棺…読めますか?「ひつぎ」と読みます。死者を送るときに使う、いわゆる「かんおけ」のことです。

 

じゃあ、棺の中に入ったこと、ありますか?

 

たぶんないですよね。

僕は、あります。

 

改めまして、編集者のくいしんです。もちろん棺に入っているのが僕です。

やってきたのは広島県福山市にある、棺をつくっている会社「共栄」

 

きっかけは、雑誌『和樂』の編集長・高木史郎さんとジモコロ編集長・徳谷柿次郎の出会い。

 

『和樂』は小学館が隔月で発行している日本文化を紹介する雑誌で、柿次郎は高木さんから「広島県福山市にめちゃくちゃヤバい棺の会社があるんですよ!」と紹介されて…来ちゃいました。

 

葬儀業界や棺の知識はゼロだけど、ちょっとホームページを開いただけで、そのヤバさが伝わってきます…。

 

「死に様は生き様」とか…

 

「みんなちがって、みんないい!!」とか…

 

読めないけどありがたい感じのする言葉とか…

 

背景からアクセスページまでにわたり使われている宇宙のモチーフとか…

 

いや、ぶっちゃけ、ホームページを見ている段階で、ゾクゾクが止まらないんですけど?

 

棺をつくり、日夜、人々が故人を送ることをお手伝いしている共栄さん。よほどの死生観や宗教観を持った社長が運営しているに違いない…。

 

そんな期待を胸に抱きながら、お話を聞いていきます。

 

経営理念は、適当に考えた?

株式会社共栄代表・栗原 正樹さん

 

「今日はお時間いただき、ありがとうございます!」

「なかなかピックアップされることのない業界ですから。こういう機会をいただけるだけですごくうれしいです」

「共栄さんは棺を扱う会社ということで、社長も、よほど宗教観や死生観に精通していてお詳しいのかなと想像してきたのですが…ホームページも特徴的だし」

 

「あっ、そういう知識全然ないんですよ。本当に知らなくて」

 

「知らない…ですか…」

 

頭の中で準備してきたイメージが総崩れして愕然とする筆者

 

適当だよ。そのへんに貼ってある言葉も、みんなの意見を取り入れて、適当に形にするの」

「…会社理念もですか?」

莫妄想(まくもうぞう)は、一応、経営理念として掲げているけど。誰が言い出したかはわからない」

「そんなわけあります!?」

「『妄想することなかれ。悟りを得るためには思惟分別する心を放棄せよ』という言葉なんですけど。簡単にいうと『一生悟るな』『常に勉強しよう』という意味です」

「めちゃくちゃいい言葉ですね」

『悟る』っていうのは、天狗になるとかね、わかったような気になるってこと。それが一番怖いんですよ。そういう意味でしょうね」

 

「なるほど〜。社長が『これを経営理念にしよう!』と言ったわけではないんですか?」

「壁に貼ってあるものは、全部そうなんだけど。みんなが好きな言葉とか、パクってきた言葉なんですよ」

「パクってきた?」

「この『共栄マンとして付けたい4つの力』。考えたの中学生なんですよ」

 

『共栄マンとして付けたい4つの力』

【課題解決力】自ら課題を見つけ計画を立てて、課題を解決する力 など

【コミュニケーション力】自分の思いや考えを、相手意識を持って、分かりやすく、はっきりと伝える力 など

【挑戦する力】自分の決めた志や目標に向かって、失敗を恐れずに挑む力 など

【地域貢献力】地域・社会の発展の為に、自分のできることを考え、行動にする力 など

 

「こんなにしっかりした言葉を?」

「はい。『パクらせてください』って言って、校長先生にもらったんです」

「中学生の考えた標語をもらった形。いいパクリですね」

「校長先生がね、嬉しかったことを朝礼で言うらしくて、『共栄さんがパクってくれた』って、発表してくれたんだって。ありがたいですよね」

 

共栄さんの社内には、至るところに標語が飾ってあります。

 

元日産の名経営者、カルロス・ゴーンの言葉も。

 

「標語を飾れば、社員のモチベーションって上がるわけ?」と思ったそこのあなた!

 

共栄さんの社員さんたちは、見たことないほど礼儀正しくて、こっちが驚いちゃうくらいしっかりあいさつしてくれるんです。

 

取材班が車で近づくと、そろそろ到着時間だと自主的に気づいたみなさんが会社の外に出てきて、きちんと整列してお出迎え。

 

みなさんが仕事をしている事務所を通るときは、全員立って、あいさつ。こんなにおもてなし力の高い会社ってありますか?

 

しかもそれは、会社の決まりや、社長が「お客様には礼儀正しく!」とか社員教育をしているわけではなくて、自然とみなさんがしていることらしい。

 

 

棺を売る仕事は、実際に棺を使うお客さんと会うことがあまりない。基本的には、葬儀会社に、棺を売るのが仕事。だからこそ、僕ら取材班を含むお客さんには、しっかりと誠意を持って接してくれます。

 

社長は「自分がうれしかったことは、誰かにお返ししてあげないと」と言っていました。死を恐れるのではなく、いつか来るものとして自然と受け入れているからこそ、人のために生きられる。

 

デパートで入棺体験!?

「最近はデパートで入棺体験をしてもらうこともあるんですよ」

「入棺体験?」

「棺の中に入って、死ぬときの体験をしてもらうというイベントがあるんです」

「死ぬときの体験…」

 

「お年寄りや病人を抱えている方々は、棺に興味があるので。いつか来るときを想定して話しておこうとか、費用はどのくらいかかるのかなとか

「死ぬことを想定して棺を選ぶのは、怖いって思う人も多そうですね」

「とある女性の社長は『私は、白装束に三角巾なんかつけたくない。亡くなって選べないのは棺だけだ』と言ってました。だから、棺はちゃんと選びたいと」

「自分で選ばない場合は、誰が選んでくれるんですか?」

「ふつうは喪主や葬儀屋さんが選んでくれるんです。だから自分で調べて、生前に棺を買って、ときどき入りにくるという時代が来るかもねなんてことも、その社長は言っておられました」

「共栄さんの営業は、葬儀会社さんに『うちの棺使ってください』ってアプローチするわけですか?」

「そうですね。葬儀屋さんが選んだものが、必要な方々に売られるわけです。私たちができるのは、現状ではほとんどの場合、そこまでですね」

「正直、『棺メーカーはここを選びたい!』ってならないですよね。知らない世界すぎて」

「今はまだそこまでではないですが『共栄さんの棺がいいです』って言われる時代も来ると思いますね」

 

そして、工場見学へ

栗原社長の息子、正宗さん

 

「よかったら、工場を見学して行きませんか?」

「工場! ぜひ!」

 

というわけで、工場を見学させてもらうことになりました。

 

人が入るものなので、近くで見ると、結構大きい。

 

 

取材同行していたジモコロ編集長の柿次郎とふたりで持ってみると、こんな感じ。

ここに亡くなった人が入るんだ…。

 

 

豪華な彫りのある棺。

 

そして…ついに入棺体験をさせてもらえることに。

 

生まれて初めて棺に入ったくいしんは何を感じたのか?