こんにちは。ライターの井口エリです。

 

ちょっと皆さんに見ていただきたいものがあるのですが……。

 

はい、かわいい~。Little MOTHERHOUSEの、「IRODORI CHOCOLATE」シリーズです。

 

実はこれ、チョコなんです!

 

チョコレート自体もこんなにきれいなグラデーション

 

色・味・香りで日本の四季を再現したチョコは、「桜花(おうか)」「紫陽花(あじさい)」など季節にちなんだ言葉がついていて、見た目もすっごくきれい。

 

フレーバーも「ブルーベリー×ジンジャー(白銀)」「月桃×塩(蒼海)」など他ではちょっとお目にかからないような珍しいものばかり。そしてグラデーションが目を惹くパッケージだけではなく、中身の方も天然素材を使った綺麗な色になっています!

 

しかもこのIRODORI CHOCOLATEは、途上国の素材を使用し、途上国の生産者さんとともに作り上げているチョコなのです。可愛くて美味しいだけではなく、生産者の方にも優しい仕組みになっています。

 

そんな色鮮やかなチョコレートは、一部のネットユーザーの間では「概念チョコ」としても親しまれています。「概念チョコ」とはなんぞや? という話はまた後ほど。

 

全部で12種類のフレーバーがある板チョコレート

 

そして、このチョコを作っているLittle MOTHERHOUSEは、レザーのバッグや小物などを扱う「マザーハウス」のフード事業です。情報が、情報が多い……!

 

革製品とチョコって一見結びつかないですよね。

 

なぜ、革製品の会社がチョコを作っているのでしょうか……?

 

マザーハウスではマーケティング・広報と、フード事業の統括責任者をされている小田靖之さんに話を伺ったところ、マザーハウスの商品に込められた思いと、ものづくりへの熱意を知ることができました。

 

マザーハウスは何屋さんなのか

マザーハウス本店は秋葉原駅から徒歩4分ほどの場所にあります

 

秋葉原にあるマザーハウス本店にやってきました。店内には革製品にジュエリー、ジュート(黄麻)をつかった製品やそしてチョコなど、様々な製品が並びます。

 

「マザーハウスってレザーもあってジュエリーもチョコもあって……一体何屋さんなのでしょうか」

 

マザーハウスの小田靖之(おだ・やすゆき)さん。マーケティング・広報を担当、フード事業統括責任者でもあります

 

「何屋かというと『バッグ屋』が近いかなと思いますが、『途上国から世界に通用するブランドをつくる』を理念として、途上国の素材や職人の技術に光をあてたものづくりをしている会社です。今年で15年を迎えまして、最初はジュートの商品でした」

「ジュートって、どんな素材なんですか?」

「普段はコーヒー豆を入れる袋などに用いられる、バングラデシュの特産品です。弊社社長の山口がジュートの素材としての可能性を見出し、ものづくりをスタートしました」

 

ジュート素材のバックパックは見た目もさわやか

 

ジュートのバッグ。軽くて丈夫で、夏に持つのにもぴったりな素材感です! 実際に夏はジュートで冬は革と、季節で持ち分けるお客様もいるとか。それだけではなく、成長の過程において、綿などに比べて5~6倍の二酸化炭素を吸収する、環境にも優しい素材でもあります。

 

「遠く離れた途上国と一緒にものづくりをするのは、距離的な面とか文化とか言語とか……ここまで来るのは決して楽ではなかったと思います。どんな苦労があったのでしょうか」

「そもそも、僕たちはピンポイントで現場にたどり着くわけではなくて。社長の山口をはじめとするスタッフが現地へ行って、まるでRPGみたいに歩き回っては村人に尋ねながら、ものづくりの現場を探すんです」

「リアルRPG…!! なんでも事前に調べてわかることばかりじゃない……!」

 

マザーハウスのバッグは社長の山口さんがデザインし、バングラデシュの職人が現地の工場で生産している

 

「いい素材を見つけたけど、思い通りにものづくりができない現場だったりとか。それはなぜかというと現地の人とのコミニュケーションの仕方だったり」

「たしかに、国によって環境や考え方はきっと全然違いますもんね」

「僕たちが日本で過ごして当たり前だと思うことって、別の国では当たり前ではないことがたくさんあるんですよね。それは宗教上かもしれないし、食事かもしれないし、働き方や考え方かもしれない」

「たとえば具体的にどんなことがあったんですか?」

「バングラデシュには『ラマダン』という宗教的な断食をする期間があるんですが、その期間にお願いしたものの縫製が普段より雑になっている時があったんです。理由を突き詰めていったら、『ラマダンで食べていないから、いつも通りの縫製ができなかったのでは!?』となり……」

 

誰しも空腹は厳しい……

 

「ああっ、たしかに!! 誰しもおなか空いてるといつもの力を発揮できないですもんね……」

「万国共通の課題ですね(笑)。もちろん、普段から指示を明確に伝えるよう心がけてはいるんですけど、ラマダンの期間は特に丁寧にコミュニケーションを取ることを心がけたり、そのためのマニュアルを見直したりと、常に改善しつづけています」

「一度決めた改善案で進めるんじゃなく、改善をつづけることが大事なんですね」

「バングラデシュでも日本でも、価値観や環境、認識もどんどん変わっていきますよね。だから仕事をつづけるなかで問題が起きたら考えて、コミュニケーションの中で改善していくことが大事かなと。長い時間をかけて知って、変化していくものなので」

「何か特別なことをするというよりも、丁寧なすり合わせが大切」

「僕たちもいろいろな失敗を経て壁を越えていったことで、自分たちが実現したいことへの近道がわかってきました。それは自社工場を持つことであったり、スタッフを雇って工場を運営していくことだったり。試行錯誤はもちろん今もつづいていて、改善しなきゃならないことはたくさんあります。ものづくりの繊細さなどは、もっと商品に出していきたいと思っています」

 

チョコが誕生したきっかけはコロナ禍?

チョコレートについてお話をうかがっていきます

 

「もしかして、マザーハウスで使っている素材ってジュートがあって、革があって、ジュエリーがあってと、それぞれ途上国の素材を活かしているように、『インドネシアのカカオ』という素材を活かした結果がチョコだったという感じなのでは……?」

そうですね。途上国にはファッションアイテムとしての素材だけではなく、食の素材もたくさんあります。そうした素材、そこから作られるものの可能性を広げていくことがマザーハウスとして前提にあるのですが、IRODORI CHOCOLATE誕生の背景には、この現在のコロナ禍がありました」

「チョコのきっかけはコロナ禍だった……?」

「このコロナ禍で、閉店する店舗が出たり、昨年5月にはすべてのリアル店舗がクローズになる状況が発生しておりました。そんな苦しい状況下でもマザーハウスを継続させていくため、そして、マザーハウスをさらに多くの方々に知ってもらうひとつの切り口として、フードの事業を立ち上げました。そこで見出した素材がインドネシアのカカオだったのです」

「お恥ずかしながら、今まであんまりインドネシアにカカオのイメージがなかったです……!」

「日本ではガーナが有名かもしれませんが、実はインドネシアって、カカオの輸出量が世界第3位なんです。ガーナが2位なので、その次に多い」

「まさかのガーナの次点!」

「ただ、今までは発酵技術が発達していなかったんです。カカオは発酵技術がちゃんとしていないと、チョコレートがしっかりしたものにならなくて」

「ただ生産量が多いだけじゃ難しいんですね……」

「そこで、元々お付き合いがあるダリケーさんという京都のショコラブランドに協力していただき、一緒につくらせていただいています。ダリケーさんはインドネシアのカカオを使ったチョコレートを作られていて、すでに技術や知見をお持ちで、我々と同じように思いをもって生産から販売までやっているというところで親和性と理解がありました」

「インドネシアのカカオ、これから注目の素材ですね……!」

 

カカオはガーナだけじゃないんですね

 

「途上国にあるカカオもまだまだ広がりを作れそうなものだと思っていたので、インドネシアのカカオにはすごく可能性を感じていました。それをどういう形でマザーハウスらしく表現できるかという所のプロセスは結構時間かかりましたね」

「マザーハウスらしく?」

「たとえば色や味付けのためにどんな素材を使うか、『おいしいけど、はたしてこれはマザーハウスらしいのか?』と考えながら、議論とトライを繰り返しました。おいしいだけなら、我々が作る以外にたくさんありますから」

「実際、チョコきっかけで新規のお客様は増えましたか?」

「今まで来てなかったような10代くらいの方もチョコを買いに来てくださるようになりました! レザーバッグは3万とか4万とかするので、学生さんは買いにくいかもしれません。でもチョコレートだったら1枚からでも買いやすい。結果的に、チョコがマザーハウスを知ってもらう入り口にもなっています」

 

チョコレートは1枚1,296円(税込)と比較的リーズナブル

 

「見た目もかわいくておいしいという理由で入って、途上国の素材を使って作ったものが、結果的に多くの人に伝わっているんですね。素敵な流れです」

「15年マザーハウスを運営してきて、今までフォーカスされるのはファッション性よりも社会的なメッセージが強かったんです。今もその部分は大事にしていますけど、『社会的な課題があるから』という理由だけで、ずっと買い続けるのも難しい話ですよね」

「たしかに」

「だから純粋にデザインとか、チョコの場合は味とか、そういう理由で買っていただくのは僕たちとしてもありがたい話です」

「自分がいいなと思って買ったものが、社会にも良いものだと思うと、余計に良いものに思えます!」

 

推し活にも使える?「概念チョコ」としての面

12種類、どれもきれいなグラデーションです

 

ちなみに、IRODORI CHOCOLATEはSNSで「概念チョコ」と呼ばれていることがあります。

 

オタクや推し活をしている人の使う「概念」は、“色や模様などがキャラクターや作品を想起されるもの”(概念)というニュアンスの言葉です。なので「概念チョコ」というと“キャラクターや作品を想起することができる”チョコという感じの意味になります。

 

実は筆者がIRODORI CHOCOLATEの存在を知ったのは、一部でこうした概念チョコとして話題になっていたからでした。こちら、マザーハウスの方では認知しているのかというと……。

 

「(概念チョコの説明を聞いて)あーーー!! 認識としてはしています!」

「そうなんですね!?」

「IRODORI CHOCOLATEに紫陽花というチョコがあります。ピンクと水色のグラデーションで、ラベンダーとブルーベリーのフレーバーのチョコなんですけど……」

 

ピンクと水色のきれいなグラデーションで、フレーバーはラベンダー×ブルーベリー

 

「それが今年の3月、急にたくさん売れたんです。紫陽花ばっかり売れて、『なんでこんなにこればかり売れるんだろう?』と不思議に思っていたら、たまたま韓国のアイドルのテーマカラーと紫陽花が似ていたということが分かった。ファンの方々が投稿をリツイートしてくれていたみたいで」

「紫陽花が、そのアイドルのファンの方にとってグループを想起する『概念チョコ』になったわけですね……!」

「つい最近も、とある事務所に所属するアイドルの方にブログでご紹介頂いて、ファンの方々がチョコレートを買いに来てくださいました」

「(ブログを見て)CDジャケットの色と似ていて思わず買ってしまった的なことが書いてありますね。他のメンバー分もお土産で買っていってるかも……。皆さん、チョコの美しいグラデーションにはそれぞれいろんなものを思い浮かべるんですね!」

「あとはジュエリーの『SHIZUKU』というシリーズがあるんですけど、これは自分で好きな色と石の意味で選べるジュエリーなんですね。これも数年前のクリスマスぐらいにかなり売れました。その時も、『推し色を自分で決められるアクセサリー』としてSNSを中心に多くの方々が話題にしてくださっていたみたいです」

 

ネックレスだけでなく、ピアスやリングなどの石をカスタマイズできる「SHIZUKU」シリーズ

 

「それぞれが思う『概念』が見出せるというのは、やはり素材と色の持つ力だと思いますねー!」

「色の話でいうとIRODORIシリーズには『紫陽花』をはじめ『桜花』、『松雪』、『夜風』――日本の四季と連動した言葉がつけられています。色だけじゃなくそういう情緒的な要素も、日本人の気質には合うんじゃないかなと思います」

 

もうひとつの「コロナ禍だからこそ」生まれた商品

「IRODORI CHOCOLATEはコロナ禍だったからこそ生まれた商品ですが、このご時世で生まれた商品はもうひとつあります。最近発売した、『革のハガキ』です」

 

中に小物を入れられて、本体に直接メッセージを書ける「革のハガキ」

 

「社長の山口がコロナ禍に出産した経験のなかで、『なかなか思うように人に会えない状況でも、自分たちのレザーを使って思いがこもったものを贈りたい』と思い、生まれたものです。トライアンドエラーを重ねて、油性ペンでも書けるし、フリクションで書いても消せるようになっています」

「これもグラデーションが入っていてきれいだし、『いいもの』感があります。ポケットが付いている」

「はがきってそんなにしっかり文字を書けないから、別でお手紙を中に入れて送ったりとか。スタッフに聞いてみたらイヤホンを入れたりとか、花の種を入れて送ったりとか」

「花の種、ロマンチックですね……」

「たとえば送る相手が眼鏡をかけているお父さんだったら、メガネ拭きを入れてちょこっと送ってあげるとかもいいと思います。重さで料金が変わりますので郵便局の窓口から送るのが確実だと思いますが、こちら切手を貼ってポスト投函ももちろん可能です」

「IRODORI CHOCOLATEも革のハガキも、コロナ禍だからこそ生まれたものだったんですね……」

「ふたつともこのご時世だからこそ生まれた商品なので、そうではなかったら生まれてなかったかもしれません。飲食店も小売りも難しい状況にあるなかで、僕たちができる最大限は何なのかと、今もこれからも考えながらやっていく中で、時代を反映する特徴的な商品だと思います」

「小売りが厳しい状況でも、挑戦して時代を反映した商品を生み出す姿勢、素敵です! これからの展開も楽しみです」

 

おわりに

バングラデシュで作られる革製品のほかに、ネパールのストールなども

 

コロナ禍で小売りが厳しい状況が続いていましたが、そんな中でも新しいアイディアが生まれ、途上国の職人とともに作ったプロダクトは形になり、いろんな人の手に渡っていました。マザーハウスのプロダクトは、作っている人や関わっている人のことが見えやすく、商品自体にも温かみを感じます。

 

このタイプじゃないですが、筆者も革のバックパックを愛用しています

 

もともとマザーハウスのバックパックを愛用していた筆者。購入したきっかけは社会性のあるメッセージではなく、機能性やデザインに惹かれたものでした。そうして買ったものが、自分が嬉しいだけじゃなくて結果的に途上国で働く職人や、それに関わる人たちにとっても良いものだと思うと、買い物がよりハッピーな行動に感じます。

 

自分がうれしいだけでなく、社会的にもちょっと良かったりする買い物はこれからもどんどんしていきたいと思いました。なによりも自分が気持ちがいいので……。

 

編集:鈴木梢
撮影:藤原慶