就職を機に上京し、ひとり暮らしをはじめたツクルくん(23)。家にいる時間が増え、自炊をはじめてみたのですが……ネットでレシピを調べて作るものの、失敗続きでどうにもざんねん。

SNSのタイムラインに流れてくるおしゃれな手料理の写真を眺めて、憧れつつもため息をつく毎日です。なんとか自炊をレベルアップさせたい!

 

そんなツクルくんの元へ、母の知り合いで料理上手のさちえさんから電話がかかってきました。

 

「ツクルくん、久しぶりだね! 元気にしてた?」

「お久しぶりです! 相変わらず、東京でなんとかやってます」

「コロナでなかなか帰って来られないから、お母さんがさみしがってたよ! 最近はどう? 仕事はリモートかな?」

「そうですね。在宅ワークになったし、休日も家にいることが増えたので、最近は自炊してみたり、家での生活を楽しんでます!」

「おお、それは感心、感心。料理も慣れてきたら楽しいものでしょ?」

「はい!……と言いたいところだけど、レシピを見てつくってみても、イマイチおいしくできないんですよね。食材を余らせちゃったりもするし、なかなか上達しなくて残念な感じ。家でもおいしいものが食べたいのに……。どうしたらさちえさんみたいな料理上手になれますかね?」

「そうだねぇ。いろいろコツはあるけど、まずは誰でも手っ取り早く料理がおいしくなる、必殺技を教えてあげましょうか」

「え!何ですかそれ!!」

「それはだね……、初心者こそ、ちょっといい調味料を使うことです!

 

 

話を聞いた人 大島幸枝(おおしま・さちえ)さん

愛知県津島市で、約40年前より、全国の生産者から届くこだわりの調味料や野菜などの食品を、共同購入というスタイルで食卓に届け続けている「りんねしゃ」の2代目。 オリジナルのエコロジー雑貨や基礎調味料などを新しい視点で開発、販売しながら様々なイベントを手がけるなど多岐に渡る活動をしている。

 

技術がないからこそ、いい調味料でレベル上げしよう

「なるほど……?? それだけでいいのかな。ちょっといい調味料って、むしろ料理上手な人が使うものかと」

技術がない人こそ、使うだけで確実においしくなるようないい調味料を選ぶべし! 調味料にもいろいろあるけど、違いが一番わかりやすいのはお醤油かな。冷ややっことか、焼きなすとか、ほうれん草にかけて食べるだけでおいしさを実感できるよ」

「いいお醤油を買う。たしかに簡単だけど、ほんとにそれくらいで自炊がレベルアップするのかな……?」

 

いい醤油を見極めるには、原材料をチェック

「そもそも、いい醤油かどうかって、何で判断すればいいんですか?」

「まず、丸大豆と小麦、塩だけで作られていること。それから、1年近く熟成されていること。この二つが特に重要かな」

「材料と、熟成……」

「安い醤油は、大豆の旨味がまるごと入った『丸大豆』ではなく、大豆油の搾りかすである『脱脂大豆』が原料になっていることが多いのね。そして発酵や熟成にも時間をかけていないから、その分アミノ酸などで味を調整しているのも特徴。だから、できるだけ材料がシンプルなものを選んでみて

 

「なるほど。でも、原材料表をいちいち見るのも面倒くさそうだなあ……」

「しょうがないなあ。そういう時は、身近なプロに聞くのが一番! 街の小売店とか、地元の小さいスーパーなんかでお店の人に教えてもらうといいよ」

「お店の人に?」

「食材専門のセレクトショップでもいい。とにかく、『これを買うべし!』って教えてくれるお店を探すことだね。そういういいお店って、大抵地域に一軒はあるものだから」

「そういえば友達が、商店街の肉屋さんにハマってるって言ってたな。調理法を教えてくれたり、夕飯のメニューに合わせて肉を選んでくれるって。それと同じですね。調味料に詳しい人がいそうなお店を探してみます!」

「そういうこと! まずは言われた通りに買ってみて、それを使い切ったら次は違う種類に変えてみる。好みは人それぞれだから、一般論じゃなく、ピンポイントで自分の好みに合ったお醤油を探してみて

 

「はい! いろいろ試してみます。でも、今更なんですが……いつもより高い醤油を買うのって、ちょっとハードル感じちゃいます。まだ給料も安いですし」

「確かに、最初はちょっと勇気がいるかもね。でも、1回の料理で使い切るものでもないし。何ヶ月も使うと思えば、値段の差はたかが知れてると思わない?

「まあ、一回で使い切る肉や野菜とは違いますもんね。ちなみに、お値段の目安はどれくらいですか?」

「そうだなぁ、だいたいの目安だけど、1リットルで800円以上するようなものを選ぶと安心かも。もっと安くておいしい醤油も探せばあるかもしれないけど、確率でいえばそのあたりがボーダーかな」

「おお~、いつも同じ量で300円くらいの醤油を選んでました。清水の舞台から飛び降りるつもりで、買ってみます!」

「そんな、大げさな(笑)。でも、どんなにまずい醤油を選んだとしても、買ったら使わなきゃいけないでしょう。イマイチだなぁと思いながら毎日料理するのはツラいよ。安物買いの銭失いはやめるべき」

「うぅ、耳が痛い……。でも確かに、とにかく醤油だけ、ちょっといいものを選べばそれだけでレベルアップできると思ったらいい投資ですよね。早速探しに行こうっと」

 

 

さちえさんイチオシの醤油はこれだ!

「ちなみにさちえさんのおすすめはどんな醤油ですか?」

「そうね、今までに使っておいしかったのをいくつか挙げるなら、和歌山の湯浅醤油さん、小豆島の正金(しょうきん)醤油さんと丸島醤油さん、金沢の鳥居醤油店さん。どこも木桶を使った昔ながらの製法でお醤油を作っているお醤油蔵だよ」

「木桶で仕込んだ醤油、なんとなくそれだけでおいしそうに聞こえるな~! さちえさんのお店、りんねしゃではどの醤油がおすすめですか?」

 

写真左から:南蔵の「たまりしょうゆ」、「東海醸造たまり醤油」

 

「まずおすすめするなら、南蔵(みなみぐら)の『たまりしょうゆ』かな。たまり醤油っていうのは、小麦を使わず大豆と塩水だけで作る醤油で、濃口醤油よりコクがあってとろっとしてるの。南蔵のたまりは3年物。大豆と同量の食塩水を加える“十水(とみず)仕込み”で、濃すぎず使いやすいのがいいところ。角煮みたいな、醤油味の煮物が色よくこっくり仕上がるよ」

「角煮がおいしくなるなんて最高! 今流行りのルーローハンにもよさそうですね」

「もう一つ、『東海醸造たまり醤油』は、“味噌たまり”と言って味噌を作ったときの上澄み液なのね。こっちはTHE・たまり醤油って感じの濃厚な味だから、かば焼きのタレなんかを作るのにいいね」

「かば焼き! ちょっと上級者向けな気も……」

きんぴらやひじきの煮物にも使えるよ。普通の醤油でちょっと薄いくらいに味付けをしておいて、火を止める直前にこのたまり醤油を鍋肌にひと回し入れるだけで、ものすごくおいしくなる。教えてあげるとみんなびっくりしてくれるの」

「へぇ~、仕上げにひと回しでおいしくなるってすごい威力。普段使いの醤油と使い分けするの、玄人っぽくてかっこいいな……」

「あはは!そうだね。でもまずは一本、自分好みのお醤油を見つけるところからね。買ったらまずは、そのままなめてみる。醤油単体でこんなにおいしいんだ!って分かるはず。そして料理に使うときは、普段より気持ち少なめの量から始めてみてね。少しのお醤油で、こんなに旨味が出るんだって驚くよ」

「なるほど!ありがとうございます。ずっと醤油の話をしてたら、さっそく照り焼きとか、生姜焼きとか食べたくなっちゃいました。まずはスーパーの醤油売り場を端からチェックしてみます!」

 

☆さちえさんのお店はこちら

「りんねしゃ」https://rinnesha-shop.com/

 

おすすめの料理レシピ

最後に「いい醤油」の効果を実感するためのレシピを紹介。とってもシンプルですが、だまされたと思って、ちょっといいお醤油を垂らしてみてください!

 

焼きなす

【材料】
なす(中サイズ)……2本
塩……小さじ1
油(米油、菜種油など)……大さじ1弱
醤油……適量

【つくり方】

1.  なすを斜め1㎝幅に切る。

2.  ボウルに1リットルの水(分量外)、塩を入れ、切ったナスを5分ほど浸す。
POINT 水を吸わせると油っこくならず、ジューシーに!

3.  ザルにあげて水気を切り、油を全体に絡める。
POINT 先に油を絡めると、少しの油で焼ける。油は米油や菜種油など、原材料がわかるものを!

4 強めの中火で両面焼く。
POINT 焦げ目がついたらOK

5 皿に盛り、醤油をかけて食べる。
POINT おろしショウガやかつおぶしをかけても◎

 

「アツアツのなすに醤油を垂らした瞬間、匂いがフワッと香ってきた!これがいい醤油なんだなあ。自炊がレベルアップした鐘の音が聞こえたかも!

 

イラスト:小松佑

 

☆記事最後の画像ギャラリーに、焼きなすレシピのポイント画像を載せています。つくり方の参考にどうぞ!