「人が集まれない」時代に、海賊シェフが無料レシピ公開を決めた理由

2020.04.27

「人が集まれない」時代に、海賊シェフが無料レシピ公開を決めた理由

新型コロナウイルスの感染拡大により、普段通りの営業が難しくなっている飲食業界。そんななか、店に来られないお客さんのためにと「レストランのレシピ無料公開」に踏み切ったシェフ・鳥羽周作さん。「sio」「o/sio」「パーラー大箸」などいくつもの店を持つ通称「海賊シェフ」はいま何を考えているのか?

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    外に出られない毎日が続きますね。飲食店の人々にとっては、お客さんに来てもらいたくてもそれができない、苦しい状況だと思います。

     

    僕にも飲食店で働く友人たちがたくさんいます。地元にもいま住んでいる街にも、好きなお店がたくさん。彼らのことが心配です。

     

    そんなとき、頭に浮かんだ一人のシェフがいました。

     

    彼の名前は、鳥羽周作。東京・代々木上原にあるフレンチレストラン「sio」を営むオーナーシェフです。ジモコロでは彼を「海賊シェフ」と名付け、二度にわたって取材しました。

     

    街で噂の海賊シェフ「鳥羽周作」は、料理業界に革命を起こす

    街で噂の海賊シェフが語る「人と歩む」飲食店経営論

     

    ジモコロの取材後には、理想の大衆食堂と銘打つ「o/sio」や純洋食店「パーラー大箸」などの店を次々とオープンし、人気を博しています。

     

    とにかくバイタリティに溢れまくり、

    ・未経験なのに、32歳のとき一流レストランへ気合だけで弟子入り

    ・修行時代、眠気覚ましに自分の腕をオーブンで焼いていた

    ・「sio」がミシュランの1つ星を獲得。料理人や有名人が通い詰める

    などなど、豪快な伝説の数々を打ち立てている海賊シェフ。

     

    しかし、型破りな方法で困難を乗り越えてきた鳥羽さんとはいえ、さすがに最近の状況はかなりやばいのでは……?

    この荒波に、海賊シェフは何を考え、どのように立ち向かっているのか。これからの飲食業界にとってのヒントが得られないか?

    そう思って、話を聞いてきました。

     

    ※緊急事態宣言前の4月初旬に取材を行いました。

     

    苦境を生き延びるために、SNSでレシピを公開

    「大変な状況のなか、押しかけてきてすみません! 正直、お店の調子はいかがですか?」

     

    「さすがにやばいっすね。客数が減ったというか、そもそも来てもらえないので……」

    「やっぱり。あの豪快な鳥羽さんでもピンチなんですね」

    「まあでも……」

     

    やることやるしかないっすね!!大変だけど!!」

     

    「(よかった! やっぱり豪快だ!)ちなみに、いま一番大変なことって何ですか?」

    「そりゃあ、来店されるお客さんも減りましたから。ただ、『sio』は消毒や換気、ソーシャルディスタンスなどに十分配慮して通常営業しながら、テイクアウトの販売もやっています」

     

    「テイクアウトや出前を始めている飲食店さんも多いですよね 」

    「ただ、価格帯の安い店には競合が多いんです。いまはUber Eatsとかもありますし。わざわざ出前を頼むなら近所のスーパーのお惣菜でもいいかな、なんて人もいる気もします」

    「たしかに……みなが一斉にシフトしたら、その中で『選んでもらう』ハードルがあると」

    「そりゃそうっすよね」

    「うわあ……それでも従業員の方には給料が必要だし、店の家賃だって払わないといけない。めちゃくちゃ大変な状況だと思うんですが、『海賊シェフ』の鳥羽さんは何を考えてるんでしょうか?」

     

    「いや〜ウチは参考にならないと思いますよ」

    「え?」

    「だって俺らは、『この騒動を生き延びたあと』を考えて動いてますもん

     

    「えっ!?」意外な返答に固まるインタビュアー

    「えーっと、騒動の中でどう生き残るかを聞きたかったんですが、生き残りは当然ってことですか……?」

    「いやいや! もちろんウチだって余裕があるわけじゃないですよ! 来月潰れるかもな、とか本気で思ったりもします。でもその上で、『その先』を考えてるだけで」

    「今がピンチなのに、『その先』を……?」

     

    「そもそも、この状況が数ヶ月で終わるとは思えない。もっと長い戦いになると考えてるんです。感染症がおさまっても、元どおりの世の中になるかわからないし

    「ああ……完全な収束まで1〜2年という予測も見かけますよね。そうなると『人と集まれない社会』という前提で、いろんなシステムが変わらざるを得ないかもしれません」

    「そうなると『店』って概念すら、いつまであるのかわからないわけですよ。対面で料理を作って『美味しい』って喜んでもらう『当たり前』すら、できない世の中になっていくかもしれない。だからこそ、ぼくはsioのレシピをSNSで公開しはじめたんです

    「ほほう……?」

     

    店に来なくても、「レストラン」を感じてもらうために

    「『店』の概念がなくなるかもしれないから、レシピを公開する。それって繋がりますか?」

    「実はこの状況になる前から、『店に来なくても、レストランを感じてもらうにはどうすればいいか?』を考えてたんです。お店に来てくれる人しか相手にしないなら、一度にたった20人しか幸せにできない』と悩んでいて」

    「たった20人を喜ばせるのも、十分すごいことだと思います」

    「でも、ウチのお店に一生来る機会のない人だって大勢いるわけですよ」

    「それは……たいていのレストランはそういうものじゃないですか?」

    「俺はそれが嫌で、もっとたくさんの人を幸せにしたかったんです」

     

    「だから『店に立って料理する』以外にも、お客さんを楽しませる方法があるんじゃないかと思っていて」

    「ははあ。一体どうやって……?」

    「それで思いついたのが、『#おうちでsio』と名づけたレシピの公開だったんです」

     

    Twitter上で、唐揚げやナポリタンなどsioの人気メニューのレシピを公開。この活動をはじめてから、フォロワーも8000人以上増えたという。

     

    「ウチはレストランですが、みんな大好きな『唐揚げ』『ナポリタン』みたいな料理のレパートリーも多くて。だから今年の3月頃に『在宅ワークの人も増えてきたし、公開したら楽しんでもらえるかも』と、SNSでレシピを投稿し始めたんです」

    「すごく拡散されてましたよね」

     

    「o/sio」でも提供しているたらこのパスタ

     

    「『#おうちでsio』を見た大勢の人が、自宅でsioの料理を作ってくれていて。『美味しい』とか『幸せ』とかSNSで言ってくれているのを見ると、めちゃくちゃ嬉しいんですよ」

    「これって、お店で出している料理のレシピを公開してるってことですよね?料理人として嫌じゃなかったんですか?」

    「いいえ、それは全然。だって、唐揚げだってもともと別の人が考えたわけだし

    「それはそうですけど……」

    「レシピはあくまでベースでしかないですもん。『#おうちでsio』でもレシピをアレンジしてる人は多いです」

    「ああ、たしかに。『お父さんの焼きそば』みたいな、家族の味もそうやって生まれてるのかもしれませんね」

    「そうなんすよ。会ったことのない人が、たまたまSNSで見かけたうちのレシピで唐揚げやナポリタンを作って食べる。それって、家にいるのに『sio』を体験してることになりません? めちゃくちゃ興奮しませんか?」

    「それは面白いですね!」

     

    「『#おうちでsio』のハッシュタグが付いてる投稿は、全部見てるしリプもします。爆風スランプの『大きな玉ねぎの下で』を聴きながら夜に眺めてるんすよ……

    「そういう曲でしたっけ……?」

     

    店が潰れるより「料理人でいられなくなる」ほうが怖い

    「この厳しい状況に、怖さとかはないんでしょうか?」

    「ありますよ! でも、店にお客さんが来なくなると思って、一番怖かったのは『料理人でいられなくなるんじゃないか』ってことでした。正直、店が潰れるのは別にいいかなって

    「いやいや、店潰れたらスタッフさんも困るのでは?」

    「それが、あいつらも大丈夫って言うんすよ」

     

    「まあ、そうっすね。大丈夫っす」

     

    「急に後ろから自信に満ちた声が返ってきた」

    「あいつらはあいつらで、何とかなりますから」

    「みんなマジでたくましいな……」

    「そもそも、これから先は『お店で料理を食べる』って概念も、今まで通り残るかわからないんすよ。だからこそ自分が店に立つことよりも、自分が料理に込めてきた『イズム』を伝えていくことが大切じゃないかと思うようになって」

     

    丸の内にあるビストロ「o/sio」。「理想の食堂」というコンセプト通り、唐揚げやナポリタンといった大衆的なメニューが豊富。「#おうちでsio」の人気レシピの多くはここから

     

    東急プラザ渋谷内にある「純洋食とスイーツ パーラー大箸」は、その名の通り古き良き洋食が中心。おそろしく柔らかい「タンシチュー」や、固めのプリン「ととのうプリン」などが人気

     

    「この1年でオープンした『o/sio』『パーラー大箸』も、自分が店に立つのは重要視してないんです」

    「そこに鳥羽さんの考え方や哲学がちゃんと入っていればいい、ということでしょうか?」

    「そうっすね、そうすれば自分の料理は再現されますから。レシピ公開も同じで、たくさんの人に自分の『料理のイズム』みたいなものが伝わっていく。意識してたわけじゃないんですが、『厨房から去っても料理人として人を幸せにできるんだ』と気づきました。今の時代に必要な考え方だったんじゃないすかね」

     

    「sioではお弁当の販売も始めましたよね。あれも『よりたくさんの人にレストランを体感してもらう』目的で?」

    「弁当はちょっと違ってて。いま求められてるのって『日常』だと思うんですよね。日常が脅かされて明日が見えないからこそ、『明日も食べたいもの』があった方がいい。だから1000円の幕の内弁当を作ろうと思って」

    「なるほど。お客さんたちへの心配から生まれた、鳥羽さんなりのサービスだったと」

    「正直いうと、うちは客単価2万円のレストランなので、1000円の幕の内弁当って原価は全然つりあってません。お客さんを『喜ばせたい』って気持ちだけですね

     

    「sio」で提供している幕の内弁当(1500円)

     

    「心意気を感じます……!」

    「まあ、見方を変えると、弁当は普段『sio』に来れなかった人が『sio』を体感する最高のツールでもあるんすよね。『弁当でこれだけうまかったら、店の料理はもっとすごいのでは?』って、落ち着いてから食べに来てくれる人もいるんじゃないかなと」

    「こんな時でもポジティブだ。それも『生き延びた後』の世界を本気で考えてるからですね」

     

    海賊シェフが『生き延びた後』の目標は、ファミレスを作ること⁉︎

    イーアイデム

    この記事を書いた人

    乾隼人
    乾隼人

    1993年生まれ。兵庫県宝塚市出身。関西の出版社で、酒場とかイベント会場をかけずり回ってました→上京しました。飲食店のメニューばかり取り上げるInstagramをやっています。

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