGsの大切なところです」

 

SDGsは「不完全」だからいい

「お話を聞いていると、SDGsっぽいテーマの記事はなんでも17のゴールに当てはめることができちゃいそうですね」

「そうですね。ちょっと入らないかもって思うプロジェクトも、意外と当てはまります」

「それは、どういう……?」

「SDGsは『誰一人取り残さない』ことを誓っています。なので国連としては、各国がこの17のゴールを目安にして、それぞれの地域課題を解決していくことで世界全体をよくするという考え方です」

「同じ方向さえ向いていれば『これはダメですよ』『あれはSDGsじゃないですよ』みたいなことはあんまりないということですか?」

「基本的には、ないと思います」

「じゃあ僕がジモコロで思い入れの強い『「ソーセージ」で世界を変える筋肉マンたち』も、SDGsに入りますか?」

「なりますよ」

「ええ!? ホントですか?」

 

「まずは『15 陸の豊かさも守ろう』。野生動物が増えすぎることで森の均衡が崩れてしまうのを防ぎつつ、おいしくジビエをいただいていますよね。さらに陸の豊かさが守られることで、海の保全にもつながるかもしれません」

「ソーセージが、海と森を守っていた……!」

「あとは、ソーセージをプロデュースする『.comm(ドットコミュ)』のおふたりの働き方は、すごくクリエイティブじゃないですか。こういった働き方の多様性を受け入れるという意味では『8 働きがいも経済成長も』も入ってきます」

「会社員をやる人も、フリーランスも、ソーセージクリエイターも受け入れられる社会」

「あとは脂肪分が少なく鉄分も多いシカの肉を食べるのは『3 すべての人に健康と福祉を』も当てはまりますね」

「いろんなものが当てはまりますね」

「他の記事でも、くいしんさんが棺に入ってた記事もあると思うんですが、あれなんかはたぶん、SDGsの先の概念ですね」

「SDGsの先の概念!?!?」

「SDGsに通ずる概念に『ウェルビーイング』というものがあります。よく生きるとか、ご機嫌な状態をどう保てるかという考え方ですね」

「なるほど」

「ウェルビーイングを考えたときに、最期まで幸せでいられたり、安心して息を引き取れたりすることの重要性ってあると思うんです」

「たしかに棺に入ってみて……人生の最期の迎え方とか妄想しました」

 

「『死に方』も人権のひとつとして、丁寧に見送ってもらえる社会はSDGs的ですね」

「とはいえ、17のゴールに入ってないものは、SDGsじゃないのでは?」

「そんなことないんじゃないでしょうか。SDGsって完璧じゃないから」

「完璧じゃない!? 国連の偉い人たちが考えたのに!?」

「SDGsは2015年当時の状況で最適だったけれど、2〜3年経てば新しい価値観が出てきたり、状況が変わったりします。だからSDGsが常に最先端で、これさえ遂行すればいいわけではなく、不完全なものだと考えたほうがいい」

「たしかに。コロナ以降、さらにいろんな価値観が根本から変わりましたね」

「SDGsの文言は、国連の加盟国全体で満場一致で可決した取り決めになるので、世界中の文化や宗教、生活に当てはめることができる、むしろ必要最低限の文言だと考えてもいいと思います」

「その言葉をベースに、そこから先はそれぞれの地域でベストなSDGsを探っていくことが大切なんですね」

「そう、だからSDGsの17のゴールは不完全であったほうがいいんだろうなって思います」

 

「不完全だからこそ、変化させながら続けていく甲斐がありそうですね」

「SDGsを無敵な存在として扱うのではなく『SDGs的なことはやったほうがいいよね』という目安でいいと思います。項目に当てはまらなくても、その先にある未来としてみんなが求めているのであれば、それはビヨンド・SDGsです」

「ビヨンド・SDGs。いい響きですね。その中で『SDGsって言うけど、結局、一番の課題は地球温暖化なんだ。温暖化を止めないと大変だから、まずそこをどうにかするべきだ』みたいな話をちょこちょこ聞くんですけど」

「それはまさにそうです。よくSDGsってウエディングケーキの形で現されるんです」

 

「一番下にあるのは自然資本である海や山、地球環境です。その土台が揺らいでいるのが今なわけですね。土台が揺らいでいるというのは、とても危ない状況です」

「そりゃ、土台がガタガタだったら他をいくらがんばってもウエディングケーキが崩れますね。ゆえに緊急度が高い」

「今は地球環境に対して注力していくのは僕はすごくいいと思います。地球環境だけでSDGsは語れませんが、まずはその土台がちゃんと揺らがない形にしたほうがいい」

 

17のゴールは何かを始めるときのヒントになる

「SDGsって、なんか、“ヒント”という感じですね。今、自分たちがやってることがあって、それをさらに地球とか環境に対してよりいい方向に変えていくきっかけになるというか」

「おっしゃる通りです。目標というよりも、自分たちがやってることにSDGs的な感覚が含まれること、それを認識することのほうが大切なんじゃないかなと思っています」

「新しくサービスやブランドを立ち上げたいと思ったときに、17の項目の何がどのように入っているか考えることが当たり前、という世界になっていきそうですね」

「『誰一人取り残さないほうがカッコいいじゃん』という価値観に、世の中全体が変化しつつあるのはたしかだと思います」

「『目標』って言われると、偉い人が決めた目標を押し付けられているみたいに感じる人もいると思うんですけど。そこのイメージをひっくり返していくのも重要だよなーと思いました」

「SDGs、つまり『17の目標』と『169のターゲット』は、あくまで『世界中にあるたくさんの解決したほうがよいこと』を、見える化したものでしかありません

「そうですよね。仮にすべてをクリアしても新たな課題は出てきそうですし、僕たちやもっと若い世代の人々は、その後も長い時代を生きてかなきゃいけなくて、このゴールは通過点なんですねえ」

「この課題や目標をクリアすることが最終ゴールじゃなくて。この先にしあわせな社会・しあわせな地域がつくられていくことが、何よりも大切なことだと思います」

「今日はめちゃくちゃ勉強になりました! ありがとうございました!」

 

さいごに

正直、SDGsって「偉い人が上から目線で言ってきてる概念」だと思っていた節があります。でも指出さんからお話を聞いて、イメージが大きく変わりました。

 

それは、誰かから押し付けられた目標ではなくて、身の回りや社会をよくするための、考えるきっかけを与えてくれる「ヒント」のような存在。

 

「自分ひとりが社会や地球環境のことを考えても仕方がない」とも思えますが、そんなに大げさなことではなくて。

 

「家族や友人との関係をよくしたい」とか、「楽しく仕事をしたい」「もっと働きたやすい職場になったらいいのに」とか、「海や山にゴミがないほうが気持ちがいい」といった、当たり前にみんなが求めるしあわせとつながっているのが「SDGs」だったんです。

 

そうやって考えると、急に「SDGs」に愛着が湧いてきました。引き続き、いろいろ勉強してみます!

 

☆未来をつくるSDGsマガジン『ソトコト』は、2021年11月号が発売中!

ひとつ前の2021年9月号はSDGs特集「地球環境編」。

指出さんのお話やSDGsのことが気になった方は、ぜひ読んでみてください!

構成:吉田恵理