まるで実写版ドラゴン桜⁈ ある島の「看護大学」に若者たちが集まる理由

2019.08.19

まるで実写版ドラゴン桜⁈ ある島の「看護大学」に若者たちが集まる理由

兵庫県の淡路島にある「関西看護医療大学」には、先生と地元の人、そして島の自然が一体となって学生を育てる独自の教育があるそう。島のサイズだからこそできる教育、そして看護の可能性とは? 江川隆子学長や学生の皆さんにお話を伺いました!

人気記事

    こんにちは、ジモコロ編集長の柿次郎です。

    皆さん、学校の勉強って好きでしたか?

    僕はどうにも苦手でした。

     

    勉強にあまりハマれず、学校で気の合う友達も少なく、自分の居場所らしさみたいなものも掴めず……。結局、地元の大阪を離れて早10年。仕事以外の理由で帰ることがありません。

     

    だけど…

    ・もし勉強が苦手な子でも大丈夫な学校があったら

    ・学校に自分を肯定してくれる先生がいたら

    ・勉強の面白さを教えてくれる環境だったら

    大人になってからそんな風に振り返ることないでしょうか?

     

    実はそんな憧れの学校が兵庫県の淡路島(あわじしま)にあるそうなんです。

     

    ちなみに淡路島と聞いてピンと来ない人もいると思うので軽く紹介します。

     

    淡路島は人口約13万人。大阪や神戸から高速を利用すれば車で一時間半で行ける、琵琶湖とほぼ同じサイズの島です。

    日本で最初につくられた島だと言われており、古代から天皇に食料を献上していた歴史があるため「御食国(みけつくに)」とも呼ばれていました。

     

    現在は農業が盛んで、名産品は「玉ねぎ」です。その生産量は全国3位! 学校も幼稚園〜大学まであるし、イオンも大きな病院だってあります。生活には困らないライフラインはほとんど揃っているので安心。

     

    ちなみに僕も大阪出身ですが、淡路島のことをほとんど知りませんでした。ということで、地元出身のライターを呼んでみました!

     

    母親が淡路島出身で、淡路島で生まれ育った吉野舞(よしの・まい)さんと一緒に、学校の取材に行くことに。

     

    「吉野さん、学校は好きでしたか?」

    「同世代の子たちが同じ言葉を話してると思えなくて、学校に全く馴染めませんでした…。本が友達だったくらいですから。それで自分の居場所を見つけるために、島を出る決心をして、大学進学を機に上京したんです」

    「おお、地元離れした仲間だ…」

     

    そんな学校の勉強にハマれなかった我々にとって気になる学校、その名も…

     

    「関西看護医療大学」

     

    淡路島にあるけど名前は「関西」です。ここがどんな学校かというと……。

     

    ・入学するのは勉強が得意ではなかった子が多い

    ・先生たちが一人一人と向き合い、昨年の国家試験合格率は98%!

    ・全国模試では6年連続全国1位を獲得

    ・就職志望者の内定率も100パーセント

    ・学校だけでなく、地域全体で学生を教育する

     

    なにやらすごそうな数字が並んでいますが、気になるのは「淡路島の環境と人が一体となって学生を支えている」ということ。

     

    自然豊かな環境、地域の人たち、学校と先生、そして勉強が得意ではない学生…。

     

    それってこういう感じ…???

     

    「いわゆる地域コミュニティがしっかり循環してるんですかね?」

    「とにかく安心感が伝わるイラストではある」

    「淡路島出身としてめちゃめちゃ気になります!」

     

    まるで実写版「ドラゴン桜」⁉︎ 勉強法の秘密とは

    自治医科大学、大阪大学保健学科、京都大学人間健康科学専攻で24年間、学部、修士および博士課程の教育・研究に携わる。2010年4月より現職。専門は生活習慣病看護学。

    洋服もネイルも全身お洒落に包まれた江川学長!

     

    さっそく、関西看護医療大学の江川隆子学長に話を伺います。

    あのスーパースター、マイケル・ジャクソンが来日したとき、帯同する看護師として指名された経験を持つそう。何それすごい。ポゥ!!

     

    「今日はよろしくお願いします。関西看護医療大学に入学するのは、勉強が得意じゃなかった子が多いと聞いたんですが…僕もそうだったので気になります」

    「はい。今は大学に入る目的もあやふやなまま、中学校から高校に上がるような感覚で入学する学生が多いですね」

    「漠然とこの大学に来ちゃう、ってことですか?」

    「そうです。高校でほとんど勉強せず大学にやってくるから、漢字は読めない、斜め読みをする、ノートの取り方もわからない……。自分のやりたいことを言語化して喋れない子が多い傾向があります」

    「なるほど。それは学生の勉強に対する能力が落ちているってことですか?」

    「学生の持っている学力の質は、年々低下しているといっていいでしょう。ただ、それは教育の仕方が昔と変わってきていることが原因で、個々人の能力・資質そのものは変わっていません

    「ほほお、学習環境による影響があると」

    「決して個人の問題でありません。だから関西看護医療大学では『どうやって自ら勉強するのか』を丁寧に指導し、実践を通じて勉強のやり方をしっかり教えていきます」

    「たとえば…?」

    「うちは一学年が約100人規模の小さい大学なので、先生も学生一人一人の顔や個性を憶えています。学習が遅れたり、躓いたりした学生にもピタッと一対一で密着指導し、理解できるラインまで引き上げるんです」

    「おおお、少数精鋭の学習環境だからこそできる教育システム。まるで実写版『ドラゴン桜』のような……」

    「あと、一般的な大学ではない保護者面談も実施しています」

    「保護者も! そこまでやるんですね」

     

    「両親に成績も知られちゃう……」

    「その緊張感がより真剣になれるんでしょうね」

    「まずは学習することの意味を実践で覚えてもらいたい。そして、どうやって自ら勉強していくのかを学ぶ。それが結果的に、学生の自信に繋がるんです」

    「好きなことは夢中になって取り組めますもんね」

    「このことは、国家試験に合格するよりも大切なプロセスだと思っています

     

    関西看護医療大学の教育方針

    ・先生は学生一人一人の顔と名前を憶える

    ・勉強が遅れている学生にも、一対一で密着して丁寧に教える

    ・学生によっては、ノートの取り方から教えることも

    ・大学だけど保護者面談もする

     

    「江川学長の教育理念、世の理想に近いんだろうな…。でも、全員に同じような指導ができるんでしょうか?」

    「もちろん簡単に学年も上がっていけないし、留年する学生もいます。そこでも私たちは諦めませんし、ここの教育に打ち勝てなかったら、人の命を預かる看護師の仕事についてからがものすごく大変。国家試験に通った後の人生こそが本番なんです

    「看護師の現場は命を預かるわけですもんね。ドラマ『救命病棟24時』のファンなのでわかります」

    「ドラマと現場は全然ちがいますけどね。ですので、当大学では努力できること、ガッツがあることは必須です。みんな大学に来て休む暇なんてほんとないですよ」

    「ここの大学は遊びに来るところじゃないんですね。私が美大にいた頃なんて、毎日近くの川でザリガニ釣りして遊んでいたのに……しかもそれをアートだとか云々言って……」

    「専門外ですけど、アートではないことは確かです」

    「すみません」

     

    島のサイズが「ちょうどいい」

    「そもそも、どうして淡路島に看護医療大学をつくろうと思ったんですか?」

    「淡路島のサイズがちょうどよかったんです。人口約13万人強の島なので、何か一つでも動き出したら、渦潮のようにすべて巻き込んでくれる。小さすぎても大きすぎてもダメ。大学としてさまざまなことを検証できる規模だったんですね」

    「淡路島の大きさにメリットなんてあったんだ…」

    「淡路島の人は、島の良さを全然アピールしません。だから地元の若者も島を出て行く。だけど、自然に囲まれていて、魚も野菜も新鮮だし、ゆったりとした時間が流れているからのんびりと過ごせる環境もある。せっかくいいものがいっぱいあるのに、それを生かさない手はないでしょう。だから島のブランディングも含めて学校を立ち上げました」

    「人口過多な都心では揃えられない環境ですねぇ」

    「うちの勉強は大変かもしれませんが、淡路島の海や山の環境が学生を癒してくれます。学校外に支えとなる環境がある。地域の人たちも、よそから島にきた学生を優しく接してくれますしね」
    「地元にいた頃は、疲れたら一人で海に行って、風に吹かれながらよく物思いにふけっていました。リラックス効果になっていたなぁ」

    「逃げ場や気持ちを切り替える場所があるのは大事!」

     

    淡路島は島なので360度海に囲まれています。瀬戸内海に面しているので波も穏やかで、街から海も近い!

     

    「そうなんです。当大学では患者さんへの心のケア、つまり『癒し』で人を治療することもカリキュラムの中に入れています。患者さんの病気が治ったあと、心理的な不安や痛みなど、内面的な部分の治療についても学ぶんですね」

    「なるほど。島と看護の可能性、少しずつわかってきました」

    「淡路島でも年々、高齢化は進んでいて…。地域の中での医療は必要不可欠ですよね」

     

    看護は世界に飛び立つ羽になる

    「ちなみに看護師の職業としての魅力はなんなんでしょうか? 大変な仕事だけど給料がいいとか、40〜50代でも稼ぎやすいとか、知人に聞いたことはあるんですが」

    「看護師は病院で働くもの、というイメージがありませんか?」
    「え、違うんですか」

    「実は看護師の資格を持っていたら世界に飛び立てるチャンスがたくさんあるんですよ。海外の大学も学生として編入できますし、アメリカの永住権であるグリーンカードも、普通の人より取得しやすくなります」

    「海外で女性が一人で自立して生きていくのは難しいってよく聞くんですけど、看護師なら手に職がつく仕事なので、安定して暮らせそう!」

    「日本では看護師資格に期限はありませんから。子どもを産んでもいつでも職に戻ってこれる。そういった意味で、自分で道を切り開いて行く際の武器になってくれると思います。もちろん、男性でも同じですよ」

    「看護師志望の男子学生も増えていますか?」

    「はい。全体の20%ほどが男性で、他の大学に比べたら比較的男性は多いです」

    「看護師だったら、世界中どこへでも安心して飛び立てそう!」

     

    ちなみに、江川学長も昔、アメリカの大学へ留学経験あり

     

    いい看護師は探偵である

    「ちなみに、どんな人が看護師に向いているんでしょうか?」

    「まず人に対して興味がないといけません。興味がないと、人を見れない。それに、その人の気持ちにも寄り添うことができません」

    「人に興味がない看護師さんイヤだもんな…」

    「すべての看護は『見る力』だと思います。いい看護師は探偵に似てるんです。相手の表情や仕草から情報を得る。見えないものを見ようとする姿勢が大事ですね」

    「探偵……!」

     

    「逆に、自己愛が低い人は看護に向いていない。看護師はどんなに辛いことがあっても、それを見せない心の強さを持って患者さんと接する仕事。自分をしっかり愛することも大切なんです」

    「ほほお、人間力ですね。そういった『人としてどうあるべきか』も、この学校では教えているんですか?」

    「学生たちは厳しい指導の中から学んでいくと思います。学生自身に心を育てる気持ちさえあれば、当大学がしっかり支援していますよ」
    「自分に自信を持つことかぁ。なかなか18〜22歳の子がそう簡単に持てるものではないと思うんですよ。私も自信を買えるなら今すぐに走ってでも買いに行きたいぐらい…」

    「だから、先生は学生一人一人にきちんと向き合って愛情深く接しています。ちゃんと関係性を作れば、先生にハグしに来る子もいますよ(笑)」

    「自分を肯定してくれる先生がいるだけで、学校に来たくなりますね」

     

    大学が実家のような居場所になっている

    今度は場所を変えて、基礎看護学を担当している看護学科の奥津文子教授にもお話を伺いました。

     

    「ここは学生にとってただ勉強するだけの場所でなく、 心を強くさせてくれる役割も担っているんですね」

    江川学長の教育のゴールは『看護』ではないんですよ。まず、学生が人としてどうなるかが大事だと言い続けていますね。そのおかげなのか、島外出身の学生が淡路島を大好きになって、実家みたいに帰ってきます(笑)」

    「それは淡路島の経済や町の雰囲気にも良い影響を生みますね。どこに惹かれるんでしょうか?」
    「うーん。自然もそうですが、地域の人の優しさのおかげじゃないでしょうか。街に出ればコミュニケーションも積極的にとってくれますし、地域のお祭りにだって参加できるので」

    「淡路島の人は、普通に歩いているだけでも畑の野菜をくれたり、車で送ってくれたり、人に対して基本的に壁がないんですよ!」

    「そういえば島民の人もあまり敬語を使わないなぁ」

    「淡路島の人が敬語をあまり使わないのは、きちんとした理由があるんです! 古墳時代のはじめから淡路は食料が豊かだったおかげで、天皇の直轄の土地になったんです。支配する人がいないので、上下関係もなくなり、常に誰かから貰うことがなく、与えるばっかりになった。あと、身分の差が小さく敬語に乏しいといわれるお国柄があるのも理由の一つになっています」

    「急におもしろい民俗学が出てきた」

    「そんな優しい人たちの中で、先生が学生にプロとしての自覚を持たせるため、『ただ優しいだけの隣のお姉ちゃんはいらん』という言葉を使うんです」

    「優しさと厳しさ。看護師のプロの現場には両方必要だからこその言葉ですね」

     

    関西看護医療大学では授業の一環として、地元のお菓子屋さんと淡路島の食材を使って、お菓子の研究開発をし販売しています。「KKI」と言う、淡路島のいちじくの発酵茶は、ポリフェノールがいっぱい入っているので、体から元気が身に溢れてくるそう

     

    このパウンドケーキには 淡路島産のハーブが効いていて、おいしい〜〜〜!

     

    学生たちの話も聞いてみた

    先生たちの熱心な語りを聞きましたが……学生の方たちは、ここの教育をどう感じているのかが気になりますよね。ということで、2年生と3年生の皆さんに話を聞いてみました。

     

    3年生の田後裕樹也さん

    「……」

    「……」

    ぶっちゃけ、入学してからの課題は想像以上の厳しさでした

    「いきなり直球どストレートな正直さだ…!」

     

    2年生の三星涼太朗さん(写真左)と、岩野微空さん(写真右)

     

    「授業についていくのに毎日必死だし、周りの大学と比べたら倍以上の宿題の量だけど……」

    「うんうん……」

    「過酷だけど、やればできる量なのでやれます。それに、同じ夢を持っている友人が、隣で朝から晩まで一緒に勉強しているので励みになりますね」

    「私はあえて看護の勉強に集中するために、この淡路島の大学を選びました。勉強量は多くて大変だけど、島の美味しいご飯屋さんに行って息抜きをしているので島の暮らしは楽しいです」

     

    「みんないい目をしてる。写真を見てもらえれば伝わるやつだ。わざわざ勉強するためにこの島にやってくる子もいるんだな…」

    「舞ちゃんは島の何もない環境がつまらなかったと思うけど、それが逆にいいと思って来る子もいるんだよ」

    「そんな視点で今まで島を見たことなかった…。ものの見方が変われば、世界も変わるって本当ですね」

     

    学食も椅子がカラフルでおしゃれ。学生さんが賑やかにランチ中もノートを広げて談笑を楽しんでいました

     

    まとめ

    教育現場における問題はさまざまですが、教育のシステムを変えるより、現場のサイズを変える事で新たな教育を発展させていく。江川学長率いる関西看護医療大学の提案と眼差しに驚きました。

     

    看護師という命を預かる職業の勉強では厳しい指導もありますが、学生の心を育てる支援体制もしっかりと備わっています。だからこそ、ここで学ぶ学生は人間的にもどんどん魅力的になっていくのでしょう。

     

    ここで学んだ学生たちが様々な医療現場に向かうことで、日本の新たな明るい未来がこの淡路島からやってくる日は近いと思います。淡路島でもやれるのだから、都会でもできないわけがない。

     

    学生のみなさん、国家試験の合格を心から応援しています!

     

    廊下に飾ってある色紙に書かれた言葉「笑いは気の薬」(落語家・桂文枝さんが書かれたものだそう)

    この通りで、病気をしないためには心の底から笑うことが本当に大切。

    身体を大事にして、太く長く生きよう!

     

    みんな〜!疲れた時は、いつでも淡路島に癒されに来てね〜!」

    「いくら自然豊かだからって打ち捨てられた海藻を食べさすな」

     

    ☆関西看護医療大学のHPはこちら!(オープンキャンパスもやってるよ)

    https://www.kki.ac.jp/

     

    ☆大学の紹介動画はこちら↓

     

    記事構成:吉野舞 / 写真撮影:小林直博 / イラスト:てぶくろ星人(Twitter

    イーアイデム

    この記事を書いた人

    徳谷柿次郎
    徳谷柿次郎

    ジモコロ編集長。大阪出身。趣味は「日本語ラップ」「漫画」「プロレス」「コーヒー」「登山」など。顎関節症、胃弱、痔持ちと食のシルクロードが地獄に陥っている。

    徳谷柿次郎の記事をもっと見る

    同じカテゴリーから記事を探す

    オススメ記事

      こちらの記事もオススメ