2021年12月某日、都内、夜。

「いやあ、今日も疲れた……」

 

こんにちは、ライターのはるまきもえです。

 

仕事を終え、湯船に浸かっていたある日の夜。

 

ガタガタ……。

 

「あっ、地震だ」

 

家は私ひとり。もちろん裸。時間はど深夜。

 

「揺れてる! とりあえず服着なくちゃ……、いや、とにかくドア開けて逃げ道確保!?」

 

そうこうしている間に、それほど大きくなかった揺れは収まってきました。

 

でも、もしこれが首都直下地震だったら。私はいったいどうなっていたんだろう?

生きている間に大きな地震に遭遇する可能性って、もしかしたらけっこう高いのでは?

 

そう考え始めると、背筋が凍りました。

 

お風呂に入っているときに地震がきたらどうしたらいいんだ?

 

私は、生き残れるのだろうか。

 

今からでもどうしたらいいのか知っておかなくちゃ。私はまだ死にたくない!

 

小野さんに聞く、「地震の考えかた」

 

助けを求めたのは、防災アドバイザーの小野修平さん。学校や施設での講演活動、被災地支援などを行っている、防災この道7年のスペシャリストです。

 

「小野さん今日はよろしくお願いいたします! 私、この間お風呂に入ってるときに地震にあったんです。そういうちょっと特殊な状況のときに地震が起きたら、どうしたらいいのか全然分からなくて……。助けてください〜〜〜〜!」

「入浴中の揺れは焦りますよね。まずは転んだりしないように、落ち着いて服を着てください。浴室は滑りやすいところなので、足元は特に注意してくださいね」

「ええと、まず服を着て、転ばないように……。あ、ドアも開けておかなくちゃいけませんよね!?」

「とりあえず落ち着いてください。はるまきさんは、地震が起きたらどうしたらいいのかがわからなくて焦っているようですが、それよりもまず知らなくてはいけないことがあります」

「と、いうと?」

「地震は、普段からどれだけ準備ができているかで、生き残れるかが決まるんです」

「準備、ですか」

 

最悪を想定して準備しよう! 〜生き残る編〜

「生き残るための準備と聞いて、はるまきさんはまず何を思い浮かべますか?」

 

「えーと、保存が効く食料を家に置いておく。とかですかね? あと水も!」

「それも大切なのですが、まずは生き残ることを考えましょう。そして生き延びるために、食料や水は必要になってきます。これから話すことはすべてこの2つにつながると思ってください」

 

「なるほど。まずは生き残らないと、食料どころじゃないですよね」

「では、生き残るためにはどうしたらいいと思いますか?」

「ケガをしない……?」

「大正解! 生き残るには、とにかくケガをしない、死なないように行動してください」

 

「ケガをしないように家具を固定をする。とかはよく聞きますよね!」

 

「そうですね、本棚や食器棚が倒れてこないように固定ができればそれがベストです。でも、固定しても倒れてしまう可能性も十分あります。また、賃貸だと家具を壁に固定するのはなかなか難しいですよね」

「ええ、じゃあどうすればいいんですか?」

「防災は常に最悪の状況を想定して動くことも大切です。家具でいうと、もし倒れてきてしまってもケガをしない場所に設置することをおすすめします」

 

「固定したからって、安心してはいけないんですね」

「そうですね。あとそもそも住む家なのですが、1981年の6月以降に建てられた『新耐性基準』の物件や、それ以前でも耐震補強された物件を選びましょう」

 

新耐性基準?

「新耐性基準に基づいて建設された物件は、震度6強や震度7の最初の揺れで倒壊しないように作られています

 

「じゃあ築年数が40年以上経つ建物は、1回の揺れで一発アウトになるってことですね……。怖い」

「ですが、『新耐性基準』に基づいて作られた建物でも、震度7が2回あった熊本地震では大きな被害を受けました。ですから、最初の揺れが収まり、2回目の揺れが来るまでに、とっさの判断と正しい行動ができるかも大事ですよ」

 

先入観を捨てて、リアルな想像をしよう 〜生き延びる編〜

「さて、揺れに耐えてひとまず生き残れたとします。ここからは、生き延びていかなくてはいけません。ちなみにはるまきさんは『避難所』『避難場所』の違いを知っていますか?」

「何が違うんですか?」

『避難所』は、家が崩れたりして生活が困難な人が暮らすための場所です。『避難場所』は、身を守るために逃げる屋外などの安全な場所のことを言います」

 

「『とにかく避難しなきゃ!』という思考を持っている人が避難所に集まってしまうと、生活をしていくのに困っている人たちが使うための場所がなくなってしまうんですよ」

「そんな違いがあったんですね……。今まで何かあったら、避難所に行けばなんとかなると思っていました」

「あと、避難所は生活できる場所なだけであって、その建物が安全かどうかはまた別の話です。それが避難所と避難場所の違いですね。自分の生活圏内のどこに避難場所と避難所があるのかは、『ハザードマップ』や『帰宅支援マップ』で、事前に把握しておきましょう」

 

ハザードマップ?

「そうです。災害が起きたときに危険が高い場所であったり、災害時に役立つ施設などを確認することができます。日頃から確認しておくことが大切ですね」

「地図で予測が立てやすくなるんですね! 自分の家と職場の周りは目を通しておこう」

 

「最初に答えた非常用の食料やお水は、このあたりから役に立ってくるんですかね?」

「そうですね。ちなみに、はるまきさんは水道が使えなくなったときに、トイレに行きたくなったらどうするつもりですか?」

「えっ」

 

 

「水と食料は用意している人も多いのですが、トイレは意外と忘れがちです。水道が止まったらもちろんトイレも使えなくなりますからね」

「これ、携帯用トイレですよね。こんなにコンパクトなんだ! 知らなかった。これならカバンに入れておいても、邪魔にならないですね」

 

「食料だと、こんなものがおすすめですね。2〜3日分は持っておくと安心です」

「非常用食料ってなぜか乾パンのイメージでした。でもこういうのでもいいんですね!」

「乾パンを何日も食べ続けるのって辛くないですか? 乾パンじゃなければいけないなんて決まりはないので、こういったものでも大丈夫です。封を開けたらすぐ口にできるものがいいですね」

「ラムネも常備しておいた方がいいんですか?」

 

これは僕が好きなだけです(笑)

「あ、なるほど(笑)」

「好物が1つあってもいいかなって(笑)。あとは『ローリングストック』と言って、缶詰やパスタ麺など、常に家に何か食料がある状態を保つのも対策の1つですね」

 

 

普段からのコミュニケーションが鍵 〜室内での対策編〜

「では実際に地震が起きた場合ですが、はるまきさんならまず、どんな行動を取りますか?」

「これは自信ありますよ、学校で習ったし。机の下に潜ります!」

「避難訓練で教わっていますよね。ちなみにはるまきさんの家の机は、上から本棚が落ちてきても大丈夫なくらい、頑丈なものでしょうか?」

「えっ」

「避難訓練と同じことをすれば本当にケガはしないんでしょうか? そもそもその机ははるまきさんを守れるほど頑丈ですか? 先入観で判断せず、もっとリアルな状況を想像して、対策をしていきましょう

 

「なるほど。まずはその机が、上から物が落ちてきても大丈夫なものかどうかを判断してから行動をとるべきなんですね」

「そうですね。そのうえでその机などの下に潜り、動かないようにしっかりと脚を持つ。あとは、もし丈夫な机などがなければ、素手や近くにあるもので頭を守り、いわゆるだんごむしのポーズをするという方法があります」

 

「あと、よくあるのですが、このダンゴムシのポーズは間違いです」

「えっ、私が知っているダンゴムシのポーズはそんな感じでしたけど」

「正しくは……」

 

「こんな感じ。頭を守るときは、必ずこのように後頭部に手を置いてください。ケガをしないという点で、頭を守ることは1番大切です」

「全然、リアルな想像ができていなかったなあ」

「防災に対する先入観の問題は、はるまきさんだけの話ではありません。本当に身を守れるような防災の考えかたは、まだまだ浸透していないのが現状です」

 

「リアルな想定かあ……。地震が起きたら、火災が発生するイメージが私の中であるんですけど、そのときの対策方法も教えて欲しいです!」

「はるまきさんは、すぐそばで火事があったらどうしますか?」

「大きさにもよるけど、めちゃくちゃ燃えさかってたら逃げると思います……」

「あまりにも大規模であれば避難するのが正解ですが、火災が起きたら消火することも考えましょう。火は自力で消せるまでのタイムリミットがあるので、とっさの判断が重要です」

「タイムリミット?」

「消火器を使って消せる火の規模は、火が天井に着くまでです。それまでに消火できないと、火はどんどん周りに燃え移り、被害は大きくなってしまうんですよ」

 

「早めの判断が生死を左右しますね。ちょっとずつリアルな状況を想定できるようになってきたぞ。いざというときは私がみんなを守らなくちゃ!」

 

「いい心がけですが、はるまきさんが家にいないときに地震が起きたら、家族はどうなるのでしょうか?」

「そ、それは……」

「ひとりだけ防災意識が高くても、家族全員の生存率は上がりません。自分がいなくても最低限の行動は各自ができるように、事前に話し合っておくのも大切です」

「家族や周りとのコミュニケーションが、ここで効いてくるんですね」

 

「乳児や高齢者が家族にいる家庭は特にそうですね。赤ちゃんのミルクを作るのに必要なものは何か、消毒には何を使うのか。おばあちゃんおじいちゃんはいつもなんの薬を何個飲んでるのか。みんなが把握できていないといけません」

「わかりそうで答えられない! 意外と自分の家族のことって知らないかも……」

「自分が助ければなんとかなるという考えは危険です。『揺れたらここに集まってね』という程度でもいいので、最低限できることはやってもらいましょう」

「全員が意識を持つことが大事なんですね」

 

もし外出時に揺れが起きたら? 〜出先の対策編〜

防災の基礎について教わったところで、実際の街並みを見てみることに

 

「話を聞いたあとだと、街を見る目も変わってきますね。なんだかすべてが危険なものに見えてきます」

「出先の場合ですと、比較的安全な場所はこんなイメージですね」

 

「どうしてここは安全なんですか?」

「道が広くて、危険なものも少ないですからね。ものが少なくて、開けたところは比較的安全な場所だと判断しても大丈夫です」

「逆に、危険な場所ってどんなとこですか?」

 

「あっ、こういうところは危ないですよ」

 

「基本的にガラス張りの建物や室外機、看板、ブロックは割れたり落ちてきたりするので危険ですね」

「都会の高層ビル群とか、ガラスが割れたら大変なことになりますね!」

「逆に新しいビルのガラスなどは耐震性のあるものが使用されているので、割れにくいんです。築年数が経った建物が密集している繁華街の方が、危険度は高いですよ。看板なども雑多にあるので」

 

「あと、こういったブロック塀は倒れてくることがあるので気をつけましょう。外出先では『倒れる』『落ちる』『割れる』『移動する』ものが危険な4原則です!」

 

「倒れてくるものでいうと、意外と知られていないのが自動販売機です。足が地面に直接打ち込まれていないタイプのものは、間違いなく倒れると思ってください」

 

「このタイプは危険ってことですね!」

 

「歩いているときの対策はわかったんですけど、たとえば電車に乗っているときや、車に乗っているときはどうしたらいいですか?」

「電車やバスに乗っているときは、基本的に係員さんの指示に従ってください。無闇やたらに動くとケガをしたり、電線やレールで感電したりなんてことになってしまう可能性もあるので」

「なるほど。では、自分で車を運転しているときは、そのまま乗って逃げてもいいんですか?」

「もし車の運転中だったら、そのまま脇に寄せてエンジンを切り、ロックはせずに離れてください。車に乗っているとなかなか手放しづらくなる気持ちもわかるのですが、これは法律で定められていることなんです」

「車に乗っていると逃げやすいし、守られている感じがするから、なかなか手放せない気持ちもわかるなあ」

 

「ここまでお話を聞いてきて、防災のイメージが少し変わった気がします。リアルな状況を想像して行動することが大切なんですね」

「避難訓練などで防災を理解したつもりになってしまいがちですが、本当にその状況に遭遇したときに、果たして生き残ることができるのか。今、一度自分に問いかけてみてほしいと思っています」

「想像以上に、『こうやって教えられたからこうやれば大丈夫でしょ』という、防災への先入観があるんだなってことに気付かされました」

「その気づきを持ってもらっただけでも、うれしいです。自分のできる範囲で、防災への意識を高めていきましょう!」

 

おわりに

 

今回は、小野さんに地震が起きる前にする準備、そして起きてからの行動についてお伺いしました。

 

防災について意識を持つことは大事なのはわかっているけど、目まぐるしい日常を送る中で、後回しにしてしまっている人も多いと思います。

 

しかし、自分だけじゃなく大切な人の命を守るためにも、改めて災害の怖さを正しく知りつつ、防災の知識を身につけましょう。

 

行動に移すのは今からでも遅くはない。私も携帯用トイレをカバンにそっと忍ばせて、明日から仕事に行ってきます!

 

編集:くいしん