こんにちは。ライターの日向コイケと申します。

季節は春。進学や就職でなにかと忙しい時期ですが、新生活に向けて引っ越しを考えている人も多いのではないでしょうか。

 

さて、みなさんは都内で一人暮らしをするなら、どんな家に住みたいですか?

 

オートロック付きマンション? 庭付き一軒家? 駅からは徒歩5分で日当たりは良好、浴室乾燥機とシステムキッチンが完備……と、人の欲望は尽きることない一方で、現実にはなかなか自分の理想通りの物件には住めないのが世の常ではないでしょうか。

 

そんな僕はと言いますと、昨年の11月から、築50年超えの「風呂なし四畳半アパート」に住んでいます。

 

この話をすると大抵蔑むような目で見られるのですが、最初にこれだけは言わせて下さい。

 

風呂なし四畳半、めっちゃ豊か!!

 

「LESS is MORE」とはよく言ったもので、限られたスペースの居住空間で暮らすからこそ感じる豊かさに、この半年近い四畳半での生活を通して気づいてしまったのです。

 

とはいえ、大は小を兼ねる的な価値観がまだまだ一般的なこの世の中。

今回はその中でも、特に理解を示さない会社の先輩・友光だんごさんを家に呼んで、風呂なし四畳半の魅力を伝えたいと思います。

 

「わざわざ四畳半を見に呼びだされた……」

「いや、それが意外と快適なんですって」

「風呂なしトイレ共同でしょ? いやだなあ……」

「家の前まで来てごねないでください! とにかく入りましょう」

 

相場の半額以下!なんといっても家賃が安い

「せっかく来たから聞きたいんだけど、日向くんが思う四畳半の魅力ってなんなの?」

「よくぞ聞いてくれました。色々と伝えたいことはあるんですが、まず、ずばり言って『家賃の安さ』ですね。この部屋の家賃は2万9000円です

「え、やっす!」

「僕の住んでいるエリアのワンルームの相場が6〜8万円と考えると、その半額以下です。それに部屋が狭い分電気代も安上がりなので、水道代やガス代といった諸々含めても、毎月大体4万円くらいですね」

「へ〜、都内でその値段は破格だね」

「そもそも東京は家賃が高すぎるんですよ! 人によっていろいろな事情があるとは思うんですけど、月収があんまり変わらないのに月8万円の家に住んでる友達とか見ると、『普段霞でも食べて生活してるの?』って心配になっちゃいます」

「たしかに都内だと六畳ワンルームで家賃8万円とかは普通にあるよね。ここの間取りはどんな感じなの?」

「図にしてみました」

「めっちゃシンプル。じゃあ交通の便はどうなの? 都内でひとり暮らしを考えてる人にとっては、そこが重要になると思うんだけど」

最寄り駅まで徒歩で5分くらいですね」

「そんな近いんだ!」

「渋谷まで電車で30分くらいなので、個人的にはちょうどよい距離だと感じてます。羽田空港までも15分くらいですし」

「羽田が近いのはいいなー!」

「駅近物件って、どうしても家賃が高くなるじゃないですか。でも、たった1.5畳とバス・トイレを削るだけで、全然見える世界が変わってくるんですよ」

 

「『わかってる感』のある顔、腹立つなあ……」

「家賃が浮いたぶん趣味にお金をかけられるし、何より気が楽ですよね。もし万が一会社がクビになっても、2万9000円だけ稼げば雨風はしのげるわけですから。一日バイトで貰えるお金が8000円だとしたら、4日間働けばとりあえずセーフじゃないですか」

「めっちゃ最低限のハードルが低い。何がセーフなのか分からないけど、精神的には楽なのは確か」

「あと、なにか大きな買い物で悩んでいるときも『俺は2万9000円の家に住んでるんだ!!』と思えば、罪悪感が薄まるのも四畳半暮らしの良いところですね。まあ、そのおかげで浪費しちゃって、家計は毎月火の車なんですけど」

「それじゃダメじゃん」

 

大事なのは思い込み?街は部屋の外部ストレージ

「家賃の安さは十分伝わったんだけど、やっぱり四畳半って色々足りないイメージがあるんだよね。部屋が狭いってことは置けるものも限られてくるでしょう? 見た感じテレビもないし……洗濯はどうしてるの?」

「もっぱら近くのコインランドリーですね。というか、ちょっと目線を部屋の外に向けると、意外といろいろな機能が街に落ちてることに気づいたんですよ」

「街に落ちてる? ちょっと何を言ってるかわからない」

「僕の普段の生活の様子を写真に撮ってあるので、見せながら説明していきますね。じゃあ、まずこれは何に見えますか?」

 

「なんの変哲もない公園に見えるけど」

僕にはここが『五十畳の書斎』に見えます

「いやいやいや……ただの公園じゃん」

「違います、書斎です。ここは隣に図書館が併設していて、晴れた日にベンチに座って本を読むと、すごい気持ちいいんですよ」

 

「(全然ぶれないなこいつ……)次を聞こうか」

「近所の商店街にあるお肉屋さんは、その日の献立を伝えると、それに見合ったお肉をこしらえてくれるんです。これってもはや自分専属の献立コンシェルジュと言っても過言ではなくないですか?」

「さすがに過言だと思うよ」

「あと駅前に24時間営業のジムがあって、そこのランニングマシーンにはテレビがついてるんですよ。運動しながらテレビ見れるの、めっちゃ合理的じゃないですか? しかもそのジム、水素水を無限に飲めるサーバーが置いてあって、僕はそれを『泉』と呼んでます

 

「泉……森の住人が言うセリフ」

「それ以外にも、ファミレスは仕事部屋、コンビニは冷蔵庫、図書館は本棚……と、言い出したらきりがないくらいで。そうやって部屋の外に機能を拡張していくと、部屋の中に絶対必要なものって実はそんなにないんですよね」

「物は言いようすぎる。でも、僕の好きな坂口恭平さんが『都市型狩猟採集生活』って本で似たようなこと言ってたな」

「確かに、ほぼ感覚は『狩猟採集』ですね。要は、街にある施設を勝手に自分の持ち物だと定義して、その道中を渡り廊下だと見立てたら、一気に街が部屋の一部に見えてくるんですよ大事なのは思い込んで、信じることです」

「最後は精神論なんだ」

 

『風呂がない』じゃない、銭湯があるんだ

「日向くんが変なやつってことはわかったけど、でもやっぱり風呂は部屋に欲しいなあ。朝起きてシャワー浴びたくなったりしない?」

「それは確かに。ジムに行けばシャワーは浴びられるんですけど、それすらも億劫な時はあって。でも実はちょっとの工夫でシャワーも代用が効くんです」

「どういうこと?」

「見てて下さい。まずヤカンをコンロにかけて、お湯が沸いたら、水と一緒にたらいに注いで適温にします。そうしたら服を脱いで……」

 

 

「ふぉーーー!きもちーーー!」

 

「おれ帰るね」

「ちょ、ちょっと待って下さい! さすがにこれは極端すぎるかもしれませんけど、実は僕の住むエリアには徒歩圏内に10軒以上、銭湯があるんです」

「へー、そんなにあるんだ!」

「銭湯って場所ごとに雰囲気や機能が全然違って面白いんですよ。サウナや露天風呂があったり、朝風呂をやっていたり、その日の気分に合わせて選べますし」

「それは楽しそう。部屋に風呂がついてても、面倒な時はシャワーで済ませちゃうからなあ」

「そうなんですよ。反面、風呂なし物件はお風呂に入りたかったら銭湯に行くしかないから、自ずとお湯に浸かることになるわけで。風呂なし物件に住んで銭湯通いが習慣づいてから、心なしか肌ツヤがよくなったような気もします」

「ヒゲ面で肌ツヤを力説されてもなあ。というか」

 

「とりあえず服着ようか」

「はい」

 

四畳半生活のデメリットは?

「ここまで散々メリットを力説してきたけど、風呂なし四畳半の『ここは嫌だ』って部分はないの?」

「んーーー、唯一気になることと言えば、キッチンの狭さですかね。僕は結構自炊するので、電子レンジとかが置けないのはちょっと不便かもしれません」

 

「これは相当に狭いなー!」

「でも、ちょっと不便な方が工夫しがいがあるというか。ジップロックに入れて鍋で湯煎すれば、大抵のものは温まるんですよ」

「サバイバルしてる人のセリフじゃん。お惣菜とか難しくない?」

「あ、外に大家さんがいる。おーーーい!」

「話聞けよ。というかすごいフランクに呼ぶね」

 

「やあ日向くん。どうもどうも」
「せっかくなんで下に降りて、大家さんにも話聞いてみましょうか」

 

「いま先輩に四畳半の魅力を語ってるんですけど、なかなか理解してもらえなくて。大家さん的に、27歳の男が風呂なし四畳半に住んでることをどう思ってるんですか?」

「いやぁ、嬉しいよ。ここは50〜60代の入居者が中心だから、若者がいると元気が出るね。でも、ここは俺のおふくろが50年前に建てた建物なんだけど、40年前くらいは20代の人もたくさん住んでたんだよ

「へえ〜! 昔はこういう四畳半のアパートは多かったんですかね?」

「そうだね、当時はむしろ一般的な間取りだよ。昔のドラマとかを見ると、よく四畳半の部屋が出てくるじゃない」

「南こうせつの『神田川』の世界ですね。『当時は』ということは、やっぱり今は四畳半の風呂なし物件って減っている……?」

減ってるね。今の部屋はやっぱり、最低でも6畳だよね。風呂とトイレもみんな部屋に付けるのが主流だし。昔は銭湯もいっぱいあったんだけど、風呂なし物件が減るのと同時に需要がなくなって、どんどん廃業しちゃってるみたい」

「なんでそうなったんですかね?」

風呂トイレ付きのほうが大家の手間が少ないんだよ。当たり前だけど、部屋の掃除は住人に任せてほっとけばいいでしょ? でも四畳半の物件はトイレとか廊下とか共用部分が多いから、そこの維持管理は大家がやらないといけないの」

 

「たしかにいつもトイレがピカピカだなと思ってたんですけど、あれは大家さんのおかげだったんですね」

「そうそう。それにこういうアパートは短期間だけ住みたいって人の需要もあるから、入れ替わりも多くて。そのたびに掃除したりリフォームしたり、大変なんだよ」

「大家さんって、家だけ貸せばあとは不労所得がガッポガッポで羨ましいなぁって思ってたんですけど、意外とやること多いんですね」

「きみ、まったく言葉を選ばないね」

「すみません。そういえば、ここの家賃ってなんで2万9千円なんですか? この立地なら、もっと値段を上げても入居したい人がいると思いますよ」

「いいんだよ。オレももう70歳だし、お金はそんなにいらないの。それよりもこの建物を気に入ってくれて、永く住んでもらえる方が嬉しいからね。だから日向くんもずっと住んでよ」

「めちゃ嬉しいこと言うなぁ。僕、たぶん結婚するまでこの家に住み続けますよ。それくらい気に入ってます」

「ははは、結婚しても住んでよ」

「(それは無理かな〜〜)」

まとめ

 

さて、風呂なし四畳半の暮らしぶりはいかがでしたか?

 

四畳半に限らず、全てが完璧に揃った部屋に住むことはなかなか難しいと思います。そんな中で一番大事なのは「限られた状況の中で、いかに目の前のものを面白がって受け入れるか」なのかもしれません。

 

この記事が家を探している人の参考になれば嬉しいです。

それでは良き四畳半ライフを。