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タニタ食堂・甲阪さんの視点「健康を気にしていない人を食で健康に」【おしごとりっすん】

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『りっすん』が「企業の中で働く女性」にフォーカスするシリーズ「おしごとりっすん」の第2回は、株式会社タニタ食堂の営業本部に所属する甲阪絢佳さんです。管理栄養士の資格を持つ甲阪さんは、レシピ本で話題になった1食あたり500kcal前後のヘルシーな食事を提供する「タニタ食堂」出店に関する問い合わせなどの一次対応を担当。健康に関するセミナーの講師も務めています。「管理栄養士」と「営業」、一見結び付かない仕事に普段どのように取り組んでいるかについてお聞きしました。

管理栄養士として健康に寄与したかったのに、1年目は営業へ

今の仕事について教えてください。

甲阪さん(以下、甲阪) タニタに入社して4年目になります。現在はタニタのグループ会社である株式会社タニタ食堂の営業本部に出向して、2012年にオープンした「丸の内タニタ食堂」をはじめ、全国のタニタ食堂の企画・運営を担当しています。タニタ食堂はレストランですが、タニタの健康計測機器も販売しているので、タニタ本体の販促担当者や営業担当者と連携しながら、機器と食事をつなげるような企画を考えています。

管理栄養士の資格をお持ちとのことですが、どうしてこの資格を選んだのですか?

甲阪 私はもともと、高校時代に薬剤師を目指していました。祖母をがんで亡くしたので、がんに効くような薬を作れればと思って薬学部を目指したのですが、大学入試センター試験で大失敗をしてしまって……。近い職種に就ければと考えて、管理栄養士の道に進みました。管理栄養士として病院で働き、食の面から患者さんの健康に寄与できればいいなと考えていました。

大学3年次、病院で実習をした際に、「食を通じて人々を健康にしたい」という気持ちが強くなりました。そこで、病気を予防するために活躍できる管理栄養士になりたいと考えました。健康な人たちをもっと健康に、健康ではなくなりそうな人たちを健康にする、そんな思いを実現できる企業の候補の一つとして考えたのがタニタだったんです。

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タニタに入ろうと思った理由はそこなんですね。

甲阪 “健康をはかる”計測機器が主力の商品ですし、グループ会社では地方自治体や企業に対して健康増進のためのプログラムやセミナーを提供しているところに注目しました。ちょうどその頃、タニタの社員食堂が有名になり始めて、レシピ本『体脂肪計タニタの社員食堂』(大和書房)が出たり、丸の内タニタ食堂がオープンしたりと、食の方面にも力を入れていました。自分がやりたいことと会社の取り組みが合致していたんですね。

会社に管理栄養士はどれくらいいるのでしょうか?

甲阪 タニタグループ全体で35人くらいです。栄養指導や食関連を扱う部署の人もいれば、研究開発部門にいる人もいて、割とばらばらですね。

私がタニタの入社試験を受けた時、募集職種は技術職と経理職しかありませんでした。「どちらかといえば管理栄養士は技術職だろうけど、管理栄養士として働けるのかどうか受けてみないと分からないし、落ちたら落ちたでいいや」と思っていたのですが、運良く入社できて、今に至ります(笑)。

「技術職か経理職」というと現在の仕事とは違いますが、どういういきさつで……?

甲阪 当初は、タニタ本体の営業職として配属されました。タニタでは例年、「技術職」「営業職」を募集することが多かったのです。入社2年目の夏くらいまでは、ノベルティ案件やカタログギフトの商品提案などを担当していました。

最初の職種が「営業」では、当初の「管理栄養士として健康に寄与したい」という志と離れているんじゃないかと思いましたが、率直な心境はいかがでしたか?

甲阪 今でも社内でよく言われるんですが……営業への配属直後は、本当にもうどうしていいか分からなくて、戸惑いました。栄養のプロとして活躍している管理栄養士の人のもとで働けるとなんとなく思っていて、そういう気持ちで仮配属の前まで過ごしていたので。想定外の配属結果発表で「どうしよう、私にできるかな」というのが率直な感想でした。

その状態を乗り越えられたんですね。

甲阪 振り返ってみると、最初に営業職をやったのは自分にとってプラスだったと思っています。今の仕事では、セミナーの講師として大勢の前で話すことがあるんですが、人前で話すということへの場慣れはもちろん、タニタの名前で話すとなるとタニタ全体の商品やサービスの話もしなければなりません。「会社の代表として話す」素養が培われたと思います。

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管理栄養士という視点はうまく活かされたんでしょうか?

甲阪 営業の現場では、自分が管理栄養士であることが役に立ちました。「タニタの管理栄養士」としてお客様に覚えていただいたり、小ネタとして話すことでお客様との距離感が縮まったり……そういうところで栄養の知識を持っていて良かったと思うことが多々ありました。

今の仕事でもこれを活かした提案をしています。キッチングッズの販促の提案であれば、減塩というテーマで血圧計と塩分計を活用するなどですね。「管理栄養士が言っているなら」と説得力を持って受け止めていただけています。

健康を気にしていない人でも「気づいたら健康になる」ようなおいしいメニューを

今出向されているタニタ食堂と、その業務内容について教えてください。

甲阪 タニタ食堂に異動してから1年間は「丸の内タニタ食堂」の現場に立ちました。接客をしたり、厨房で料理をしたり。

料理も! タニタ食堂に配属された方は全員現場を経験するんでしょうか。

甲阪 そうですね。直営店は「丸の内タニタ食堂」だけなので、現場で経験を積んで、その経験を他の仕事で展開していきます。フランチャイズで出店される方もここでの研修を受けています。

店舗一覧|タニタ食堂

甲阪 「丸の内タニタ食堂」の成り立ちは、先ほど少しご説明したようにタニタの社員食堂がベースなんです。社員食堂で出していた、栄養バランスやカロリー、塩分量などに考慮したメニューが話題になって、レシピ本も非常にヒットしました。レシピ本は今ではシリーズが4冊、全部で542万部売れています。

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甲阪 すると、「実際にタニタで作られている本物が食べたい」というお客様の声をいただくようになったんです。タニタの本社を訪れる方がいたり、お客様のお問い合わせ窓口に「どこに行けば食べられるのか」という質問が来たり。

レシピ本パワー、すごいですね。

甲阪 「実際に食べられる場所を作らなければならないのではないか」ということで、「丸の内タニタ食堂」をオープンしました。でも、1店舗作ると、次は「うちの県に作ってくれないか」などのご意見が増えたんです。タニタのメニューをもっと広める仕組みを作らなければならないと考えたのですが、実は料理の作り方に結構コツが要るんですね。単に店舗のマニュアルと料理のレシピを渡せば作れるというわけじゃないんです。

そこで、服部栄養専門学校と連携して、「タニタシェフ育成コース」という育成プログラムを作りました。タニタメニューを提供するためのライセンスを取得していただく仕組みができて、ようやく多店舗展開ができるようになりました。私はその取りまとめやサポートなどを一括で対応しています。

ヘルシーなメニューを出すお店が増えていくんですね。

甲阪 タニタ食堂は全国に広がっており、現在27店舗あります。しかし、課題もあります。和食の伝統的な定食スタイルとか、野菜をたっぷり使っているとか、健康面だけを謳っても、一般的な外食のお店と比べて「味が薄いんじゃないか」「同じお金を使うなら豪華なものを食べたい」と思われてしまうんですね。そういう意味では、リピーターを増やすのが難しいのです。

そこで近くの会社のお客様からお声掛けがあったのをきっかけに、私が社内を説得して「1ヶ月タニタ食堂のメニューを食べて、健康的にやせるかどうか検証する」という企画を実施しました。そうしたら、参加された数十名の方が実際に平均2kgくらいやせられたんです。

1ヶ月で2kg体重を減らすのは無理のないやせ方ですね……!

甲阪 自分が起案したプロジェクトに上司から二つ返事で「やってみて」と言われましたし、その会社さんは非常に積極的で「もっと健康増進に取り組まなければならない」と考えてくださいました。プロジェクトが終わってからもタニタ食堂へ食事をしに来てくださる方がいまして……。タニタ食堂を広げる以外にも、新たな顧客に対して既存のものだけではなく、工夫したパッケージとして提供することを発見できて、健康づくりの啓発とタニタファンを増やすこと、両方に寄与できる仕事になりました。

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タニタ食堂で今後考えている取り組みがあれば教えてください。

甲阪 タニタ食堂では、1定食あたり500kcal前後にカロリーを抑えてタニタの社員食堂を忠実に再現した「日替わり定食」と「週替わり定食」の2種類を提供しています。週替わり定食は基本的には和食で、“野菜を350g摂れる”“アスリート向け”など、さまざまなコンセプトを設定してメニュー開発を進めています。その新しい取り組みとして「洋食シェフシリーズ」を5月末から始めました。洋食レストラン出身のシェフの社員による発案なんです。第1弾は「ビーフハンバーグ定食」でした。

1食500kcalだとだいぶ小さいハンバーグになってしまうのでは……。

甲阪 そんなことはないです(笑)。ただ、やはり難題でしたので、シェフと栄養士で塩分やカロリーを調整して、タニタ風にアレンジするためにかなりの数の試作を重ねました。タニタがアレンジすればボリューム感のある洋食をおいしく食べられる、タニタ食堂で食べてみよう、というきっかけにしてもらえたらと考えています。

「カロリーが少なくて野菜がたくさん食べられるメニュー」は、健康に対する意識の高い方は注目してくださるのですが、健康を気にしていない方には響きにくいと感じています。こうした方々が「おいしく食べて気づいたら自然と健康になる」、そんなメニューを提供していきたいと考えています。ボリューム、彩りなどの見た目を重視し、おいしさという面からも追求したメニューで、幅広いお客様を健康にしていくのが使命だと思っています。

「健康作りを支援する会社」であれば、その手段は何でも構わない

「会社に提案したら二つ返事で」というお話がありましたが、会社の雰囲気はいかがでしょうか。

甲阪 風通しは良いですね。タニタ本体は、社員食堂のおかげで名前が有名になり、大企業をイメージされる方が多くなってきたのですが、実際には社員250人くらいの中小企業です。今の社長(代表取締役社長 谷田千里さん)は創業から3代目で、45歳というとても若い社長なんですよ。社長が就任した時にどんどん新しいことにチャレンジしようという方向性になって、新しい提案も筋が通っていれば通りやすい風土になっています。

確かに「タニタといえば体重計」というイメージは強いですが、Twitter公式アカウントははじけたキャラクターですし、それがpixivで漫画化されるなど、不思議なこともされていますね。

甲阪 そもそも「なぜうちの会社がレシピ本を出版?」という話はあったようです(笑)。Twitterも、社員が社長に「やりたい」と言ったのがスタートでした。そういう意味ではタニタ食堂も「新しいことに取り組む」というチャレンジだったんです。

(2011年にスタートしたタニタのTwitter公式アカウントの最初のツイート)

甲阪 もちろん今までやってきた体組成計などの計測機器の製造・販売は注力するけれど、それだけではだめだと。ぶれてはいけないのは「皆さんの健康作りを支援する会社」ということであって、その手段は何でも構わないと言っていました。例えば「30年後にタニタが食堂の会社になっていてもいいじゃないか」なんて。

食は健康と密接につながっていますしね。

甲阪 私は昨年、タニタ食堂の管理栄養士として、環境省が開催した「熱中症対策シンポジウム」というイベントで「熱中症と食事」に関する講演をしました。タニタでは「熱中症指数計」という機器を作っていて、そのプロジェクトリーダーをやっている先輩から「食の面で熱中症予防に関する講演をやってみないか」と声を掛けてもらって。大学教授の中に混じって「こんなところにいていいのかな?」と思いつつ、40分ほどの講演をさせていただきました。

熱中症対策もそういえば健康支援ですね。

甲阪 「食」の観点で講演内容を作るのは結構大変だったのですが、熱中症に関する知識が増えましたし、そのイベントの前後でタニタ食堂でも「熱中症対策フェア」を実施して、栄養素を考慮したメニューを開発しまして。熱中症指数計との連動もできましたし、これまで「食と熱中症」はなかなか取り上げられてこなかったので、新しい視点という意味では貢献できたかなと考えています。

毎年気温が上がると熱中症対策の話題が増えますが、食事面ではどんなところに気を付ければいいのでしょうか?

甲阪 特定の食べ物というよりはバランスの良い食事を摂るのが基本で、ポイントは「疲れにくいからだをつくる」ことです。そこでよく「ビタミンB1を摂りましょう」といわれます。ビタミンB1は糖質のエネルギー代謝に必要な栄養素です。間接的なメカニズムではありますが、疲れやすいということは、その分エネルギーを消耗しているので、ビタミンB1が不足しがちになるといわれています。

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甲阪 また、カリウムもしっかり摂ってください。日本人の食事は塩分が多めで、どうしてもナトリウムを摂りがちになってしまいます。熱中症対策として塩分の補給は必要ですが、もともと摂り過ぎていると、余分なナトリウムを排出する必要があります。そこに必要なのがカリウムです。カリウムが不足してしまうと、血液などの細胞外液のナトリウムバランスが崩れて、脱水症状が起こってしまいます。

エネルギー代謝の点で特に注意していただきたいと考えたのはこれらの2つ、あとはクエン酸ですので、講演では「その3つをしっかり摂りましょう」というお話をさせていただきました。

健康と食の関わりでは「特定の食品を食べ続ければいい」という話がありがちですが、その辺りへのお考えをお聞かせください。

甲阪 タニタ食堂は食を扱う会社ですし、セミナーやイベントの講師もしている以上、管理栄養士としてしっかり正しい知識を身に付けることが必要で、安易に不確かな情報を発信してはいけないと気を配っています。タニタの管理栄養士が間違った情報を発信してしまうと、タニタ全体の信頼にも傷を付けることになりますし、何よりお客様にご迷惑をかけてしまいます。情報については、国の機関がしっかり認めている資料を参考にしています。

自分が考えたことが受け入れられるとやりがいにつながる

今の仕事のやりがいについて教えていただけますか?

甲阪 まだキャリアを多く積んだと言えるほどではありませんが、自分が考えたことを「やってみたい」と提案すると、「やってみれば」と受け入れられることが多いです。それが成功体験につながることで、自信が付いていると感じますし、やりがいにもつながっています。

1年目の営業の頃は、右も左も分からず、教わることがとても多くて、やれることを一生懸命やることで必死だったのですが、必死にやっている中で少しずつ余裕が出てきて、改善点が見えてきたということもありました。タニタ食堂に出向した時も、3~4ヶ月くらい経った頃からちょっとずつ仕事に慣れてきて、「こう変えたらうまくいくかも」と考えられるようになった気がしますね。

仕事をしていて良かったことを教えてください。

甲阪 小さいことの積み重ねが大きいですね。自分が提案した企画を世の中へ広めていこうという本格的な動きになった時や、タニタ食堂の出店に関わって実際に店舗のオープンへと実を結んでいく瞬間は、すごくうれしかったですね。

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逆に、落ち込んだり、正直つらかったと思ったりした出来事は?

甲阪 やっぱり営業に配属されたことです(笑)。「何のためにこの会社に入ったんだろう」と思うこともありました。入社から2ヶ月間でいろいろな部署を回って研修をして、一番自分にできないだろうと思ったのが営業だったので……。

あとは、初めて物販と食をつなげるための企画を考えて実現するまで、実際にやりたかった時期から遅れてしまったことがあったんですね。企画から実施まで落とし込む難しさにすごく苦労しました。

落ち込んだ際の対処法などはありますか?

甲阪 休日に友達とごはんを食べに行くとか、おいしいものを食べるとかですね。私は結構単純で、たくさん寝ることでストレスが発散できて、だいたい忘れるタイプなんです。なので、土日のどちらか1日は思う存分寝る、なんていうこともしています。

働く中で、ロールモデルにしている人がいれば教えてください。

甲阪 最初に営業へ配属された時の教育係の先輩と、今の直属の上司に対して、「この人についていこう」と尊敬する気持ちを持っています。周りの人に恵まれたこともあり、その人たちを目指そうと思うことが多いです。

1年目は商談へ同行させてもらうことが多かったのですが、営業職に対する先入観もあったせいか、お客様との関係性の良さに衝撃を受けました。お客様の要望もうまく取り入れながら提案したり、レスポンスもとても速かったりして、私もこんなふうになりたい!と思ったことを覚えています。時には厳しく叱られ、落ち込むこともありましたが(笑)、指導してもらったことが今の仕事にも活きているなと感じています。

今後のキャリアについてはどのように考えていますか?

甲阪 今はたくさんある仕事をとにかくこなしていく日々ですが、自分の中の引き出しがだいぶ増え、よりスムーズに業務を行えるようになったと思っています。今後は、一歩引いてもっと全体を見回して、改善すべき点を拾っていき、今までにない新しいサービスや商品を発信していければと思っています。

つい先日、タニタ本体の社長と話す機会がありました。自分では今まで頑張ってきたとなんとなく思っていた部分について、まだまだ勉強が足りないなって実感させられたんですね。たくさんの人と会っている社長の視点から「これがやりたい」と言っている内容が、やっぱりすごいなと思いますし、自分が見ている世界はまだまだ狭いなと思います。専門性を上げていくことももちろんですが、社会の動きを見て何にチャレンジしていくかについても考え、実行していかなければならないと思っています。

ありがとうございました!

お話を伺った人:甲阪絢佳(株式会社タニタ食堂 営業本部)

甲阪絢佳

全国のタニタ食堂を統括する営業本部は、わずか数名の少人数体制。「名前は大きいのですが小部隊です」。趣味は幅広いジャンルの音楽を聴くことで、たまにライブに行って楽しんでいるとのこと。やせるためのコツを聞いたところ「体組成計で毎日はかってください! それから、活動量計を持って毎日たくさん歩く!」という回答が。

次回の更新は、6月21日(水)の予定です。