小学生のとき夢中になった平成のインターネット文化が、今の働き方の原点になっている

 あべし
キラキラサイトに欠かせなかった加工画像

2000年代に個人サイトを作成していた小学生〜高校生女子ならきっと懐かしさでむせび泣くはず

初めてインターネットの世界に触れたのはいつですか?

今では当たり前にみんなが使うようになったインターネットですが、2000年代前半ごろにインターネットを嗜んでいた女子学生の間では「キラキラサイト」と呼ばれる独特のインターネット文化が醸成されていたそうです。

当時、宮城で小学生だったあべしさんも、キラキラサイトに熱中した一人。自分で自分のサイトを作る楽しさだけでなく、インターネットで居場所を得る体験などが、現在のキャリアにもひも付いているそうです。当時のことを知っている人にとっては「懐かしい!」と感じるエピソードのほか、知らなかった人にとっても「こんな世界があったのか!」と驚くようなあべしさんのインターネットの思い出と現在のキャリアとの関係について寄稿いただきました。

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平成も終わりを迎える間際、青春時代をインターネットと共に過ごしたみんなが「#インターネット老人会」のTwitterハッシュタグで、自分が歩んだインターネットの歴史を振り返っていた。

小中時代にインターネットにハマり、現在は都内のIT企業でWebディレクターをしている私、あべし(id:abeshiiii)のインターネット史の中で重要なワードは「ふみコミュ」「PictBear」「相互リンク」「オートリンク」

ガラケーもなかった時代に個人サイト作りにハマっていた方、中でも個人サイト全盛期にティーンだった現在20代後半〜30代の女性にとってはこれらのワードを懐かしく感じる方もいるのではないだろうか。

これは、2000年代初頭にインターネットを嗜んでいた女子小学生〜高校生たちが夢中になっていた、インターネットの世界を表すキーワード。当時のインターネットガールたちの凄まじい熱狂は、現在の私のキャリアに大きく関わっている。

女子学生が、HTMLベタ打ちで個人サイトを作っていた時代

SNSがまだ浸透していなかった2000年代中盤ごろまでは、インターネットの楽しみ方といえばSNSの個人アカウントの代わりに「個人サイト」ーー管理人として、自分が運営するホームページを作るのが一般的だったように思う。アカウント登録一つで開設できるSNSと違って、レンタルサーバーを借りてHTMLを打ったり、画像を借りたり、作ったり......手間はかかるが、自分だけの城を作っていく楽しさがそこにはあった。

個人サイトには「テキストサイト」「シンプルサイト」「素材サイト」のようにざっくりとした種類があり、その中には「キラキラサイト」と呼ばれる、女子小学生〜高校生たちによる、キラキラでデコデコな、かわいいサイトを作ったもん勝ち!な世界が存在していた。

「キラキラサイトってなんやねん」と思う方がほとんどだと思う。諸説あるが、女子学生向けコミュニティ&HPランキングサイト「ふみコミュニティ」に生息する女の子同士のBBS*1交流を中心とし、そのサイトのデザインは冒頭のようなキラキラかわいいものだった*2

素材モデル*3の写真やフルーツやハートをキラッキラに加工して作られた画像を用いたサイトデザインが最大の特徴で、同時にサイトの強さの指標でもあった。とにかく女の子の心を揺さぶるかわいくて世界観のある加工画像が人気。

顔も名前も知らない女子学生たちがBBSに書き込みをし合って仲良くなったり、日本中の女子小中高生のたわいもない日常の日記を読んだり。大人に隠れて女子だけで作り上げた世界がふみコミュニティを中心に広がっていた。

キラキラサイトに欠かせなかった加工画像

超有名でカリスマ的存在だったキラキラサイト「HoneyDrop」の管理人・ミスズさん(当時は中二!)にお借りした画像。現在は、当時の経験を生かしてフォトグラファーをされています

宮城の閉鎖的な団地で退屈な暮らしをしていた私にとってインターネットとの出会いは衝撃的で、小学校から帰ってきた後に親から怒られるまでパソコンから離れない生活を続けていた。

リアル生活ではちょっとパソコンが得意なだけの無難な女子小学生だった。チャットで何気なく使った言葉を指摘され、初めてそれが方言だと気づいたこともあったくらい宮城の人間以外と話したことがなかったので、毎日のやりとりの全てが新鮮だった。パソコンを通じて日本全国の人と話すたびに、世界が広がっていく感覚があったことを覚えている。

キラキラサイトに出会い、サイト作りを始めてからは「とにかく、サイトを有名にしてランキング上位に入りたい!」一心だった。HTMLや画像加工ソフトを独学で勉強したり忍者ツールズ*4のアクセス解析で訪問者数をカウントしたり、有名サイトと相互リンクとなるために、その管理人さんの好きな漫画やアニメを調べて共通の話題を作ってはYahoo!メッセンジャーで話しかけたり。我ながら、幼いながらに結構頑張っていたと思う。

サイトの更新をしたり日記を書いたり、自分でコンテンツを発信すると顔も名前も知らない人が反応してくれる。ランキング上位に入れなくても、それが本当にうれしくてうれしくて毎日ホムペ更新にいそしむ日々を過ごしていた。

キラキラサイトに欠かせなかった加工画像

当時のふみコミュニティのHPランキング

一生忘れられない「居場所」を自分で作り上げていく感覚

今、こうして振り返ってもキラキラサイトなるインターネットのすごいところは、女子小中高生だけで独自のカルチャーを作り上げたことだと思う。

特にサイトを華やかにするための画像やアイコンを配布する「素材サイト」(素材屋さん)は人気を集めた。素材サイトの管理人は自分で素材モデルの写真を加工して他のサイトに提供するし、レンタルBBSをデコるためのかわいいスキン*5などもそれぞれのサイトで作られては配布されていた。かわいい画像加工方法をレクチャーする加工講座まであったので、完全に自給自足である。

熱狂的なパワーで独自のカルチャーが作り上げられていく様子は、女子たちそれぞれがインターネットの中に自分の居場所を自分で作り上げていこうとしているように見えた。

私もきっとその一人。

BBSで話して人とつながって、サイトを有名にして仲間に入れてもらって……今振り返ってみると、あの頃必死に頑張れた原動力は、自分の居場所を作りたいという気持ちただ一つだったと思う。

リアル生活は田舎で退屈だったが、特段つまらなかったわけではない。小中学生時代はそれなりに青春していたと思う。だけど、自分の発信を楽しみに待ってくれているサイトの常連さんたちがいることは、インターネットを私にとっての第二の居場所とさせてくれていた。

あの頃の「女子インターネット文化」に影響された私のキャリア

その後、ガラケーの普及やSNSの登場により個人サイト文化は衰退の道をたどっていったように記憶している。私自身、ふみコミュ全盛期が過ぎサイト運営も自然とやめることになるが、あの頃の熱狂を忘れられなかった。人生の中で寝食忘れて夢中になったものなんて、あの頃のサイト作り以外にない。

大学に進学すると、周りは公務員や地元企業を志望する学生ばかりでIT企業に行く人なんてほとんどいなかった。だけど、「インターネットは多分一生好きだろうな」という確信と「女子が作り上げるインターネットカルチャー」を盛り上げたい気持ちが強くあったので、女性ユーザーがアクティブな某大手SNSを運営する会社に新卒で入社した。

職種はWebディレクター。自社サービスの開発のために仕様や施策を考えたり進行管理をしたりする仕事だ。

キラキラサイトを作っていた時の経験は、仕事をする上でかなり役に立った。小中学生の頃の知識とはいえ、少しHTMLやCSSをかじっていたので簡単な修正レベルなら自分でもできたし(ただHTMLの知識が2000年代中盤で止まっていたため、自分が書いたHTMLを見たエンジニアに「このタグいまだに使っている人初めて見た」と言われたりもした……)、何より、インターネット上で発信したいユーザーの気持ちを理解できるという、サービス開発を進める上で重要な視点を持てたことは財産だと思っている。

また、就職で上京してIT企業に勤めていると、学生時代、キラキラサイト作りに励んでいたという同世代の女性デザイナーやエンジニアによく出会う。いずれも、あの頃の経験が楽し過ぎたことが理由でこの業界に入っていると聞いては、インターネットが人の人生を動かしているという事実に少し感動する。

その後、2回転職を経験し現在3社目だが、いずれも同じく女子がインターネット上で自分を発信できたり、居場所を作ったりできるSNSを作り続けている。自分が開発・運営をするSNSで「人生が変わった」と言ってくれるユーザーさんを何人も見てきて、その度に開発者冥利に尽きると感じる。

自分の仕事で誰かの人生を救ったり、変えたりするかもしれない……そんな可能性は、仕事のやりがいにダイレクトにつながっている。人生が変わるまでの経験を提供できなくても、今の自分の仕事が、その人の人生にいい影響を与えられたら、うれしいなと思う。

リアル世界がつまらなくても、インターネットがあるから大丈夫

もし自分が居るリアル世界がつまらなくても、自分の居心地がいい最高の居場所はインターネットに作れるし、リアル世界で誰も振り向いてくれなくてもインターネットで行動すれば誰かに影響を与えることができる。

キラキラサイト作りに夢中になった日々を通して身についた考え方は、誰かの毎日を少しでも楽しくできるSNSを作りたいという仕事のモチベーションにもなっているし、同時に「リアル生活でひとりぼっちになっても平気!」と自分の生き方をも少し楽にしてくれている。

加工画像

今は、複数のSNSに自分のアカウントがあってインターネット上にたくさんの人格を持っている人も多く、逆にSNS疲れなんて言葉もあるくらいだが、リアルとインターネットという二つの世界で自分にとって居心地のいい場所を見つけられるといいと思う。

みんなにとっての居心地のいい場所を作れますように。こんなことを願いながら私は今日も働いている。

著者:あべし (id:abeshiiii)

あべし

都内のスタートアップで働くインターネットOL。趣味は夢小説を読むこと、韓国コスメ集め、ネトスト。
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編集/はてな編集部

*1:電子掲示板の英語表記での通称。記事の閲覧ほか、コメントを書き込みレスポンスをし交流を楽しむことなどができる。有名な電子掲示板サイトとしては2ch(現5ch)などが挙げられる

*2:ランキングサイトはふみコミュニティ以外にも複数あり、「0574 web site ranking」「sozai-R」などもあった。「0574〜」はシンプルな雰囲気のテキストサイトや素材サイトの登録が多かったように思う。

*3:自分で撮った自分の写真を、いわばフリー素材としてサイトに提供してもらっていた

*4:インターネットでのホームページやブログ、カウンターやアクセス解析などの便利ツールの提供などさまざまなサービスを提供する総合サイト

*5:デザインテンプレート