こんにちは、ライターの乾です。

皆さんは、京都のまちの風景が変わりつつあるのをご存知ですか?

 

2008年頃からインバウンド(訪日外国人旅行者)誘致によって観光客が激増したかと思えば、2020年初頭から猛威を奮いはじめた新型コロナウイルス感染症の拡大によって、訪日観光客が激減。京都のまちはここ数年、さまざまな変化に晒されてきました。

 

「訪日外国人が増えれば、まちの風景も変わるだろう」「彼らが来なくなれば、まちは閑散とするだろう」そんなふうに想像することは簡単かもしれません。

 

でも、そんな一過性の変化とも違った、「街並み」が変わっていくような変化が京都には起きているんです。

 

社会学者・中井治郎氏の著書『パンクする京都 オーバーツーリズムと戦う観光都市』に、そんな京都の変化を知るためのヒントがありました。それは、観光客増加によって起きた「お宿バブル」ともいうべき、宿泊所の乱立。

 

 

2014年度、京都市内にあった簡易宿所の数は約460ヶ所。その後、インバウンドの増加によって、旅館やホテルよりも小規模な宿泊施設が少しずつ増加。2019年3月時点では、およそ5倍にあたる約2990ヶ所にまで膨れ上がったそうです。(※)

※出典:中井治郎(2019)『パンクする京都 オーバーツーリズムと戦う観光都市』星海社新書

 

かくいう筆者も関西の出身。大阪で働いていた2014年〜2019年の間にも、京都でのたくさんの新しい「宿」や「商業施設」のオープンの知らせが耳に入っていました。

 

「町家を改装し、新しい宿としてオープン」「繁華街まで歩いていける場所に、コンセプチュアルな宿が誕生」そんなニュースを聞くたびに、てっきり京都に新しいカルチャーが産まれていくのだと、喜ばしいことなのだと思って聞いていたのを覚えています。

 

一方で、1950年より前に建築された歴史ある「京町家」は、減少傾向にあります。2016年の調査では年間約800軒もの京町家が取り壊され、京町家を保全するための市の条例が2017年に制定された後も、解体されたのか、残存しているのか、把握されていない物件が多いといいます。

『京都新聞』2020年11月21日記事より

 

需要のある宿やホテルは新しいものがどんどん増えていき、歴史ある「京町家」は日々姿を消していく。

 

世の中の需要に沿うように、スクラップ&ビルドされていく京都の町を見るのはどこか切なくもあります。まちのあり方は、それでいいんでしょうか? なんだか、本当の価値を見失ったまま、まちの資源を消費し続けているようにも感じます。

 

そんなことを考えている時、知り合いに、京都のまちと向き合う「ファンキーな不動産屋さん」がいることを思い出しました。

 

彼は経済合理性や世の中の流行りに従った「建てては壊す」不動産のあり方ではなく、見向きもされていなかった不動産に価値を見出し、直し、育てることで、京都のまちと向き合おうとしています。

 

その彼とは、京都でリノベーション物件などを中心に取り扱う不動産会社『株式会社川端組』代表取締役の川端寛之さん。

 

自身で物件紹介メディア『KAWABATA channel』を運営しながら、不動産仲介、不動産管理、リノベーションプロジェクトの企画などを行う不動産屋さんです。

 

彼の仕事といえば、こんな感じ。

・めちゃくちゃ熱量のある紹介サイトで、ポエティックに不動産を紹介する

・入居希望者と会って、2時間くらい『本当にこの物件とあなたはマッチしてるのかな?』と話し込む

・普通は不動産業が入らない「新しい物件をつくる」段階から物件に関わっていく

 

特に、3つ目の「新しい物件をつくる」ことは、どんな不動産業者にでも真似できることはありません。

 

例えば、古い長屋が残っていたエリアに、『海運コンテナと長屋が共存する施設』を建築共創自治区CONCONと名付けられたそこには、いままでになかった「クリエイター同士のあたらしい経済圏」が生まれようとしているのだとか。

 

地味で、誰にも見向きもされていなかったような土地と物件の可能性を見つけ出し、リノベーションの創意工夫で価値ある場所に変えていく

 

僕らの「不動産」の仕事のイメージを軽々と超えながら活動する川端さんに、京都の不動産事情について話を聞きました。すると、次第にその話は「いい物件とは何か?」という大きな問いへと移っていくことに。

「町家リノベ」も昔のこと。京都の物件事情

いぬい「今日は店舗や施設の話を中心に、『京都の不動産事情』をテーマにいろいろお伺いしていきます。よろしくお願いします!」

川端さん「よっしゃ! なんでも聞いて!」

 

冒頭からこの迫力。面白い話が聞けそうです

 

いぬい「早速ですが、いまの京都って、『需要に合わせて建てては壊して』っていうイメージがすごくあるんです。ホテルや宿はインバウンドに合わせてすごくたくさん増えたのに、町家は今も取り壊されていたりとか」

川端さん「確かにそうやなあ」

いぬい「そういうところが、漠然と変だな……なんでそうなってるんだろう……と思ってて。川端さんご自身は、そういう京都の不動産事情をどう思っているんですか?」

川端さん「そうやね……今の話をするなら、不動産の『価値』より『価格』が勝っている状態になっていて。そのせいで、ライスワークはできてもライフワークにはしづらい状況になってると思う

いぬい「ちょっと待ってください。大事な話がたくさん出てきた気がする。価値より価格、っていうのは?」

川端さん「価格の話をすると、まず『京都にある物件』ってだけで家賃がかなり下駄を履いた状態……つまりすごく高くなってしまう。たとえばそこで若い人が『こんなかっこいい店をやりたい!』と思ったとしても、難しいんよね」

いぬい「家賃を払うために稼ぎを優先すると、チャレンジングな店づくりは難しそうですもんね」

 

川端さん「その通り。お金の勘定からしっかり考える『ライスワーク』としてならできるかもしれんけど、やりたいことを叶える『ライフワーク』として続けていくのは難しくなってるやろうなあ」

いぬい「それにしても、どうして京都の物件はそんなに高くなっているんでしょう?」

川端さん「ちょっと真面目な話になるけど、きっかけになったのは『定期建物賃貸借契約(ていきたてものちんたいしゃくけいやく)』って契約が2000年にできたことかな」

いぬい「定期建物賃貸借契約……(早口言葉みたいだ……)」

川端さん「これは、日本ではじめて『貸主と借主が対等な立場になった契約』やと言われていて」

いぬい「貸主と借主が対等、それって普通のことなんじゃ?」

川端さん「いやいや、そうでもないのよ。これまでの契約では、よっぽどの理由がないと、賃貸借契約を結んだ物件の更新を拒むことはできなかった。だから、『人に町家を貸したら、借主の子供が引き続き住んでしまって、返してもらえなくなる』なんてことが起きていた」

いぬい「親子二代で借りちゃうってことですか!? しかも、それが断れないなんて」

 

 

川端さん「ただ、新しく生まれた『定期建物賃貸借契約』では、期間を限定して物件を貸し出せるようになった。このルールができたことで、『ちゃんと返ってくるなら、もう少し気軽に京町家を貸してもいいかも?』という人が増えた

いぬい「そうか、それで街中にはたくさん『町家をリノベしたカフェ』みたいなお店が増えたんですね! 貸し出してリノベされても、いつか返してもらえるから」

川端さん「そうやね。それで一時期、『町家の店ブーム』みたいになって。その時に、人通りが多い通り沿いとか、良い場所にある町家は店舗としてあらかた抑えられてしまったんよ。そうなると、不動産業の人たちはお金の匂いに敏感やから。流行るとなると、ひとまず物件の価格を引き上げて貸すようになっていく

いぬい「そうやって物件の価格は上がっていくんだ……」

 

こうした町家の多くに、店舗が入っていった

 

川端さん「そうやっていい場所がとられて、『町家の店』ブームも終わりつつあるな〜って思ってたら、今度はまちに『宿』ができ始めた。人通りが少なくて未開拓だった路地の奥の立地も、次々と宿に変わっていって」

いぬい「宿に?」

川端さん宿はそこ自体が目的地になるやろ。やから、人通りがある立地かどうかに関係なく、どこにあっても営業は成り立つんよ」

いぬい「たしかに『大通り沿いにあるか』とかで宿を選ばないかも」

川端さん「しかも、宿のほうが高い賃料を払うことができるから、オーナーさんへの交渉も『これだけの賃料をお支払いできますよ』ってやりやすいわけで」

 

あのまちも、あのまちも宿が入っていって…と身振り手振りで話す川端さん

 

川端さん「元々は住宅街やった東山区なんかも、観光の視点で見れば『清水寺や八坂神社などの観光地にほど近い』場所。京都の人たちが生活していた土地のなかにも、どんどん新しい宿ができていってな」

いぬい「そうやって、まちの風景が変わっていったんですね」

 

ファンキーな不動産業と、「物件の価値」とは?

いぬい「価格が高くなっていくメカニズムはわかったんですけど、さっき『価値より価格が高くなる』って話していたじゃないですか。あれはどういう意味なんですか?

川端さん「さっきも話したみたいに、家賃って『高くできるから、高くする』場合があるねんな。家賃が家賃に紐づいていくというか」

いぬい「高くできるから、高くする?」

 

川端さん「不動産の人たちは流行り廃りを読み取りながら、バランスよく家賃を上げていく。ただ、その時に貸し出した店舗の『中身』まで問わなかったりする。だからスカスカになってしまってる気がする」

いぬい「なるほど。周りの物件が家賃を上げたら、そばにある物件は家賃があげられる……みたいなこともあると。だから中身と家賃が比例してないってことなんですねでも、川端さんがやっている不動産業って、それとはちょっと違いますよね?」

 

川端さん「おっ、急に僕の話?」

いぬい「物件紹介サイトの『KAWABATA channel』は知ってたんですが、ほかにもいろんな不動産の仕事をされてますよね?」

川端さん「そうやね、物件の仲介はもちろんやけど、ほかにも元々ある物件をリノベーションしたり、新しい施設をつくったり……

 

川端さんの仕事①「共創自治区CONCON」

 

川端さんの仕事②「南吹田琥珀街」

 

川端さん「いろいろやってるけど、共通して言えるのは、『物件の価値』みたいなものを上げられたらって思うな」

いぬい「そこ! そこをしっかり聞いてみたくて」

 

いぬい「川端さんはよく『物件の価値をあげる』って言いますけど、それって『人気の物件にする』とか『今風のリノベをする』とかとも違うじゃないですか」

川端さん「うんうん、そうやね」

いぬい川端さんは『物件の価値を上げる』ために、一体何をやってるんですか?

川端さん「おおっ、ええ質問やね。それは……」

 

「難しいな…………」

 

いぬい「困っちゃった」

川端さん「いや、ええ質問やな……。ちょっと、一旦この話を聞いてもらおうかな。京都のオーナーさんと『物件の価値をあげましょう』って話をすると、たまに噛み合わないことがあるんよね」

いぬい「それはどうしてですか?」

川端さん「オーナーさんからは『え?既に価値はありますよね?』って言われちゃう。きっと、『物件の価値』の基準が違うんだよ」

 

 

いぬい「自走する場所、っていうのはなんですか?」

川端さん「古い場所をリノベーションして新しい人が入っていくことって、そもそも少し無理があるやんか。全然違う背景の人が入っていくわけやから」

いぬい「確かに、びっくりはしますよね」

川端さん「そこで無理なく人が受け入れられるように整え方を考えて、持続していくような場所がつくれたらいいなと。『誰が物件を使っていくのか』ってところというか」

いぬい「物件を作って終わり!って話じゃないんですね」

川端さん「物件のスペックとか価格より、そっちの方が大事ちゃうかなあ。家賃の高い安いだけが物件の価値じゃない、とは思う」

いぬい「物件の価格=物件の価値だとは言い切れない。だんだん考えることが増えてきたぞ……」

川端さん「むしろ僕は、普通の場所を高くしていくよりも、これまで価値がないとされて、安く扱われてきた不動産を普通の価格に戻したいな、と思っていて。安いから来てもらえるんじゃなくて、価格が高くなっても価値がある、と思われるまちを作りたい。だからこそ、CONCONを二条城南東の式阿弥町につくったところもあるから」

いぬい「そういえば、時々話に出てくる『CONCON』のことも気になってたんです。詳しく聞いてもいいですか?」

 

なかったものを作る「CONCON」のこと

いぬい「いま取材にお伺いしているこの場所、ここが『CONCON』なんですよね」

 

川端さん「そう。ここは正式名称を『共創自治区CONCON』って言って、海上輸送用のコンテナと長屋を組み合わせてつくった施設なんよ」

 

「共創自治区CONCON」
…京都の二条城南東の式阿弥町にあるスペース。コンテナ19基と長屋3軒を組み合わせた建物のなかには現在、不動産事務所やカメラマンのスタジオ兼アトリエ、コーヒー&ワインスタンドが入居。ここに集う人たちのユニークなスキルや経験を生かし合いながら、新しいプロジェクトや経済圏が生み出されることを願ってつくられた。
住所:京都府京都市中京区式阿弥町130
詳細:https://concon.kyoto/about/

 

いぬい「ここのコンセプトも、川端さんが考えたんですか?」

川端さん「まあ、最初はそう。でも、ソフト面の企画という意味では、株式会社ぬえの松倉くんをメインにね」

いぬい「それにしても、デザインも特殊な施設ですよね。どうしてコンテナを組み合わせて作ろうと思ったんですか?」

川端さん「もともと自分の中に『コンテナを建築に使えへんかな』っていう考えはあって、ずっとリサーチはしてたのよ。でも、なかなか法律的に使うことができなくて」

 

いぬい「それはどうしてですか?」

川端さん「ざっくり言うと、JIS規格って規格の関係かな? コンテナは建築資材としての耐久性が足りないとされてきたのよ。だから日本ではコンテナを組み合わせただけの建物はダメで。たまにある『コンテナハウス』も、日本のものは『コンテナっぽくつくられた鉄骨造の建築』やったりするのよ」

 

川端さん「ここは鉄骨でできたフレーム、いわゆる主要構造部だけを新築で作ることで、合法の建築になっていて。だから、このコンテナは部屋じゃなく『間仕切り壁』やねん

いぬい「ルールを守りながら、合法的に日本でもコンテナハウスを作っちゃったんですね」

川端さん「作ってみたかったからね。CONCONのいいところは、海上輸送で使われなくなったコンテナを使ってるから、そのコンテナをここに持ってくるだけで『資源の再活用』になってる。それと……」

 

川端さんビビるくらい安くできるのよ」

いぬい「ビビるくらい安く!?」

川端さん「普通に平家で小さな建物を建てるにしても、数百万円くらいはかかる。でも、コンテナは1個30万円前後やからね」

いぬい「とんでもなく安い……。それは、チャレンジしてみたくなりますよね」

川端さん「そうやろ? ただ、もちろん不自然なことをやるのはよくないと思ってて。『どこにでもコンテナを持ってきて置いたらいい』ってもんじゃないねんけど」

 

CONCONの内部には、古くからある長屋が活用されたスペースも。多種多様な人々が入居して関わり合うコンテナハウス達も、いわば「現代の長屋」のようなものだろう

 

川端さん「ただ『セオリー通りにやろう』って建築のつくり方も好きじゃなくて。生み出すときの苦労や難しさはあるけど、使ったことのない材料を使うから、わかることもあると思う」

いぬい「これまでになかったものを作る、って意味でもコンテナ活用をやってみたかったんですね」

川端さん「だからと言って、ただ奇抜なことをやってるわけじゃなくて。僕が大事に考えているのは『デザインさえすれば価値が上がる』わけではない、ってことやね」

いぬい「え、そうなんですか?」

川端さん「デザインって、あくまでも『コンセプトの可視化』に過ぎないと思う。だからこそ、デザインじゃ世界を変えられない。世界を変えるのはコンセプトに共感して、行動をした"人"やと思うから」

いぬい「世界を変えるのは、デザインじゃなくて人……!」

 

川端さん「デザインにできることといえば、『人を選ぶ装置になる』ってこと。最近気づいたんやけど、人はデザインを見て『入居したい』と思うけど、『入居したくない』とも思う。コンセプトに紐づいてきちんとデザインをしていれば、デザインを見るだけで『自分がこの物件とマッチしているのか?』がちゃんとわかるようになる

いぬい「じゃあ、大事なのはデザインの良し悪しじゃ無くて、『人と物件がマッチしているか』ってこと?」

川端さん「そういうことになるなあ。人と人でもそうやろ?『ホンマにマッチしてんのかな?』って思うまま関係性が進んでも不幸になるだけやんか」

いぬい「たしかに」

川端さん「やから物件の入居のときなんかも、申し込み書類を持ってきてくれた人とも『ちょっと待って、一回話そう』って話し合ったりする。審査っていうと普通は収入面とか事業内容とかやけど、おれは2時間くらいかけて、『あなたがこれからどう生きるか?』みたいなことも含めて聞きたいから」

 

いぬい「すごい。もはや建物と人のお見合いみたいですね」

川端さん「まさにそうよ。僕は物件と一緒にまちも見てきてるから、この場所とその人の活動が合うかどうかって、本人より僕のほうがきっとわかるやんか。やから仲介じゃなく『採用』って言うこともあるくらい

いぬい「デザインでパッと考えて物件を決める、じゃあダメなんだなって思いますね」

川端さん「でも、世の中の物件って『デザインを、さらにデザインする、デザインの上塗り』みたいになってるところもあるからな〜。このあいだテレビを見てたら、『換気のできる住宅』って触れ込みをしててさ。でも、『そもそも、換気できひんように密閉したのは誰やねん!? 住宅メーカーがそういう家を増やしてないか?』って話やんか」

いぬい「そう考えると、ぜんぜん本質的じゃないですね」

川端さん「まあいまのは笑い話やけど、本質が伴っていない『誰にとっても不自然なデザイン』をしても違うな、とは思うな」

 

「不動産屋が建物をつくる」ことのリスク

いぬい「聞けば聞くほど、不動産屋さんって不思議な仕事だなって思いますね。普通、ここまでやるもんですか?」

川端さん「いやいや、本来は建築をつくるときのチームに不動産業はいないのよ」

 

川端さん不動産業の仕事は、基本的に建築士や設計士、工務店の方々がつくった物件を仲介して、入ってくれる入居者を探すことなんよね」

いぬい「でも、川端さんの場合はこの『物件をつくるチーム』に最初から参加されている?」

川端さん「だって、不動産業が物件のニーズを一番わかってるはずやから。CONCONをつくったときだってそう」

 

CONCONにはワインスタンド、カメラマンの撮影スタジオ、デザイン事務所、染色補正店、企画会社etc…業種の違うさまざまなチーム・個人が入居している

 

川端さん「当時、ここを一緒につくった『株式会社ぬえ』の松倉くんがぬえ周りのクリエイターと一緒に入れるオフィスを探してて。『一緒の場所やと、打ち合わせもしやすいし』って事で。それで彼を、リノベーション前の、駐車場と三軒の古い長屋しかないこの場所に連れて来た」

いぬい「それがきっかけなんですね」

川端さん「松倉くんに『ここはどう?』って聞いたら、『さすがにうち一社ではデカい』と。『じゃあ、その規模のデカイ版をやらない?』って口説いたところから、このプロジェクトが始まっている。だから、『今の時代の職人たちを集める』ってコンセプトがすぐにでてきた」

いぬい「本当に多様な人が入居されてますよね」

川端さん「1業種1テナント、みたいにして、入居者のジャンルに被りがないようにしてね。そうしたら、誰かに仕事が来た時に『この仕事のこの部分は、あいつに頼めるな』って施設内で仕事を回せるやんか」

いぬい「入居者同士の関わり方まで、想像してたんですね」

川端さん「むしろ、そこから思いついたかも。多様な人の集まっているCONCONが、クリエイターたちの新しい経済圏になればいいな、って思ってたかな。これをつくった時は、一緒に動いたプロジェクトチームもよかった。全員が四番バッターみたいなチームでさ」

いぬい「建築をつくる時に誰と一緒にやるかっていう、チームづくりも川端さんがやるんですか?」

川端さん「そりゃそうよ、だって僕1人じゃできないやん」

いぬい「にしても、不動産業の枠を超えてますね」

川端さんドラクエみたいな感じよね。どの仲間とどこに行こうか、『こういうのやりたい、じゃあ誰と組んだらできるか?』って考える。小さいスケールなら、工務店さんと2人でやる時もあるしね」

 

川端さん「僕の仕事って実は、一緒にやる人を集めて『あそこを目指そう』って言うことが8割くらいなのかも。まぁ、ホントはそんな簡単じゃないけど」

いぬい「その考え方って、僕たちが記事をつくる時に考える『編集』みたいだなと思います。誰にどういう座組みで声かけるか、で完成するものが決まるってところとか。要するに川端さんって、もはや不動産屋じゃないのでは???」

川端さん「いや、不動産屋よ!! でも、いわゆる『不動産っぽくない仕事』の部分は大事な片方の軸足やと思ってて。そういう編集みたいな仕事の考え方と、もう片方の軸足は不動産屋という組み合わせがいいのよ」

 

いぬい「でも、本来は不動産業が考えないところまで責任を持つわけじゃないですか。それってすごいプレッシャーじゃないですか?」

川端さん「そうやね、本来は不動産業者は最後に出てくるけど、僕は建物をつくる段階で既にいて、自分が『こういうのつくりましょう』って言ってスタートするわけやから。ニーズをわかってるはずの不動産屋がそういう入り方をした以上、『あれ?なかなか入居者が決まりませんね〜』なんて絶対に言えないから。ゾッとするよね」

いぬい「そうか、言い出しっぺまで自分になるんだ」

川端さん「それに、賃貸の物件を作るのは特に、オーナーじゃないまだ見ぬ人たちを喜ばさないといけないから難しい。ほんまに人から求められるものじゃないと、入居は決まらへんからね」

 

いぬい「ぶっちゃけ、仕事としてはめちゃくちゃめんどくさいですよね。なんでそんな仕事ができるんでしょう?」

川端さん選択肢を増やしたい、に尽きるかなあ。物件を探している時に、理想とするものとか好き嫌いは頭の中にあるわけやんか。その時に『でも、そんな物件ないよな〜』って言いたくないし、言わせたくない。ってのが最初。妥協しないと仕方ない、って人のためにいい物件を用意したいから。やから、いっつも僕はマイノリティ担当なんよね」

いぬい「その『選択肢をつくる』ことも、めちゃくちゃ人を見てるからできるとこありますよね。周囲の人たちと合意形成を取るとか、そういうところも含めて」

川端さん「そう。ファンキーなだけじゃないのよ」

おわりに

変化し続ける京都の街を見ながら、「マイノリティな不動産屋さん」としての役割を担っていく川端さん。

 

「価値が低いと思われていたまちに関わって、普通に戻していきたい」

「妥協する人がいたら悲しいやんか。だから、選択肢を増やしたい」

 

取材を通して見せてくれたそんな川端さんの姿勢は、「まちと不動産」に対する川端さんの美意識であり、意地でもあるように思いました。

きっとその意地と美意識が、町に新しい選択肢を生み、誰も気づいていなかった土地の魅力を、不動産を通して引き出していくはず。

 

人口も、訪れる観光客の規模も大きい京都のまちにおいて、需要と潮流に流されないのはとても難しいことかもしれません。

それでもきっと、『マイノリティ担当やから』と笑って話す川端さんのような不動産屋さんがまちのどこかにいる限り、さまざまな不動産の可能性が残されているのかもしれません。

 

撮影:木村昌史
企画:徳谷柿次郎